オルフェへ出発
次の日の朝、まだ暗いうちに準備を終えた二人は、陽が昇るとすぐに出発した。
「お婆様、途中の検問には気をつけて下さいね。最近は国王軍も焦ってるらしくて、怪しいと思えば、容赦なくしょっ引かれるそうよ。それに革命軍の名を騙る盗賊も出るらしいし。」
ジャネットは心配そうな顔をしていた。
「わかっちょるよ。そんなへまはせんわい。」
「私がいるから大丈夫よ、ジャネット。安心して。いざとなったら、検問所くらいすり抜けるし、盗賊なんか、遠い世界に飛ばしてやるわ。」
そう言うと紫音は微笑んだ。
「あら、心強いわね。じゃ、安心だわ。お婆様をお願いね。」
「それじゃ、行ってくるでな。後を頼むぞえ。」
紫音が、マイクからジャンヌお婆への土産のかごを受け取り、二人は歩き出した。
カレンお婆の住むツイーダから、ジャンヌお婆のいるオルフェの町までは、南へ二十キロ程の道のりで、途中に休憩を挟んでも昼ごろには着く予定だった。
道々カレンお婆は、ソマリア国と呼ばれているこの国のことを話した。
「このキリーダ大陸には、大小15の国があっての。わしらの国はその中で、まぁ中くらいの大きさじゃ。南が海に面しておって、北と、東、西の三方を他の国に囲まれておる。他の国とは平和条約を結んでおるから、今のところ内乱があっても大丈夫じゃが、あまり長引くと他の国もほってはおかんじゃろ。なんやかやと言って干渉してくるに違いない。じゃから国王のベルグも焦っておるんじゃ。」
表面上は、ベルグ国王の体制は安定していたが、軍備を増強するための重税が続き、国民の不満は広がった。
ベルグの父である先王のファブル国王は、国民のことをよく考えた政策を施し、国民からも名君と慕われ、長い統治の間、世情も安定していた。
しかし、一年前のファブル国王の突然の死で、後を継いだベルグが国王になってからは、軍備の増強が始まり、税も段々と重くなっていった。
ファブル国王の死は病死とされていたが、穏健なファブル国王と違い、領土拡大に野心を燃やすベルグ王子に毒殺されたという噂も飛び交い、世情は段々と不安定になっていった。
近隣諸国も、表向きは革命軍制圧の軍備増強を危険視し、ソマリア国の動向をたえず監視していた。
革命軍のリーダーであるゾロは、元々ファブル国王の右手といわれる側近であったが、ベルグが国王となると体よく追放され、代わりにファブル国王からは遠ざけられていたゴダがベルグ国王の側近となった。
ゴダもベルグ国王と同じように領土拡大の野心を持っていた。
追放されたあとに、ゾロが革命軍を蜂起するように仕向けたのも、軍備増強の名目が欲しいゴダとベルグの仕業だという噂もあった。
事実、ベルグ国王は革命軍をすぐに鎮圧しようとせず、軍を派遣しても小競り合いだけですぐに引き上げて行った。
そして、徐々に軍備を増強し、兵を増やして行った。
もしも、すべてがベルグとゴダの仕組んだことであれば、最近の国王軍の焦りも、近隣諸国への見せかけだけのものかもしれなかったが、真意はわからなかった。
ベルグ国王への不満が高まるにつれ、ゾロの率いる革命軍を支援する者が増え、自ら革命軍に参加する若者も増えていた。
彼らは革命軍の軍備がまだ整わないため、普段は何食わぬ顔で生活をしながら、週に一度ひそかにゾロのもとに集まり、訓練を受けていた。
ゾロは、国王軍と雌雄を決する時の為に準備を整えていたが、まだ力の差は歴然としたものだった。