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『X・OVER WORLD』  作者: 工人
第一章『近代魔法世界編』
15/25

第十二話『恥知らずな僕』


どうも、工人です。

今回はかなりほのぼの(?)した感じの、いわばギャグ回というやつです。


だから話はちょっとしか進んでいません。

真ヒロインの神子ちゃん(かみこ。女の子版神様。安易なネーミング)の登場はまだまだ先(予定では第二章)なので、準ヒロイン……というよりは主人公の相方である火無月ちゃんが無双状態です。


相変わらず私が書くギャグはややエロ系(むしろ変態系?)かパロ系が半分を占めているような………………いやいや、書き溜めたネタはそんなことないんですよ? ただ、いざ書いてみると火無月ちゃんは比較的内面がドロドロしてるキャラだし……ねぇ?


まあそんな恥部を語る意味もないので本編をどうぞ。


 人。

 罪と罰。

 裏切りと報復。

 空回りする激情。

 虚構を追う牙。

 三叉路は影を落とし、城門は嘆きを歓待する。

 故郷に背を向けて、

 過去に蓋をして、

 旅人よ、眼前の道を逝け。

 人の道は生きる道ならず。

 故に人の生は死への旅路。

 歩みつづけるこの一時こそ、燃え上がる炎の美しさであると知れ。

 そうして人は、過去を(ひも)解き、未来を紡ぐことを許されているのだから――






第十二話『恥知らずな僕』






 人は嘘に敏感だ。

 小さな嘘でもつかれれば、人はたちまちその人を信用しなくなる。

 周囲に隠されたわずかな違和感に気づき、対処する為の自己防衛本能。

 それは時に命運を分け、罠に囲まれた窮地を切り開く剣ともなるだろう。

 だが、それは勇者が手にした時の話だ。

 自らの恐れにたやすく呑まれてしまう者が持てば、それは剣ではなく牙になる。

 このレベルの低次本能を飼い馴らせなければ、そいつは獣と同等になってしまう。

 他人の心に切っ先を向け、

 優しい嘘を食い破り、

 見ない方がよい物を覆い隠していた絹を、悲鳴をあげて引き裂くだろう。

 そして自分を傷つける。

 更には救いがたいことに、勝手に傷ついた揚句、人の所為にして憤り始めるのだ。

 自分では何も考えていないかのような周囲の人間達もそこに加わるだろう。

 わざとやっているならまだ良い。罪を人に押し付けようともがいているなら、まだ健全だ。

 だけれどそういった連中に限って、自分が悪いなどとは露ほどにも思っていない現実。

 まさに獣。能の足りない――いや、いっそ脳の足りていないかのような獣そのものか。

 ……何度生まれ変わってもそんなことをされてきたボクが『誰も疑わず、しかし誰も信用しない人間』になるのは、だからそうおかしな事ではないと思う。

 まばゆい朝の陽射しが、ボクの目を覚めさせた。

「……知らない枕だ」

 慣れないベッドの上で目を覚ましたボクは、そんなどこかで聞いたようなそうでもないような微妙な台詞を呟く。

 ふと顔を横に向けると、目と鼻の先によく見知ったような顔が現れて驚いた。

 ――眠っている。

 俯せになった背中の中ほどまで布団を掛けて、ボクの隣で寝息をたてていた。

 寝顔というものは無垢で無邪気なものと相場が決まっているけれど、彼女の目の下にある大きな(くま)を見る限りは、陰鬱そうな陰がなりを潜めているとは言い難かった。

 金髪はサラリと解かれて真っ白なシーツの上に散らばっており、あの珍妙な髪飾りはしっかりと枕元に置いてある。

 首元に掛けられ、普段はボク以外の誰にも見せようとはしないあの首飾り(・・・・・)……。

 説明するまでもなく彼女は《手首狩り(リストカッター)》……つまり火無月なのだけれど。

「うぅん…………んぅ」

 器用に顔を擦り寄せてくる。

 透き通るような白い肌。

 うなじから両肩、背中、腰まで繋がるなだらかな線。

 少女らしさを感じさせる芸術品のような肢体に思わず一瞬見とれてしまう。

 だが、その所為でボクはとんでもないことに気づいてしまった。

「…………あれ?」


 なんで、

 この子は、

 上半身に、

 何も、

 着てないんですか?


「……んむ」

 いつの間にか、無意識に更に抱き着いてきている火無月。

 動いた拍子に布団がずれ……違和感。

 ……もしかして、下もですか?

 ここにきてようやく寝ぼけていた思考が回りはじめ、一瞬でエラーを起こして再び停止した。

 状況が分からない。

 落ち着け……冷静に考えるんだ。


 疑問一。此処はどこだ?

 解答一。マンション。ヒナの部屋。


 疑問二。この場はなんだ?

 解答二。ベッドの上。布団を掛けている。


 疑問三。現状を把握せよ。

 解答三。寝ていた。ヒナは何故か裸。よく見るとボクも上半裸。


 疑問四。落ち着け、昨日何があった?

 解答四。ボク、発情。ヒナ、ボクを自宅にお持ち帰り。


「…………ふむぅ」

 なるほど、事後か。

「……ってうええええええぇぇぇぇっ!?」

 早朝五時の高級マンションの一室で、近所迷惑な男(?)の絶叫が響き渡った。

「ふみぅ……ぅん。

 …………んぅ? おはよう……ございます……?」

「うわちょっと待て起き上がるな上も裸で見えちゃうからだめぇぇぇぇぇ!!」

 ……最初にあったシリアスな独白も、これではブチ壊しだった。





「……で、話なんだけど」

「まだ顔が赤いですよ?」

「うるさい」

 くどいようだが精神は肉体に依存する。このたかだか十数歳の身体に押し込められては、年齢相応の感情に振り回されるのは不可抗力に等しい。それでも抵抗するには■■■■の魂を引き出さなければいけないが、それでは新たな情動が湧き出して本末転倒になってしまう。

 結論。

 つまりこれは不可抗力だから恥ずかしくないもん。

 理論武装完了。

「……聞こえてますよ……? 『ROM(メモリアルメモリーズ)』を……忘れて……ませんか?」

「なんということでしょう」

 (くずお)れるボク。禿(ハゲ)るではないので注意。

「相変わらず……肉体に縛られてすら……常人には理解不能な思考を……していますね……」

「まだ昨日の後遺症……副作用の発作が残ってるだけだよ」

 ボクにしては妙にテンションが高いのはその所為だ。

「しかしまぁ、びっくりさせないでよ……」

「結局昨日は……抱きしめて添い寝するだけで……おさまってしまいましたから。私は普段から……服を脱いで寝ていますし」

 発作の話だよ? 他意はない。

「……どんな注釈ですか。『突然変身(めたもるふぉーぜ)』もまた勝手に発動して……“途中で”元の夜城唯貴に戻ってしまいましたし……

 私としては……物足りなかったです……」

 熱に浮かされてぼうっとしていたので余り昨日の事を覚えてはいないのだけれど、“途中”というのが何の途中だという意味なのかが怖くて聞けない。

 とにかく昨日は、何もヘンな事は起きていないらしかった。

 少なくともボクはそう信じる。

 人間は信じたいことを信じたいように信じる生き物なのでした、まる。

「さて、まずは起きよう。もう朝も遅いってのに、いつまでも寝ぼけていてはいけないよ。話はそれからだ」

 ぶっちゃけ、席を外している間に服を着て貰えないかなーという魂胆なのは秘密だ。

「学習してください……聞こえてます」

 あぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅあぅ。

「か、勝手に朝ごはんつくってますからねっ!」

 寝室を飛び出す。

「……逃げましたね」

 背後で火無月がぼそっと呟いたのは、この時のボクが知らないことだ。



「久し振りに……白くてどろっとした液体以外を口にした気が……します」

「君がなぜか病人用のお粥しかつくれないのは知ってるけど、それは人としてどうなんだろうか。あと、その言い方は色々と誤解を招きかねないと思います」

 さっきの三十分後。

 とりあえず手早く作った味噌汁と卵焼き。

 相変わらずこの卵が何の卵かは覚えてないし、米は有るが炊飯器がない(驚くべき事に、普段は生の米を圧力鍋で煮ているらしい。そりゃドロドロにもなるわい)状態なので主食は無し。

「卵は……ニワトリの卵ですよ……」

 え、嘘?

「この世界、(にわとり)っていたの!?」

 いないものだと思い込んでたよ……。

「ニワトリがいなかったのは……前回の世界でしょう……」

 そうなのか……。

「ほら……先日、東にある地方の街で……ニワトリが逃げ出したって大騒ぎになりましたよ…………死者二名(・・・・)行方不明者五名(・・・・・・・)、って」

 ………………。

 …………。

 ……。

「……それってあの、牙の並んだ大口を開けたウツボカヅラにキモイ触手がたくさん生えてて、紫色の腐食液をどこからともなく噴きつけてから弱った獲物を触手をつかって捕食する上、なぜか捕まえた人間に生み付けた卵で繁殖することで知られる全長四メートルの怪奇肉食植物(・・・・・・)の脱走事件のこと……?」

「……はい」

 …………。

「…………」

「…………」

 ………………うえっ。

「……もう、食べちゃったよ……」

「要らないなら……貰っても、良いですか……?」

 君の胃は強靭だね?

 ……いや、もう忘れよう。具のない味噌汁でごまかせ。味噌の米はちゃんと地方の水田で育てられている。水田で育っているー。

「……知らぬが仏?」

「何が?」

「……いえ、工程的な意味で」

 畜生。どういう意味だ。

「……そろそろ、本題に入っても良いかな」

「……ふぁい、ひひへふよ」

 良くねーよ、飲み込んでから喋れ。

「むぐむぐ……んくっ。はい……なんですか?」

 さあ、ここからが難題だ。

 物語(イベント)は、恐らくこれから総力戦の流れに入る。ボクの勘では、味方にも敵にも最低一人は犠牲が出るだろう。だから、火無月を戦力に数えて万全を期したい。死人を極力、減らすために。

 ……が、転生者同士の頼み事は、実に値が高い。死んだらあらゆる物を手放すことになると知っている転生者は、物質的な欲を余り出してはこない。来世にまで持ち越せるモノや、精神的な娯楽などを要求してくるのが普通。更に更に、転生者は精神が歪んでいるのが基本となれば……

 『俺を楽しませろ』とか『私に貴方の心を下さい』とか、ぶっ飛んだ命令をされた経験が何度かある……どういう意味の要求なんだかさっぱり分からない。しかもボクはもう慣れてしまっている。

 対価に要求されるのが、大変なモノでなければいいが……

「単刀直入に頼もう――君の力を貸して欲しい」

「いいですよ」

 やはり断るか。しかしっ……!

「勿論、無償(タダ)で頼み事を聞いてもらおうとは思ってないよ」

「いや、いいですって……」

 ならばこちらにも手はあるっ!

「報酬は必ず用意して見せる。こちらが出来る範囲で君の要求を呑もう」

「聞こえないフリ……いや、心を読んだ限りでは本気で聞いてませんね……。

 普通ここは『勿論、こちらも無償で頼み事を聞いてもらおうとは…………え? うそ? いいの!?』となる場面では……?

 押し切るんですか? 押し切るつもりなんですか?」

 最後の手段を使う。これ以上のカードはボクでは用意できないだろう。

 その切り札とは――

「……なんなら、次の人生ではヒナを『ご主人様』と呼んで絶対服従してもいい!!」

「………………ほう?」

 ……あれ、なんかひなづきちゃんのめのいろがかわったよ?

「今の言葉、偽り無しと問うて間違いではありませんね? 貴方程の転生者(クラフト)に二言がありましょうか、《自殺師(キリングドール)》。その条件、呑みましょう我が下僕よ!!」

 一息で言い切った!? 本気だよこの娘!!

 き、キャラが……跡形も無く崩壊している……ッ!!

 多分、いつだったかの人生の『少女王』様モードだ……他国のお偉いさんに要求を呑ませる圧力はこんな感じだった……!

「あ、あ、あ、ありがががとうう……」

 ちくしょー、そんなにボクは嫌われていたのか、くすん。

 やはり奴隷みたいな扱いなのか。

 割と慣れてしまってはいるけれど、別に自分から身をやつしたいとは思っていなかったのに。

 しかしなんだ、この“早まった感”は。

 出来るだけ後を引かない、比較的ボクが楽な条件だったんだけど……

「……じゃあ、急いで帰るよ。真遊……《召喚体質(バッドステータス)》達に遺書を見られてたらマズイ」

「むむ……召喚師ですか、珍しく……今回は前線まで出てきたんですね……」

 む、なぜか不機嫌っぽいオーラ。

「学校に行って会った(車に轢かれた)時に、ついて来たいって言うからさ」

「……ふーん、です」

 なんか更に不機嫌に。

 でもフォローするような余裕もない。来世を捧げてしまったようなものだし。手札はゼロ枚、財布はすっからかんだぜ。

「連絡用の電話……魔力通信機だけど、渡しておくから。いつでもボクと連絡をとれるようになってる」

 携帯電話そのままのようなデザインをした魔動機を放り投げる。

「じゃ、またね」

「またの機会が……来世でないことを願いましょう」

 不吉なこと言わないでくれ。

 玄関でドアを開けて、互いに懐かしい台詞を口にした。


『できれば、生きて会おう』


 朝の空気を肺の中に吸い込みつつ、エレベーターに乗り込む。

「……まだ帰れないか。この際だから、いっそこのまましておくべき事が少しあるかな……」

 振り返ってドアが閉まる時には、ガラスに映ったボクの瞳は、転生者《自殺師(キリングドール)》としての物から、この世界で生きる人間『夜城唯貴』の物へと変わっていたのだった――


という訳で十二話でした。

部屋を出てエレベーターに乗っただけ……進んでないなぁ。

もう一日か二日したら視点移動した幕間話を載せます。

その頃の仲間達……かと思いきや、十話の通り魔君(名前は未定。永遠に。)視点の独白。まだ転生者の異常性について語りきれてないので焼石に水程度の補足。だって設定多いんだよもん。

そういえば、昔作っただよもん口調のキャラ原案があったなぁ。うん、よし出そういつか出そう絶対出そう第三章あたりで。

ちなみに『主人公が死んで転生→次章』の流れなので、実は既に二回分の主人公の死に様が決まっていたりする罠。逃げて■■、超逃げてー。



ではでは、寝不足でハイテンションなのでさようなら。また次回。


しーゆーあげいーん。

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