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『X・OVER WORLD』  作者: 工人
第一章『近代魔法世界編』
14/25

第十一話『ピースメーカー』

どうも、工人です。

今回はリヒド=ファイツェルン君の過去話となっています。

とはいえ、見ないと本編が分からなくなりそうな話なので“十一話”と銘打ってます。

今回は『ちょこざいな……』という感じの書き方をしてみました。多分稚拙です。

なお、文中でとある代名詞が途中から『お前』に切り替わっていますが、仕様なのでご了承下さいなのです。


では第十一話『ピースメーカー』です、どうぞ。

 美空亮一は転生者だった。

 最初の人生では、紛争の絶えない小国の戦場で、敵の兵士との殺し合いを日常とする少年兵の一人であった。

 いつ終わるとも知れない、少なくとも私が生きている内には終わらないであろう永い永い戦争の中。

 その時の私に名前は無い。物心ついた時には既に戦線を支える熟練の兵士であり、書類の上の筆記体でしか見たことのない両親なんてものは、実在するのかすら怪しかった。

 そんな私にも一人だけ、戦友がいた。ソイツはこんなクソッタレな地獄で、私のように初めからいた訳でもないのに理由なく落とされた地獄の中で、それでも気弱で真っ当で、苦しみながら生き抜いてきた器用な相棒だった。

 友人だった彼は恐怖の所為で髪が灰色になったのだともっぱらの噂で、青い目がやけに映える少年だったので『青目』と呼ばれていた。

「『黒子』、また一人で殲滅戦から帰って来たんだって? 君はホントに人間かい?」

「さてな。貴様が知らない事を私が知る訳なかろう。それより『青目』、食料庫からちょろまかしたのが『軍曹』殿にバレていたぞ」

「げっ!?」

 私は指揮官を含めた同僚達に、『黒子』という意味の、適当極まりないあだ名で識別されていた。その国では珍しい黒髪と黒目、黒人よりは薄い肌色の三拍子黒が揃った妙な子供だったからだろう。

 だがどうでもいい。どうということもない。

 今必要なのは、自らの握る得物が速やかかつ確実に敵を刈り取ることだけだ。

 私を殺そうとする、敵の全てを。

 倫理感など、獣と化した存在には感じる余裕すら有り得ない。

 掻き立てられた生存本能は、本能であるが故に理性を塗り潰しうる。本能のみの存在まで堕ちれば、それは獣と大差ない――あるいは、獣そのものだった。

 そして自分もそうなら、敵も同じだ。

 どんな事にもやがて終わりは来る。私が戦場で、敵にも味方にも恐れられる存在になってからしばらく時が流れていた。

 ――設置された機銃の引き金を狂ったように引き絞る少年兵に、自らもまた銃口を向ける。

 こんな“戦場”という名の獣の檻に放り込まれた人間の行き先は、二つか三つだ。

 一つ、自らも獣になる。

 二つ、獣に成れずに――心が壊れてしまう。

 理性が麻痺するような光景は、とうに見飽きた。

 揚げ句に理性が焼き切れた味方同士で殺し合う――そんな光景に至っては、たった今、『黒子』の目前で行われていた。

 ――姿勢を低くして、走る。

 速く、速く速く速く。

 突然の味方からの掃射にも怯まず、躱し、近づき、迅速に行動を終わらせた。

 殺すことに躊躇いも後悔も無い。

 つまり、

 引き金を、

 引いて、

 銃弾が、

 殺到して、

 そして――

「さようなら――死ね、『青目』」


 末路、最後の三つ目は――ただ、死ぬだけだ。


 援軍である私が到着する前に全滅していた味方の中で、ただ一人立っていた男は倒れた。

 私が倒した。

 乱心した味方を、一人。

 私が殺した。

 たった一人の、戦友を。

 確実に殺したと思った。だが、即死ではなかったらしい。

 相討ち、だった。

「はは……ゴメンね、世話をかけた……」

「……正気に戻ったなら良い。相も変わらず変な奴だな、貴様は……」

 コイツの渇いた笑いは、やけに耳をうった。

「……そういえば、だいぶ昔に話したっけ。僕達は何がなんでも一つ目になろう、獣になってでも生き延びよう、って……」

 私達は互いに背を預け、背中合わせで座り込んでいた。薬莢から流れる硝煙の匂いは、既に嗅ぎ慣れたモノでしかない。

「結局は、どちらも同じ三つ目だった訳だ……馬鹿だな、私も……」

「僕も、ね。とんだ甘ちゃん二人だった訳だ……理性は、捨てられなかったなぁ……」

 息も絶え絶えになった私達が話したのは、そんな他愛もないことばかりであった気がする。

「先に逝くよ。僕は、生まれ変わったら……君には会いたくないな……」

 『青目』の胸に突き立てられていた、私が日頃丹念に磨いていたナイフが、ゴトリと抜け落ちる音を聞いた。

「……なんでそんなつれないこと言うんだ……ここは逆のことを誓うのが親友というものだろう……?」

 ひゅう、と息が喉から漏れる。私の腹に開いた穴からは、血が溢れきっていた。

「だから……だよ……。ねえ、君には、平和な日常ってヤツを……過ごしてほしかったよ……知らないかな、平和って言葉……」

「馬鹿にするな……貴様が知識を教えてくれたのだろう……だから今まで、生き残れたのだというに……」

 命の灯火が消えかけているのを、触れ合った背中越しで互いに感じている。

「最後に……改めて、伝えたい言葉が有るんだ……」

「奇遇だな……私にもあるのだが」

 そのまま息を吸い込んで――

「――私はな……貴様と会えて嬉しかったよ、『青目』」

「……ずるいや。男から言うものだろう、それ……」

「そうなのか……? すまん……」

「うん、じゃあ……僕も……」

 その言葉に、私は肩が震えた。


「――僕は……『黒子(くろこ)』……君という女の子(・・・)が、ずっと前から好きだった……」


「……遅い。私も……もっと早くに気づいておくべきだったな……」

「うん……あぁ……僕は、もう……逝く……ね」

 弱々しかった背中越しの鼓動は、そこで途絶えた。返事をする暇も、無いほどだった。

「……ああ、ゆっくり休め。私も……すぐ逝くから……」

 その時、頬を熱が流れた。

「馬鹿な……泣いているのか……私は……」

 生まれて初めてだった。

 悲しい気持ちさえ初めてだった。

 初めてがこんなのでは、とても耐えきれない。

 だから、自分がこれから死ぬことに、少しだけ感謝した。

「ああ……そう、なのだな……私は」

 きっと、私もお前が、好きだった。

 たった一人、私が必要とした人だから。

 だからきっと、これは恋だ。

 もう叶わぬ……恋だ……。

「これで……私も……お前の元に……行ける……のか……」

 待っていろ。


「――今、会いに行く……」


 そうして、誰も知らぬ場所で、誰も知らない二人が死んだ。

 そこで終わるならば良かったのかもしれないが。

 何の皮肉か、私には“続き”があったのだ。

 彼への恋心を悟った後に、男として生まれ変わった。

 だがいい。それでもいい。

 私は今度こそ、平和な日常を謳歌しようとしていた。

 亡き友の……そして愛した人の最後の望みを、叶えてみせると誓ったから。

 名前は美空亮一。一人称は“俺”。

 とある世界のとある国で、平和な男子高校生をやっている。

 白縫緋月という、どこかアイツに似た男友達と一緒に、温い日常を楽しんで生きる生活。

 私は、平和を生きる義務を背負っていたのだから。




 だが、その生活も高校一年の冬に終わりを告げる。

 つかの間の日常は壊されたのだ。

「……殺してやる」

 外ならぬ新たな友人、白縫緋月の手によって。

「ごめん……巻き込んでごめん、亮一」

「ふざけるな……殺してやる殺してやる殺してやるっ!! よくも……よくも俺をこんな非日常に巻き込みやがって!!」

 発端は、私にあったのだとは思う。

 高校に入学して出会った頃から時折怪しい動きを見せる緋月を、この日の私は追いかけてしまったのだ。

 私の妹の美空文花に、私に隠れて接触していたことに気づいたが故の行動だった。

 友人を疑っていた訳ではなかった。むしろ今でも疑ってはいない。

 だからそれは、くだらない好奇心だったのだと思う。

 神様に転生させてもらったこの平和な世界では、そうそう惨劇なんて起きないと思い込んでいた。

 ただ、私が知らないだけだったというのに。

 だが私を責めるのは傲慢というものだろう。

 いったいどうして、親友と妹を追いかけただけの行動が、非日常に踏み込む結果になると予想できただろうか?

 この二人は、街外れにある廃墟群に向かっていた。

「……今日は――を――だから……――月……」

「……白――さ――ど……」

 声が聞こえない距離からの尾行。

 するとどうだろう、廃墟の中へ入っていく友人と妹。

 ここで止めておけば、私はまだ日常に戻れた。

 けれど私は、そこで能力者同士の、人外の戦いを見てしまった。

 そして見つかってしまった。緋月と妹が戦っていた、一般人を殺すことも躊躇わない悪党から。

 そこで私は、取り返しのつかない間違いを犯したのだ。

 戦場の感覚を洗い落とすのは非常に困難だ。

 物陰で覗いていた私の背後から隠れて近づいていたもう一人に、普通の人間を装っていた筈の私は前世の経験から咄嗟に反応してしまった。

 何よりも平和を求める私に神から渡された技能(スキル)は、名前ばかりに皮肉を利かせた『一触両断(ピースメーカー)』。

 私が直接ないし武器と認識する物体に触れたモノを、真っ二つに両断するスキル……とんだ平和製造機だ。

 それを持つ私に、敵が殺気を滾らせて背後から飛び掛かった。

 つまり、どうなるか。

 戦場で生きた者特有の反射行動で、無意識に自衛した。

 襲い掛かる能力者に、触れて――

「う、ああああぁっ!!」

 ――反射的に、技能(スキル)を発動させてしまった。

 殺してしまった。

 私はまた、人を殺してしまった。

 平和を求める人間が、この法治国家で、殺人を犯してしまった――。

「もう終わりだ……だいなしだ…………殺してやる……っ」

「ダメだ、亮一ッ!!」

「止まって……兄さん……!」

 戦いが終わった二人の必死の懇願じみた説得により、その場ではとりあえず落ち着くことが出来た。

 この世には異能者がいて、裏で常に争いが有ること。

 二人はこの街を守っていた異能者だということ。

 既に二人も、人を(あや)めた経験があるということ。

「君の妹を戦わせていたのはボクだ……すまない、亮一……」

「黙っていて……ごめんなさい、兄さん……」

 そんな話を聞いて、私は異能者のフリをして彼らに力を貸す事になった。平和を求める為には、最愛の妹と友人を……ひいては日常を守らなければならなかったからだ。選択肢などありはしなかった。


 そしてその一週間後に、妹が殺された。


 私が殺した敵の仲間による、報復だった。

 自宅で惨たらしく殺されていた死体を見た時、傍には緋月がいた。

 右腕と両膝から下が無い亡骸(なきがら)を目にしながら、微動だにできなかった。

 私も彼も、無言だった。

 それは怒りだ。

 この上ない殺意を孕んだ怒りとやるせない悲しみが脳に沸騰した血液を上らせ、言葉を奪い去っていた。

 少なくとも私はそうだった。

 復讐を。

 復讐を。

 復讐を。

 死を。

 死を。

 死を。

 久しく眠っていた獣の感覚が、呼び覚まされた。

 報復には報復を。

 死には惨たらしい死を。

 惨たらしい死には、至上の恐怖と苦しみを。

 ……しかしヤツらの元に攻め込もうとしたその前日に、それは起きた。


 今度は、緋月が死んでいた。


 首を紐でくくりつけた彼は、学校の屋上からフェンスの外に身を投げ出していた。

 傍には、脱がれたスニーカーと紙切れが遺されていた。

『君の妹を死なせた事に耐えられない。顔向けできません。死にます。さようなら――白縫緋月』

 それは、明らかな自殺だった。

 そして、私に対する裏切りにも等しかった。

「なんだ……それは……なんなんだ……これは……」

 一人では敵討ちもできない。

 緋月も、敵討ちを望んでいると思っていたのに。

「ふざ……けるなよ……緋月……!!」

 先に逃げた。

 私を平和な日常に戻れなくした揚げ句、見捨てて、罪を背負わず逃げた……!!

 そしてなにより、

「殺してやる……緋月……」

 アイツが私を、一人にした。

「あぁ……ぁああああああああああぁぁぁぁッッ!!!!」

 そこで私の人生は幕を閉じた。

 無謀にも遺された一人で敵討ちへ向かったが、数の暴力には叶わなかった。

 やがて力尽き、死に絶えたのは当然のことだ。

 黎明の雲海は二度目だった。

 胸に渦巻くのは怒りだった。

 復讐心は、いまだ収まりきらなかった。

 神はそこで私に、白縫緋月もまた転生者であったことを教えたからだ。

「俺に力を! 私に力を!」

 成さねばならぬ。平和を求める者(わたし)を成さねばならぬ。

 待っていろ、緋月……復讐の時だ。

 そこで、お前を殺してやる。

 そして初めて、楽になれる。

 私を苦しめている(むく)い、必ず受けさせてやる。

 だから――

「首を洗って待っているのだな、緋月――いや、」

 そして、


「『青目』よ」


 『私は貴様を、許さない』。

 

読んで下さった方はありがとうございました。

今回は『叙述トリック未満』みたいな文を書いてみました。

あくまで『未満』なのは、作者の未熟による単なる『描写不足の狡い文』のような気がしてならないからです。

やっぱり回想シーンで使う手法じゃあないのかな……なんかフェアじゃない。ミステリだったらそもそもやってないようなレベルで。ミステリなんか書いたことないけど。


まあそんなことは置いときましょう。ファンタジーですし、この作品。


これで過去話は二回目になりますが、テンポを殺さない程度にちょくちょく挟むかもしれません。過去話は転生者モノの華だと考えているので。


最後に、分かりやすく同一人物表。作者も初めて聞いた表ですがね。


一章時点→二回前(前々回)→三回前となっています。


『夜城唯貴』→『白縫緋月』→『青目』→それ以前


『リヒド』→『美空亮一』→『黒子』


『火無月』→『美空文花』→『軍曹』→それ以前


『リアンヌ』→『?(一回前)』


『左門真遊』→『某国研究所の所長』→『極東の島国でヲタクライフ満喫』→それ以前



……色々ツッコミたい気持ちは分かりますが、これがこの作品です。

作者がびっくりしたのは火無月ちゃん。精神に異常がある方(つまり自我の濃い人間)はかなり様々な人生を経験させられることになります。主犯は神様。かなり楽しんでる。

左門真遊に至ってはモブキャラの立ち位置。実はバランスブレイカー並に強いという設定が隠れているので、ほとんど物語(イベント)には参加できない。だから一章で唯貴を見つけた時について来たがった訳です。主人公体質が物語を引き寄せるのは知ってますので。

その主人公本人に至ってはかなり癖が強い。ちなみに、自殺常習犯だからといって必ず毎回自殺している訳ではない。作中で主人公が言っていたように『能力(スキル)なんて物があってもどうにもならない事もある』ということ。つまり……


長くなりすぎました、失礼。

ではまた次回。

しーゆーあげいーん。

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