東国への準備
芋を食べてお腹がふくれてしまった五人は、昼食を遅い時間に食べ、ジャンヌお婆は紫音に開けてもらったゲートで家に帰っていった。
マイクは甘芋を植えるための畑を耕しに行き、ジャネットは朝の続きの農作業をするために畑へ行った。
紫音は自分の部屋に戻って、今日会ったゾロのことを考えた。
意志の強そうな精悍な顔つきで、日に焼けていた顔を見た時に沸き起こった、あの感情は何だったのだろう。
それは、ときめいたという訳ではなく、懐かしいという感情だった。
それを確かめるためにも、ゾロと行動を共にして革命軍を助けてもいいと思ったが、今はジャンヌお婆の言った東の国へ行きたかった。
紫音は目を閉じ、意識を空高くに昇らせた。
そして、東へ東へと飛んでいった。
街を過ぎ、山を過ぎ、やがて海を越え、なおも東へ行くと島国が見えた。
あれだろうか?
紫音は近くに行き、低く飛んで島を観察した。
それは、細長い大きな島に大小いくつかの島が寄り添うような形をしていた。
そして緑が多く広大な平野というものがなかった。
その、細長い大きな島の中程に、紫音の気持ちが惹かれた。
あそこに何かあるかもしれない。
紫音はその位置を覚えると目を開けた。
部屋に戻った紫音は、あそこに行ってみようと思い、カレンお婆に話すことにした。
そして、夜の食事の時にその事を話した。
「お婆さん、私ね」
「ん?どうしたんじゃ、紫音」
紫音の言葉で、ジャネットとマイクも聞き耳を立てた。
「ジャンヌお婆さんが言っていた、海の向こうの国に行ってみようと思うの」
「ほお、見つけたんか」
「まだそこだと決まった訳ではないんだけどね。ちょっと気になる場所があったのよ」
「そうか、お前の好きにするがええ。いつ行くつもりじゃ」
「明日準備をして、明後日から行ってみようと思うの。朝に様子を見に行って、昼には帰ってくるわ。それから準備をしてまた行けたら行きます。無理なら次の日からでも」
「そうかえ。留守にするわけではないんじゃな」
「ええ、朝に出て夜には帰ります。昼も戻ってこれれば戻ります」
「気をつけてね、紫音。女一人だと物騒だわ」
ジャネットが言った。
「紫音は大丈夫じゃろ」
「それもそうね、わたしったら。うふふ」
皆のそんな会話の中で、マイクだけは時々紫音を見ながら黙ったままでいた。
三人ともそんなマイクに気づいていたが、知らんふりをしていた。
次の日の朝、紫音の意識はこの大陸の川をめぐり、純度の高い砂金がある場所を見つけ、その場所に飛んで砂金を10キロ程集めて帰ってきた。
そして、それを同じ位の大きさの粒により分けて、四つの袋に分けて入れた。
袋ひとつだけでも大金であった。
紫音はそれをひとつ持って主屋へ行った。
主屋では、上手い具合にお婆さんだけがいた。
「お婆さん、ちょっといい?」
「ほい、紫音か。どうしたんじゃ」
「お婆さんこれ。必要な時に使って」
紫音はそう言って袋をテーブルの上に置き、中身を少し取り出して見せた。
「なんじゃこりゃ。砂金じゃないかえ。こんなもんどうしたんじゃ」
「盗んだんじゃないのよ」
紫音はそう言って、朝から砂金を集めたことを話した。
「ほおお・・・」
カレンお婆は無表情で砂金を見ていた。
「あの二人がこれを見るといけないと思ってね。お婆さんだけがいてくれて良かったわ」
「うむ・・・確かにそうじゃな・・・」
少しの間沈黙が流れた。
「しかし・・・紫音や。今はじめてお前の恐ろしさがわかった気がするぞえ」
そう言ったカレンお婆の目は厳しかったが、すぐに優しさのこもった目に変わった。
「可哀想にのう」
紫音は涙が出そうになるのをこらえた。
「いや、これはありがたく貰っとくぞえ。ジャネットの嫁入りにも必要じゃしの。助かるわ」
そう言って、カレンお婆は初めて笑った。
紫音も笑っていた。