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クラス丸ごと奴隷召喚 ~至高の黄金球使い~  作者: 濃縮原液
第1章 囚われの空中要塞
11/56

11 終わりの始まり

 ボコラムは生徒達の手際の良さに驚いていた。予想として、戦闘終了までに三十分はかかるだろうと思っていたのだ。


 それが五分もかからず終了したことにボコラムは驚きを隠せない。


 もちろんこれには彩亜の力が大きい。事実レッドアリゲーターのHPはまだ八割近くも残っており、普通に倒すには五倍以上の時間が必要だっただろう。


 彩亜の暗殺能力は有用だとボコラムは思った。



 だがそれ以上に、生徒達の連携が取れていた。


 言う事を聞くナイト達を統率するのはもちろんのこと、レンセは剛の行動さえ最大限に活用したのだ。


 国松くにまつ 煉施レンセ、こいつはやはり危険だとボコラムは思う。



 彩亜のように個人が強い分には構わない。だがレンセの強さは生徒同士を団結させる。



 イルハダルはこの十日間、あらゆる角度から生徒達の断絶を謀っていた。それはある程度は効果も発揮している。


 だがイルハダルの予定より生徒の断絶は進んでいなかった。これはひとえにレンセのせいだとボコラムは思う。


 実際には委員長のナイトがレンセを認めていた影響が大きかった。だがそのことを含めてレンセの存在はやはり危険だ。


 それは今回のボス戦の成果を見てもあきらか。


 このまま生徒達の団結を放置すれば、いずれまずいことになるとボコラムは思った。


 だが、ここでボコラムの顔が醜く歪む。



 レンセが生徒達の中心であるからこそ、今日レンセを殺せることにボコラムは心の底から安堵するのだ。



 だがボスを倒した喜びに沸く生徒達の中に、ボコラムの異変に気が付く者はいなかった。



 ほどなくレッドアリゲーターの巨大な体が光と消える。代わりに鰐肉わににくがドロップアイテムとして現れた。


 赤色をした成型済みの肉の塊である。


 あきらかに加工済みの食材が出ることに生徒達も初めは驚いていた。だが十日間の攻略を経て生徒達はこういう物なんだと納得している。


 しかし、今回の鰐肉は量が凄かった。


 両手に抱えきれないほどの大きさである。縦横高さ、それぞれ一メートル程の立方形。持ち帰るには細かく切り分ける必要があるほどだ。


 生徒達は初めてボスを倒した勝利の余韻に浸りつつ、鰐肉の周りに集まってこれをどう持ち帰るか思案していた。


 そうした中、彩亜はふいに足元を見下ろす。そこにはもう一つドロップアイテムが落ちていた。



 レッドアリゲーターのレアドロップである。



 魔物はまれにレアアイテムを落とすことがある。そしてそれは通常アイテムと複数同時に出ることもあった。今回が正にそれである。


 彩亜はそのレアドロップを見た瞬間、すぐさま手に取り《不可視化(インビジブル)》で隠す。


 ドロップアイテムはイルハダルに提出する取り決めだった。だがこのアイテムは……絶対にイルハダルに渡しては駄目だと彩亜は思った。


 レンセに《鑑定》をしてもらうまで確定ではないが、これはここから脱出する切り札になると彩亜は直感する。


 そのため彩亜はこれを隠したのだ。


 彩亜の《不可視化(インビジブル)》。全身を隠すのには多くの魔力を消費するが、武器一つ程度を隠すのにはそれほど魔力を使わない。


 彩亜は不可視化したレアドロップを隠しつつ、平静を保って生徒達の輪に加わった。


 彩亜は少しだけ不自然だったが、ボス攻略に沸く生徒達はそれに気付かない。彩亜が元々ポーカーフェイスだったことも幸いした。


 ただしレンセは気付いて彩亜に話しかけるが。


「後で……レンセに渡したい物がある」


 彩亜が一言だけそう言うと、レンセは真剣な面持ちで頷く。


「分かった。話も後の方が良さそうだね。……部屋に来てからで大丈夫?」


「ん」


 ボコラム達が居る中でレアドロップの話をすることは出来ない。そんな彩亜の思考まで全て理解しているかのようなレンセの対応であった。



 そうして生徒達はボコラムの指示に従い鰐肉を細かく切り分ける。


 その後今日はこれで引き上げるとボコラムが言った。


 生徒達は少し興奮気味に空中要塞への帰路につく。



 だが、レンセはボコラムの違和感に気が付いていた。


 ボコラムはまるで待ちきれないといった顔をしている。



 そのボコラムの顔を恐ろしく感じつつ空中要塞へと戻った。



◆ ◆ ◆ ◆ ◆



「十層攻略の報告をシュダーディ様に行う、全員ついてこい」


 要塞へと戻るなりボコラムは生徒全員を連れて階段を上へと登って行く。



 だが生徒達が連れて行かれたのは、シュダーディがいるはずの謁見の間ではなかった。


 空中要塞の甲板である。


 まぶしい光が照り付け、辺りは一面の大空だ。


 高空をかける強風は障壁によって防がれているが、立っているだけで落とされないか恐怖を感じる場所である。


 あきらかにおかしいと生徒達は思う。これから何が始まるのかと生徒全員が恐怖を感じ始めていた。


 そうして生徒達が甲板の中央へと集められると、満を持してシュダーディが現れる。


「まずは十層攻略おめでとう子供らよ。貴様らは晴れて明日から神の塔へと向かう。じゃがその前に、主らには通過せねばならぬ儀式があるのじゃよ」


 儀式と言う言葉にレンセは言い知れぬ恐怖を感じる。そっとボコラムの様子を見ると、ボコラムは心の底から嬉しそうな顔をしていた。


 その顔がレンセをより不安にさせ、そんなレンセの顔に気付いたシュダーディが嬉しそうに言葉を続ける。


「くくっ。ボコラムが待ちきれぬような顔をしておるでの。先に儀式を済ませてしまおうか。何、儀式といっても簡単なものじゃ。これから真にワシらの僕となるために、忠誠を示してもらいたいのじゃよ」


 生徒達の間に緊張が走る。


 イルハダルに忠誠を示すための儀式。それだけでもう生徒達にとっては不吉であった。そしてその不吉な予感は的中する。


「生贄じゃ。主らの中から一人生贄を選ぶがよい。そしてその生贄を殺すのじゃ。これはただそれだけの儀式じゃよ。誰でもよい。仲間の中で一番死んでよいもの、むしろ死んでほしい者を選ぶのじゃ。多数決で一番不要な一名を、生贄としてワシに捧げよ」


 生徒達がこの世界へと飛ばされて約十日。もっとも過酷な儀式がこれから始まる。


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