天文部の秘め事 Ⅲ
「クソッ!」
俺はあいつを守りたかったのに。何でこんなことになってしまったんだ?
あいつに拒絶されたら…俺は…。
屋上のドアが開かれた。振り返ると、さっきの鬼畜野郎の隣にいた女だった。俺はさっき決心したことを言おうと思った。
「あのさ、俺な、天文部に入ろうかと思うんだ」
てっきり喜んでくれると思った。でも、女の目から涙が溢れた。
―その目はあの時の母さんと同じ目だった。
そう、誰か大切な人を失った時の。
「もう出来ないわ。光がいなくなったら…」
「あいつが?」
「四人集まりそうって言った瞬間に、『無理だ』って」
どういうことだ?あいつとこの女は…どう考えてもおかしい。
「だから、終わりよ!」
そう言って走って行ってしまった。さてと、
「おい、そこにいんだろ?もう一人の部員」
「ひゃわっ」
奇っ怪な叫び声の後に俺と同じ一年の女が出てきた。
「いつから私がいることを?」
「そんなことはいい。とりあえずお前にも手伝ってもらうぞ」
「何をですかぁ?」
「…あいつらの仲直りさ」
「お祖父ちゃん」
学生証のポケットにある写真の中で笑っているお祖父ちゃん。でも、もうここにはいない。
私はどうすればいいのだろう?光は…私と無理に付き合っていたの?だとしたら、気付けなかった私が悪い。
『千星ちゃん』
前まで聞いていた声が聞こえる。まさか…
振り返ると、死んだはずのお祖父ちゃんがいた。
「やだ、私死んじゃったの?」
『ここは夢だよ、夢』
なるほど、それなら納得だ。周りの景色も花畑だし。うんうん、夢だね。
『で、千星ちゃんは何で泣いているの?』
「光が…」
私はお祖父ちゃんに全てを話した。天文部を復活させようと思っていること、そして光との喧嘩以上の拒絶。
『あの光くんが?そんなにあいつで苦しんで…』
「あいつ?誰それ?」
『それは話せないんだ。ごめんね』
何かもやっとするなぁ。あれ?そういえば、光の様子が変わったのはいつからだろう?
『その顔は何か気付いたね』
「うん。ありがとう」
『じゃあね』
―この答えは、元天文部部室にあるんだ。
「千星先輩、どうしたんですか?急に呼び出して」
「俺は帰りたい」
「まぁまぁ。では早速行くわよ」
私は歩き出す。そして、着いた先にはある部屋があった。
「ここって…元天文部の部室ですよね。今は第二資料室で一度も使ったことがないですけど」
「ってまさかここに入るんじゃ」
「鍵はあるわよ」
「いやいや、そういう問題じゃないって!勝手に持ってきたんじゃないのかって」
「はい、朱里パース」
カチャリ「開きましたー」
「おーい、最後まで聞けー!」
ドアを開けると、古びた大きな机に三つの大きな棚だけがあった。
「…悲しいな、これ」
「何かすっごく埃…ケホケホ」
「さ、探しましょ」
「「何を」」
「部誌よ。そして、光を助けるヒントでもあるもの」
「で、どうだい。新庄光君?」
「どうもこうも、あんたのせいで」
「文句はあの娘に言うんだ。でもお前には出来ないだろう?」
「そんなの死んでも出来ません」
「まさかのこのこやって来て『顧問になってください』だって?そんなの無理に決まってるじゃないか。だってあそこには…」
「うるさい。黙れ」
「おやおや、教師に向かってその口の利き方は?いけないよ」
「…多分もう千星は気付いた。あいつはそんな奴だ」
「だがこちらにはそいつの弱点でもあるお前がここにいる。手出しはできない」
「そんなのどうなるかは俺が一番知っています」
「だが、他の奴には手を出さない」
「でも、あいつには出す。だから、許さない」
「…友情が壊れるのは見物だね」