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紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
向日葵の中で
21/41

出会い

男達はどうやら革命軍のようだった。 


紫音は男達の後ろを付いていき、病院に入るあとに続いて入っていった。


 病院の中では怪我をした男と叫んでいた男が診察室に入るところだった。


「すみません。私も医術の心得があるので一緒に見させてください」


 紫音はそう言って診察室に一緒に入っていった。


 診察室では怪我をした男がベットに乗せられ服を脱がされた。


 医者は男の怪我を見るなり唸った。


「ううむ、これはいかん」


「先生、なんとか助けてやっていただけないでしょうか」


 叫んでいた男が医者に言った。


「傷が急所で深すぎる。とりあえず傷を縫って血止めはするが、それ以外手の施しようがない」


 医者がそう言ったとき、紫音は


「私が見てみます」


 と言って、返事を待たずに怪我人に近寄った。


 そして傷口に手を当てて意識を手のひらに集中させた。


 紫音の頭の中に傷口の細部までが映し出され、紫音の体からは紫色の水蒸気が湧き出てきた。


 それは霧のように部屋に漂いながら、小さなシャボン玉くらいの大きさになり、そして不思議な音を出して弾けては消えていった。


 部屋の中は紫色の霧と、それが次々と弾けながら奏でる旋律とで不思議な世界が広がっていた。


 部屋にいる者達が呆然としている中を、紫音の意識は傷口の深いところまで降りていき、引き裂かれた細胞の治癒速度を極限まで早くした。


 細胞の引き裂かれた部分は、みるみるうちに再生し始め、まるで生き物のように深い場所から表層の方へと移動して、最後に皮膚の傷がぴたりと閉じられた。


 これで大丈夫と思った紫音は、そのままそっと部屋を出ていこうとしたが、その時怪我人が意識を取り戻して呻いた。


 部屋にいた者達はそこで初めて我に返り、怪我人を見てまた声も出ないほど驚いた。


 さっきまで出血していた傷口が跡形もなく消えている。


 それもわずかな間にである。


 みんな今度は唖然とした顔で紫音を見た。


 紫音は仕方なく


「傷は治しておきましたが、出血がひどくて体力が落ちています。血の増えるものを食べさせて数日間は安静にさせてあげてください」


 と言ってそそくさと診察室を出て待合室で待っていたジャンヌお婆と外に出た。


 今は出来るだけ革命軍と関わりを持ちたくない、と思いながら足早に町の出口に向かっていると、果たして後ろから叫び声がした。


「すみません。どうか、どうかお待ちください」


 仕方なく足を止め後ろを向くと、怪我人と共に診察室に入った男が走ってきた。


「呼び止めて申し訳ない。しかし、お礼だけでもひとこと言わせてください。私は革命軍のリーダーでゾロと申します。あなたの事は問いますまい。何か事情がおありのようだ。あなたのその・・・不思議な力には驚きましたが、部下の命を救ってくれた事を感謝します。この通り、ありがとうございました」


 そう言って深々とお辞儀をしたあと、顔を上げた男を見て、紫音は言い様のない感情におそわれた。


 その理由は後日わかるのだが、紫音は詮索もしてこずにただ一途にお礼を述べる男の態度に好感を持った。


「いえ、私は私の出来ることをしたまでで、お気遣いはご無用です」


「そうですか。ありがとうございます。しごくお急ぎのようなのでお引き止めはしませんが、改めてお礼などしたいので、ご連絡先をお教え願えないでしょうか」


 そう言われ、紫音は少し迷ったが、ついさっき湧いて出た感情に気持ちを動かされた。


 紫音はジャンヌお婆に言った。


「お婆さんの所を使わせてもらっていいかしら」


「おお、好きに使えばええぞえ」


「じゃ、このお婆さんのところで」


 ジャンヌお婆は自宅の場所をゾロに教えた。


「それではこれで、失礼します」


 紫音はそう言ってジャンヌお婆と町の出口へ向かった。





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