表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
向日葵の中で
8/41

畑作り

「でも紫音、どうやったらあんなことが出来るの?歌声が綺麗な玉になったり、動物達と一緒に歌ったり踊ったりして」


「私にも分からないわ。何かにね、気持ちを込めて集中していくでしょ?そしたら出てくるのよ。」


「ふぅん・・・」


 その時食事を終えたマイクが立ち上がった。


「俺は昨日の続きをしてくるよ。」


「進み具合はどう?」


 ジャネットがマイクに聞いた。


「いやぁ、結構大変だよ。埋もれてる岩が多いんだ。切り倒した木の根っこも取り除かないといけないし。使える畑になるのはまだまだ先だな。」


「そう・・・あまり無理しないでね。」


「あぁ、わかってる。じゃ、行ってくるよ。」


「行ってらっしゃい。」


 マイクを見送ってから紫音が聞いた。


「畑を作ってるの?」


「うん。でも大変みたいね。力仕事はお兄様しか出来ないし、暇な時期には近所の人も手伝ってくれるけど、いつもいつもは頼めないしね。」


「私もお手伝いに行こうかしら」


「そうしてくれると助かるわ。案内するわね。」


 紫音は残った食事を食べ終え、洗い物を済ませると、二人でマイクのところへ向かった。


 外へ出ると暖かい日差しと心地よい風と田園風景に紫音は安らかな気持ちになった。


「気持ち良い風・・・ずっとこうしていられたらいいだろうなぁ」


「あら、ずっとここにいればいいじゃない?」


 そう言うジャネットに紫音は


「そうね」


 と言いながら少し寂しげな顔をした。


 それを見てジャネットは何か言おうとしたが、

 紫音が先に声を上げた。


「あ、マイクだわ。」


 同時にマイクも紫音たちを見つけ、作業の手を止めて二人が近づくのを待った。


「来たのか。」


「ええ、紫音が手伝ってくれるそうよ。」


「そうか。ありがたいけど、力仕事だから女の子にはどうかな?こまごまとした片づけをやってもらおうか。」


「今は何をしてるの?」


 紫音が聞いた。


「あの岩が見えるだろ?あれを掘り起こしてるんだけど、まだ底が見えてこないんだ。」


 マイクの言葉を聞いて、紫音は目を閉じ、意識を岩に集中させた。


 岩はかなり大きく、掘り起こすのは無理だった。


「だめよマイク。大きくて掘り起こすのは無理だわ。」


 マイクは驚いた顔をして紫音にたずねた。


「どれくらいあるんだい?」


「そうね・・・まだ四メートルほど埋まってるわ」


「そんなにか!・・・なにか方法を考えないといけないな・・・」


「私が掘り起こすわ」


紫音はそう言って目を閉じた。


 同時に背中から真紅の霧が出てそれが羽の形になった。

 

 途端に、岩の周りの土が一瞬のうちに掘り起こされ、岩が宙に浮いた。


 それは直径が五メートル程もある巨岩だった。


 驚いて岩を見るジャネットとマイクの目の前で、岩はゆっくりと離れた場所へ移動して行き、地面に落ちた。


 それはまるで夢のような光景だった。


 ジャネットとマイクは呆然としながら、岩がなくなった後の大きな穴を覗き込んだ。


 しばらくしてマイクが


「すごいな・・・」


 とつぶやくように言った。


 ジャネットは


「紫音!そんなことも出来るのね!」


 と言って目を輝かせた。


「いいなぁ。私にもそんな力が出てこないかしら。」


 ジャネットにつられて紫音もにっこりしながら


「ついでだから、今日中に畑にしちゃいましょ」


 そう言って透き通る声で歌い出した。


 その歌はどこの言葉か分らなかったが、明るく元気が出てくる歌だった。


 マイクとジャネットが聞き惚れていると、山の方から何やら土煙をあげてこちらへやって来る集団があった。


 マイクとジャネットは目をこらして見ていたが、近づくにつれ、それはネズミや猿やイノシシといった動物の集団だと分かった。


 あっけにとられているマイクとジャネットを尻目に、動物たちは三人の傍まで押し寄せてくると、怒涛(どとう)の様に土を掘り返し、小石や木の根っこを取り出し始めた。


 その勢いに圧倒されたマイクとジャネットは、慌てて離れた場所にうつり、紫音は歌いながら舞うように動物達の間を縫って歩いた。


 あっという間に、掘り出された小石や木の根っこが近くに積まれ、今度はネズミ達が土をならし、真っ直ぐに掘り返し、イノシシが鼻で土を盛り上げ、畑が出来上がった。


 作業が終わって、歌いながら畑から離れる紫音に動物達はついて行き、立ち止まった紫音の周りに集まった。


 マイクとジャネットも動物達の後ろに座った。


 紫音の歌がゆったりとした曲に変わると、辺りがしんと静まり返った。


 その中を紫音の歌が漂った。


 それを聞いているものは、心の底から幸せな思いが沸き上がってきて、ジャネットとマイクと動物達さえも涙を流していた。


 やがて紫音の歌が終わり、余韻からさめた動物達は、紫音に挨拶をするように擦り寄っては山の方へ歩いて行き、名残惜しそうに振り返りながら去っていった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ