赤い芋とジャンヌお婆の買い物
それから紫音とジャンヌお婆は、町を出て次の町へ飛び、さらに東の町へと飛んでそこで赤い芋を見つけた。
「ねえ、お婆さん。あの赤いのがそうじゃない?」
「どれ?ほんにそうかもしれん。行ってみようぞ」
二人は赤い芋が置いてある店の前に行き、紫音が声をかけた。
「ねぇ、これってどんな味がするの?」
「あれ?お前さんがた、この芋を知らないのかい」
気の良さそうな店の主人だった。
「ええ、旅をしてるんだけど、珍しいと思ってね」
「そうかい。あんたら二人だけでかい?」
「ううん、兄さんも一緒だけど違う店で買い物をしてるわ」
紫音は嘘をついた。
「ならいいけど、気を付けなよ。こないだも近くで国王軍と革命軍のいざこざがあったし、それ以来この町で怪しい奴を国王軍の兵が連れて行ってるからな。あんたらみたいに見かけない顔だと目をつけられるよ」
「そうなの。ありがとう。ところでこの芋なんだけど」
「ああ、そうだったな。この芋は甘芋っていってな。名前の通り甘いんだぜ。」
「あら、いいわねぇ。買って行こうかしら。ねぇ、これって育てるのは難しいの?」
「難しくなんかねぇよ。暖かい時に植えてやりゃ、半年くらいで食べられるぜ。育てたいのかい?ああ、お前さんがたの国にはないんだな。じゃ、これをやるから、植えればいいよ」
店の主人はそう言って甘芋の蔓を一束くれた。
「水を張った入れ物につけて置いたら七日くらいは持つぜ。それから、肥えた土地に植えたらダメだからな。痩せた土地で水はけを良くしてやればいい」
「まぁ、ありがとう。助かるわ」
紫音は大げさに驚いてみせた。
「いいってことよ。お前さんみたいに綺麗な人にはサービスしないとな」
「まぁ、お上手ね」
紫音はそう言ってから
「あ、いけない。お兄さんが待ってるわ。おじさん、ありがとう」
「ああ、気をつけて行くんだよ」
紫音とジャンヌお婆は店の主人から甘芋と蔓を受け取って、店から離れた。
「上手く手に入ったの」
ジャンヌお婆がにこにこしながら言ったあとで
「ところで、さっき古物屋があったんじゃが、ちと寄ってええかの」
と、紫音にたずねた。
「そうね、まだ昼前だし、いいわよ」
「そうかえ。すぐ済ませるでな」
二人はしばらく歩いた所にある古物屋にいき、店の中に入った。
店の中には所狭しと古いものが並べられていて、店の奥にいた主人が眼鏡をずり下げ、上目遣いにじろりと二人を見たが、すぐに読んでいた本に目を戻した。
ジャンヌお婆は色々と眺めていたが、ふとあるものに目を止めて
「なんじゃこれは」
と呟いた。
紫音が覗き込むと、それは土色をした焼き物のようなもので、本と同じくらいの大きさがあり、羽根のようなものが生えた人間のレリーフが描かれていた。
「それはかなり古いものらしいが、ようは分かっとらん」
いつの間にかそばに来ていた主人がそう言った。
「ほぉ・・・」
「気に入ったら、10万スピナでええぞ」
ジャンヌお婆はそれを手に取って、ひっくり返してみたりとしばらく念入りに見ていたが
「止めとこう。見たところただの飾り物らしいし、美術品にしては値打ちがないしの」
ジャンヌお婆はそう言ってそれを元に戻した。
「それじゃ、まけとくがどうじゃ」
「ふむ・・・」
ジャンヌお婆は、さして気乗りのしない様子だった。
「半額にしとくがどうじゃ」
ジャンヌお婆はもう一度それを手に取り、しばらく見てからまた戻した。
「一万スピナなら買うてもええがの」
「それはお婆さん無理だわ」
「ほうか、ならええわ。邪魔したな」
ジャンヌお婆はそう言って店を出ようとし、紫音もあとを付いていきかけた時
「わかったよ。それでいいよ」
と、店の主人のなかばやけっぱちの声が聞こえた。
「そうかえ、すまんの。それじゃ貰っていくぞえ」
「お婆さんには負けたよ」
と言う店の主人にジャンヌお婆はお金を渡し、置物を手に取って紫音と二人で店を出た。
「お婆さん、それって値打ちがあるの?」
店を出て歩きながら紫音がたずねた。
「ふむ。古い文献にな、これらしいものが載っておった。何かが書いてあるらしいんじゃが・・・」
「見たところ、このレリーフ以外は何も書いとらんし箱になってるわけでもないし」
ジャンヌお婆はそう言いながら置物を振ったが、何の音がするわけもなかった。
「ま、ええわい。持って帰ってからゆっくりと調べることにしよう。一万スピナは安かったしの。ええ買いもんをしたわ」
それから二人は町を出てジャンヌお婆の店へ戻り、紫音は置物を店に置いたジャンヌお婆を連れてカレンお婆の家へ戻った。