第五章 リフレイン
オリジナル:http://blogs.yahoo.co.jp/kome125
次の日の週末、
近藤は会社近くのアパートの自宅に居たが、元妻もアパートに来ていた。
男性宅はやはり後片付けが、ままならない様子で、元妻が部屋の掃除をしていた。
彰子は洗濯物をベランダに干し終わり、
居間に来るとソファーに座っていた、近藤の前に立った。
彰子、「やっぱり私が居ないと、この有様ね」と、ため息を付いた。
近藤は見上げて、「なんだよいきなり、俊二にここを聞いたのか」と、尋ねると、
彰子は呆れ口調で、「俊二の部屋も、父親と同じ有様よ」と、嘆いた。
近藤はテレビのリモコンを持って、スイッチを切った。
そして彰子に、「お前、仕事の方はどうなんだ」と、心配すると、
彰子は台所に行き、皿を洗い始めて、「順調とは言えないわね、
保険の仕事も不景気に煽られ、海外の保険会社との兼ね合いが有るの。
私が働いている会社も、孫会社だから業績は上がらないのよ」と、嘆いた。
近藤、「今は一人で住んでいるのか」と、心配そうに尋ねた。
彰子、「そうよ、今まで両親と離れて暮らして来たでしょ、
今更この年で若い子みたいに、離婚したからと言って、
メソメソ家に帰れないわよ、それにね」と、言おうとすると、
近藤が口を挟む様に、「義理の、お父さんは、お前が勝手に一人で生きたく成って、
離婚した事を、グダグダ咎められるのも、癪に障る訳だ」と、解いた。
彰子、「そう言う事、義理の父親も頑固で、それに似たのね私は」と、やはり嘆いた。
近藤、「お前、ここに来た理由は、それだけではないのだろ」と、追求すると、
彰子の動きが一瞬止まったが、また皿を洗い始めた。
そして彰子は、「私ね保険会社、東京支店に、来月から転勤する事になったの。
だからちょっと息子の所に、挨拶に来たのそうしたら、
お父さんも東京に居る事を知って、ここに来たのよ」。
近藤、「書置きして、家出同然で出て行って、
戻って来たと思ったら離婚話で、離婚届けに判を押して、慰謝料も求めないで、
僅かなお前の貯めた貯金通帳持って、家から出て行って、
またこうして、別れた夫の前に現れて、どう言う事なんだ」と、問い詰めると、
彰子は、「いいじゃない、別に寄りを戻そうなんて、
思ってやしないわ」と、言いながら洗った皿を、拭いていた。
近藤はその時、やるせない顔付きで黙り込んだ。
彰子、「私が馬鹿だったとは、思っているけど」と、言い訳をすると、
近藤は、「では何故、子供の手が離れて、
家で寂しい思いをしている事を言わなかった」と、尋ねると、
彰子は、「あなたが、仕事と家庭を大事にしていた事は、認めていたの、
だからあなたには、我侭を言えなかっただけよ」と、語ると、
近藤は、「子供の手が離れて、働きたいと言えば俺は認めた」と、反論した。
彰子、「そう言うだろうと、思っていたは」と、何食わぬ顔で答えると、
近藤は、「株の借金を、言えなかったのだろ」と、追求した。
彰子は本音を見透かされて、相談に応じて貰おうと、
近藤と彰子は外に出て、食事をする事になった。
近くの居酒屋で酒を呑みながら、話をする二人、
彰子、「結局私は、智彦貯蓄に手を付ける事を拒んで、
俊二の学費と大学進学の資金にも、手を付けるのを拒んでいた」と、本音を語ると、
近藤はおちょこで酒を飲み、「結局サラ金か」と、問い掛けた。
彰子は頷いた。
呆れる近藤は、「お前の性格では、そうすると思ったよ」と、語ると、
彰子は近藤に振り向いて、「性格」と、首を傾げた。
近藤、「表面上はしっかりしているが、内面は弱くいざとなると、
俺にその事を告げられない、何故ならお前は俺から離婚を、
叩き付けられるのが怖かった。
書置きには『家庭に篭る事が、絶えられなかった』と、書いてあったが、
どう考えてもそれはおかしい。
来年俊二はもう、大学に入る事が決まっていた。
受験に落ちたら板前になると、張り切っていた。
東京に居る、すし屋の親戚の叔父さんにも、そう告げていたから。
確実に子供の手が離れれば、俺もお前の事を家庭に、
縛り付ける事はしないと告げていたはず。
何気にお前の残して行った、タンスの中の下着の底から、
株の取引書類が有ったから」と、告げると、
彰子は、「最初は軽はずみに、ネットで手を出した。
10万を資金に株は上がった。
持ち株は十倍に膨れ上がった。
それを頭金に車を買った。
あなたには何も疑われなかった。
貯めた金で買ったと言ったら、私の貯金通帳を確かめる事も無く、
納得してくれた。
そこで止めて置けば、問題は無かった」と、後悔していたが、
近藤は、「欲が出た、自分の講座にはまだ、20万は残してあった。
それに掛けた、だが不当たりだった。
株の値段は序所ではあったが、下がり1万5千円を割り続けた。
半年後には、1万1千円まで値を下げた」その時、彰子が口を挟んだ。
彰子、「言えなかった」と、挙動を荒立てた。
近藤、「結局サラ金から金を借りたが、高利回りがきつくなり、
友人から金を借りて、サラ金に宛がい、
未だに友人に借金を、返している有様か」と、ため息を付いた。
彰子はその時、「ごめんなさい」と、俯いた。
近藤は酒を飲んで、「それを言いに態々俺に、
会いに来た訳でもないのだろ」と、疑った。
彰子は急に態度を変えて、「喜美恵に私の借りた500万、あなたが返していたのね。
あなたが喜美恵に、『あいつが500万きっちり返したら、
それをそっくり事情を話して、
私に耳を揃えて返して上げてくれ』と、告げて」と、告げると、
近藤は、「それで、本当に言いたい事を言えよ」と、追求した。
彰子、「もう一度やり直して欲しいの」と、本音を語ると、
近藤は酒を呑み、黙っていた。
彰子は涙ながら、「ずっとあなたに、謝りたかった。
でもあなたを裏切った私は、
あなたの元に帰る事が出来なかった」と、言い訳をすると、
近藤は、「お前が俺と離婚しなければ、サラ金業者は俺に金を求めてくる。
咄嗟にお前は、別れたい言い訳を考え、家から出て行くと口実を作った。
俺をサラ金業者から守りたかったからだ。
俺との離婚は本気では無かったが、俺に離婚届けのハンコを押させると、
俺から姿を消した」。
彰子、「今すぐに返事が欲しい訳では無いの、
もう一度あなたとやり直したい」と、強調すると、
近藤は黙って酒を呑んでいたが、「お前、結局同じ頃を繰り返すよ」と、呟いた。
彰子は、「へ」と、予想外の返答が、返って来た事に驚いていていた。
近藤、「喜美恵から聞いたよ、借りた金の返す額が、
月に寄って大幅に違うそうじゃないか、
時に10万、時には50万、保険屋に勤めていても、
ノルマ達成でもその月に、保険の勧誘が幾ら多くても、
10万から一気に50万の報酬なんて有り得ない、
バブル時期ならともかく、この不景気に勤め先の保険屋が、
そこまで平の勧誘員に、報酬は出さない。
増してや大手からの支店が、そんなに出せる訳がない、
お前、また株に頼っているな」と、追求すると、
彰子は、「お願い、私をあなたの側に置いて欲しいの」と、縋った。
近藤はおちょこを持ち俯いて、「もう、俺達は他人なんだ。
寂しい気持ちは解るが、距離を置きたい」と、拒むと、
彰子は涙ぐみ、自分もコップ酒をグっと呑んだ。
しばらく二人は、言葉を交わす事も無く、居酒屋で呑んでいたが店を出た。
何気なく二人は言葉も交わさず、外を歩いていると、若い女性達三人とすれ違う。
すると一人の女性が、「近藤さん」と、声を掛けて来た。
近藤はその声に気づき、振り向くと利奈であった。
近藤は、「よう、今日は友達と買い物かい」と、
尋ねると利奈は微笑んで、「ええ、そんな所です」と、答えた。
すると近藤の隣の女性が目に入った。
利奈はそれを見て、「奥さん、だった人ですか」と、尋ねると、
近藤は躊躇いながらも、「あ、ああ、その通り」と、答えた。
彰子も利奈を伺い、「同じ会社の方なの」と、尋ねた。
利奈は咄嗟に、「加藤 利奈と申します」と、頭を下げた。
近藤は、「奇遇だね、こんな所で会うなんて」と、答えると、
彰子は利奈を見て、何かを感じて息を飲み、急に挙動を荒立てた。
そしていきなり、利奈の頬に手を触れた。
彰子は咄嗟に、「あ、ごめんなさい」と、謝り手を竦めて下を向いた。
近藤は彰子に、「どうしたんだ突然」と、尋ねると彰子は手を組み、
それを自分の胸に当てて俯いた。
そして彰子は、「リフレインって本当に有るのね」と、呟くと。
近藤は笑いながら、「何を言っているんだ彰子」と、
問い掛ける彰子は首を振り、「何でもないの、ごめんなさいもう私は、
あなたの元に戻る事が、出来なくなったのね」と、俯いて、
近藤を見詰めて、名残惜しいそうな眼差しで立ち去った。
近藤は、「おい待てよ、どう言う事だ」と、追いかけた。
訳が解らない利奈達は、ただじっと二人の遠ざかる姿を、見詰めるだけであった。
この物語はフィクションであり、登場する人物、建物などは実際には存在しません。




