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『X・OVER WORLD』  作者: 工人
第一章『近代魔法世界編』
12/25

第九話『出口のない迷路』

 どうも工人です。

 今回は区切りよくしたら短めになりました。でもできるだけ早めに投稿です、ぺこり。


 さて、いきなりですが今話はグロ注意です。血の雨が降る中であははうふふです。

 なに言ってんのか分かんねぇとは思うが……(略

 まぁつまり、いつも通りのシリアスをギャグでだいなしにした話です。醤油をかけられたプリンみたいなものです。あしからず。



 ボクは致命的な勘違いをしていた。

喫茶店襲撃によって鉄パイプが突き刺さった腹部――その傷が、完全に癒えてしまっているのだと思い込んでいた。

 傷を塞いだ時点で意識を失ってしまった為、目覚めた時には腹の内にまで及んでいたダメージに気づけなかったのだ。

 しかしそのダメージは確実に蓄積されていた。激しい動作を繰り返す内、微小な傷は悪化し、一晩安静にすれば塞がっていたはずの傷口を拡げてしまう。

 普段『突然変身(めたもるふぉーぜ)』で身体を根本から別の形に変えるときは、現在の身体情報を保存したあと、過去のそれを読み込む(ロードする)ことで肉体を再現している。でなければ再構成に時間と労力が掛かりすぎてしまう。

 だから、今回はその“手抜き”があだとなった結果だった。内臓の傷ごと再現してしまっていたのだ。

 痛みが出始めた時、ボクはナイフを躱している最中だった。

 激痛と疲労により、『突然変身』による治療に意識を割く余裕すらない。

 激痛に鈍る動きを、敵が見逃すはずもなく。

 無情にも、意識を侵す猛毒の一撃が――死に到るナイフが。

 心臓へと、吸い込まれ、


 ――音も無く、弾かれた。




第九話『出口のない迷路』





「――通り魔さんは私に下さる約束……だった筈ですよ、お姉様(・・・)?」


 場所は十メートル上空。マンションの一室にあるベランダ――可愛らしくも陰鬱な声の主はその手摺りの上に立っている。

 彼女は、ボクが今まさに訪ねようとしていた人物その人。

「……助かったよ、本当に」

 現在、あらゆる世界にたったの八人しかいない『百回越え(エクシード・ハンドレッド)』の回数を誇る転生者、通称《手首狩り(リストカッター)》。

 ボクの旧知の少女――火無月(ひなづき)

 混沌の前衛芸術みたいな自作のナマコ髪飾りを愛用する、毒電波ならぬ鬱電波(うつでんぱ)少女。

 得意料理は――白粥(おかゆ)

「そこ……余計なことは言わなくていいです……見捨てましょうか……?」

 自重。

 火無月は金属の手摺(てす)りを蹴りつけて、見た目に似合わずアクロバティックに宙で何度か身体を捻ると……ふわり、とまるで重さなどないように、十メートルの高さから軽やかに着地した。

 ボクと通り魔の間に降り立った少女は、実に憂鬱かつ優雅に、陰鬱かつ慇懃(いんぎん)に一礼する。

「《手首狩り(リストカッター)》、火無月=I=ミューリヒェン、恩師《自殺師(キリングドール)》の助力に参上した次第です……」

 珍しく一息で台詞を言ってみせる。それは、火無月という人間が本気で感情を(たかぶ)らせている証だ。

 ……殺されそうになったボクを見ての喜びじゃなかったらいいなぁ。

「安心して……下さい。これは……怒り、ですから。お姉様を殺すのは、誰であれ……許しません」

 よかった、すごく安心した。

 と、暗い路地裏に困惑した男の叫びが響き渡る。

「なんだお前……なんなんだよおい……!?」

 焦りと混乱、混じり合った感情で叫ぶ通り魔。

 気持ちは分からなくもない。

 ボクを仕留めたと思った瞬間、上にあるマンションの一室にいた人間にナイフを弾かれたのだ。

 魔法ではこんな遠隔発動ができない。

 純粋に魔法か物を投げ付けたのなら、ナイフに当てて弾く技量は“二階から目薬”どころの騒ぎではない。

 そして実際には――

「――ただの、反則(スキル)……ですよ。

 というか何が『気持ちは分からなくもない』ですか。非常識筆頭が何を常識派みたいな顔を……」

「ちぇ。いいじゃないか、これくらい見逃してくれても」

 まぁ、彼の警戒は決して行き過ぎではない。むしろ不足な程だ。

 『遮壁(カッターシャット)』。

 火無月という転生者(クラフト)がデフォルトで持っていた技能(スキル)にして、大きな移動の少ない近接戦闘では切り札となり得るチートじみた火無月の“奥の手”。

 その能力は――

「何なんだよお前ら……!?

 反、則? ……んな訳の分かんねぇ理由で……邪魔してんじゃねぇっつーんだよぉ!!」

 通り魔の少年は吠える。

 鈍くぬらりと光を放つ銀を構え――選んだのは、突撃という愚策。

 他に使える戦術が無かったのか。

 それとも無手で構えもせず自然体でいる火無月に、好機と見たか。

 一、二――三歩で詰め寄り、腕を伸ばす限界の距離から火無月に斬りかかる。

 触れれば決まる故の利点か、深く突き刺す必要のないナイフの挙動は定石(セオリー)から掛け離れていてあまりにも読みづらい。

 それはボクに対した時と同じように胸の中心近くに吸い込まれ――

 馬鹿が……それは愚策だ。

「……そもそもお姉様は気にしすぎです……いいですか、使ってこその能力(スキル)なんです。能力(スキル)の隠匿なんて……考えている転生者(クラフト)は、両手の指にも足りませんよ……」

 そんなことを言いながら、何気なしに視線をナイフに合わせた。

 それはまるで、照準を使って狙いをつけているように。

 次の瞬間、ナイフは再び先程のように無音のまま弾き返される。

 否。弾き返された訳ではない。

 身体に届く直前、無理矢理に切っ先が停止したのだ。

 それ以上先には進めないとでも言うように。

 ……あえて隠されたネタを明かす無粋を働かせてもらうなら、それが比喩ではなく真実であると証明できる。

 目には見えない――正確に言うなら、限りなく視認の難しい無色透明な六角形の壁が、そのナイフを受け止めていたのだ。

「なんだ……こりゃあ……!?」

 少年は間近でようやく視認できたのか、その薄いガラスのような六角形に、疑問を感じているようだ。

 その全貌は、成人男性の手の平大の大きさを持った六角形の薄い板。

 宙に浮いてぴたりと静止しているそれは、まるで局所的なバリアーを張っているようにも見える。

 ……いや、それこそ否か。

 これが火無月の誇る障壁結界、『遮壁(カッターシャット)』。

 自身が知覚している空間内に、座標を指定して三十センチ四方の六角形バリアを発生させる技能(スキル)

「……絶対無敵の、切り札です、ぶい」

 口だけでピースを決めた姿は、どこまでも脱力している。相手は舐められているのだと思っているに違いない。

「なるほど、それがテメェの魔法ってことかぁ? 見たことねぇ種類だが……いくら強力な防御結界でも、魔力汚染の問題で物理障壁を隙間なく長時間展開することはできない。いくら自分の固有特色でも、(こも)って濃度が上がれば害があるらしいからなぁ……」

 コイツも随分と博識ではあるが……ああ、その勘違いは致命的だ。もう勝負は決まったかな。

 スキルに、魔力(ねんりょう)切れも魔力汚染もありはしない。

 全方位に展開しないのは、操れる六角遮壁の数に限りがあるからだ。

「色々試させてもらうぜぇ!」

 眉間にナイフを突き出す。

 瞬時に現れた二枚目の遮壁がそれを止める。

 火花も散らなければ、金属をぶつけたような硬い音もしない。反動で跳ね返ることすらしない。

 無音の停止。

 なぜならその“遮壁”の本質は、名前通りの遮絶。

 そこより先に進めない。

 だから停止する。

 空間の繋がりすら阻害している。

 だからあらゆる物を拒絶できる。

 ――自分が壊してしまいかねない日常と決別し、関わりを持たないと誓った少女に与えられた力。

 世界をつまらないとしか感じられなかった彼女が、もう関わってはいけないと自責した結末。

 自身の罪深い業が世界を蝕むことを恐れた、優しさによる拒絶。

 喉笛、人中、(けい)動脈。

 両目、鳩尾(みぞおち)鼠径(そけい)部、(わき)下。

 胃と肺と肝臓と。

 手足の(けん)と関節と。

 少年は人体の急所を的確に狙ってナイフを振るう。

 あえて狙う必要のない急所を狙うのは、相手の恐怖心を煽って流れに乗せようとしているのか、火無月の挑発じみたやる気のなさに乗ってしまっているのか。

 どちらにせよ、泥舟には違いないが。

 その数、十。

 遮壁は常に幾つも展開され、壁のように幾重にも張り巡らされている。

「結界魔法にしては堅すぎるぜ……これじゃあ千日手になっちまうなぁ……」

「いえ、そうとも……限りませんよ」

「あん? どーゆーことですかぁ?」

「それより、一つ教えてもらっても……いいですか?」

「言ってみろよ」

「通り魔さんは……なぜ、人を殺すのですか? 理由に……興味があるので」

 火無月がそういうと、何を勘違いしたのか怪訝そうにした後、通り魔は得意気な顔になった。

「死体が好きだからだよ。殺すのもいいが、それよりそっちだな。分かったか? 分かったら殺されてくれ」

 その解答を聞くや否や、

「ええ……分かりました。ですので、もう別に死んで下さっても……構いません」

 火無月は、会話(あそび)の終わりを一方的に告げた。

 瞬間――通り魔の両手首から先が、音もなく切断され(・・・・・)

「がっ……あああぁぁぁぁっ!!!!」

 噴き出した鮮血が、路地裏を赤く染める。

「っぁぁぁあああああ!! てめぇ……っなにしやがったぁ……っ!?」

「防御結界と勘違いしていたようですが……これは遮絶の壁――繋がりを拒絶する性質を固めて作られた……概念の壁です。どんなモノでも破れず、通ることは……できない。

 繋がりの否定を利用すれば……物体の切断は豆腐を切るより簡単です。あ……この世界には豆腐なんてないんだった……」

 出現位置は周囲二十メートル以内に自由。物質の結合すら断絶するその性質の為、物体に割り込ませることもたやすい。結果、手首を遮絶することで切り落とす――繋がりを断つのである。

 最大同時展開数は現時点で十四枚。展開速度に至っては、座標を把握している視界空間内においてコンマ二秒を誇る。神によって知覚できるように拡張されている“魂”、その記憶領域を応用した転生者(クラフト)特有の並列思考(マルチタスク)までを利用すれば、近接戦ではまず(かわ)せない。

 閉塞された空間で溢れ出る赤い液体は、生々しい暖かさを伴って空間を満たした。

 うわ……やり過ぎだよ。両手切り落とすなんてどっちが悪人なんだか……ま、いつもの事だけどさ。火無月が敵の無力化によく使う手だ。

「お姉様も……相当ロクでもないですね。

 それに……私の名前は《手首狩り(リストカッター)》……正真正銘いつものやり口ですから。首を落とさなかっただけマシだと思って下さい」

 いつの人生だったか、『少女王』と呼ばれていた火無月の、会議に並んだ敵国の王様達の首を席についたその場で全部()ね飛ばしてしまうという凶行を思い出してしまった。ああ恐い。間違いない、極悪人はコイツの方だった。

「酷いです」

「どの口が言うか」

 先程から静かだと思っていたら、既に通り魔は虫の息で片膝をついていた。

 それはそうだ……両手首なんか切り落としたら、出血多量で死んでしまう。貧血で眩暈(めまい)に襲われているのだろう。

 後で『突然変身(めたもるふぉーぜ)』でくっつけてあげよう。他人の神経繋げるのは難しいから、もうナイフは握れないかもしれないけど。

「人でなしの癖に……やたら誰にでも甘いんですよね。勘違い野郎でなければ……どんな鬼畜もたいてい許すというか……生れついてのどうしようもない性質であれば好むというか……むぅ、複雑です……」

 そりゃあ人間じゃないし。

「何を馬鹿な。ボクはいたってシンプルだよ、ヒナ。ボクには死んでも次があるから、転生者以外には色々と譲ってしまう。何回も生まれ変わっているから、生れついた性質のどうしようもなさにも共感してしまう……それだけだ」

「それは……ワザと勝負に負けられる強者の余裕と……表裏一体ですよ」

「さてね。どちらにせよ、この甘さはボクにデメリットしかないよ」

 前を向いたままだった火無月が改めて向き直ると、ボク達はどちらからともなく、微笑んだ。

「ありがとう、ヒナ」

 多分誰にも聞かれてないので、昔の愛称で呼ぶ。

「どういたしまして……お姉様」

 いつぞやの街中で出会った時とは違う、本当のボクと火無月の関係が、そこにはあったと思う。

 この殺人未遂現場でそれは、かなりシュールに見えると思うが。ていうかかなりホラーじみている訳だが。

 まあ、いいじゃないか。

 ――そんなことを思ったのが引き金になった訳ではないと、そう信じたい。


「――ようやく見つけたぞ、夜城唯貴……いや、『アマテラス=ラヴ』……!!」


 突如として路地裏に、実に耳障りで聞き覚えのある、傲慢そうな男の声が響き渡った。

「ひ、ひははっ! 来た、来ちまった!

 旦那だ……リヒドの旦那が来てくれたっ!!」

 それを聞いた通り魔が、いきなり伏せていた顔をあげて狂ったように笑い出す。

 『リヒド』……なるほど、それが今回の君の名前(・・・・・・・)なんだね、亮一(りょういち)

「分かっていると思うけど……今回も“彼”とはボクが戦うよ。さがっていて、火無月」

 戦闘態勢になっている火無月を言葉で制する。

「……もう一声」

「……さがっていて、ヒナ」

 そこまで言われたら仕方ない、とばかりに渋々引きさがってくれる。

 次の瞬間、ビルの壁を何者かが駆け降りてきた。

 飛び降りて、暗闇の中に着地。

 コツ、コツ、と靴を鳴らし、こちらに歩み寄る影。

 月明かりの下に現れたその長身の男は、金髪に赤と青の左右異彩症(オッドアイ)をした美形という、実にそれらしい姿をしていた。

 身に纏うのは騎士甲冑を模したような金属パーツがついた、黒いロングコート状の衣服。

 ああ、有り得ない。なんて厨二病……どうしてこんなになるまで放っておいたんだ!

 視界の端で口を押さえた火無月が肩を震わせている。表情からは分かりにくいが、さてはボクの思考を覗いて笑ってしまったな……?

 おっと、そんなことを言っている場合じゃない。

 見た目はこんなのだが、それに性能が見合っているのがタチが悪い。

「すまない、助けに来るのが遅れた。今の内に逃げろ、その手は導師が治療してくれるだろう」

「あ、ああ……旦那も気をつけてくれ。あの女、旦那みたいな“よく分からねぇ力”を使いやがる……」

「ああ、知っているとも……私の宿敵だ。もっとも、本当に厄介なのは、この男の方だがね」

 そう言ってボクを見やる目に溢れる感情は、憎悪。宿敵に向ける復讐の色だ。

「夜城博士が、だって……?」

「この化け物は人間を見下している。むしろ標的にされなかったのが幸いだ、喧嘩を売って細切(こまぎ)れになった輩は掃いて捨てるほどいたのだからな……」

 随分と好き放題言ってくれる……

「失礼だね、人をそんな危険人物みたいに言わないでくれよ。自衛しかしていないだけじゃないか」

「黙れ緋月(ひづき)……今は夜城唯貴だったか? いつも私の邪魔ばかりする男が……

 貴様が私を二度も殺した事、忘れたとは言わせんぞ!!」

 …………。

「前々回の話か。ボクは白縫(しらぬい)緋月で、君は……そうそう、こんな名前だったよね」

 男の目の色が、苛立ちから(はげ)しい怒りへと変わる。

 この時、ボクらは確かに対峙していた。

 この先の未来など、誰にも分からない。

 今のボクを、誰にも見せたくはない。

 今までのボクは、ここで断つ――


「ボクの親友――美空、亮一くん――」


()を……その名で呼ぶなッ!! 私の名前は……『リヒド=ファイツェルン』だ――!!!!」


 という訳で第九話をお送りしました。


 火無月ちゃんvs通り魔のバトルシーンの筈ですが、イマイチ納得いかない感じはします。今回は派手さが足りない気がする。

 ウチの異能力はよくある設定の能力ですが、ちょっとだけキャラとの繋がりを深めてみました。ヒナちゃんの過去回想を伏線にした話でした。


 ちなみに、スキルとか通称の名前は結構遊びが入ってるのが多いです。


『手首狩り』→『首狩り』

『突然変身』→『突然変異』

『リストカッター』→『リストカット』


 とか。かなり適当気味ですけどね(笑

 次回は二次創作系メタなネタが出てきます。原作介入とか、主人公アンチとか。

 うーん、カオスの予感。

 え? 今更だって?

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