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紫音の少女 郷愁  作者: 柊 潤一
向日葵の中で
11/41

盗賊退治

「マイクも、内心は革命軍に入りたいようじゃが、わしの所は、男手がマイクしかおらんでのぉ。不憫とは思うが仕方ないことじゃ。」


 一通り話し終えた後で、カレンお婆はそう言った。


 カレンお婆の話にゾロの名前が出たとき紫音は、心の中に不思議なざわめきを覚えた。


 それは、ゾロという人物と深く関わっていきそうな予感めいたものだった。


 カレンお婆の話を聞き終えた頃には、オルフェへの道のりは半分ほどになり、ちょうど山の峠にさしかかっていた。


「この辺りが、一番物騒なところじゃが、はてさて、無事に通れるかのぉ。」


 カレンお婆がそう言う前から、紫音は意識を山全体に広げ、峠付近の林の中に隠れている十人ほどの盗賊らしき者たちを見つけていた。


 彼らはそれぞれ武器を手にしていた。


「お婆様、もう少し先の右の林の中に、盗賊らしき者が十人ほどいるわ。」



 紫音はそう言うと立ち止まり、目を閉じた。


 彼女の意識は、遥か上空にあり、そこから下界を見下ろしていた。


 山から降りた道は広くなり、平野の中をオルフェまで伸びていた。


 その中程に十字路があり、そばには兵を収容する建物があった。


 紫音の意識は十字路に降りて行った。


 十字路の脇には多くの兵が待機して、検問を通る者たちを注意深く見ていた。


 紫音は目を開けた。


「山道を降りたずっと先のほうで検問をしてるわ。大勢の兵隊がいるから、そこへ盗賊達を飛ばして捕まえてもらいましょう。」


 紫音はそう言って、カレンお婆より先に歩き出した。


 峠まで来ると、はたして道の右の林から盗賊達がばらばらと降りてきた。


 彼らは二人を取り囲み、頭目らしき男が前に出てきた。


「ほぉ・・・これはまた、美しい女だな」


 男はそう言って、紫音を上から下まで舐めまわす様な目で見たあと


「我々は革命軍の者である。いま、武器調達の為に献金を募っておる。この国の為に力を貸してくれ。」


 と言った。


「お金なんかないと言ったらどうするの?」


 紫音は不敵な笑みを浮かべた。


「その年寄りには金目のものを置いていってもらう。お前は俺たちと一緒に来てもらう。われわれ革命軍はまだまだ人手が足りんのだ。色々と手伝ってもらいたい」


 そう言う男の目を、紫音はじっと見た。


 そして笑った。


 男は、紫音の紫色の目に自分のすべてを見透かされた気がした。


 男の顔に畏怖の色が浮かんだが、それでも男は虚勢を張った。


「な、何が可笑しい!我々を馬鹿にしているのか?」


「革命軍なんて嘘ね。あなた達はこの山の中に住む、ただのごろつきだわ。あなたは、この前まで確かに革命軍にいたけど、行いが悪くてリーダーのゾロに追放されたのね。」


「な、なんだと・・・こ、このアマ、なんでそんな事を知ってる?」


 男は革命軍の体裁をかなぐり捨て、盗賊の地をむき出しにした。


「おい、みんな!かまわねぇから二人とも山ん中へ連れて行け。婆は身ぐるみ剥いで、山ん中へ埋めて殺しちまえ。女には俺たちの慰みもんになってもらおう。これだけのいい女だ。散々いたぶってから売り飛ばしてもいい金になるぜ。」


 盗賊たちは下卑た目で紫音に近寄り、二人を捕まえようと手を伸ばした。


 が、次の瞬間二人は消えていた。


 二人を捕まえようとした男たちは慌てて辺りを見回すと二人は後ろにいた。


 男達は不思議そうな顔をしながらも、また二人に近寄り捕まえようとした。


 しかし、結果は同じで二人は目の前から消え、後ろを振り向くとそこにいるのだった。


 少し離れて見ていた頭目らしき男の目には、部下達が二人の目の前まで近寄った次の瞬間には、二人をすり抜けていた。


 紫音は自分とカレンお婆の周りの空間を繋いでいたのだった。


 そのため、盗賊たちの目には二人は見えているが、実際はその場所にはいないのと同じであった。


 盗賊の中の気丈な一人が、紫音に向かって思い切り腕を伸ばし剣を突き刺した。


 しかし、男の剣を持つ腕は、まるで体から切り取られたように、紫音の背後に浮かんでいた。


 盗賊たちは驚愕し、思わず後ずさりしていた。


 彼らの頭の中に紫音の声がした。


 それは盗賊たちにとって、例えようもなく恐ろしい声だった。


「今までの報いを受けなさい。」


 それが頭の中に響いた時には、彼らは、遠く離れた国王軍のいる十字路の真ん中に飛ばされていた。


 十字路では、いきなり現れた男達を見て警備兵が驚いていた。


 しかし、男たちがそれぞれに武器を持っているのを見ると、建物の中にいた兵も出てきて総がかりで盗賊達を取り押さえた。


その後、国王軍の指揮官が盗賊たちを取り調べたが、盗賊たちは何を聞かれても


「悪魔が・・・悪魔が・・・」


 と恐れおののき、指揮官も手を焼いたが、調べが進むにつれて、彼らの悪事が次々と明るみになり、国王軍の手で処刑された。

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