第十一章 追憶5
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125
明くる日、利奈と近藤は会社の企画部で、デスクの椅子に座り、
仕事をしていると、近藤の携帯が鳴った。
着信相手は尚江だった。
ふと隣で近藤を見た利奈は、近藤の表情から、
掛けて来た電話の相手は、尚江だと解った。
近藤、「解った、利奈に伝え置くよ」と、電話を切った。
そして近藤は、隣のデスクの利奈に顔を向けて、「彰子が聖菜と、
二人きりで話がしたいそうだ。
場所は彰子が選んだらしく、落ち着いて二人だけで、
話が出来る横浜の、レストランを選んだらしい」。
すると利奈は、不安そうな顔付きになった。
そんな利奈に近藤は、「大丈夫、店までは俺が着いて行くよ、
俺は二人の会話が聞こえ無い様、距離を図って席を取るから安心しろ。
来週の日曜日、時間は午後2時頃だそうだ。
それで俺の携帯から彰子の携帯に掛けても、日曜日だけは彰子の携帯に、
着信出来る様にして置くそうだ」。
すると利奈は、「今までそうやって、
智彦は私の心を、覗く事が出来ていたのね」と、呟いた。
それを聞いた近藤は、「言わなくて悪かったよ、
謝るから今までの事は許してくれ」と、頼んだ。
利奈、「人生経験では無かった」。
そんな利奈に近藤は切なくなり、「ずっとお前を見守っていただろ、
決して無視していた訳じゃないさ」と、語ると、
向かいのデスクの恵美子は、ふて腐れていた。
それを見た二人は、徐に顔を伏せたのであった。
そして日曜日、彰子と会う日がやって来た。
複雑な思いの利奈は、近藤の車に乗せられて、
海が見える丘公園近くの、フランス料理の高級レストランに辿り着くと、
利奈だけがレストランに、入って行った。
ギャルソンは店に入って来た利奈に、深々と頭を下げると、利奈は名前を告げた。
利奈、「猪原 聖菜です」と。
決してこの名前を口にする約束は、事前に彰子とはしていなかったが、
近藤がそうギャルソンに、その名前を告げる様、利奈に告げていた。
ギャルソンは、「お待ちしておりました、
こちらにどうぞ」と、利奈を個室に案内したのであった。
そこは個室で、とても静かな雰囲気で、海が一望出来た。
そこに 一人テーブルの椅子に座る、女性が目に入った利奈。
軽く会釈をすると、ギャルソンが椅子を引き、そこに利奈が座った。
その時、女性は窓の外の海を見詰めていた。
ギャルソンが、「お飲み物は後ほど、伺いに参りますが、
よろしければ、こちらのお客様と同じ、
白ワインなど、いかがでしょうか」と、尋ねられると、
利奈は、「ええ、そうして頂けますか」と、答えた。
ギャルソンは利奈のテーブルの前に置かれた、ワイングラスを反転させると、
トクトクとワインを、注いだのであった。
注ぎ終わるとギャルソンは、布巾を腕に掛けて、頭を下げて立ち去った。
利奈はワイングラスを、口に着けて 一口飲んだ。
すると彰子はあの時、利奈と初めて出会った時と、
同じ眼差しで利奈を見詰めた。
そして、「お久しぶりね、お変わりなく」と、
問い掛けると利奈は、彰子を見詰めて、「変わりましたよ、肉体はね」と、
答えたのであった。
彰子もワインを一口飲んで、「生まれ変っても綺麗ね、
きっと持てはやされて、来たのでしょうね」と、
答えると利奈は、「お陰さまで現世では、良い両親に恵まれ、育てられました」。
彰子は利奈を見詰めて、「そうね、育ちが顔に出ているわね。
昔の聖菜とはどこか違って」と、微笑んだ。
すると前菜がテーブルに置かれた。
それを二人は食しながら、利奈が何気なく、「気づかないのね」と、答えると、
彰子が不思議な顔をして、「私に何を、気づいて欲しいのかしら」と、問い掛けると、
利奈はホークとナイフを、彰子に見せてた。
そして彰子は気づいた。
彰子、「右利きになったのね」と、呟くと、
利奈は、「少し不器用にも、成ったみたいなの」と、ぼやいたのであった。
それから二人は、黙って食事を進めていたのだった。
メインディッシュを終えて、デザートがやって来ると、
二人の表情が重くなって行った。
デザートを食べながら、彰子は、「彼は聖菜を亡くしてから、
魂を抜かれた様に、毎日海を見詰めてた」。
利奈、「私を亡くした事で彼は、生きる術を失ったのね」。
彰子、「そして酒びたりになり、彼は病院に入院する事になった。
もう彼は廃人になっていた」。
利奈、「死んだ私の体を温め、私の温もりを取り戻そうとしていた」。
彰子はその時、目頭が熱くなった。
そして彰子は、「あなたの口から、それを語って欲しくは無かった。
どんなに智彦は聖菜の死を惜しんだか、聖菜には解らない、
泣いて泣いて泣きまくって、何度聖菜の名を呼んだか、
私もあなたの家の廊下で泣いた。
そして後悔の渦に巻き込まれ、私は何度死のうとしたか知れない、
どんな事にも立ち向かい、怖い事を知らない逞しい智彦が、
あんなボロボロな姿を我々に晒して、『何度も何度も俺が暖めてやるから、
俺が生き返らせて遣るから』と、死んだ聖菜に語りかけていた。
我々仲間は聖菜の死を惜しんで、誰も仕事に着けなかった。
出棺の日、智彦は悔しさのあまり気が狂い出した。
そして建物を飛び出して、前の海岸に駆け出し、投身自殺を図ろうとした。
それを私達の仲間が、止めに海に入った。
そして一命を取り止めた」。
利奈は俯いて、「彼はいつも私を抱いて寝てくれます。
でも時より夢を見る様で、『俺が暖めてやるから、
俺が何とかしてやるからな聖菜』と、寝言で答えます。
私はいつもそんな智彦に、語りかけます。
『有難うとても暖かい、有難う愛してくれて』と、呟くと、
彼はその時、涙を流します。
それを見る私は夜、自分が死んだ虚しさに、無念な思いを感じています。
ずっと私を、待っていてくれた様に感じています。
でも私は彼に甘えるばかりで、彼の償いが出来ていません。
もっと素直に成らなければとか、
彼の前では、意地を張らない様にしなければとか、
思うばかりで現実は、利奈と昔の聖菜は、まったく変わる事が出来ません」。
彰子はその時、涙が溢れて止まらなかった。
すでに二人の前には、アイスコーヒーが置かれていた。
二人の黄昏は、まだ続くのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




