小さな希望
家の前に出たジャンヌお婆は
「ほぉ、こりゃ便利じゃのう」
と言ってあたりを見回していた。
「そうじゃろう。わしもな、感心したんじゃ。さぁ、中へ入るぞ」
カレンお婆がそう言って、三人は家に入っていった。
「帰ったぞえ」
家の中ではジャネットとマイクが、仕事の合間の休憩をとっていた。
「あら、お婆さん早かったのね。まぁ、ジャンヌお婆さん、お久しぶりね。元気にしてらっしゃったの?」
「おお、元気じゃったぞえ。ジャネットも元気そうじゃの。マイクは元気にしとったか?もう嫁の候補は見つけたのか?」
「お兄さんは意気地がないから駄目なのよ。お婆さん、誰かいい人を見つけてあげてよ」
「マイクはな、理想が高すぎるんじゃ。おなごはな、見た目より気立ての良いのが一番じゃぞ」
「俺のことはもういいよ。それよりお婆さん、早かったね。もっとゆっくりしてくると思ってたけど」
「おお、紫音がな、山の峠からジャンヌお婆の所まであっという間に連れていってくれたわ。峠でな、面白いことがあったんじゃぞ」
カレンお婆は、峠での盗賊たちとのいきさつを話した。
「へぇー、面白そうね。私も見たかったなぁ」
ジャネットが面白がって笑っているそばで、マイクはなぜか寂しそうな目で紫音を見ていた。
「さあ、今夜は四人で食事じゃ。食料も買ってきたからの。ジャネットや、ご馳走を作ってくれ」
「あら、何を買ってきたの」
ジャネットは袋の中を見たあと
「よし、じゃあご馳走を作るわよ」
そう言って用意をし始めた。
食事が終わり、ジャネットとマイクはジャンヌお婆に占いをしてもらい、その横で紫音とカレンお婆は新しい作物の話をしていた。
「お婆さん、わたし明日ジャンヌお婆さんを家へ送ってから、そのまま赤い芋を探しに行こうと思うんだけど」
「おお。じゃがどうやって探すんじゃ」
「ジャンヌお婆さんの話じゃ東の方らしいから、とにかく東の町に行って市場で探すわ。」
「わしも行くぞえ」
突然、占いをしているはずのジャンヌお婆がそう言った。
「わしも、東のほうの町がどんなところか見てみたい。良かろう?」
「ええ、じゃ一緒に行きましょう。私は明日の用意もあるので部屋に戻りますね」
紫音はそう言って主屋を出て部屋に戻って来た。
そして椅子に座り、窓から見える月を眺めながら今日の占いのことを考えた。
東の方の遠い国に行けば探していた答えが見つかる。
たしかに私は探していた。
自分は一体何者なのか。
なぜこういう力を持っているのか。
なぜ自分は一人なんだろう。
行く先々で苦しんでいる人を助けてきたことに満足はしていたが、その事を考えると心に寂しさが浮かんで来ていた。
あの夢はそれに押しつぶされそうになる事への恐れだったのか。
しかしそれも、東の国へ行けば全てわかるかも知れない。
紫音は、何もかも捨てて今すぐその国へ飛んでいきたい気持ちを押さえながら寝床に入った。