狼の咆哮
7
雨が降り始めた。久しぶりの雨だ。皆が雨水を貯めようと水が入りそうなものを並べていく。
世の中は不公平に出来ている。定住を始めた部族がのうのうと暮らしているのに、自分はその日の食事にも困っている。
精霊の儀式を襲撃してから幾度となく戦を行い仲間は2番と5番だけになった。
同じ孤児だった。みんな戦災孤児というやつだ。身寄りのないものがテントを張り、同じ飯を食べ、同じ所で寝る。そうしている内に仲間意識が芽生えた。
俺が名前を捨てると言い、ナナシになると言えば、皆が名前を捨て2番から6番までが決まり、皆が相棒の狼をファングと呼び、1人ではないことを実感した。
あの、降霊祭の日に火の精霊が召喚され部族の戦闘員が皆、戦いに赴いた。降霊祭は延期され、自分と2番と5番は待機していた。
翌朝、帰ってきた仲間に尋ねると、奇襲には成功したが西の都の兵が突如、敵の増援に入り部隊は戦線を維持出来なくなったようだ。そして、6番は帰って来なかった。
定期的に侵攻したのだが、仲間が減っていくだけだった。
8
翌年の降霊祭で風の精霊が召喚された。自分と2番はウッドのバングルを着けた。集落は移動して、川沿いに落ち着いた。
相棒はやはりファングと名付けた。自分は名前を捨てたのに名付けると名付けた人のことが頭をよぎる。名前を思い返して、あまり意味はないんだと実感する。要は識別できればいいのだ。
定住した部族は攻めて来ない。孤児の人数も減った。5番の成人をまち、3人と2頭で西の都についての話。王を代えねば世界が変わらないという結論に達して、降霊祭のあと集落を抜け出すことにした。
降霊祭が終わり、夜更けに集落を抜け出した。
水源を辿れば他の集落などすぐに見つかる。集落を転々としながら訓練を重ねた。集落にもいろいろな人がいる。最初はみんな、敵対姿勢だが相手が3人だと分かると普通に訓練などにも参加させてもらえ、身寄りがないと分かると親切にしてもらえた。だが、いつもそこまで。誰も心では良く思っていない。そういうのが分かってしまう。いつも、ここまでだと分かると抜け出しては、別の集落を目指す。
9
1年かけて西の都に着いた。通行証を手に入れるために1年もかかった。気のいい人が手配してくれた。みんな、わずかばかりの食糧と余った金をくれた。
門番に通行証を見せ、荷物を調べられた。大量の金に驚き、知人がいないと知り、王宮殿を警護する貴族の屋敷へ連れていかれた。すでに目論見が見破られているのかと思い、危機とチャンスの両方を手に入れたことが分かり、奮い立った。
しかし、待っていたのは教育、勉強をさせられ、この金の価値を知り、価値観の違い、個人的視点と全体的なモノの捉え方を学び、これからどうするか3人で話させられた。
そんな1年だった。もっと知らなくては。
2番は商売を始めるといい。元の名前にもどった。
5番は料理を学び王宮殿の厨房で働き。元の名前にもどった。
自分は王女に謁見しに行き、王の考えを聞きに行った。ある日、謁見に現れたフレイという王女に一目惚れしてしまい通い続けた。
そして、次に会ったとき近衛兵へとすすめられ、フレイの護衛をしてチャンスを狙う日々。
元の名前にもどした時
「テラ、いい名前じゃない」