第四話『裁く権利、裁かれる原理』
頑張って早めに投稿。
今回はちょっとアレな話です。
なのでここからは自己責任でGO。
この作品は基本的に今回のようなノリで行く予定です。
シリアスをギャグで台なしにするのはむしろ常套手段なのであしからず。
ぶっちゃけ緩急つける加減が分からない稚拙筆ということでFA。
批評頂けたら狂喜乱舞します。どうぞよろしく。
ねえ――死んだ方がいい人間って、いると思う?
「私は思わない。どんな悪人や酷い奴でも、死ななきゃいけないなんてこと、死んだ方がいいなんてこと、絶対にあっちゃいけない。そうでなければ――命の価値が、軽すぎてしまう」
罰や正義なんて理由で奪うことが許されるほど、人の命は安くない、か。
「どんな理由が有ったって、人の命を奪うことは許されない。もしかすると死刑制度のある法治国家って、私達が思っているよりずっとおぞましくて罪深いのかもしれないわよ」
そうだね、それには同意するよ。じゃあ、もし――
そういうのとは別の方向では、どうだろう。
「例えば――死にたいと思ってる人間がいたら、どう?」
死なないと苦しい。
生きているのは苦痛。
もしくは、生きる意味を失った人間は?
そんなの、もうわざわざこんな世界に固執する理由がないではないか。
下らない人生の檻から、解放されたいという人間がいたのなら。
自分から死にたいと思う人間が、いるのであれば。
「――それは、死ぬべき人間だと言えないだろうか?」
第四話『裁く権利、裁かれる原理』
あの胡散臭い神様がこの世の万物を愛していて、ライクとラブが同義のオールラブオールの輩であるのなら、対するボクはラブの存在しない人間だと言える。
ボクにとって世界は、一部のライクとそれ以外に分けられるからだ。
まあ、ある意味では、このライクがラブにあたるのかもしれない。
性別なんて好き嫌いの判断基準にはならなかったり、好ましさを感じたモノに対しては躊躇いなく愛情を向ける辺りが特に。
ちなみに『それ以外』とは『どうでもいい』ということを意味するのはご愛嬌だ。
昔、お前は人を愛したことが無いのか、なんて言われたことがある。
まあ、好ましさからの人付き合いはあっても、愛したことはない。
……ただ、だからといって、別に好きという感情が愛に劣る訳ではないと思うのだ。
愛なんて所詮、種の保存の為に同族の異性を求める本能なのだと思えてしまうのは、ボクが人として既に外れているからだろうか。ロマンの欠片も、ない話だけれど。
……少なくとも、好ましさを感じる気持ちには、素直な感情だけで色欲なんて含まれていないと分かるのだ。
あながち間違っては、いないんじゃないだろうか。
だからボクは胸を張って言おう。
男も女も関係ない。
ボクは――
「リアン君、ボクは君が好きだ!」
そんなこんなを考えたのは昨日の試合の後。
今は翌日の早朝。
ボクは自宅のベッドの上で、ゴロゴロと悶絶している。
あの時ボクはふざけたことを口走りかけていて、ふと我に返って選んだ選択は、一時解散というその場凌ぎのものだった。
……もし、あんなことをうっかり口にしてしまっていたら。
魔法のセンスについて言ったライクを、人に対するラブだと誤解されて大変な変態に認定されそう。
いやいや違うんだよ……それもナシとは言わないけど。
あ、いやそうじゃなくて。
……ち、違うんだってば!
今のボクは別に興味なんて……ううん、好きか嫌いかっていったら……好きだよ?
でも、でも、だからってそんなの不健全だと思うし。
じゃあ性別違うからダメなのかって言ったら……必ずしもそうとは限らないから……。
へ、変態じゃないよ、寛容なだけ。
ボクだって女の子が好きなのは当たり前だし……でも、別に不純な訳じゃなくて……
………………ああ、いや……うん、落ち着けボク。
「今のボクは夜城唯貴。■■■■じゃない……」
――リアン君との試合の翌日。
ボクは、魂を参照しながらうっかり解析技能を使ってしまった副作用に苦しんでいた。
その副作用というのは――
「……あう、ダメだ……まだ顔が赤いや……」
一時的に、魂から記憶が引き出されるのに抑えが利かなくなるというもの。
つまり今のボクは、
「左門さぁん……」
男性女性区別なく、
「おとーさん……」
カッコイイ人にも、
「リアンくん……」
可愛らしい人にも、
「火無月ちゃん……」
綺麗な人にだって、
「明石少尉ぃ……」
好ましいと感じている相手を前にに気を抜いたら、シークタイムゼロセコンドで甘えてしまうようなHENTAIと化してしまっているのです……!!
普通の転生者には副作用でもなんでもないことだけれど、むしろ潜在能力覚醒イベントなのだけれど、こと膨大な人生経験のあるボクに限ってはそうもいかない。
素の■■■■が人間をやめてしまっているので、その記憶はこの夜城唯貴――たかが一人の人間にとっては荷が重過ぎる。
人間社会に不適合な『老若男女人外を兼ねた人格』の上書きは、夜城唯貴には猛毒になり得るといっていいかもしれない。
むしろ記憶が爆弾と化している事態。
「誰かぁぁ……」
嗚呼、言ってる側から口調まで不安定に……!
今なら最初に目にした知人を押し倒す位はしてしまうかもしれないああヤバイ。
男の身体じゃ犯罪みたいになるし変身技能で性別変えちゃえば絵面的には……いやいやダメだ、何考えてんだボク!?
スキルは使っちゃダメなんだって! 人前で変身なんかできる訳ないじゃん!!
「うわあぁぁぁぁん!!」
……みんなが愛しくて仕方ない。
ああ、誰だよボクに愛がないとか無責任な事言ったヤツは! こんなのもうライクもラブも違わないレベルじゃないか!
うぅ――それもこれも全部、神様の所為だっ!
……落ち着いた。
やや落ち着いた。
落ち着いたかもしれない。
きっと落ち着いた筈。
落ち着いたらいいな。
落ち着く必要がある。
落ち着け。
落ち着いた気がする。
ふっ……見苦しい所を見せてしまったようだ。
凄まじい醜態を晒した。
一体どこの世界に、能力解放したら反動でしばらく乙女になる転生者がいるというのか。
自分の抑制が甘すぎるな……これでは後輩転生者達に見せる顔がないではないか。
取り敢えず今日の調査予定を……
『ぴんぽーん……火無月です。インターフォンの使い方……これでいいの……?』
聞こえてきた声は、自作のインターフォン。普通のものとは仕様の違う、もはや別物の魔動機械である。
「あー、鍵は開いてるから、ちょっと上がってきてくれる?」
『分かりました……』
こんな早朝から尋ねてくるとは、一体どうしたのだろう。
そもそも、なんでボクの家を知ってるんだ?
今回の人生で会ったのは、昨日が初めての筈なんだけど。
……まあいいか。
眼鏡をかけて準備する。
色々といわくつきな赤い眼を隠すためには、この特殊な眼鏡は必須なのだ。
まあ、火無月ちゃんは転生者だし隠さなくてもいいんだけどね。
コンコン、と部屋をノックするのは火無月ちゃんしかいない。
「どうぞ」
あれ、寝室の場所は……ああ、『ROM』で読んだのか。
謎も解け、ボクは昨晩からの醜態など微塵も見せないような態度で彼女を迎え入れ――
「おはようございます……唯つ――」
「おはよっ、火無月ちゃん!!」
「きゃっ……」
――反射的に火無月ちゃんに飛びついた。
ハイ、ごめんなさい。
ボク嘘つきました。
全然落ち着いてないです。
能力解放の反動で乙女になる転生者?
ボクですが何か?
後輩転生者に顔向け?
できる筈ねーですが何か?
自制が甘い?
出来てたら初めからあんな醜態晒しませんでしたが何か?
変身はマズイ?
既に今の時点で女の子ボディですが何か?
結論。
どーにでもなれ。
今のボクは、火無月ちゃんと初めて会った時の身体になっている。
火無月ちゃんは二回目。
ボクは二千九百回目だった時。
ぶっちゃけると、初めて転生した火無月ちゃんの姉だった時の人生。
黒い長髪、色白の肌、切れ長の瞳。
白いリボンの髪飾り、実家は華道の名家伊集院家、ミッション系超名門お嬢様学校の女子高生。
いわゆる一昔前の普通の『お姉様』。
「ネコ柄パジャマ……って、あ……み、水無月……お姉様……?」
そして、本気で妹に『お姉様』と呼ばせ、色々と実の妹といたしてしまっていた超のつく変態である。
いや、昔のボクらしいんですけどね。
「ねぇ、ヒナ……少しだけ、私を助けてはくれないかしら……(性的な意味で)」
いや、もはや理性がふっ飛んでいる。
「身体が……熱いの」
「はわ、はわわ……はぅ、お姉様、そこはだめぇ……」
今もこうして冷静な思考が片隅に残ってはいるが、大部分は
『ああ、ヒナ……私の可愛い火無月』とか、
『ふふ……可愛い声。もっと鳴かせてアゲル……』とか、
『こんなにしちゃって……悪い子ね?』とか、
直接的な描写したらノクターン行きは間違いないようなシーンになっている。
あれ、何言ってんだボク?
「あ……う……お姉様ぁ……私、私……!」
「貴女の此処、こんなに……………………って、いやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!!」
「……ふぇ?」
「なにやってんの? なにやろうとしてんのボク!?」
「なにって……ナ」
「言っちゃらめぇぇぇぇ!!」
「あの……その姿でらめぇとか言われても……困るというか……」
その姿とは、クールで強気でお姉様な水無月さん(享年十八歳)のこと。確かに似合わねーセリフですが。
「いやそういう話じゃないですよ脳内ピンク」
「貴方が言いますか……発情顔色レッド」
「うぐぅ、顔真っ赤になんてなってない!」
「はいはい……」
……ようやく本当に落ち着いたみたい。
というか何故イベントバトルこなしただけなのにこんなエロイ展開になった?
アニメならこの回がまるまる三十分近くモザイクオンリーになるところだった。そもある訳ねーけどさ。
ていうか、世界が崩壊するのかと。
もしかしてボクは死ぬのかと。
描写の焦点をボクの内面にズラしてなかったら、ただのえっちぃ同人誌みたいな絵面になってた辺りが、特に。
「なんでこんな暴挙に及んだのかは……貴方の心を読んだら、分かったので……良いですが」
「……ごめんなさい」
「懐かしいシチュエーションだったので……むしろ嬉しかったかもです……」
「……助かりました」
「でもシャワーは借りますね」
「ごめんなさい!」
そんなこんなで彼女が戻ってくるまでの間に、元の夜城唯貴に戻っていた。
「結構……便利ですね、その技能。『突然変身』……でしたか……?」
ポイントは平仮名です。
「うん。でもこんな世界じゃ、変装くらいにしか使えないからあんまり意味ないんだけどね。一瞬で変身できるのは凄いんだけど」
言ってから、まばたきの間に手の平サイズのデフォルメ唯貴くんになってみる。
服も対象範囲内なのでちゃんと着ています。あしからず。
「おお……主人公からマスコットまで……! 素敵な能力です……」
「どうも」
元に戻る。
『突然変身』は一目見た相手や無機物にもなれ、性質や機能すらも再現できる。
身体の一部だけにも有効で、羽を生やして飛んだり腕を刃物に変えたりも自由自在。勇者の聖剣でハリネズミ状態にも、魔王様にこっそり成り代わる事も容易い希少なチート能力の一つである。
バカっぽい言い方だが、凄く強い。
他に持っている転生者はいないと思うし、もしいたとしてもいくら変化したって自由には動かせないと思う。
それこそ、人外の人生を何度も何度も経験しない限りは不可能。人間に翼の羽ばたかせ方など、分かりはしないのだから。
裏の切り札その一だったりする。
決して女の子と百合百合しいコトをして身体を鎮める為の能力ではない。
断じてない。当たり前だ。あってたまるか。
「まあ、世界観によっては見られた時点でアウトだから使えないよね。……ところで火無月さん、一体なにをしに来たの?」
「少なくともナニをしに来た訳ではないです」
ぐはっ。
「まあ冗談です。事件の捜査を……していらっしゃるようなので……一つだけ」
「……何かな?」
表情は真面目。さっきまでの恥態を思い出しかけて、慌てて頭の隅に追いやる。
「……通り魔、私がやります」
そんなことを宣言した。
「いやいや、それはダメでしょ」
「……一応お聞きします……なぜですか?」
「それは犯罪行為です」
「そういう意味ではありませんよ……」
あれ、違うのか。てっきり、さっき襲ったボクに復習でも考えているのかと。
すると火無月ちゃんは、珍しく鬱っぽい顔を赤くしていた。
「さっきの話は……もう忘れませんか……」
すいません。
『ROM』ってらっしゃるんでしたね、分かります。
「ご存知でしょうが、通り魔はまだ捕まっていません……捕まったのは身代わりのダミー。バックアップから送られた人柱……といった所です……」
「バックアップ……ということは、組織絡みで一人の通り魔を保護支援してるってことか……?」
頷く火無月ちゃん。
「私は……その通り魔に会ってみたいのですよ。なにか……殺害方法に……感じるものが、あります」
うん、意味分からん。
やっぱりこの子、電波だ。
「危ないよ?」
当然、と返された。
なら、もう止めなくてもいいか。
「分かった。でも、もし出会っちゃったら自衛くらいは許してね」
「ええ……可能なら、程度の興味……ですから」
そう言い残して、火無月ちゃんは去っていっ――
「ああ……それと、今度から……水無月お姉様って呼びます」
「…………え?」
その後、この少女と会う度にお姉様と呼ばれる男子高校生の姿がそこにはあった。
皆に変な目で見られた。泣きたい。
『じゃあ、唯貴さんの高校の前に集合ってことで良いですか?』
「ああ、それとリアン君」
『はい? オレがどうかしましたか?』
「明石少尉の連絡先、リアン君は調べられるかな?」
『ええと、一応やってみます。ただ、同じ外套警察とはいえ《特務課》は指揮系統も違うので……』
「うん、分からないなら分からないでいいや。現場に行けば会えるでしょう。左門さんは学校行けばいるだろうし、電話番号も知ってるし」
『では、一刻後に』
「よろしくね」
そこまで言ってから端末の接続を切った。
MKP。この世界で主流となっている携帯電話のようなものだ――というか、見た目はほぼケータイである。
さて、調査に向かうとしよう。
今日は学生服を着て行く。
研究室にも顔を出さないと。二日も行かないでいるとあそこは回らなくなるからな……。
今日も元気に、死なないように頑張りますか。
「《黒天剣》――起動。転移術式、位相逆算開始――」
指輪のまま回路を起動し、記録されていた転移術式を起動する。
この術式はまだ未完成な代物で、世間には出回っていない。
未完成といっても、多少座標がズレる所為で壁や床にめり込む事故が頻発するぐらいであり、転移中に再構成できなくなるような問題は解決している。
尤も、壁にめり込んだりしたら大変なことになるのは間違いないので、まだまだ世には出回らないだろう。
まあ、ボクには『突然変身』があるので躊躇いなく使えたりする。怪我や病気の治療だってお手のものだ。
こう考えると、いかにして『不労不死』を要らないと言ったかが分かる。
――まあ、今となってはむしろ感謝している能力ではあるが。
早めに行って学校の研究室に顔を出しておくとしよう。
「指定座標の計算終了まで残り三秒、二、一……『流浪・“転移陣”』」
足元に現れた黒光の魔法陣が一際強く光を放った時、世界はぐにゃりと歪み、そのままたたき付けられるように再構成された。
黒光でできた魔法陣が、大気中に霧散する。ちなみに黒い光は、黒天剣を魔力の媒介にした際の固有特色である。
ここは校舎屋上。人気がないので急いでいたりするとよくこの場所に転移してくる。
「さて、まずは研究室に行ってくるか」
屋上の扉に手をかけ、黒天剣も魔法陣のように霧散させる。
指輪に戻ったそれを首にかけ、ボクは校舎の階段へ歩き出した。
――この時、ボクは二つの重大な事に気づいていなかった。
「――――むふ」
一つは、転移術式という魔法が、今現在実現不可能とまで評され、『軍』ですらどんな手を使ってでも欲しがるような代物であるということ。
そして二つ目は――
「――むふふふふふ。見ぃーちゃったぁ……!」
――それを目撃した少女がいて、なおかつ高校という場所が、転生者の集まる魔窟であるということであった。
――崩壊の序曲を、未だ少年は聞かない。
という訳で第四話『裁く権利、裁かれる原理』でした。
ちなみに各話毎のサブタイトルは、第一章は『有り得ないモノ、ナンセンスなモノ』で統一されてます。多分。
ここだけの話、第一章のテーマは『断罪の章』なんです。
主人公が自殺癖持ちであるということ、転生者の持つ傲慢さ、安易な死という逃避からの脱却が描かれる(予定)です。
主人公が自ら死ねなくなった八年前の悲劇。
裏で繋がる一連の事件。
四千年前の救世主伝説。
物語のたどり着く場所とは?
他の転生者との関係は?
特零級異端指定とは?
魔動機界が包括する『魔力素』の法則。
三千回の転生、その副作用とは。
ていうか水無月お姉様はまた出てくるつもりなのか?
……つたないのでどうぞ鼻で笑って見てやってください。