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『X・OVER WORLD』  作者: 工人
第一章『近代魔法世界編』
22/25

第十七話『天井知らずな地獄』

どうも工人です。

という訳で第十七話です。


今回は視点移動が多いので珍しく三人称視点で書いてみました。ついでに珍しく力を入れて真面目に書いてみました。やっぱり三人称は書きやすいなぁ。


相変わらず妙ちくりんな世界観ですが、ごゆるりとお楽しみください。たいしたものでもないですが。





PS.今更な話ですが……NOS閉鎖について。


ちっくしょぉぉぉぉぉぉぉッ!! これが人間のやることかよぉっ!!


どうすんだよ、このメタ小説のネタ元が消えちゃうじゃねーか!! にじファン独特の空気が分かんないと『X・OW』とかただのむさい……じゃなくて寒い駄文でしかないのにぃーっ!!!!


失礼、取り乱して候。

地盤が崩れたというか、首を縄で括って遊んでいたら足元の踏み台をすっぱ抜かれたというか……そんな心境です。

まあ、そんなことしてた工人が悪いんでしょうけど。

よもや運営様も“にじファンの中身”じゃなくて“にじファンそのもの”が無くなって大打撃を受けるメタ作品があろうとは予測してなかっただろうし。してたからといってどうなる訳でもないんだけど。




まあ、そんなこんなですが第十七話です、どうぞ。

「もういいかい」


「もういっかい」





第十七話『天井知らずな地獄』





「リアンヌ=エルスィーネ、まだ生きていますか!?」

 アンジェ=明石=ミリフィールド少尉の叫ぶ声に、リアンヌはふと我に帰る。どうやら、頭を打った衝撃で一瞬気を失っていたらしい。

「当たり前です……ッ! ミリフィールド少尉、左門(ひだりかど)さんの位置は分かりませんか!?」

「この半ば乱戦のような状態で無茶を言わないで下さい! くっ……早く“白翼(フーセ)”と合流しなくてはならないというのに……!!」

 追っ手は後から、時折前からも次々と現れる。

 飛来する火球を間一髪躱し、階段に飛び込む。

 歯をきつく噛み締めながら、エレベータの止まったビルの階段を駆け登る二人。


 ――“夜月の教会(ラセイクル)”本部への襲撃と侵入、最終的な制圧。


 それがリアンヌ=エルスィーネとアンジェ=明石=ミリフィールド少尉の行っている“無謀”だった。

 外套警察には許可を取った訳でもなく、それどころか今回の“夜月の教会”関与の報告すら上げていない。完全な越権行為と独断先行である。否、犯罪にすらなりかねない愚行蛮行――どころか犯罪行為そのものだ。

 それでも自分達だけで急ぎ攻め込んだのは、一重に時間が無いからに過ぎない。それほどまでに事態は切迫――まさしく逼迫(ひっぱく)していた。

「くっ……左門さんがMPKを持ってなかったのがこうまで裏目に出るなんて……!」

 三人で行った突入だが、左門(ひだりかど)真遊(まゆう)が乱戦のさなか分断されてしまっては既に勝手な撤退すらできなくなっていた。そもそも此処で退けば間違いなく証拠の隠蔽や拠点の移転が行われてしまう。逃げる敵を逃さない為には、こちらが先に逃げるなど論外である。

 ならば何故わざわざこのタイミングで仕掛けたのか、という話になる。

 『魔力炉の悪用阻止と魔力暴走の確実な回避』というのが、表向きの理由。

 ならば裏とは何か。概ねは表向きの理由とは大差ないが、多少ならぬ不確定要素を考慮した動機。すなわち転生者による介入を考慮して『予想外の展開を防ぐ』ことにある。

 故に事は急を要するのであり、それが先日に師と仰ぐことを決めた夜城唯貴が秘密裏かつ彼だけに伝えていたメッセージであった。そしてその事の意味を、聡明なリアンヌは正しく理解していた。

(おそらくは唯貴さんの言っていた“物語”の流れというやつが関係するんだろう。より漫画的、ゲーム的、フィクション的で劇的……派手な展開が必然として呼び込まれるなら、最悪の事態を想像するのは容易だ……)

 隣の明石少尉にすら気づかれない胸の内の苦慮は、夜城本人から聞いた彼の生い立ちまで思い及んでいた。

 ……尚、奇しくもつい先刻、夜城唯貴が同じ事を『赤の魔女』と《手首狩り(リストカッター)》に説明しているのだがそれはまた別の話か。

(件の大魔導師“夜の月”を蘇らせるには、おそらく大量の魔力変換による肉体と精神、あげく“魂”までの再編生を行う筈。その原料には、彼の大魔導師の遺伝情報を色濃く発現した赤い魔瞳の持ち主を必要とする……)

「……クソッ」

 小さく誰にも聞こえないように毒づくと、人を生贄とする野蛮な魔法儀式への嫌悪と、その所為で尊敬する師が自分を庇って殺されかけたという忌ま忌ましさを、腹の(うち)に据え込んだ。

「明石少尉、走り続けて下さい!!」

 叫ぶと同時、教会の信者共が追い掛けてくる階段の下方に向けて引き金を引く。

「起動、術式展開、想起――『蔦射(つたうち)真拆葛(マサキカズラ)』!!」

 拳銃型の魔動機から不意打ち気味に飛び出した深緑色のそれは、しかし名前通りの植物ではなくゴム質に近い“何か”だった。

 細い管状の紐。

 その紐は敵ではなく床に着弾する。

 瞬間、周囲に向かって散弾のように幾つにも弾け、その軌跡を辿るように紐が四方八方へと道を塞ぐ。

 無論、急に進路を阻まれた信者集団は足踏みを余儀なくされる。

 さて、彼等が完全な素人なら、突破出来るとは考えず別の道を探すだろう。

 普通のプロなら、突破する手段をすぐに見つけ出すか、やはり別の道が安全だという結論に落ち着く筈だ。

 しかし彼等はどちらでもない。

 “夜月の教会(ラセイクル)”の信者として日頃から旧魔法の研鑽を積んだ彼等は、軍人上がりの信者のようなプロとまではいかずとも、素人というほど無知で愚かではなかった。

 彼等は一目でそれが突破可能な強度のよく知る魔法物質であることを認識し、生身ならともかく魔法を使えば破れる程度の見せ掛けの封鎖であるとの判断を下したのだ。

 ここまでで僅か数秒。

 そして彼等が選んだのは、突破。

 ――しかしそれは、この場における最大の愚策である。

「……よし、掛かった!」

 ――追っ手の信者達数名が一人残らず昏倒した(・・・・)のを確認して、リアンヌは明石の後を追い掛けた。

 呼吸器、更には皮膚からも急速に浸透する揮発性の高い即効性の神経毒。

 ごく先日に精製法を夜城唯貴から教わったばかりの使い所の難しい手札を、リアンヌはその類い稀な“開発力”を以って既に実用化段階にまで応用を利かせていた。


 細い管を通して、毒を空気中に発散させる網。


 それだけの罠である。しかし――突破出来ないように見せ掛けて実は突破出来るが、それを判断している間にいつの間にか麻痺毒を喰らってしまっている――という悪質なトラップ。

 使用者も巻き込み兼ねないという揮発性の毒の欠点を、拳銃型魔動機の射程、接触起爆式トラップという独立性、封鎖による足止めでの確実性という方法で完全にカバーしきっていた。

 その結果として、猛毒を発する網を前に数秒も(・・・)考え込んでいた敵は、突破すら為す前に肌から麻痺毒を取り込むことになる。彼等は突破を選ぶのではなく、撤退すべきだったのだ。管を破り、詰まった原液を肌……それでなくとも空気中に触れさせたら、昏倒はもっと重度になっていた筈である。

 例え、それがせいぜい数時間で抜けきる麻痺であっても、だ。

 この残酷さを含まないがエグい魔法は、まさしく彼――リアンヌ=エルスィーネが転生者として、“主人公(やりだまにあげられる)”に相応しい才覚を持つことを端的に表していた。

 『正統派の主人公は人を無慈悲に虐殺してはならない』という筋の通った、しかし理不尽極まりないテンプレートに、意図せずとも沿う性格を持ち合わせていたのである。

「早く明石少尉に追い付かないと……このままオレだけ孤立したら一巻の終わりだぞ……!!」

 三人が離れ離れになるのはあまりに危険が過ぎる。リアンヌは急ぎ駆け登る階段に足を取られそうになりながらも、辿り着いた広いホールとおぼしき扉の前にある待合の場で呼吸を整える。一本道である以上、明石少尉はこの中を通ったのだろうとリアンヌは考える。

 辺りを見遣れば、貼紙でこの場所の名前が記されていた。

「『27F第三修練儀式場』――儀式魔法の鍛練部屋か」

 呟きながらも思案を巡らせ、息を整える時間も無駄にしない。外套警察としての訓練の成果でもあるが、それ以上に前世での彼が多才かつ博識な“グラシェルの女賢者”と呼ばれた人物だったことも関係していた。

(唯貴さんが言っていた事も気になる。オレ達の中にいる“裏切り者”……やはり今まで影が薄くて目立たなかった人達が怪しい……が、唯貴さんが姉であるシルヴァさんを連れていかなかったのも警戒してと考えられる。火無月=I=ミューリヒェンという少女は信頼している友人だと唯貴さん本人から前以て説明があった。後は唯貴さんと知り合いの外套警察辺りか……自分から唯貴さんに着いてきた人間の中に犯人がいるな。勿論、『夜月の教会(ラセイクル)』に所属するなら魔動機を使わない旧式魔法も扱える人間の筈だ)

 周囲の警戒をしながら、一人ブツブツと呟くリアンヌ。

(……全ての条件に当て嵌まるリアンヌ、一体何者なんだ……!?)

 シーン、と静まり返る周辺。

「……馬鹿な事やってないで行くか」

 リアンヌは、何とも言えない気持ちで『第三修練儀式場』への扉の前に立ったのだった。







 一方、リアンヌと明石が血眼で捜している『白翼(フーセ)』――左門(ひだりかど)真遊(まゆう)その人は、いたってお気楽にビルの屋上まで到達してしまっていた。

「うみょーん。やれやれー、唯ちゃんも人使いが荒いなぁ」

 既に屋上で気づかれぬよう一仕事終えた真遊は、階段の手摺りに腰掛けて滑り降りていく。

「さて、唯ちゃん風に言うなら……『細工は上々、首尾は下の下』ってとこかにゃー」

 そう呟いてニヤリと笑みを浮かべると、今度は一転して冷たく皮肉気な表情で吐き捨てた。

「良い加減、唯ちゃんも諦めが悪いねぇ。神にも悪魔にも傾かないスタンスを、まだ続けてるんだもの。善も悪も敬遠して、幸福と不幸を拒絶して、男と女を折衷して、人間(ヒト)化物(バケモノ)を曖昧にする。

 いつまでもそうしていられると思ったら間違いだよ、唯ちゃん。ううん《自殺師(キリングドール)》。君が逝く道には破滅と混沌しかない。それさえも安息だというのか? 自分を奈落へと追い落とす事が、そんなに安楽か?」

 ふと、真遊は自分の胸元にある赤錆びた鉄のロザリオのネックレスを見つめる。

 それはかつて火無月と真遊、■■の三人が師弟のような関係だった頃、■■が弟子それぞれにプレゼントしたものだ。

 姉弟子の真遊には鉄のロザリオを。

 実妹の火無月には紺碧の首飾りを。

 その時の人間関係はまさしくそんな状態だ。

「まあ、復讐の修羅道から拾い上げて貰った身としては偉そうな事は言えないか。情けないな、私……苦しんでる恩人の一人も救えないなんて。あの人が自分を落とし込んだ永劫の地獄なんて、本当の地獄にだってありやしないのに――」

 憂いに目を細めて自嘲すると、そこにはまたいつも通りの真遊の顔が在った。

「いいよいいよ、どうせ私には無理だってんなら……出来ることで支えて見せる。ずっと支えてもらってるからにはそれくらいはしとかないと罰当たりにゃー」

 カラカラと笑うままに、手摺りから飛び降りる。

「よっ、と。それにしてもお腹空いたにゃー。久しぶりに唯ちゃんに手料理でも作ってもらおーっ。シチュー、シチュー、唯ちゃんシチュー! ゲシュタルト崩壊ーっ!!」

 長く生きた転生者特有の思考回路から来る、誰が聞いても訳の分からない独り言を呟き(叫び?)ながら、真遊は二十七階に到着したのだった。





 アンジェ=明石=ミリフィールドは、これ以上なく危機に陥っていた。

「不味いですね……なんて言葉じゃ、足りませんか」

 真遊とはぐれ、リアンヌとはぐれ、遂に一人になってしまった明石。

 いや、リアンヌならすぐにでも追いついてくるだろう。しかし、それはむしろ、いささか以上に不味かった。

 件の二十七階『第三修練儀式場』には、明石に相対した一組の少年少女がいた。

「本当にやるんすか、鍵檻さん? 下手すりゃ“物語(イベント)”が総崩れ、俺達が他の転生者(クラフト)から孤立しちまいますよ?」

「決まってます。

 ……これも私の『逆ハーレム王国建造百年計画』の一環!!

 すなわち、最後の八人目に夜城先輩を迎え入れる為に必要な前哨戦なんですよ!!」

「うっわ下らねぇ!!」

「下らないとは何事ですか! 本命ヒロインの居ないハーレムに、何の、意味が、あるってんだー!!」

「最低過ぎるよ! あまつさえハーレム作っといて本命が一人だけなんて外道にも程があるだろ!!」

「良いんですよ、一応全員愛してるのには違わないんですから! 夜城先輩が一番手強いんですから本命でも良いでしょうに!!」

「あーもう、面倒くせーなこの色ボケ女」

「その色ボケに惚れた分際で何を言いますかハーレム一号。または一番チョロイ男」

「謂れの無い侮辱を受けた気がする。で、それはともかくちゃっちゃと済ませて次行きましょう」

「そうですね、さっさと爆ぜさせて(・・・・・)次に行きましょう。そう、愛しの夜城先輩の元へ!!」

 少年は呆れ、少女は笑う。

(何だ……この子達は一体何を言っている……?)

 明石は知らない。たった今自らの目の前で展開されているのが、夜城唯貴が最も恐れていた不測の自体(イレギュラー)と呼ばれる現象であることを。

 そして、眼前の二人がそれぞれ《死滅願望(アリス・デッド)》、《聖天大星(スターマイン)》と呼ばれる、“転生者(クラフト)”という人の理を外れた厄介な怪物であることを。

 そうしている内にも、転生者二人は目の前の明石など居ないかのように会話している。

「大体、新しく男が増えるのが嫌なら手伝ってくれなくてもいいんすけどねー? ていうか、夜城先輩のこと知ってるんすか?」

「べっ、別に俺の勝手だろう。夜城なんて男は知らん!

 ………………それに、必ずしもあいつが男に分類されるとは限らないしな……」

「え、何か言いましたかメアリー?」

「いいや、鍵檻先輩は可愛い可愛い女の子だなーって」

「ダウト」

「嘘だけど」

 夜城唯貴が居れば「どこぞの嘘つきか」とツッコミを入れそうな漫才をしていた二人は、そこで一度口を開くことに区切りをつけ――

「それじゃあそこの“原作キャラ”さん」

「名前は長くて忘れたが」

「私達の為に死んで下さい」

「私の、だろ」

 ――同時に、明石に襲い掛かった。

「くっ……!?」

 明石は“(シチカ)”と“外套警察(シーキュリティア)”の訓練で鍛えた戦闘軍人の身体能力でもってして後方ステップで退避を図る。だが――

「遅いんだよ」

 信じがたい身体能力をした少女のような名前の少年――メアリーの踏み込みが、相対的な移動速度すらも不要とばかりに踏みにじって肉薄してしまう。

「速……ッ!?」

「悪いね、おねーさん――うらぁッ!!」

 鈍器による一撃に似た威力の蹴り抜きが、明石の鳩尾に突き刺さる。

「――――っ!!」

 例え常人なら呼吸が出来なくなる筈の衝撃でも、軍人にとっては意識を失うほどの衝撃足り得ない。かろうじて意識を保ちながら、床に転がり天地を交互に映す視界の端に、明石は不吉な何か(・・)を見つけた。

「――いきますよっと。私の技能(スキル)聖天大星(スターマイン)』、存分に味わってくださいねっ!」

 それは投擲せんと振りかぶった鉄のナイフ四本、刃渡りは十センチ弱。

 しかし明石は、それがただそれだけのものではないと直感で理解した。

 それは事実だ。《聖天大星(スターマイン)》こと鍵檻(かぎおり)(ぼたん)の保有する技能(スキル)、名前そのままの『聖天大星(スターマイン)』の能力は、触れた無機物を一定時間後に熱と光に変換しつつ炸裂させることである。

 それはつまり、触った物を時限爆弾にして投擲できるということだ。

 鍵檻が純粋な技術のみでナイフを正確に飛ばした次の瞬間――


 ――明石の眼前の空間に光が満ち、岩すらを粉々に砕く威力の圧倒的なまでの暴力が、宙空で破裂した。


 文字通りの爆音。火薬が炸裂するのに似た、耳を打つような何かが弾ける音。

 それは明石の頭蓋を消し炭にしかねない火力であった。

「――きゃあっ!!」

 思わず素の悲鳴を上げた明石は、しかし傷一つない。

(と……咄嗟に盾にした外套警察の外套が、緊急防護魔法ごと一撃で砕かれた……!? そんな……A級魔女クラスの魔法を!?)

 明石は、神に与えられた能力(スキル)というものを知らないが故に、それを魔法だと勘違いしていた。あるいは、先程のナイフを使い捨ての特化型魔動機か何かであると。

「ありゃ、やっぱり鉄(Fe)じゃこんなもんですかね。爆発の威力は質量に由来するからなぁ……今度から合金とか使ってみようかな。金(Au)じゃ刃物として使い物にならないしなぁ……」

 しかし明石が思考と鍵檻の言葉に意識を逸らした瞬間、下がっていたメアリーが再度接近していた。

「これで緊急防護魔法(シールド)は無くなった。確実に仕留めるにはやはり手ずからだからな」

「しまった……!!」

 近接戦では、人間の範疇にある身体能力ではメアリーに敵わない。

 しかし距離を取れば、即死級の範囲攻撃がすかさず無数に投げ付けられる。

 ――明石は、今は自らの切り札である人形(・・)を使える状況にないことを察した。

(どうする……私は一対多の戦闘には向いていないからこそ軍から外套警察に派遣されたようなものだというのに……)

 生死をかけて頭脳を巡らせていた明石だったが、救いは案外呆気ない所から現れた。


「――おやおや、お困りのようだにゃー。この私が助太刀しちゃうから早く逃げなよ、明石少尉」


 入口の扉から歩いてきたその少女は、学校の制服に三角魔女帽、藤紫色に染められた長髪という奇抜な出で立ちの“自称”召喚士――B級魔女、左門真遊だった。

「なっ――『白翼(フーセ)』!? 一体今までどこにいたのです!?」

「良いから早く。入口の外でリアンちゃんが待ってるよ」

 指示だけ飛ばして、自身は二人の転生者に相対する。

「……まさか、貴女は」

「本当にいいから、一階ホールで待機してほしいにゃー。ああ、後で合流次第再度進撃するからその準備しといて!」

「……了解しました!」

 明石は苦々しい顔で了承し、すぐさま入口を駆け抜けるようにしてこの場を去った。

「さてさて、本当に追わなくて良かったのかにゃー?」

 挑発的に、しかし実に脱力感を伴いながら笑って敵に向き直る。

「魔女帽に藤紫の髪、そしてその喋り方……間違いない、《召喚体質(バッドステータス)》! なんでこんな化物転生者が“最前線”まで出て来てるんですか……!?」

 鍵檻は呆然として呟く。

「鍵檻先輩の知り合いか?」

「しっ……知り合いも何も、《自殺師(キリングドール)》、《手首狩り(リストカッター)》、《召喚体質(バッドステータス)》って言ったら三人でよくつるんでる化物じみた転生者で、その三人共が“百回越え(エクシード・ハンドレッド)”かつ《自殺師》を頂点とした元師弟!!

 “物語”が嫌いで“最前線”には出てこない代わりに、『敵対したら絶対に勝てない』とか『自殺に付き合わされる』っていう真性の気違い連中ですっ!」

「その《自殺師》って、そんなに有名なんですか……?」

「知らないのはまだ素人の転生者だけですよっ!! 両手の指より少ない人数の“百回越え”でも私の三倍近くは凄いのに、《自殺師》なんて三千回だよ!? 神に恋され神に恋し、神に寵愛されでもそれをうっとおしがる、人間辞めてる代表格だよ!! 名実共にブチ抜けて最強で最悪の転生者の頂点だよっ!! その腹心二人の左腕側だよ!? 勝てる訳無いよっ!!」

「落ち着けよ……(三十回近いこの人でもそんなに怖がってんのか。まあ、俺も単に歳食ってるだけかと思ってたしな……ついさっきまで)」

 メアリーが鍵檻を宥めすかして、ようやく場が収まりを見せた頃には、明石は既に下の階層の安全圏までリアンヌと退避しきっていた。

「さて。んー、唯ちゃんには不確定要素(イレギュラー)は極力排除しておけって言われてるしー、悪いけどここで無力化させてもらうよん」

「くっ、その人が誰かは知りませんが、こっちだって夢の為に諦められませんっ!!」

 実は二人とも同じ人物を思い描いているなどとは露知らず、ただこの場ではぶつかり合うのみ。

 否、これから起きるのは――

「『聖天大星(スターマイン)』ッ!!」

「ハアァァッ!!!!」


 ――単なる一方的な、力による蹂躙である。



「意気やよし、なんちゃって。

 ねえ、知ってる?

 ――『弾丸を防ぐほどの高純度の魔力結晶って、この世界じゃ二人しか創れないんだって』。

 ――『高層建築で上から急に天井が崩れてきたりしたら危ないよねぇ』。

 ――『人魚と半魚人って何が違うんだと思う?』

 ――『最近、身体が怠くなる風邪が流行ってるらしいよ?』

 ――『誕生日プレゼントに、ホームランボールを貰ったら嬉しい?』

 ……これ位で十分かにゃー?

 さてと、かかってきたまえーっ!!」

今回は地の文であらかた説明されていたと思うので後書きは省略で。

説明されてなかった部分については伏線の類か『敢えて明言しないので察してください』ということで一つ。


これだけなのもなんなので少し加筆。

今回登場したのは『X・OVER WORLD』随一のお笑い担当、メアリー君と鍵檻ちゃんコンビでした。この二人は主に自分勝手で迷惑なことをやろうとするも、いつのまにか逆に主人公たちに振り回されている感じのキャラクターです。“一見いい奴に見えて実は相当下種”な(ただの外道)連中なのは見ていただければ分かる筈。

でも主人公に心なしか惹かれているというか魅入られているという、まっとうな人生は送れないタイプの人種です。あと長生きできない。












ここまで読んでくださっている奇特な方に一つ駄情報を。

百回越えの転生者は皆、物を次の世界に持ち越すスキルを持ってます。なので大切な物はいつも持ち歩いています。

ですが、必ずしも同じスキルを用いているとは限りません。似た効果の別スキルを利用する人も多いです。


さて、左門真遊のバレバレの能力とはなんでしょうか(笑



ではまた次回お会いしましょう。

しーゆーあげいーん。

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