ベルグ国王の苛立ち
「これはいったいどうした事じゃ」
ベルグ国王は苛立っていた。
彼は今、城の中の牢屋の前にいた。
「捕虜が消えてしまうことなんかありはせん。お前らは何をしとったんじゃ」
言われた牢番の兵は、黙ったままうつむいていた。
「まったく、約立たずばかりじゃ」
ベルグ国王はそう言いながら、腹心のゴダと自室に戻ってきた。
「おぬし、どう思う」
問われたゴダは少し考えてから答えた。
「騒ぎも起こさずに、これだけ見事に城から抜け出せるとなると、答えはひとつしかありませぬな」
「それだ。この城の中に革命軍と通じているものがいるに違いない」
「おそらく一人ではありますまいな」
「うむ。しばらくは放っておいたが、そろそろ本腰を入れて潰さんといかんな。ゾロの居場所はまだ分からんのか」
「はい。用心深いやつで一つの場所に長居はしないようです。潜らせてあるスパイの知らせてきた場所に行っても、いつも他に移った後でして」
「そうか、やつを捕まえれば話は早いのだがな。なんとか奴らを一つの場所に集まらせることは出来んのか。今のまま散らばって隠れられていては手間がかかって仕方がない」
「ないこともありません」
「ほお、どんな手だ」
「隠れている革命軍のメンバー名前と居場所が分かったので、近々一斉に手入れをするという情報を流すのです」
「そして、潜らせてあるスパイを引き上げさせます。そうすれば噂も本当らしく思えるでしょう。奴らはどこかに集まるに違いありません」
「うむ、それはいい考えじゃ。しかし、どこに集まるかをどうやって探る?」
「実は、潜らせてあるスパイは一人ではありません。それに一人いなくなれば、その上にまだいるとは思いますまい。警戒も緩んで情報も入りやすくなるかと思います」
「よし、すぐに手配をしてくれ。わしはいつでもすぐに兵を出せるように準備をしておく」
「わかりました」
ゴダはそう言って部屋を出ていった。
一方、革命軍のアジトでは、紫音が自分の部屋へ戻り、牢屋から助け出された五人が早々と寝たあと、ゾロと幹部が額を寄せあってこれからの事を相談していた。
「あの五人が捕まったということは、他のメンバーも危ないんじゃないか」
幹部の一人が言った。
「いや、それなら五人だけじゃなく、一斉に捕まえるはずだ」
別の幹部がそれに答えて言った。
「という事は、他のメンバーは大丈夫ということか」
「いや、そうとも限らん」
そこでゾロが言った。
「俺はゴダという男を知っているが、知恵のあるやつだ。もっと多くのメンバーがわかっていたとしても、全員を捕えずに、あの五人だけを処刑して革命軍に加担するのを止めさせる積りだったのだろう」
「なるほど、しかしこれからどうする。明日にはあの五人が捕まったことがメンバー全員に知れ渡るぞ。朝一番に捕まったメンバーは取り戻したと全員には伝えるがな」
「ライアン国王もそろそろ焦ってきてるはずだ。何か仕掛けてきて、一気にカタをつけるに違いない。長引けば他の国につけ込まれるからな。実際、俺にも応援したいと言ってきている国もある。魂胆は見え透いているから断ってはいるがな。俺としても、そろそろ勝負をしようとおもっている。幸い紫音さんも助けてくれると言っているしな」
「それだよ。いったいあの娘は何者なんだ。あんなことが出来るのは、あれか?魔女というやつか?それに信用できるのか?」
「それは心配いらん。実は紫音さんは、俺と同じ一族の出なんだ。お前達も、俺の人の思いがわかる力は知ってるだろう。あの人の力はもっと凄い。この国はおろか、世界を支配することだって出来るだろう。これを見ろ」
そう言ってゾロが取り出したのは、紫音から渡された砂金の入った袋だった。
ゾロは袋を開けて中身を取り出した。
「これは砂金じゃないか」
「そうだ、これだけの量となると大金だ。これを紫音さんは、惜しげも無く俺にくれたよ。わずか二時間ほどでこの大陸の砂金が眠っている川から集めたそうだ。何でも出来てしまうと、返って欲がなくなってしまうんだろうな。とにかく、彼女がいれば国王軍が何万人、何十万人いようが問題じゃない。問題なのは、そのあとだ」
彼らの話は深夜になってもまだ続いていた。