天文部の秘め事 Ⅴ
俺はあの人の最期の時に誓った。あいつを守ると。でも、これじゃあ守るどころか、傷付けた。
こんなことになるなんて。
俺はどうしたいんだ?
こんなんであいつを守れるのか?
悪い考えばかりを屋上で壁にもたれて座りながら考えていた。授業はサボり、ずっとここにいた。もう授業は四時間目ぐらいか。
「お前はそんなんでいいのか?」
不意に上から声がした。顔を上げると、眩しい金髪が目に入った。
「富永か?…まさか今の…」
「俺はあの人の―からずっと聞いていた」
マジかよ。俺、声に出てたか。
「あいつは泣いていた。お前があんなことを言ったからな」
「でもな、俺には…」
その時、パァンと気持ちいいぐらいに綺麗な平手が俺の頬にヒットした。
「そんなことを二度と言うな!お前がいなかったら、天文部は永遠に復活しない!何より、あいつは笑わないんだ!」
富永がそう言った瞬間、俺の中で何かが吹っ切れた。
何でこんな簡単なこと、気付かなかったのだろう?数分前の俺をしばきたいぐらいだ。
あの俺を脅した奴の言葉を思い出す。
『お前の大事な人がどうなってもいいのか?』
許せるわけない。だが、ただ守れば良かったんだ。言いなりの傍観者なんて、馬鹿みたいだ。
そして、俺は富永に言った。
「…ここからが本番だ!絶対、天文部を復活させてやる!!」
「ほぇ~すっごい、龍矢君。ほんとに光先輩を復活させちゃった」
「はっはっはっ。俺もたまにはやるぜ」
「…龍矢君って千星先輩のこと好きなの?」
「ゴボフッ!…テメェが変なこと言うからお茶吹きこぼしたじゃねぇか!!」
「変なことかなぁ?」
「ああ。あと…何で他クラスのお前が俺と一緒に昼飯を食ってんだ!?」
「寂しいかなぁと思って」
「寂しい?俺が?」
「たまに寂しそうだよ。特に千星先輩を見てる時とか」
数日間一緒にいて分かったんだが、こいつは人をよく見ている。しかも自分では無自覚な部分を。
「あいつは…母親と似ているんだ」
「何それ?千星先輩がお母さん?」
「そういう意味じゃない」
忘れたいんだ、あのことを。
「まぁいいよ。でもちゃんと言ってね?じゃないと千星先輩に言いつけるんだから」
「冗談じゃねぇ。あいつの事なら相棒を連れてしばきに来そうだ」
俺はそう言って、肩をすくめた。
「光君まで彼女の方に行ってしまったか」
やはり、じいさん同様人を引き付けるようだ。忌々しい。だが、心配はない。
「最後の仕上げだ」
―生徒四人の消失という結末を。