第七章 訳3
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125
利奈は夜、光秀のアパートに居た。
二人はベッドの中で、仰向けで語り合っていた。
光秀、「もうこの頃は、フラッシュバックは起きないのか」と、尋ねると、
利奈は横向きになり、光秀の方を向き、
光秀の腕を両手で持って目を瞑り、「ここ一週間は起きてないよ」と、
甘えた声で呟いた。
光秀はそんな利奈の頭をなでながら、「ならば一安心だな」と、
呟くと利奈は、「でもあの二人の言った意味を、
知りたいの」と、光秀の腕に頬を着けて語った。
寂しがりやの利奈は、不安を紛らわす様に、
光秀の温もりを感じたくて堪らなかった。
光秀はそんな利奈の頬に、手を触れながら、「もうよせよ、それを知った所で、
何になると言うんだ」と、咎めた。
利奈は目を開けて、「普通じゃなかったあの人の目は、
訳はどう有れ、意味を知りたいの」と、不安気に答えた。
光秀、「利奈お前、仕事中にあの石塚君て言う、営業担当の社員を引き連れて、
態々お前のプライベートに付き合せるのは、
あまり良い事ではないと思うけどな」と、指摘した。
利奈はそれに対し、「小売のビールの売り上げの視察の帰りに、
たまたま通り掛かったから、気になっただけよ」と、否定した。
光秀は呆れて、「もう気にするなよって、言いたいんだよ俺は」と、ため息を付いた。
利奈、「でも訳を知りたいの」と、ガンとして利かなかった。
光秀、「強情だな利奈は、お前はその関係している、
近藤さんと言う人にも、訳を知りたくて、色々と動いて貰っているのだろ、
不幸が訪れた訳でも無いのだから、
もうその事を追求するのは止めろよ」と、強く咎めた。
利奈はまた目を瞑り、「あの二人の目が、共通して切なく感じたの。
あの二人から何かを聞き出せば、私の時々起こる白黒のフラッシュバックが、
消える様な気がするから..」と、呟いた。
光秀はその時、利奈に口付けをして、
目を見詰めて、「俺が今日言っただろ、知らない方がいい事だって有るんだ。
今知ってしまったら、あなたは幸せに成れないと、
あの女神に言われただろ」と、念を押した。
利奈は光秀から、視線を逸らし、
「それは何を意味しているか、知りたいの」と、冷たく光秀の営みを、
拒む様に感じた光秀はさすがに、その強情な態度に怒り、「勝手にしろよ」と、
利奈から離れて、横を向いて寝てしまった。
利奈はそんな光秀に、罪意識を感じて横を向いている、
光秀の肩と腕を持ち必死に、「ごめんなさい、
もうこれ以上その事は考えない」と、体を揺すると、
光秀は、「明日早いからもう寝るよ」と、不機嫌な態度を示した。
利奈は必死に、「ごめんなさい、本当にごめんなさい」と、
光秀の体を揺すったが、光秀は何も答えなかった。
急に寂しさが増したか、光秀と反対方向に体を向けて、目を瞑り涙を流していた。
寂しがりやの利奈はこの時、追及してしまった事を、酷く後悔していたのであった。
明くる日、朝から利奈の会社では会議が開かれていた。
ビールの売れ行きは上々で有ったが、新製品の飛び付きが悪く、
依然ノンアルコールの味の向上に、着手する事になると、
横浜のビール工場と兼ねている、研究開発所では味の成分開発で忙しくなる。
優秀な研究員であった近藤は、開発チームのリーダに昇格し、
すでにこの、東横ビールの柱であった。
適切な判断と、ユーザーが求める意見に賛同し、研究は進められて行く、
進める事でここ一ヶ月、その味は向上し、ユーザーからは多大なる評価を得た。
近藤の支持に寄り、事はスムーズに運び、その才覚は本社であるこの会社の、
中核とも言われ、上司達も態々札幌から近藤を、本社に呼んで来た事に誇りを持った。
時代の流れはまさに今、発泡酒とノンアルコールであった。
それと同時に、近藤の人柄も社員達からは高評価で、
威張らずそれでいて、的確な指摘は鋭く、それを改善する事で、
社内は近藤の判断に任せ、従事する事を余儀なくされた。
それに連れて、工場に近藤と利奈は一緒に出向く事が多く、
自然と近藤のアシスタントと成って行った。
だがプライベートの話になると、立場は逆で近藤は利奈の、
人生のアドバイスと、アシスタントを担当していた。
横浜工場の帰り道、車の中で利奈は助手席に座り、
近藤が運転していた。
何気なく近藤は、本牧ふ頭に車を止めて、海を見詰めた。
そして車を降りて、タバコに火を点けた。
車の中は禁煙なので、いつもこのスタイルで、喫煙タイムであった。
利奈も車を降りて、海を見詰めた。
近藤、「悪いな利奈、俺のタバコの時間に付きあわせてしまって」と、告げると、
利奈は海を見詰めながら、「結婚てなんだろう」と、呟やき近藤の隣に来た。
近藤はそんな利奈に振り向き、表情を伺いまた海を見詰めて、タバコを吸った。
近藤は煙を吐きながら、「そうだな、結婚する事で何を得られるかは、
個人差は有るが、人生感を大きく変える人も居れば、変わらない人も居る。
ただ言える事は、無くしてみると以外にも、
価値観が有ったと思うよ」と、悟ると、
利奈は、「無くしたと言うより、
失ったと言えるのでは無いですか」と、語ると、
近藤は、「そうかな、そうかも知れない。
でももう俺は戻らないつもりでいるよ、あいつの元へは」と、悟った。
利奈、「新しい彼女も居る事だし」と、からかった。
近藤、「あの子は一方的だな、オジサンの俺が言うのも何だが、
自分の思いばかりで、こちらの思いは通そうとしないよ、
若いのにあの子はまだ、そんなに焦らなくても、時間は有るのに」と、嘆いた。
利奈、「恵美子は入社当初からそうなの、社内恋愛はしないけど、
いつも押し付けて失敗ばかりで、決まって年配者ばかり。
あの子は母子家庭で育っているの、母親も女で一つであの子を育てたから、
甘えられずにいて、大人に成ってから、
甘えられる年上が、好きに成ってしまった様で、
頼り甲斐が有る男性に、よく目を付ける」と、語ると、
近藤はタバコを銜えて、「なるほど、そう言う訳か」と、呟いた。
利奈は遠くのタンカーを見詰めて、「夜ベッドで光秀に、
女神の話をする事を咎められてから、考えるのを止めたの、
そうしたら二人の仲も、上手く行く様になって、
フラッシュバックも起きてないの」と、告げると、
近藤はタバコを指に挟んで、「その方が懸命だよ、とかく預言者の言う事は、
人を迷わす事が多い、誰に何を言われ様が、運命は変わらない、
その時に不幸を克服出来たとしても、そのしわ寄せで、別の不幸が訪れる。
結果的には、運命には逆らえやしないさ」と、タバコを吸った。
その意味深な態度に利奈は、「近藤さんなんだか、
辛い過去を背負っているみたい」と、探ると、
近藤、「誰でも一つや二つはあるだろ、45年も生きていれば」と、呟いた。
利奈、「奥さん愛しているのでしょ今でも」と、問いかけると、
近藤は切ない表情になり、「今許したら元も項も無い、
株は世界的に見ても今は、安定知らずで大暴落。
それでもあいつは、止める事は出来ないだろうな、
俺の金を使わないとしても、あいつはまた同じ繰り返しだろう」と、非難した。
利奈、「そうねあいつもそう、一度嵌ると勝つまで止めない、
いつか勝ったとしても、また勝つ事を望んで勝負に出る」と、光秀の事を語ると、
近藤は、「俺も前はパチンコを打っていたが、パチンコは現金だからな、
限度を知っているから、利奈も多少は多めに見ているのだろ」と、探ると、
利奈は俯き加減で、「そうなの、身を滅ぼす程は遣らないから」と、語った。
近藤は利奈に振り向き、「利奈から借金してまで、
遣った事はないのだろ」と、問いかけると、
利奈は、「うん、そこまでは使い込んだ事は無い」と、告げた。
近藤は微笑み、「なら男の解消程度だな」と、笑ったのであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




