序 「目覚め」
【警告】お読みになる方へ【警告】
・ディストピアものです。
・読み進めると不快な表現が出てきます。
以上を踏まえた上でお読みください。
……今回は特に不快な表現はありませんがねw
深い、深い闇の底から、ゆっくりと、ゆっくりと……
意識が、幻想から、現実へと、引き戻されて、浮かび上がっていく……
やがて……
自分は、自室のベッドに寝ていて……
その、傍らには……
いつも変わらない、私の、自分専用の奉仕者……
三島が、佇んでいるのが、わかった。
奉仕者たち ―Servants―
第一章 紗栄子
・序「目覚め」
「おお、お目覚めになられましたか……おはようございます、紗栄子お嬢様」
私が目を開いて三島を見た、その視線を感じてすぐ、彼は私に声をかけてきた。
彼は人間ではない。執事型奉仕者だ。
「ミシマ……私、どうしていたの? 何かおかしな夢でも見ていたような記憶があるのだけど……」
「お嬢様は……魘されておいででした……何か酷い悪夢を見ておられるようでした」
「そう……」
「あまり酷いようでしたらお起ししようかと思ったのですが……その前にお目覚めになられました」
「ありがとう。ミシマ」
「いえ……これが私の仕事ですから」
執事はそう言うと、表情を柔らげ、
「さて、お嬢様、今日はいかがなさいますか?」
と、訊ねてきた。
「そうね……って、あれ?」
枕元の時計――年月日表示付き――に目をやる……え? 今日って……
「登校日じゃないのっ!」
がばっ、と起き上がる。
「お、お嬢様? 登校日であってもまだ登校時間までには十分時間がございますが?」
珍しく慌てたように声をかけてくる彼。
「宿題っ! 宿題やるの忘れてたのっ! こればっかりは自分でやらなきゃならないのは奉仕者たちも知ってるでしょっ!」
「あ……ああ、そうでしたね。しかし……」
彼もちょっと――ほんのちょっとだけ――焦った様子を見せたが、すぐ立ち直り、
「宿題も大切ですが、その前に」
ぴしっ! と引き締まった表情で、
「洗顔、身だしなみ、着替え、朝食。これだけはしっかりやっていただかないと、私が旦那様から叱られます。特に本日が登校日であれば、念入りにやらなければなりませんっ」
そう言うと、
「では、家政婦の彩と交代いたします。後ほど」
言いつつ部屋の扉を開けると、そこにはしっかりとメイド服に身を固めた奉仕者、彩がワゴンを押して現れた。
※ ※ ※
「う~ん……」
学校へ向かう装甲車の後部座席で、紗栄子は頭をひねっていた。
『どうかなさいましたか? お嬢様?』
運転士の奉仕者、山本さんが伝声器を通して声をかけてくる。
「やってあるのよ」
『はい?』
「やってあるのよ、宿題」
『しゅくだい、ですか?』
「朝の支度で宿題、やる時間がなかったの」
『はい』
「仕方ないから登校途上に済ませようと思ったら……やってあったの」
『……はい』
「確かに自分の字で書いてあるんだけど、やった記憶がない……変じゃない?」
『……たしかに、変ですね』
「変でしょ?」
『変です。しかし、』
「しかし?」
『宿題をやってなくて、あるいはやっつけ仕事でやったのがバレて教師に叱られるよりはいいんじゃないでしょうか?』
「あ……あ~……そう言えば、そうね」
『でしょう?』
「ですね……ありがとう、山本さん」
『いえいえ』
※ ※ ※
この時、紗栄子は気付かなかった。
いや、気付いていたとしても、どうすることが出来たのだろう?
それは、現在でも判らない。
◆登場人物について……
原則として、名前に片仮名ルビが付いてたら奉仕者、平仮名ルビが付いてたら人間です。
ただし、「旦那様」は人間です。紗栄子の父親が奉仕者なわけ、ないでしょ? って、あれ? ソッチの方が面白いかな?
紗栄子「やめてぇ(涙目)」