向日葵の中で
「それじゃ、お酒でも飲みましょう。お肉と一緒に買ってきたのよ。」
「おぉ、良いねぇ。」
すかさずマイクが言った。
「お兄様は二杯だけよ」
「えぇ?なんでだよ。」
「嘘よ。でも程々にね。お兄様は飲みすぎるといつも寝てしまうんだもの。あとが大変なのよ。紫音はお酒は飲めるの?」
「ええ、少しくらいなら」
「お婆様もお飲みになるでしょ?」
「そうじゃの。久し振りに飲むとするか」
ジャネットは席を立ち、酒の瓶とグラスを持って戻り、グラスに酒を注いで四人に配った。
「それじゃお婆様、乾杯の音頭をお願い」
「ふむ。それじゃ、シオンの歓迎と皆の健康と幸福を祈って」
「かんぱ~い!」
四人はそれぞれグラスを持ち上げ、酒を口に含んだ。
「うむ、良い酒じゃ。」
そう言って、カレンお婆が笑みを浮かべた。
「ジャネット、今日は張り込んだな?」
マイクが顔を綻ばせて言った。
「そうよ。お祝いですもの。紫音、今日はたくさんお話ししましょうね。」
ジャネットも、話し相手が出来たと、嬉しそうに酒を飲んでいた。
紫音も温かい気持ちで、久しぶりの酒に酔っていった。
次の日の朝、紫音は家の周りを散歩していた。
朝日が降り注ぎ、爽やかな風が吹き渡っていた。
太陽の暖かさが身体に染み込み、その燃え盛る生命のエネルギーが紫音に力を与えた。
麦の穂を凪いで吹き渡る風が、ワンピースの裾を揺らし、頬を撫で、紫音の心のわだかまりを払っていった。
紫音は、みずみずしい充足感を覚えながら歩いていた。
ふと右の方を見た紫音の目に黄色いものが見えた。
何かしら
そう思い、紫音は近づいていった。
それは向日葵畑だった。
遠目に見えた黄色い絨毯が、近づくにつれ、一つ一つの大輪の向日葵の花になっていった。
向日葵は真っ直ぐに、その顔を太陽に向け、誇らしげに立っていた。
その向日葵という生命の、ひた向きに生きている姿に紫音は感動した。
「その向日葵は、母が好きだったんだ。」
突然、後ろから声がした。
振り向くとマイクが立っていた。
「おはよう。驚かせてすまない。君を呼びに部屋へ行ったら、畑の方に歩いていく姿を見かけたもんだから」
「おはようございます。ちょっと散歩をしようと思って。お母様の好きな花だったんですか。」
「うん。この向日葵畑は、母が丹精込めて育てていたんだ。母が亡くなってからは僕たち兄弟で育てている。」
「そうだったんですか」
「母は向日葵のような人でね。真っ直ぐでひた向きで優しくて。僕は寂しくなるとここに来るんだよ。この向日葵を見ていると、母に見守られている気がして落ち着くんだ。」
暫く二人は向日葵を眺めていた。
「さぁ、朝御飯ができてるよ。行こうか。」
マイクが言い、二人は母家に歩いていった。
母家に入ると、ジャネットが朝食を終えたところだった。
紫音とマイクは、おはようと声をかけ椅子に座った。
カレンお婆の姿はなく、朝食を済ませて部屋に戻ったようだった。
「おはよう、紫音。二日酔いしてない?」
「ええ、大丈夫よ。何ともないわ。」
「あら、そう。けっこう強いのね。私と一緒にあんなに飲んだのに。私はまだ、頭がぼ~っとしてるわ。」