第九章 衝撃
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125
九月に入りまだ暑さは、和らぐ事は無かった。
ビールの売れ行きも、八月と同じく好調であった。
近藤と利奈も、あくせく広報活動に忙しかった。
新作のビールも、まずまずの売行きを誇っていた。
利奈は近藤が抱いている事実を求めず、
光秀との幸せの瞬間を待ち侘びていた。
ひとしきり、暑さの中のひと時を、汗を拭いながら企画部は、
今後のビールの売れ行きの、行く末を案じていた。
そうこの会社は、猛暑で有る事を、神に祈る思いであった。
猛暑で有るが為に、ビール会社は売行きが好調で、
さんさんと降り頻る太陽光線が、真夏に訪れれば訪れる程、
自宅でビールを求める日本国民は多く、この不景気とは裏腹に、
安い発泡酒で有ったとしても、豊富にビールは売れていた為に、
利益は相当なものであった。
企画部はこの羽振りに肖って、毎日会社帰りは、
企画部の誰かが居酒屋で、はしゃいでいた。
空前絶後の会社の状態で、上司達も明日の不安など何処吹く風か、
毎日の様に、飲み歩いていたのであった。
夜になり利奈は、自分のマンションのベランダで、夜空を見上げて、
光秀のメールを待っていた。
何気なくベランダに座り、一人何を思うか、時より潮風が利奈に吹き掛けると、
利奈の心は揺れていた。
女神の言葉リベンジとは何か、ほのかに潮風に混じる秋風を感じ、
その言葉に途方に暮れ行く利奈は、ベランダで三角座りをしながら、
体を左右に揺すっていた。
座っていた横に置いた携帯が光、メールの着信音が鳴ると、利奈は微笑んだ。
そして何気なく携帯を開くと、着信は光秀からであった。
メールを開くと、[今仕事を終えたから、マンションに向かう]の文字に、利奈は、
強い安心感を得たのであった。
明くる朝、光秀と自分のマンションで別れて、互い自分の会社に向かった。
利奈は会社に出社すると、直ぐに自分のモチベーションに着手した。
企画と政策それに兼ねる結果、この三原則を基に、新たなビールを生み出して行く。
無論現在発売されている、ビールの品質改良にも余念は無い。
常にユーザーの意見をもっとうにが、会社内の合言葉の様であった。
そんな日常を送っていた、と或る日の事であった。
結婚を控える二ヶ月前の出来事、利奈は得意先の小売に、
新作のポスターを貼りに出かけていた。
石塚も同行して、テスター店を巡っていた。
すると店から出て来た二人の前に、年の頃は二十代後半の、
髪はストレートで長く、身長も高く細面の女性が、
黒いリクルートスーツを着て佇んだ。
すると一枚の封筒を利奈に渡し、「読んで下さい」と、言って、
その場を立ち去ったのであった。
急に手紙を見知らぬ女性から、渡された利奈は首を傾げて、
その場で手紙を封筒から出して、中に入っていた手紙を読んだ。
しばらく読みながら、その場に佇んでいたが、利奈の表情が変わった。
表情は青ざめ目は泳ぎ、戦慄を覚えた顔付きで、急に走り出した。
石塚は利奈を追いかけ、「どうしたんですか、何が遭ったのですか」と、
大声を張り上げて、利奈の後を追ったのであった。
そして会社で、利奈は自分のデスクの椅子に座り、手で顔を覆って泣いていた。
それを見ていた会社の仲間達は、考え込んでいた。
近藤が利奈の持っていた、手紙に目を通すと、渋い顔付きになった。
手紙の内容は、
「今回この様な形で、お会いする事になってしまいまして、
真に申し訳御座いませんが私は、緒方 光秀君の借金を肩代わりしています。
金額は数万円の端数を抜くと、千五百万です。
私は、ジェットエレクトロニクス社長、娘の丹波 慶子と申す者で、
お気づきかと思いますが、兼ねてから緒方君が、
我が父の会社に入社した時からの、会社でのお付き合いという事です。
二年程前から、私どもに借金を重ねておりまして、
当初ギャンブルでの借金を、街の金融機関で行っていた、緒方君でしたが、
私がそれを見かねて、私が緒方君の金融機関での借り入れを宛がい、
それでもギャンブルを止めない、緒方君にお金を貸す様になりました。
私も緒方君に幾度と無く、ギャンブルを止める様、説得して来ましたが、
一向に収まる気配が有りません。
無論、婚約者である、あなたには責任を問いません。
ただ私は、緒方君に条件を出しまして、兼ねてから緒方君との縁結びを、
我が会社の父である社長からも、勧められて来ました。
もしあなたが、私どもにこの借金の、埋め合わせをして頂けると言うならば、
とても有り難い事です。
私も自分の貯蓄からの宛がいで、有りますので、
我が社の社長には、この事実は伝えておりません。
従い折り入ってご相談が有るのです、今一度、緒方 光秀君と、
ご相談して頂ける事を願い、この文章にて代えさせている次第です」。
それを読んだ近藤は、そっと手紙を畳んだ。
そして近藤は、「利奈、今日の夜会社を終えてから、光秀君と相談するんだ」と、
言いながら、利奈のデスクに置かれていた、
茶封筒に手紙をそっと、収めたのであった。
近藤は独り言で、「まさかこんな羽目になるとは」と、顔を濁らせ、
思いに更けていたのであった。
すると利奈が泣きながら、「千五百万なんて大金、私の貯蓄には無いの」と、嘆いた。
慰めていた紗江が、「そんな大金、25歳で貯めていたら、
相当生活費を削って暮らしてる人よ」と、呆れて言った。
恵美子は考えながら、「例えお金をその女に、利奈が返したとしとしても、
その緒方君が会社を辞めない限り、
その女との関係は、切れないと思うけど」と、首を傾げた。
垣田は腕を組み、「最初からその女は、その緒方君を靡かせる為に、
金を貸し続けていたんだな」と、やはり首を傾げた。
近藤は目を瞑り、右手で目を覆って、「いずれにしても、
光秀君の今後の利奈への対応だが、ここに来て利奈を苦しませるとは、
思いもしなかった」と、やはり嘆いていた。
石塚も考え込んで、「自腹で借金を宛がったなんて嘘でしょ、
社長と企んで緒方さんを嵌めた」。
垣田と近藤は同時に、「そう言う事だが」と、言ってまた二人は悩んだ。
そして近藤は、「石塚、確か光秀君は、会社でもやり手だと聞いたが、
柱でも有るはずだ、従い社長で在る父が、娘にその社員との縁談を進めれば、
会社は一応安泰と、考えるだろう」と、悟った。
石塚、「はいこの間、利奈さんと一緒に例の貸衣装店で、
偶然その緒方さんと出くわして、聞いた話によると、
入社当時は花形商売で、ハード開発は持てはやされていたが、
今では韓国やインドに抜かれて、
我々の様な技術者は、そうした他国に五万と居るよ、
我々の給料も大幅に減給されたと、嘆いていました」。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




