ジャンヌお婆
オルフェの町は、ソマリア国で二番目に大きい町だけに活気があり、町の中ほどの市場では人々が溢れ、ざわめき合う声で喧騒に満ちていた。
その市場から少し離れた場所にジャンヌお婆の家があり、一階が店になっていた。
店の戸は開け放たれていて紫色の暖簾が風に揺れ、戸の横には紫の敷物の上に水晶球が描かれた簡素な看板がぶら下がり、一目で占い師の家とわかった。
「ジャンヌ、いるかえ?」
カレンお婆は暖簾を掻き分けて中へ入り、声をかけた。
店の中は、狭い土間に四脚の椅子が置いてあり、壁で奥と仕切られていた。
その壁の右側の、入り口と同じ紫色の暖簾がかけられた出入り口から、カレンお婆と同じ年恰好の老婆が顔をのぞかせた。
「おぉ、カレンか。早かったのぉ。いま、お客がおるでな、暫く待ってくれんか。」
ジャンヌお婆はそう言ってまた奥へ引っ込んだ。
カレンお婆は、椅子にどっこいしょと座り、紫音も横に座った。
「わしは、今日来ることをジャンヌには言っとらん。あ奴はいつもそうじゃ。わしが来ることを前もって分かるらしい。」
ほっほっほと、カレンお婆は嬉しそうに笑った。
久し振りに見た友人が、元気でいることが嬉しかったのだろう。
暫くして、客らしき若い女性が帰っていき、ジャンヌお婆が奥から出てきた。
「久し振りじゃな、カレン。元気そうで何よりじゃ。」
ジャンヌお婆もまた、カレンの元気そうな姿を見て、喜んでいた。
「おぉ、まだまだお迎えは来そうにないわ。お主も元気そうじゃな。」
「うむ。わしも、自分の寿命だけはわからんが、まだ死ねんようじゃ。」
二人は手を取り合い、抱き合って久し振りの再会を喜びあった。
その後、ジャンヌお婆は紫音を見つめ
「むぅ・・・」
と一言呻いた。
カレンお婆は、ジャンヌお婆に紫音を紹介した。
「この人は、紫音というての。山の中で倒れておったのを見つけて、わしの家へ連れて来たんじゃ。今、わしらと一緒に暮らしておる。」
「紫音と申します。カレンお婆様にはごやっかいをおかけしています」
紫音も挨拶をしながら、ジャンヌお婆を見つめた。
ぽっちゃりと福々しい顔のカレンお婆とは違い、ジャンヌお婆は細い顔にやや鉤鼻で、透き通ったよく光る目をしていた。
暫くして、大きく息を吐き出しジャンヌお婆が言った。
「ダメじゃ。そなたの心は、はかり知れん。わしにはちと、大きすぎて手に余るようじゃな。」
「ささ、ここじゃゆっくり話もできん。わしの居間でくつろごうぞ。もう店じまいじゃ。」
そう言いながら、ジャンヌお婆は表戸を閉め、看板を裏返しにしてしまった。
どうやらそれが、閉店の合図になっているらしかった。