第六話『運命に触れる』
本当に不定期な更新です。
前回は十日以上であの量。
今回は五日(実質二日)でこの量。
ではでは、ゆっくりしていってね!
第六話『運命に触れる』
「そういえば、唯貴さんの姓って隊長とは違うんですね? 隊長は空辺だけど、唯貴さんは夜城でしたよね」
リアンヌ=エルスィーネという少年は、ボクの養父である空辺志渡の部下だ。
A級魔女である養父は、かなり希少な存在であると言っていい。その上、自分で言うのもなんだが夜城唯貴という研究者もそれ以上に有名。姉のことは公に知られていないにせよ、だ。
だから夜城唯貴に憧れるというリアン君が食事の席でそう尋ねたのは、ごく自然な流れだったように思う。
「ああ、うん……」
それは普通ならば。
ボクの場合、過去にあった事件が肉体のトラウマになっている。
視界が、ぐらつく。
八年前の記憶を想起しただけで、身体が固く強張った。
「それは聞いてはいけないことです、エルスィーネ」
意外なことにも、素早く気を遣ってくれたのは明石少尉だった。
やれやれ、みたいな感じで自分の顔に手をあてようとして、眼鏡が邪魔だったのか断念していた。うっかりキャラか?
「何故ですか、明石少尉?」
聞いちゃったよ、この子。
まだまだ人間としても転生者としても若いな、リアン君。今のはちょっと無神経かな。
「ボクは養子だからね。小さい頃にとある事件で両親を亡くしてから、引き取られたんだ」
……厳密に言うならば。事の結末を正しく言ってしまうのならば。
ボクは両親を亡くしたというよりも、『一人だけ生き残った』といった方が正しいのだけれど。
母の名を冠するあの『シェロ=リヒテア魔動工学研究所』を見舞った惨劇の、史上最悪の魔力汚染事故で、才能と技能の力でただ一人取り残された少年だけれど。
――皆から取り残されて、置き去りにされて、たった一人、生き残ってしまった人間だけれど。
「あんまり気にしてないから、今の話を控えてくれるだけでいいよ」
……お陰で困ったことに、未だに肉体が壮絶なトラウマを持ったままだが。
心はなんともないってのに、さっきみたいに身体と記憶だけが反応して錯乱、混濁してしまう。
肉体に精神的外傷ってのもおかしな話ではあるのだが、こちとらもう一つ、本命の『魂』という大容量記憶媒体を積んでる転生者という存在なので。
肉体と精神。
人間を構成する二大要素らしいが、転生者はここに魂が密接に絡んでくる。
肉体を記憶(精神)として保存し、精神を肉体(物理)に変換する変換器。
生物は誰でも持っていながら、本来は認識できないブラックボックスこそが『魂』なのだ。
それを弄られた転生者は、様々な弊害が発生する。
大抵は記憶や経験、能力を引き出しやすくなるという恩恵じみたものだが、場合によっては昨日の昼から今朝にかけてのボクのように、苦しみ(?)を伴うようなものになる。
今の、人格は平然としながら肉体的にはトラウマが残る状況は、ボクの大元である■■■■の人生経験が引き出されていることが原因だろう。
肉体的には十五歳の少年だが、精神的なレベルがカウントオーバーに振り切れている所為だ。
その辺り真遊は心得たもので、さっきから一言も喋っていない。流石は熟練の転生者仲間、といった所か。
「じゃ、行こうか。今日は現場を見て回ろうと思います。ボクとリアン君で通り魔事件の方、真遊と明石少尉は研究所の方で。リアン君も明石少尉もB級相当だって言ってたから、これでバランスが取れるでしょうし」
「ええと……通り魔事件、ですか」
ああ、関係ありそうって言うの忘れてた。
その上、オロオロと若干挙動不審なリアン君。さっきの無神経さにようやく気づいたらしい。気にしてないのに。
ボクが転生者だってこと言い忘れてたから、『この物語の時期に起きた事件が無関係な筈がない』とか言っても聞いてくれないだろう。
ボクにしてみれば分かりきった経験則だが、転生者という要素を知らないとただの勘としか受け取らないと思うし。
「後で説明するよ。じゃあ明石少尉、真遊、そっちはよろしくお願い」
加害者と被害者で。まあ、車に轢かれたのは真遊の自業自得みたいなところもあるんだろうけど。
「あいさー。無問題です、おっまかせにゃー」
「了解です。お気をつけて、夜城博士」
という訳でリアン君と二人、先に店を出る。
セーラーに三角魔女帽子の美少女と、軍服の眼鏡美女。
入口で振り返ると、まだ席にいる二人は物凄く浮いて目立っていた。
……そういえばあの三角魔女帽子、この世界にはないんだよなぁ。魔女ノットイコール三角帽子な歴史っぽいし。
いつの世界でもかぶってるし、自分で作ってるんじゃあるまいか……。
少し心引かれる疑問だったが、リアン君に声をかけられて自分を取り戻したボクであった。
「さて、到着した訳ですが。もう捜査終わってるっぽいね」
未だ警務官が立っているが、あれは現場保存の為だと思う。
とある魔法を使って、重さや質感を含め現場を完全に再現し、保存するのが今の外套警察の主流調査法だ。
遺体が回収された今も、分子レベルで再現された偽の死体が転がっているのだろう。
ボクが見つけた、|犯人からのメッセージも(・・・・・・・・・・・)一緒に。
路地裏に入り、人気がないのを確認する。
おそらく今回の物語で、真に主人公という立ち位置にいるのはこのリアン君だと思う。
ボクは物語を回すための歯車。場合によっては死にかねないポジション。
「――ねぇリアン君、ボクは君に知っておいてもらいたいことがあるんだ」
だから、ボクはここでカードを切る。
一か八かの、切り札を。
卑劣にも、人の好意を利用して。
その為に、明石少尉を『召喚体質』に預けてきた。
「はい? なんですか唯貴さん」
胸が微かに、チクリと痛んだ。
「ボクは――君と同じ種類の人間なんだ」
嘘だ。
ボクはこんなにも醜くて汚い。
「ええと……魔女だとか、魔動機使いだとか、そんな意味じゃなくて……ですよね?」
「うん。同類であり、同族であり、同輩であり――同郷でもある存在だよ。
あの――黎明の雲海からやってきた人間だ」
その一言を聞いた途端、びくり、とリアン君は動きを止めた。
『天階第六六六層・天地創造の間』。
あの場所はあらゆる転生者の原風景として、魂に焼きついている。
忘れる訳もない。
ある人間にとっては絶望の最後に逆転のチャンスを貰った場所であり、またある人間にとっては人の道を踏み外した決定的な場所でもある。
無論、ボクが前者か後者かは言うまでもないが。
「あの……一体なんのことでしょうか……」
「それがお望みならはっきり言ってしまうけれどね。ボクは――」
目を見開くリアン君。
そこに浮かんだ感情は……驚愕。
「――ボクは君と同じ――転生者だ」
「…………っ!?」
様々な可能性を思案して、こうすることは必須だった。
ボクの立場を明かした上で彼の協力を得なければ、この先ボクはリアン君と敵対することもありうる。
今この瞬間でさえ、賭けに負ければ訣別することになる。
「そんな……唯貴さんもワタシと同じだったなんて……」
だがその結果は、ボクの予想を裏切る形で成就した。
「……ワタシ?」
なんか、一人称が、おかしいよ?
「はい……私、前世では女の子だったんです!」
……暴露された秘密の衝撃は、多分五分五分の引き分け、もしくはボクの負けだったんじゃないかと、呑気にも思った。
「そうなんだ……災難だったね」
他になんて声を掛けろと?
「いえ、楽しんでますから」
……その“他”を探すのが正解だったみたいです。
「……でも、憧れてた唯貴さんに会ってから、この身体を少しだけ悔しく思いました……」
しかもなんか不穏な気配。どういう意味かは、聞かない方がいいだろうか。
「あー、うん。それでさ、ボクに手を貸してくれないかな……事件を解決したいんだ。
代わりと言ったらなんだけど、転生者としての知識を教えてあげよう。ボクより詳しい転生者なんてそうそういないだろうし」
つまり、この先の転生も含めて援助しようという話だ。
決して悪い取引ではない筈。
「はい! 唯貴さんの為なら、オレ頑張ります!」
そう思っていたのはボクだけで、実際には取引にすらなっていないような気はするのだけれど。
「それに……他の転生者ってのは殆どロクでもない奴らばっかりだし。
……ボクと君は、悩みを共有できると思うんだ」
慎重に、言葉を選んでいく。
見捨てられないように、嫌われないように。
綺麗で汚い言葉を、紡いでいく。
「これから、よろしく」
差し出した手を、取ってくれるのだろうか。
本心でこそあっても、打算を見せないようにした会話。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
それは、友人の証として。
ボクの手が、ゆっくりと握られる。
けれど握手を交わしながらも、心までは交わしていない気がして。
やっぱりまた、突き刺されたような痛みがボクを苦しめる。
「ただの偽善だろう、こんなのは……」
聞こえないように独り毒づいてから、リアン君に向き直る。
「じゃあ、先ずは現場を見に行こうか。その後は、転生者として鍛えてあげよう。リアン君、なにか能力って持ってる?」
気分を切り替えて、戦力の把握に努める。
「ええと…それが、よく分からないんです」
「分からない?」
「はい。『一時停止』っていう名前の技能なのは分かるんですが、使い方がいまひとつ……」
始めて聞くスキル名だ。ボクですら知らないスキルってことは、かなり希少で強力な能力かもしれない。
しかし『突然変身』しかり、真遊の『擬似召喚』しかり、チート能力は扱いも難しいのが基本。使いこなせるかは努力と才能による。
持ってるだけで最強とか、転生者もそこまで甘くはないのだ。
「見つめた物が凍結できるってだけで……しかもゆっくりとしか凍らないんです」
……それでも、普通の人間から見れば十分に強いんだよね。
視界に入れただけで相手に干渉できるのは、相当上位の技能だと思うんだ、うん。
「そういうのは、前世の記憶とか思い出しながら繰り返し使ってみると良いよ、実戦でも。
転生者の前世での記憶と能力っていうのは、肉体でも精神でもなく魂に刻まれるものだからね。両方を同時に引き出すようにすると、段々上手にできるようになってくる。
成長……っていうのとはまた違うけど、その内に技能から力を引き出し易くなったりするし。君から聞いた感じだと、相当上位の技能っぽいから、最低でも凍結速度が上がるくらいは強くなる筈だよ」
そう伝えると、リアン君は一層目を輝かせていた。
ちょっとむず痒いので、改めて仕切り直す。
今度は、初めて素の■■■■として話す。
「――転生者として改めて名乗ろうか。
別になんて呼んでくれてもいいよ。
『夜城唯貴』でも『冴代慧』でも『白縫緋月』でも『アマテラス=ラヴ』でも『星紅龍』でも、『アリシエル=V=フロイライン』でも『名無し』でも『一条路姫百合』でも『日向葵』でも『式川瑠璃』でも『伊集院水無月』でも、
――『■■■■』でもなんでもね」
久々に飾らない自分らしさが出せてすごく生き生きしてるな、ボク。
一息に言い切ったが、まだまだ名前は沢山ある。
ちなみに一番多かったのは名無しだ。無機物や獣を除いたとしても。
むしろ、人間なのに名前がなかった時の方が多かったぐらいだからな……。
「ああでも、後半はあんまり呼ばないで欲しいかな。一応、今回は男な訳だしね」
多分、今のボクからは妙な威圧感というか迫力が出てるんじゃないだろうか。
夜城唯貴を端末にして■■■■の魂が降臨! といった感じだ。魂はとっくの昔に人間を超越しちゃってる訳だし。
「はあぁ……」
「……どうかしたかな」
「いえ、唯貴さんは転生者としても凄い人だったんだなー、ってことに改めて尊敬し直してました!」
……なんだろう。
出会った当初は復讐やらに燃えていた真遊とも、最初から鬱っぽかった火無月ちゃんとも違う感じ。
なんか戸惑うな……。
今朝会ってきた後輩より後輩っぽいぞ。
「ちなみに真遊も転生者なんだ。『召喚体質』って言って、転生を百回以上繰り返してる名の通った超ベテランです」
平均を求める時にボクは例外として含めない方向で、というのは転生者業界の常識らしいと最近聞いた。仲間外れは寂しいんですけど。
早食いの店で出入り禁止をくらったみたいだ。
「ひ、百回ですか!? むぅ……オレは初めての転生だから、左門さんは大先輩だったんですね……あの人苦手なんですけど」
どうやら、初対面時にくらった金ダライがトラウマになっているようだった。
「ていうか、その……バッドステータス? みたいな黒歴史っぽい名前はなんなんです?」
それは本人には言わないであげてほしい。基本的には能力由来の名前なのだ。神様のセンスといってもいい。
「初期能力を元にしたあだ名。ボク達は“通り名”って言ってる。まあ、人格の異常が通り名になってる奴もいるけどね」
例えばボクみたいな、とは言わない。
どう考えても言わない方がいいだろう、自殺癖持ちだなんて。
ていうか、言えないよ。
「多く転生してると名前が変わるのはたまにあるからさ、転生者としての共通の名前がないと識別しにくいんだよ。普通の転生者には縁もないけどね」
大抵は数回の転生で終わり。
気が触れた物好きか泥沼に嵌まった人間だけが神様に頼んだりして数十回単位で転生を繰り返している。
もちろんこの場合も、ボクがどちらにあたるのかは言うまでもない。
「必要ならそのうち勝手に付くから気にしなくていいよ」
「勝手に変な名前付けられないかが心配なんです……」
「それは諦めて」
ずっと昔から言い続けてるボクですら未だに改めさせられないんだ。
何やら悩み始めたリアン君を連れて現場に入る。
ケーニッヒさんは居なかったが、彼が命令しておいてくれたらしく顔パスで入れてくれた。うぉい。
遺体があった場所に行くと、そこには本物となに一つ変わらない死体が転がっていた。
再現の魔法。
原理としてはボクの転移術式に近い。
物体の構成情報を走査し、それを基に魔力を物質化させているのだ。
こういった、魔力に科学的な挙動をさせる作業は魔動機械の得意分野だ。
「酷い……なんで、こんな……」
死体を見て、恐怖と困惑を感じているリアン君。
やはりまだまだ見慣れていないようだ。
普通はその方が、ずっといい。
「捕まった筈の通り魔の手口だ。これが意味するのはなんだか分かる?」
「通り魔は他にいる、ってことですか……」
ご名答。
そして犯人は、あからさまな挑発を残していった。
「ボクの黒天剣が、残留魔力を検知した」
「もうなんでもアリですね、その魔動機。オーバーテクノロジーですよ……」
「いや、大気中の固有特色ならすぐ霧散するから分かりっこないんだ。だからこれは、犯人からのメッセージなんだよ」
ボク達が見つめる先にあるのは、死体の背後に建つ路地裏の壁。
犯人により固有特色の強い魔力を込められたコンクリートは、通常より急激に劣化していた。
「うわっ、なんだ!?」
「これが、犯人からの予告らしいよ」
ガラガラと、音を立てて粉塵が舞った。
『“夜の月”は蘇る。
赤き瞳を贄として。
四千年の久遠の時、
我等は復讐の狼煙を上げん!
供物を捧げ、罪を詫びよ!
四人の弟子は彼の者の為に――』
コンクリートの壁から表面が砕けるように剥がれ落ちると、剥がれず残るように現れたのはそんな意味の文字列だった。
この世界への宣戦布告。
ボクや姉の“眼”を狙うという予告。
世界に殺された、四千年前の大魔導師“夜の月”復活の予言。
――ああ、三流の脚本だ。
登場人物がバタバタと倒れて逝きそうな予感を感じて止まない。
犯人はあの時の人生のアイツか? それともアイツらか?
「赤い……瞳? 『夜の月』と同じ、魔力を操るといわれる魔瞳ですか……?」
「ああ。『第二級異端指定』技能にして、あの『赤の魔女』や……ボクなんかが保有する、魔力を操ることに特化した体質だよ」
赤の魔女は、魔力の流れから術式までも見切る力。
そして夜城唯貴は――。
眼鏡をずらしたボクの瞳を見せると、リアン君は驚いたような、しかし逆に納得したような表情をしてみせた。
「……よし、あんまり血を見てるのも精神衛生的に悪いからここまでにしよう」
昼食まで時間を空けないと、食べられなくなりそうだったから。
ボクではなくリアン君が、だけれど。
「……分かりました。今、行きます」
メッセージはじきに外套警察が見つけるだろう。
リアン君を連れて、速やかに路地裏を後にした。
現場を離れ、近くにある喫茶店に入ってコーヒーを注文する。
「あ、オレはカフェオレで。苦いのダメなんです」
マジでか。
注文を受けた店員の女性が離れていくのを見てから、リアン君と話を始める。
窓の外を横目で見遣ると、王都の町を人が彷う、いつも通りの景色がガラス越しに映った。
「んじゃあ、ボクの目的の説明含め、第一回転生者講義を始めます。ぱちぱち」
「よろしくお願いします」
具体的には、物語や転生者とは何たるかについて、その他雑学について教えるつもりです。
「まず最初に言っておくと、基本的に転生者の前世に触れるのはタブーだ。堪え難い過去があったから、神様にチャンスを貰って新しい人生を送ってるって奴は結構いる」
ボクにしてみれば、神に目を付けられた時点でご愁傷様って感じだけど。
「ふむふむ」
「で、こういった世界は幾つもあって、毎回どこかの世界に一斉に転生する。何回か転生して飽きると神様が死なせてくれる。
……ここまでは娯楽っぽいんだけど、転生者の中には例外もいる」
「例外、ですか?」
「気の違った物好きや、復讐なんかの理由があってまだ死にたくない奴、神様に気に入られた所為で死なせてもらえなくなった奴――これはボクだけれども――なんかがいて、そいつらは数十回なんて単位の転生を繰り返してる」
「神に……気に入られる……?」
「気にしなくていいよ。事件巻き込まれ体質が面白いからって玩具にされてるだけだし」
厳密に言うなら多分、少し違う理由なんだろうけれど。
「で、そんなこの世界だけど、神様がそのタイミングを狙ってるのか、毎回転生者のいるタイミングで必ず歴史の分岐点とも言うべき大きな事件が起きる。
まるで小説や漫画、ゲームのようなストーリーで、主人公や登場人物が決められて始まる出来事が。
ボクらはそれを『物語』と呼んでいる」
何故こんなことが起きるのかと言えば、おそらくは人間の集合的無意識によるものだと考えている。
快感や悦楽を求める人間の本能が、妄想が、歴史の分岐点に物語を紡いで、配役に相応しい人間を無意識的に引き入れているのではないだろうか。
分かりやすく言えば、人類は皆、格好つけたり洒落たことをするのが本能レベルで大好きってことである。
そんなボクの推測を話すと、彼は少し理解に時間を要したようだった。
その間に運ばれてきたコーヒーに口をつける。
「続けるよ? そんなこんながあるから、魔瞳持ちで狙われてるボクは速やかに上手く事件を収めて平和に暮らしたいんだ」
「その為に手伝って欲しいってことでしたね」
「ボクが思うに、今回本当の意味で主人公の立ち位置にいるのは君なんだ、リアン君。ボクは語り部のような、物語の案内役みたいな立場なんじゃないかな」
見方によっては、その夜城唯貴が主人公でもあるんだけど。
その言葉は、彼には少し信じられないという風で。
「オレが、主人公ですか……? そんな、全然キャラじゃないですよ……?」
「でも、君の意思に関係無く事件は君の周りに起きているし、起きていく。一歩間違えれば、ハッピーエンドにはならないんだ」
だから、と言葉を続け、
「ボクだけは君の味方をするよ。リアンヌ=エルスィーネの人生をハッピーエンドで終わらせてみせる。誰にも君を殺させない」
「ありがとうございます。なら、オレは唯貴さんと協力します……。
はは……なんか、熱烈なプロポーズ受けてるみたいな言葉ですね」
なんですと?
「あれ、確かにそう聞こえなくもないような……」
違うよ?
今はあの副作用も出てないから、普通の男子高校生の筈……同じ男を意識するような性癖はない。
あ、さっきリアン君の前世がどうとかって話したからか?
それだけの理由で?
昔のボクと同じ苦労を、早二回目にして味わった彼女に親近感でも湧いたのか?
それとも頭が沸いたのか?
「まあ、ある意味では一蓮托生というか、運命共同体という感じだし。あながち間違ってはいないかな?」
先生キャラ的な立場な訳だけれども。
まあ、優しい真面目な子なので、別の人生で異性として出会ったら色々と遊ぼうとはた迷惑にも心に決める。反応が楽しそうだし。
「それじゃあ今後ともよろしくということで」
「……なんか含みがあるような」
いえいえ、そんなことはありませんよ。
「ば、馬鹿な、なぜ分かった!?」
「え、え? どうかしたんですか?」
あれ、メタなツッコミはしてくれないか。
よくも悪くもちょっと従順すぎるというか、純粋すぎるような。
まあ、嫌でもその内変わってきてしまうんだろうな……。
「なんでもないよ。頑張って、リアン君。ふぁいとだ!」
「あれ、なぜ急に生暖かい目つきに……?」
などと冗談|(?)を交わしながら残りの飲み物を空にしようとした――
「――伏せろ、リアン君!!」
――その時。
視界一面を覆い尽くす程の爆炎が、ショーウインドウの外から迫り来るのを見て。
「っああああぁ!」
庇うようにリアン君を床に押し倒した。
瞬間、爆音。
視界が吹き飛ぶような衝撃に意識が遠退いた。
激痛が走る。
人々の悲鳴。
崩れ落ちる店の壁。
仮に黒天剣の盾を起動していたとしても防ぎきれない、S級相当の魔法――!
何処を怪我したのかも分からないが、生暖かい液体が身体を伝う感覚。
身体が動かない。
なんとか首を曲げると、何処から飛んできたのか、鉄パイプが腹に貫通して床に縫い留めるように引っ掛かっているのが目に入った。
「痛っ……くそ……」
いつものパターンなのか?
ここで死ぬっていうのか?
ボクはもう終わりなのか?
リアン君に怪我はないか?
何が起こったというんだ?
疑問に答えが出る前に、俯せのまま外を見た。
眼鏡は何処かに吹き飛んでいた。
仮面で目を隠し、導師服のようなものを着た男が、ニヤリと笑って……古めかしい、銀の杖を、掲げた。
「……か、はっ……!」
ボクが自分の口から血が零れたのを認識する前に。
――再びもたらされた高温の衝撃波が、ボク達を焼き尽くすような勢いで襲ったのだった。
そんなこんなで第六話です。
唯貴くんがなんか大変な事になってます。
ちなみに、『死んでも次がある』というのが今作品の特長なので、うっかりしてると主人公はバンバン死にます。
ただし他のキャラクターに次が有るとは限らないのがネックです。
主人公も主人公で、いつ神様が飽きるか分からないと思っていたり。
まあ、お気楽に見守っていてください。
ギャグ「シリアス? 俺が台なしにしてやりますよ」
みたいな。
ゆっくりしていった結果がこれだよ!