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紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
向日葵の中で
16/41

紫音の秘密

「おぬし、自分の生い立ちが分からんらしいの」


「ええ、覚えていません」


「ふむ、お主の悩み事はそれに関係しとることらしい。よし、もう一度水晶玉じゃ。覚えておらなくてもええから、自分の生い立ちを考えてみてくれ。今度は両手でな。ただし、強い気は出さんでくれ」


「わかりました」


 紫音は言われた通りに両手を水晶に当て、溢れそうになる思いをおさえて生い立ちのことを考えた。


 今までもその事については考えてきたが、ない記憶の中から何かを探り出そうとすると、決まっていつも黒い物がうねりながら湧き上がってきた。


 そしてそれが、なにかの形になろうとする瞬間にいつも消えてしまった。


 紫音がその事を考えている間、水晶の中では様々な色が浮かんでは消えていった。


 紫音の前ではジャンヌお婆が、必死の顔つきで水晶玉に手を当てていた。


 水晶の中では、様々な色が出なくなり、次に三つの赤い色が浮かんできた。


 それらは交わりながら、また離れながら水晶玉の中を動いていた。


 そして突然黒い色が現れ、水晶の中を覆いつくした。


 その中で三つの赤い色は交わってひとつになり、小さくなりながら鮮やかな赤になっていった。


 そして最期にすべてが一瞬で消えた。


「もう良いぞ」


 紫音は水晶玉から手を離した。


 ジャンヌお婆も大きく息をついて手を離した。


「どうじゃ。なにか分かったか」


 待ちかねたようにカレンお婆が聞いた。


「うむ。さて、何から話そうかの」


 ジャンヌお婆はしばらくの間じっと考えていた。


「まず、お前さんは両親と別れておる。何かあったんじゃろう。言いにくい事じゃが、両親はもう生きてはおるまい。両親が犠牲になっておぬしを生かしたようじゃ。それから、おぬしはどこか遠いところから来たらしい。信じにくいことじゃが、この星の人間ではないかもしれん」


「ほほお・・・それはなぜじゃ」


「これは商売上の秘密じゃから客には言わんがの。お前さん達ならええじゃろ」


 ジャンヌお婆はそう言ってトランプを手にとり、その中から十枚を選んでテーブルに縦に並べた。


「これはわしの考えじゃが、人間の生命の状態には十のものがあると思うとる」


 ジャンヌお婆が言うには、最悪のものから最高まで、まず地獄のように苦しい心、貪欲に何かをむさぼる餓鬼の心、本能のままに行動する心、常に怒りがある心、平穏な人間らしい心、天にも登る様な嬉しい心、何かを聞いて納得する心、分からない事を自分で考え答えを見つけて行く心、他人を助けようとする心、この世界にある力の元を会得している心、の十があると言う。


「最後の物が分かりにくいがの。簡単に言うと、どんな大変な事があっても負けずに越えていく、強い心が溢れておる状態じゃとおもっとる。いや、それはもっと大きな計り知れんぐらいのもんじゃろうが、簡単に言うとじゃ」


「えらく難しい話じゃの。もっとわかりやすく言えんか」


 カレンお婆が言った。


「これでもわかりやすく言っとるんじゃ。紫音、じゃったか。おぬしはわかるよの?」


「ええ、分かります」


「わしが驚いたのは、この娘が並べた縦十枚の十列全部が、下の地獄から上の最高のものまで、わしが並べたように順番になっておった事じゃ。このトランプはの、訳の分からん模様が書いてあるが、それぞれ十のうちのどれかを思い起こす模様になっておる。普通はいつも心の中にあるものをこのトランプを見て上の方に置くんじゃ。そしてたまに出てくるものをその近くに置く。じゃから、百枚並んだ配置のまとまりを見ると、その人間が何かあった時にどんな行動をするかがわかるんじゃ」


「例えば、道にお金が落ちてるとするじゃろ。餓鬼の心を持っておるものは拾って自分の物にしてしまいおるわな。それが、いつも人を助けようと思っておる者は、落とした人が困ってるかもしれんと思い、返してあげようと思うじゃろ。まぁ、お金に困っている時は自分の物にしようと思うかもしれんがな」


 そう言ってジャンヌお婆は笑った。


「ともかくじゃ、そういう風にかたよるのが普通なんじゃ。それが、この娘は見事に全部揃っておった。ええか、全部揃っておるということは、何かあった時に間違いを犯さんちゅう事じゃぞ。普通の人間では有り得ん。じゃから、この娘はどこか違う世界から来たんじゃないかと思うたんじゃ」


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