新しい作物
動物達がいなくなった後もマイクとジャネットは世界と一つになった陶酔感を味わっていた。
やがて、我に帰った二人は立ち上がり、畑に戻ってきた。
「出来ちゃったわね」
畑を眺めながらジャネットが言った。
「あぁ、あっという間だったな。まるで、嵐みたいだった。」
二人は感慨深げに畑を眺めていた。
「この畑で何を作るのかもう決めてるの?」
紫音が声をかけた。
「いや、まだはっきりとは決めてないよ。幸いこのあたりの土地は肥えてるから、何を作ってもいいけどね」
マイクはそう言って畑の土を一掴み掴むと、手のひらに広げて眺めた。
「じゃあ、何を作るか、私が決めて良いかな?」
「うん。何か良いものがあるのかい?」
「いいえ、まだ分からないんだけど、何かこの国にはないものを作ろうかなと思ってね。」
「それはいいねぇ。」
「じゃ、お茶でも飲みながら相談しましょうよ。」
ジャネットがそう言って三人は家の方へ歩いて行った。
家に入ると、リビングでカレンお婆が編み物をしていた。
「あら、お婆様、何を編んでらっしゃるの?」
「おぉ、ジャネットかえ?いやなに、まだすぐに要るものじゃないが、寒くなった時の為にな。紫音にマフラーと手袋を編んどるんじゃ」
「まぁ・・・お婆様。ありがとうございます。」
「いやなに、わしの楽しみでもあるから、ええんじゃよ。ところでこんな時間に皆そろって珍しいの。」
まだ、昼食には間がある時間だった。
「それがね、今作ってる畑がね、もう出来上がっちゃったのよ。」
ジャネットは四人分のお茶を用意しながら、さっきの出来事を話した。
「ほぉ・・・それはわしも見たかったのぉ。さぞや見ものじゃったろうて」
「そりゃあもう。あっけにとられて、お婆様を呼びに行くのも思い浮かばなかったわ。でね・・・」
「あの畑で作るものを、紫音が探してみたいんですって。」
「ほお・・・」
「この国にはない物を作ろうと思ってるんだけど・・・。」
紫音が言った。
「手間がかからなくて、副食になるようなものを皆が作るようになれば、国も豊かになるでしょ?」
「それはいい考えじゃ。そうじゃな・・・ふむ・・・」
カレンお婆は、記憶をたどるように目を細めた。
「前に、仲の良い占い師の婆さんから聞いた事があるが、なんでも遠い異国に、皮が紫でたいそう甘い芋があるそうな。その婆さんも又聞きらしいから、詳しい事はわからんかも知れんがの。」
「ふ~ん・・・じゃあ、そのお婆さんに話を聞きに行ってもいいかしら?」
「あぁ、かまわんよ。わしも一緒に行こう。じゃが、半日かかるでな。明日支度をして、朝から出かけるとしようかの。」
紫音は、首をかしげて考えていたが
「じゃあ、お婆様、ご足労だけどお願いします。」
「なんの、かまわんよ。わしも長いこと会うとらんから、近々行こうと思っとったところじゃ。そうと決まったら、明日が楽しみじゃわい。」
カレンお婆は、そう言って笑った。