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紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
向日葵の中で
20/41

赤い芋

 翌朝、用意を済ませた紫音とジャンヌお婆は、まずジャンヌお婆の家に行くことにした。


 それは、ジャンヌお婆がカレンお婆から


「うちで取れた作物じゃ。持って帰れ。ちゃんと料理して食べるんじゃぞ」


 と言われてカゴいっぱいの作物を抱えていたからだった。


「それじゃお婆さん、行ってきますね」


「おお、気をつけてな」


 紫音は、カレンお婆たち三人の見送りを受けながら、ジャンヌお婆の店の中へのゲートを作り、中へ入っていった。


 店へ入ったジャンヌお婆は、水晶玉と作物の入ったカゴを置き


「時間はどれくらいかかるじゃろうのう」


 と、紫音にたずねた。


「行く場所は今朝のうちに決めておいたから、午前中には終わるでしょう」


「そうかえ」


 ジャンヌお婆はそう言い、紙に大きな字で


 午前中は休みます


 と書いて、それを表戸に貼り付けて戻ってきた。


「さあ、これでええぞ」


「じゃ、行きましょう。目を閉じて、頭の中を空っぽにしてね」


 ジャンヌお婆が言われた通りに目を閉じ、頭の中を空っぽにすると、紫音の手が自分の手を握り、すぐに紫音の声がした。


「もういいわよ」


 ジャンヌお婆が目を開けると、そこは少し先に町が見えている野原だった。


「ここはどこじゃ?」


「ここはオルフェから南の、そうね・・・歩いてひと月位の場所ね。途中に高い山があるから来るのは大変でしょうけど」


「そんな所まで来たのか」


 と、驚くジャンヌお婆に紫音は


「さあ、行きましょう」


 と言って、二人は町へ向かって歩き出した。


「ここに来るのは初めてじゃ。どんな所じゃろうのう。芋はあるんかのお」


「ここになければ、もっと南の方へ行ってみるわ」


 と言いながら、二人は町に入り市場を見つけて赤い芋を探し、他にも売っていそうな店も探してみたが、芋は見つけられなかった。


 そして仕方なく、紫音が次の町へ行きましょうかと言っている時に、ジャンヌお婆が後ろから声をかけられた。


「おおい、ジャンヌお婆じゃないか」


 ジャンヌお婆が、誰じゃこんな所でと言いながら振り向くと


「やっぱり、ジャンヌお婆か。珍しいところで会うもんだな」


 そう言って近寄ってきたのは、ジャンヌお婆が赤い芋の事を言った時、話に出てきた商人だった。


「一体どうしたんだい?こんなところまで来て」


「おお、おぬしか。ほんに珍しいところで会うもんじゃな。商売で来とるのかえ」


「ああ、仕入れでな。おや、お連れさんがいるのか。お婆さんのお孫さんかい?」


「いや、親戚の子じゃ。この娘がこの町に用事があってな。わしも一緒についてきたんじゃ」


「そうかい。ここまで来るのは大変だったろうに。何日か逗留するのかい」


「いや、用事が済んだらすぐに帰ろうと思っとる」


「じゃあ、気を付けなよ。何日か前からこの近くで革命軍と国王軍がいざこざを起こしてるからな」


「そうかえ。教えてくれてありがとうよ」


「じゃあ、またな。そのうち店に行くよ」


「おお、待っとるでな」


 男は町の方へ去っていった。


「聞いたかえ。面倒なことに巻き込まれんようにせんとな」


 紫音がそうねと返事をして、二人は町の出口へ向かってまた歩き出した時だった。


 町の入口がにわかに慌ただしくなり、七・八名の男達が担架を運んでやってきた。


 そしてその中の一人が


「医者はどこだ。誰か医者のいるところを教えてくれんか」


 と叫んだ。


 集まってきた街の者達が、こっちですだと言って案内するのを紫音が見ていると、目の前を通り過ぎていく担架に乗せられているのは怪我人らしく、それも重症のようだった。


 紫音は


「お婆さん、ちょっと・・・ついて行きましょう」


 と言って医者のところへ向かう一団の後をついて行った。


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