本願寺顕如
まさか、あの仏敵に屈するとはな・・・いや、わしらが弱かったからか。石山退去に同意した、本願寺座主である、わし本願寺顕如は天を仰いだ。
わしはあの仏敵に、ここまで増悪をいだくとはと自嘲気味に笑い、仏敵に初めて関わりをもったことを思い出していた。
「我が主、弾正忠様のお言葉を伝えます。」
織田弾正忠信長、上洛を果たした出来星大名。当時のわしは、このくらいの認識しかなかった。
「弾正忠殿がいかがした。」
「は、足利幕府が再興いたしましたので、そのための費用2千貫をお納めいただきたく」
「おう、分かった。」
本願寺にとって、2千貫などは払えぬ金ではない。
それに、当時は仏敵の機嫌を損ねたくなかったからな。しかし、我らの平安は破られた
「頼廉、これはどういうことだ?」
「は、足利義昭公より出された御内書かと」
下間頼廉が真面目に答える。
「それくらいわかっておる。」
その内容が問題だったのだ。織田信長に歯向かい、これを倒せと。
「公方と、弾正忠が不仲というのは本当だったのですな」
頼廉が大仰に頷く。
「とにかく、我が本願寺は弾正忠はからなに
も被害をうけておらん。公方からの申し出は受けぬ。」
このころは本願寺と仏敵の仲はそこまで悪いわけではなかったがこの数ヶ月後の仏敵の申し出により破綻する。
「何!織田家に5千貫納入せよと申すか!」
「は、我が主弾正忠様は浅井、朝倉と戦をしておりこのための戦費が必要なのです。」
「もし払えなかったら?」
「本願寺を攻め滅ぼすとの仰せです。」
わしは目の前が暗くなった。ありえぬであろう。百年間以上続いてきた我が本願寺を滅ぼすとは。まさしく仏敵であると。
「信長につたえい、我が本願寺は仏敵信長を滅ぼす!」
「は、ははー」
使者はわしの剣幕に驚いたようだ。わしは檄文を全国の門徒衆に回した。
仏敵信長、誅すべし。
わしはこのとき少し後悔した。仏敵という表現を使ったことを。大仰だと思ったのだ。だが、この後悔はすぐに破られた。
すぐに本願寺・斎藤連合軍は野田・福島に出陣し、そこに仏敵を誘き寄せ、その間に浅井・朝倉が京を占領し、浅井・朝倉が京より、本願寺・斎藤が野田・福島より仏敵を挟撃し、仏敵の首を取る。まさに完全無欠の作戦だ。だがこれは仏敵の奇想天外な策により破られた。
仏教は天皇による和睦命令をださせた。
わしは和睦に反対だったが、朝倉が和睦に応じ信長は窮地を脱した。
だがこの和睦もすぐ破られた。仏敵が近江に出陣。浅井・朝倉の残党がこもる比叡山を包囲し、宣言したのだ
「信長に味方せよ。最低でも中立を保て。そうしなければ比叡山の一切を焼き討ちす。」
だれも相手にしなかった。当たり前だ。比叡山は弘法大師より千年以上国家を守るために作られたものだ。焼けるはずがない。しかし仏敵は畏れ多いこの本願寺を焼き払い、女子供まで虐殺したのだ。わしは戦慄した。そして、やはりこいつは仏敵だ。仏敵以外のなにものでもない。わしはこやつをこの現世より排除する決心を心に決めた。
しかし、仏敵の攻撃により浅井・朝倉は滅び、上洛中の武田信玄も病没し、義昭は追放され一気に不利となった。だがわしは諦めなかった。義昭が逃げた先の毛利戦家と連合し、毛利家の村上水軍が本願寺の石山に物資をとどけることになった。
難攻不落の石山に絶えることなき物資。つまり百年でも千年でも籠城できるのだ。仏敵が本願寺に釘付けになっている間にほかの大名が仏敵を滅ぼす。完璧な策だった。
実際、仏敵は、この村上水軍を滅ぼすために織田水軍を派遣した。しかし所詮村上水軍の敵ではなくぼこぼこに敗れた。もはや本願寺は落とせぬのだ。わしは高笑いした。
が、わしの笑いはすぐやむことになる。
仏敵は水軍を再び派遣したのだ。わしは仏敵が哀れになった。だが、織田水軍は村上水軍を破ったのだ。理由は織田水軍の鉄張りの船。これに村上水軍は太刀打ちできず、破れ去ったのだ。
本願寺と毛利の補給ルートは織田水軍に占領された。もう周りに味方はいない。ここまでの10年が泡のように消え去りわしは膝をついた。
わしは天皇に和睦を願いでた。条件は石山を退去し、紀井にいくこと。わしはこれを承認した。
わしは紀井への坂道に目を向けた。わしは降りる前にふと思った。仏敵、信長は無事であろうかと
いや、わしらがやってきたことは無駄にはなるまい。必ず信長は死ぬだろう。
わしは高笑いしながら坂道を下った。
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