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紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
流転の中で
29/41

郷愁

 ゾロとジャンヌお婆は、紫音が泣き止むまでじっと見守っていた。


 総てのメッセージを出し終えた本の形をしたものは、また元のように二つに別れていた。


 やがて紫音は泣きやみ顔を上げ、ジャンヌお婆が差し出した布で涙をぬぐい、ぽつりぽつりと話し出した。


「私はあの星で両親と幸せに暮らしていました。二年後に星を統治する評議会のメンバーになる為の勉強を始めることになっていたのです。ところが、思っていたよりも早く星の寿命が尽きることがわかり、一年後にあの星を出たのです。そして、あの映像にあったようにブラックホールに飲み込まれる前に、両親にこの星へ送られたのです。私は両親に、このまま一緒にいると言いました。しかし両親は私に、お前はあの星でするべき事がある筈だ。一人で寂しいだろうが、私たちの代わりに生きていきなさい、と言いました。そして私は辛さに耐えきれずその記憶を消したのです」


「死んでもよかった。あのまま、両親と一緒にいたかった・・・」


 その時に、ゾロが声をかけた。


「紫音さん、あなたが辛いことは分かります。私も子供を小さい時に亡くしました。だから、大切な人と別れる辛さは知っています。でも紫音さん、あなたはひとりぼっちじゃない。私も、このメッセージを受け取ったジャンヌお婆さんも、あなたと同じ血を引く者なのです。同じ仲間なのです」


 紫音はゾロを見た。


「ええ、それは・・・わかります」


「ただ、今は一人になりたい」


「帰りますね。これを、しばらくお借りしてもいいですか」


 紫音はそう言って、本のようなものにそっと触れた。


「ええ、どうぞ」


「うん、持っていきなされ」


 紫音は本のようなものを二つ持ち、挨拶をして、自分の部屋に戻った。


 そして、二つの物の模様を合わせ、メッセージを何度も何度も繰り返し見ていた。


 どれくらいの時が経ったのかも分からないほど見た後で、ひと息入れた時にドアがコツコツと叩かれた。


「紫音や、お客様じゃぞえ」


 カレンお婆だった。


 紫音は、誰だろうと思いながらドアを開けると、カレンお婆の横にゾロが立っていた。


 外はもう夕暮れだった。


「こんな時間にと思いましたが、あなたの事がどうしても気になって失礼を顧みずに来ました」


 紫音はゾロを招き入れた。


「紫音や、食事が出来とるでな。二人分ここへ運ばせるぞえ」


「お婆さんすみません」


「なんの。ゆっくりするがええだ」


 カレンお婆はドアを閉め、戻っていった。


 二人はテーブルを挟んで向かい合わせに座った。


「驚かせて申し訳ない。ジャンヌお婆さんに頼み込んでこの場所を教えてもらいました」


「よくまぁ、あそこからここまでこんなに早く」


「ええ、やもたても堪らずに馬を乗り継いでやってきました」


紫音はテーブルに置いてある二つの物に目をやって


「帰ってからずっと、これを見ていましたの」


と言った。


「そうでしたか」


 そこへジャネットが神妙な顔で食事を持ってやってきた。


 ジャネットは、逞しい体つきで精悍な顔立ちのゾロに緊張しているらしく、ぎこちない動作で食事をテーブルに置くと


「お口に合うかどうかわかりませんが、召し上がってください」


 と、ゾロに言った。


「お手数をおかけして申し訳ありません」


 と、恐縮するゾロに、いえいえ、構いませんのよ、と言ってジャネットは出ていった。


 二人は黙ったまま食事を食べ終えた。


 そしてゾロが自分の事をぽつりぽつりと話し始めた。

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