第八章 街2
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125
次の日、利奈は同期の紗江と一緒に、
新作ビールの発表会のイベントを行う為に、
新宿西口の駅前にて、会場の準備をしていた。
近くのデパート広場を借りて、イベントの準備である。
黄色い薄手のジャンパーを着て、テーブルを並べる二人に、
営業の石塚も、暑い中スーツ姿で会場の準備をしていた。
すると関係者達が、続々と顔を見せに来た。
その都度、汗だくになりながら関係者達と、握手を交わす石塚に、
いささか、利奈と紗江は石塚がかわいそうになり、
利奈が、「石塚君、デパートの中で休んでいて」と、告げると、
紗江は、「さすがにこのまま、その姿で仕事していると、熱中症で倒れると思うから、
後は私達に任せて」と、告げると意識もうろうとする石塚は、
軽く二人に頭を下げて、「お願いします」と、告げて、
フラフラで、デパートの中に消えて行った。
その姿を見た利奈と紗江は、苦笑いであった。
その内、会社の企画部が、応援にやって来ると、ビールの樽を積み重ねて、
本格的にイベント始動であった。
街行く人々は、ただで呑めると期待して、大勢の人だかりとなった。
イベントでは、東横ビールのコマーシャルでお馴染みの、女優がマネージャーなどの、
スタッフ達に囲まれながら、会場に来ると企画部は、深々と頭を下げていた。
そして近藤が、ステージ中央に女優を導いて立たせると、大勢の歓声がどっと沸いた。
女優が突然、前に置いてあったマイクを手に取ると、
大きな声で、「新宿を御通行中の皆さ~ん、
こんにちは、水島 沙希です」と、言い放つと、興味の無い通り掛かりも、
立ち止まり振り向いた。
沙希、「今回、東横ビールから新しく発売になった、
この夏最もクールで口当たりが良い、ビールをご紹介しますね」。
すると隣で立っていた、近藤が沙希にビールを渡すと、
沙希はそのビールを高々と掲げて、「さー皆さん、このビールをご覧下さい。
紫のパッケージに、銀のラインを思い出して下さい。
私、水島 沙希が、 お茶の間で宣伝している、このビールそう、
クールアクションです。
ビールの中には麦芽以外に、ミントを仕込み、呑むとメンソールの様な、
クールな刺激が来るでしょ、これがこの夏、異常気象を吹っ飛ばす程、
クールに成れるビールです」。
そう答えると、観客の一人が、「沙希ちゃんの、浴衣の方がイイよー」と、答えると、
周りは和み、笑い出した。
すると沙希は、その言葉に答え、「有難う御座います。
でも、こちらのビールは、コマーシャルの、私の浴衣姿よりも、もっと官能的です」と、
答えると、観客は大笑いであった。
そして沙希は、話し続けて、「これから皆さんに、このビールをお配りいたしますので、
この暑い最中、一時でも涼しさを味わって下さい」と、
言うと観客は、拍手喝さいで関係者達から、
紙コップに入れられた、ビールを配られていた。
今日も気温は35度を越えていたが、観客は楽しそうに仲間と、
配られたビールを、美味しそうに飲んでいた。
水島 沙希も、観客と握手をして回っていた。
利奈も紗江も、観客にビールを配る仕事で忙しかった。
近藤も工場の関係者と、握手を交わし 一緒にビールを味わって、
互いに評価をしていた。
何気なく近藤は、通りに振り向くと、誰かがこちらをじっと見ていた。
目を細めてよく見ると、もう随分前に見掛けなくなった、尚江の姿であった。
近藤は咄嗟に近くに、置いて有ったテーブル上に、呑んでいたビールを置いて、
観客をかき分け、尚江の方に走って行った。
その時、尚江は微笑んで、静かにその場から立ち去った。
それを夢中で追いかける近藤。
尚江は地下道の階段を、小走りに降りて行った。
近藤は大きな声で、「おい待てよ尚江、尚江だろ、おい」と、声を掛けたが、
足を止める事は無く、すでに尚江の姿は無かった。
近藤は地下道を、くまなく探したが、尚江の姿は無かった。
急に呑んで走ったので、息が切れてしまい、ぜいぜい息を吐きながら、
腰に手を当て、顔を赤くして下を向いて息を整えていた。
息を整え会場に戻ろうとすると、背後に誰かの気配を感じた。
すると急に、「近藤さん」と、声を掛けられた。
それは紛れも無く、利奈の声であった。
近藤はゆっくりと顔を上げて、後ろを振り向いた。
利奈はそっと呟く様な声で、「どうしたのですか」と、
尋ねると近藤は、「いや、別に何でもないんだ、
ちょっと知っている顔を見かけてね」と、俯き加減で、会場に帰ろうとすると、
利奈は、「女神を見掛けたのね」と、答えた。
近藤は何も言わずに、歩いて行った。
すると利奈は地下道で、大きな声で、「正直に答えて下さい」と、声を張り上げた。
仕方なく立ち止まる近藤は、利奈に振り向いて、「君は気にしなくていい」と、
行って前方を向いて、
歩き出す近藤に利奈は、「何か私に都合の悪い事でも、有るのですか」と、問いかけると、
利奈は近藤に駆け寄った。
近藤は、「知らなくても良い事だから」と、階段を上がろうとする近藤に、
利奈は躊躇いながら、「どうして、どうして知らなくても、良いのですか」と、激怒した。
近藤も急に態度を変えて、
階段の所で、利奈に振り向いて、「知らない方が良い事だって、
世の中にはあるんだ」と、激怒した。
利奈はそれでも、近藤を追及し続けた。
利奈、「私、昨日も映画を見ている最中に、映画の内容とはまったく無関係ない、
フラッシュバックが起きました。
幼い子が川で溺れていて、若い男性が川に飛び込んで、片方の手で少女を抱いて、
もう片方の腕を上げて、何かにつかまろうとしていました。
すると私は、地面に長い小枝が落ちているのを見つけて、
それを拾って川に枝を伸ばして、その男性は枝を掴んで、私は手繰り寄せました。
するとその男性は、コンクリート壁が低く成っていた所で、
自力ではい上がろうとしている所を、私も手助けをして、一命をとり止めました」。
それを聞いた近藤であったが、「それは利奈の記憶の惑いだ」と、言って、
去ろうとすると利奈は、「きっとそう言うと思いました。
ならば私が結婚をして、しばらくして落ち着いてから、
近藤さんが必死に今、女神を追いかけた理由を、
聞かせてくれる事を、約束してくれますか」と、尋ねると近藤は、
利奈の両肩を両手で持って、「今、利奈は後悔してはならない、
幸せに成るんだ、だから今起きている現状を忘れるんだ。
君は結婚すれば、きっとフラッシュバックなんて、消えてしまうだろう、
心配は要らない、だからもうこの事は忘れてくれ」と、言って利奈の肩から手を離して、
地下道の階段を上って行く近藤であった。
そんな近藤に利奈は、「解りました、忘れます」と、素直に答えると、
近藤は階段を上る足を止めて、
利奈に振り向いて、「それでいい」と、微笑んで去って行ったのであった。
だが利奈の心は、戸惑い溢れていたのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




