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マナのひかり  作者: 月野夜天
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獅子の咆哮

           4 


 目が覚めた。夢を見ていた様な気がする。

 部屋の中は薄暗い。

 着替えをして、水を汲みに行かなければ。なんでも、西にある大きな町には時計というものがあるそうだ。今がいつなのか知ることができるそうだ。別にいいのに。夜が明けたら動き始めて、日が沈んだら寝たらいい。

 家を出ると、これから川に向かう人戻ってきた人が話している。俺は見知った人達に挨拶をしながら水汲みに行く。


 もともとは、平原を羊や山羊を連れて移動しながら暮らしていた。

 俺が生まれた年より前だから15年以上前の天変地異の後、今まで平原だった場所に植物が芽吹き始めた。なんでもレイラインという星の命の様な力の流れが変動したらしい。巫女がそう判断して村を作り作物を育てるようになった。

 というのが、幼なじみの巫女見習いのイルージュに聞かされた話だ。

 もっとも自警団を目指す俺には定住したことで、まだ遊牧している部族の襲撃が問題なのだが。


「おはよう、リアン」

「おはよう」

「今日は、精霊の儀式だね」

「そうだな」


 精霊の儀式とは要は大人になる人達を祝うお祭りだ。今年で俺もイルージュも大人になる。

 星の命の様な力をマナと呼ぶ。マナを込めたバングルをわたされ、なにかしらと契約してパートナーとなる。

 イルージュは巫女なので精霊(精霊は高密度のマナ、自我がある)という具合に。俺は騎兵として馬にしようか、歩兵として狼にしようか迷い。結局、決められないままだ。

 今年は新しい巫女の誕生とあってお祭り騒ぎだ。


 日課の水汲みを終えて、父と二人の食事をとる。父は元自警団の人間で他部族が攻めて来たとき、怪我を負い、今は畑仕事をしている。食事は野菜がメインだ。父のパートナーの狼のルークは肉があたらなくて、ご機嫌ななめだ。

 父はたまに羊や山羊、鶏などの肉を手に入れてきて、その日はいい食事にありつける。遊牧していた頃の名残で物々交換が主流だから、さほど苦労しないらしい。

 パートナーの寿命は契約時に人と同調する。意志の疎通も図れる。

 母は俺が生まれてすぐに他界した。そういうわけで、幼い頃からイルージュの家に厄介になっていた。父は母が名付けたルークをかなり可愛がっている。

 まだ、契約するパートナーを悩んでいると言ったら

「そんなの直感だ」

 と、言われた。

 これだもの。

 イルージュに相談したら

「私が決めてあげる」

 名前も考えたらしい。

 猿になるらしい。

 これだもの。


 食事を終えて、トレーニング。この手にバングルがつく。バングルは大人の証だが、身分を与えられるモノでもある。王族はプラチナ、貴族は金、兵士は銀、平民は銅、そして俺ら遊牧民族はウッド、ただの木で出来ている。

 それが現実。いくら定住しようが、テントから木造の家に住もうが身分は一番、下。壊れることはないが、一生外すことも出来ない。そういうモノ。

 巫女のバングルには精霊をあしらった宝石がつく。イルージュは何の宝石がつくのだろう。

 あの子は、巫女になると決まった時から友だちなど、俺以外いなかった。あの子は毎日、他の子が遊んでいる中、1人で現在の巫女様からこの部族の歴史などを学んでいた。

 だから、あの子の話を聞いていた。毎日。それが、自分にできることだったから、それしかできなかったから。そして、自警団に入ろうと決意した。あの子を守らなければ。それが、考えた答え。


 夜、精霊の儀式が始まる。

 精霊の儀式とはいわば占いである。火 、水、土、風、どの精霊が召喚されるかで決まる。火なら戦、水なら吉兆、土は安泰、風なら移動。どれも、遊牧をしていた頃の名残だ。例年、土の精霊が召喚される。定住してからは、だいたいそんな感じらしい。水と風の精霊は見たことがない。15年前に水の精霊が召喚されて、巫女が選ばれた。それが、イルージュだ。

 そして今年、その巫女が巫女として祝われる。

 記念するべき年になる。

 まず、成人する15才がパートナーとなる動物と面会する。あらかじめ、希望を告げてあるので対面するだけなのだが。何を血迷ったのか、俺の前には白髪の小柄な猿が連れてこられた。希望は狼か馬のはずだったが、手違いが起こったんだな。きっと。

「ロロ~」

 気付けば、となりでイルージュが笑ってる。

 これだもの。

 父が言う。

「直感で決めろ」

 これだもの。

 俺は負けない。

「よろしくな、ロロ」


 準備が整い。いよいよ精霊が召喚される。今年は、巫女様が召喚する。それから、バングルをはめてマナを込める。その後は、食えや歌えや、という流れ。の、はずだった。

 精霊が召喚された、皆がそれを火の精霊だと認識する。同時に、警鐘がなる。避難する人々、巫女を守る護衛兵、走って行く非番の自警団。

 護衛兵に守られながら避難を始めたイルージュ。

 突如、暗闇になる。

 月明かりが。

 見上げる。そこには月があり安堵する。

 そして、悲鳴。


「イルージュ!!」


 飛び去って行く、見たことのない大型の鳥。

 どうすればいい?

 立ち尽くし呆然とする。


 眠れなかった。父もなにも言わなかった。

 翌朝、来年の精霊の儀式で成人に認められるということを知らされた。


          5


 この1年、体を鍛え、噂話に耐え、イルージュの捜索が打ち切られたことに耐え、新しい巫女の候補が決まり、日常と化した日々に耐え。精霊の儀式を待ち続けていた。

 精霊の儀式を済ませ、何故かシルバーのバングルをつけ(巫女様の贈り物らしい)、ロロが家族となり、自警団に入隊し、訓練を続けながら、ひたすらイルージュを捜索させてもらえるように頼んだ。だが、許してはもらえなかった。父も周りも次の儀式で占うの一点張りだった。


 そして儀式が行われ風の精霊が出た。

 その晩、父が

「こういうのは直感がモノを言うんだよ!行け!」

 そう言って、馬と金と、当面の食糧を渡してくれた。別れ際に

 「ロロにもかまってやれ」

 言われてロロに謝る。


 馬に揺られながら、ロロに話しかける。父みたいにはいかない。今まで、ほったらかしだったから。命令しかしてこなかった自分が情けなくて、そんな自分の背中につかまるロロの手に優しい力が込められ、泣きながら走った。


 ロロと話しながら1ヶ月ほどかけて都の入り口に着いた。都を目指した理由は父に人の多い所の方が情報が集まるからと言われたからだ。森に囲まれた賑やかな街だった。入り口で門番に止められ質問をされた。

「所属と階級を言え」

 最初わからなかったがバングルだと気付いた。

 兵士と間違えられたのだろう。

 迂闊なことは言えない。

「名前と人を探していることしか分からない」

 すると門番が

「医務室へ連れていけ」

 と、言い。

 石が敷き詰められた地面の上を歩いて、これもまた石で造られた建物に連れて行かれた。そこで医者に匙を投げられ、健康状態に問題がないと診断され、なんか渡された。紙に字が書いている。読めないが。

 王宮殿の詰め所で渡された紙を渡したら、衛兵として働くことになった。身動きが取れなくなった。

どうする?


 1年、衛兵として働きながら訓練をして、字や時計の読み方など、あの頃は必要がないモノと思っていたことを学び、見知らぬ街に馴染み始め、気持ちは焦るばかりだった。こんなことをしている場合ではないのに。

 その間、ロロに情報収集を頼んだ。

 ロロの話によると


・ここ王宮殿は身寄りのない人達が集められてい る、いわば孤児院だということ

・精霊を司る4大貴族の中で水を司る貴族の配下の部隊にいるということ

・王は人ではなく強大な精霊だということ。第5の精霊だということ

・王と契約した王女が何人かいるということ

・最近、妙にロロがご機嫌だということ

  (いい子が見つかったらしい)


 何度も偵察部隊である風の部隊への転属願いを出したが断られ続けて、そろそろ脱走しようかと考えていた矢先、近衛兵への昇格が決まった。真面目にやり過ぎたようだ。

 直談判が速いと判断して、急がば回れだ。というよりはロロがここを離れたがらない、やむなく昇格を受け入れた。近衛兵は12の部隊にわかれており、理由は単純で12人の王女がいるからだ。

 任命式で王女の1人と会える。直に交渉する機会もあるはず。


           6


 任命式の日、現れた王女はイルージュだった。

「お久しぶりだね、リアン」

 何事もなかった様に言う。

 これだもの。


 イルージュの話ではロロがちょくちょく遊びに来ていたようだ。

 15年以上前に起きた、村を作るきっかけとなった天変地異は王女の1人が病で亡くなったことが原因らしい。

 族長や巫女様は知っていたようだ。15年前に水の精霊が現れたときイルージュは巫女ではなく王女に決まっていたようだ。

 あの精霊の儀式が無事に終わっていてもイルージュは旅立つ予定だったそうだ。本人にも村の人たちも、そこで知らされる手はずだったらしい。


 恋愛とかは自由らしい。付き合うことになった。

          

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