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僕は君のために星を捨てよう

作者: かも ねぎ
掲載日:2026/06/17


「セシリア!」

「エリアス!

 もう終わったの?」 

 

 彼は両腕を広げて、愛しの婚約者を迎えた。

 腕にセシリアを抱くと、愛しげに目を細め、そのキャラメル色の髪を一房取る。


「僕のシリウス。最も明るい星よ。

 今日も美しいね。会えて嬉しい」

「あなたこそ、美しいわ。

 私も会えて嬉しい」


 王宮の回廊。

 王への星読みの報告を済ませた彼は、紳士淑女たちの憩いの場となっている庭園を抜ける回廊にいた。


 その場にいた貴族たちは、一斉に彼に目を向ける。


「エリアス様だわ。相変わらず麗しいわね」

「今日も仲睦まじくて、微笑ましいわ」


 黒髪に黒い瞳。夜空をそのまま映し取ったような彼の姿に、ため息をこぼす女性たち。それを見た紳士たちも、仕方ないとばかりに苦く笑っていた。


「陛下は星読みの中でも、彼を最も重用しているとか」

「それで今日もこちらへ通っているのか。つい先日も彼の姿を見たばかりだが」


 噂など、彼の耳には入らない。


「あぁ……早く結婚してしまいたい」

「ふふ。ねぇ、時間はある?

 少し、庭園をあなたと見たいわ」

「時間はあるよ。君に使う時間しか僕は持ってないからね」

「全く……星読みは忙しいって知ってるのよ」


 セシリアは苦く笑うと、エリアスの腕をそっと取った。エリアスはその華奢な手を優しくトントンと叩くと、並んで歩き出す。


 花が咲き乱れる庭園。

 風が吹くと、揃って花が揺れ、葉擦れの音が彼らの耳元で囁きを落とす。数羽の小鳥がさえずりながら、仲良く飛ぶ姿が見えた。


「星はもちろん好きだ。静かに僕たちを見つめている姿にどうしても惹きつけられてしまう。

 でも、君と歩く昼間の日差しはもっと好きだ。

 ――君が笑っていてくれるからね」


 セシリアが横を見ると、優しげに細められた黒い瞳と視線が絡む。その瞳は、星屑を散らしたように差し込んだ陽を返し、白い肌は透き通って、彼の神秘的な姿に拍車をかけていた。

 セシリアは頬を緩めて、彼を見つめ返す。


「私は、あなたが笑っていてくれれば、それでいい。愛してるわ、エリアス」


 エリアスはセシリアをじっと見つめ、遅れてぎゅっと目を閉じた。


「こんなのもはや拷問だ!

 早く結婚の許しを得なければ!」


 セシリアが笑うと、エリアスも声を立てて笑った。




 だが――

 その時、庭木の向こうで、葉が不自然に揺れる。


 整えられた庭木の間から一人の女が飛び出してきた。

 彼女はエリアスとセシリアを順に見据え、音が鳴りそうなほどに、歯を食いしばる。


 そう、全ての人が彼らを祝福しているわけではない。


 ――エリアスは、美しすぎたのだ。


「エリアス様!」

「やぁ……えぇと、君は?」


 女は鋭くセシリアを睨めつける。エリアスはセシリアを庇うようにして立つと、困ったように眉を下げた。


「名前さえ覚えていてくださらないなんて……。

 美しいあなたが手に入らないのなら……

 いっそ……」


 女は、手に持っていた瓶のコルク栓を抜き、その場に投げ捨てた。


 エリアスの顔がわずかに強張る。


「その女を選ぶ限り、あなたは二度と星を見られないわ!」

「何を言って……」

 

 女は腕を振り上げた。

 瓶の中身をエリアスにぶち撒ける。


 周りにいた人々から悲鳴が上がった。


「いい気味ね!」


 女は走り去った。

 見ていた紳士たちから衛兵を呼ぶ声が上がり、場は騒然となる。


 エリアスの髪から、透明な雫が落ちた。


 顔を目掛けて投げ付けられた無色の液体は、ゆっくりと、彼の服を濡らす。


「セシリア、君は大丈夫だった――」


 エリアスは振り返って背にいたセシリアを見ようとした。


 だが、彼は低いうめき声を漏らし、目を押さえて蹲る。


「……エリアス!」


 セシリアもしゃがみ込み、彼を支えた。


「誰か! お医者様を呼んで!」


 強い風が吹く。


 騒然とする貴族たち。

 駆けつける衛兵と医者の足音。


 穏やかだった庭園は、その空気を揺らした。

 

 ――星読みの男、エリアス・ノクスリーはこの日、呪いをその身にうけた。


 


 その晩。

 同じく星読み師として働く父とエリアスは、観測塔へ登った。

 

 あの液体を浴びた後しばらくは目の痛みがあったものの、今は落ち着いている。

 医師の見立てでは、視力をはじめ身体の異常は無かった。

 王家が囲っている希少な呪術師も手配してもらったが、その者の到着は遅れている。


 エリアスは夜空を見上げた。

 

 いつもなら、彼には星の囁きが聞こえる。

 星のその軌跡は、彼に物語を語りかけるように全てを教えてくれる。

 彼は、星読み師としては、類まれな才の持ち主だった。


 だが、彼は、眉を寄せた。


 空には、

 ……何もない。


「父上……雲が、出ていますか?」


 エリアスの父は目を見張る。息子を見、また空を見上げた。


「今日は……快晴だ」

 

 父の声が震える。


「あの女性は……僕に“二度と星を見られない”と言っていました」

「エリアス……お前……」


 エリアスは、震える手で目を塞いだ。


「嘘だ……」

「エリアス……」


 エリアスの肩が震え出す。立っていられず、膝をついた。


「嘘だ……そんな……」


 父もエリアスの前に膝をつき、その肩を支える。


「父上……

 星が……星が一つも見えない。

 真っ暗だ……

 何も聞こえない……」

「エリアス、落ち着け。少し休もう。

 大丈夫。大丈夫だ。

 きっと戻る。

 お前は……お前は星に愛されているんだから」

「僕に……星が見えないなんて……」




 その日から、エリアスは星が一つとして見えなくなってしまった。

 あらゆる治療を試すも、

 星だけが見えない。




 数日後に訪れた呪術師の老婆は言った。


 “女を手放すか壊せ。

 ――さすれば星は戻る”


 ただそう、告げたのだ。




 セシリアがエリアスを見舞いに訪れた。


 彼は出窓の前に置かれた肘掛け椅子に静かに身を預けている。

 その美しかった瞳は布で覆われ、いつも丁寧に編まれていた黒い長髪はわずかに乱れていた。


「……エリアス」


 彼の肩がピクリと震える。そして、ゆっくりと振り返った。


「セシリア……来てくれたんだ。花の香りがする。

 花を持ってきてくれたんだね」


 セシリアは毛足の長い深い青の絨毯を踏み、ゆっくりと彼に近づいた。腕に抱えた花は、彼が好きだと言っていた白いユリ。


「……視力が落ちたわけではないと……聞いていたのだけど」

「そうだよ。星以外は何でも見える」

「……どうして、目を隠しているの?」

「星が見えないんだ。

 他の何が見えたって、意味がない」


 ユリの花束を、そっと彼の前のテーブルに置いた。


「あぁ、ごめん。嘘をついた」

「……え?」


 彼は布を取り外す。


「セシリアだけは見たい。

 他はどうでもいいけどね」


 エリアスが、顔を上げる。

 彼の黒い瞳と、セシリアの薄青の瞳が交わった。


 その瞬間――


 彼は短く声を上げ、目を押さえた。

 椅子ごと倒れこむ。


「エリアス!」


 セシリアが彼を支え、エリアスはもう一度、セシリアの瞳を見た。


 セシリアの呼吸が止まる。


 セシリアは先ほど外された布を手に取ると、急いでエリアスの目を覆った。

 

 布が、じわりと赤く濡れる。


 彼の目から、血が溢れていた。


「……なんてことだ!」

「エリアス」

「君のことも見られないなんて!」


 彼は血に濡れた布を押さえた。


「こんな目、抉り取ってやる!」

「やめて!

 エリアス!

 落ち着いて」


 セシリアの目から、涙が落ちる。

 

「誰か! 誰か来て!」


 セシリアの声に、使用人が部屋に駆け込んできた。

 暴れようとするエリアスを使用人が抑え込む。


 セシリアは、エリアスの使用人たちに促されて部屋の外に出た。

 部屋の中からはエリアスの声と、それをなんとか止めようとする使用人の声がする。


 物が倒される音。

 何かが割れる音。


 “その女を選ぶ限り、あなたは二度と星を見られないわ!”

 

 あの女の声が蘇る。

 セシリアは震える手で口元を抑え、廊下に蹲った。


「エリアス……」

 

 何もかもが、壊れる音がする。




 数日後。


「何を言っている?」


 目を布で覆ったままのエリアスは、正面に座っているセシリアを布越しに見つめた。


「婚約を解消しましょう」

「だから、なぜ?」

「私が離れれば、あなたは星が見えるようになるのでしょう?」


 出窓から差し込む光は、物の置かれない静かな部屋を、白く染めていた。

 彼が花瓶をことごとく割ってしまうため、この部屋には花は飾られていない。セシリアが先日持ってきたユリは、廊下に飾られている。


「君が離れる必要はない」

「あなたが苦しむさまを、見ていられない。

 離れましょう。私たち」


 エリアスは奥歯を噛み締めると、席を立った。テーブルをまわり、セシリアの前に膝をつく。


「星は……見えない。でも、僕以外にも星読みはいる。彼らの観測した数値を読み取ることはできるんだ。

 だから、僕は星読み師として、今後も身を置けることになった。

 だから……だから……君を生活で苦労させることはないよ」


 セシリアは彼の震える手をそっと取った。


「違うの。

 違うのよ、エリアス。

 あなたが笑っていてくれるなら、星読み師という栄誉ある立場を失ったって、私はあなたのそばにいる」

「なら……なぜ……」

「星を……見たいのでしょう?」


 エリアスの唇が震える。


「星を、あれほど愛していたじゃない」

「君を愛している。

 君がいれば星なんて――」


 言葉が、途切れる。


「嘘よ」


 セシリアは彼の髪をそっとすくい取った。銀河のように瞬きを失わないそれは、胸が締めつけられる程に美しい。


「……嫌だ」

「エリアス……」

「どれほど君を困らせたとしても、僕は絶対に婚約解消なんかしない」


 彼は立ち上がる。


「僕から離れようなんて、馬鹿なことは考えないでくれ」


 彼のこぶしは強く握られていた。白く浮きだった節。セシリアはそれを見て、小さく息を吐いた。


「今日は、帰るわ」

「セシリア……」


 セシリアが席を立ち、彼の脇を抜ける。


「エリアス……」


 “愛しているわ”


 言葉には、ならない。

 セシリアは瞳を伏せ、足早に部屋を出ていった。


 扉が、閉まる。


 彼女の残り香だけが、ここには残った。

 エリアスは、その場に立ち尽くした。

 うつむき、ただ静かに呼吸を落とす。


「……呼んでくれ。

 呪術師の彼女を。

 ……話したい」


 セシリアと入れ違いに入ってきた使用人が頭を下げる。

 その衣擦れの音は、やけに部屋に響いた。


 握りしめられたこぶし。

 その爪は、彼の手のひらを傷つけ、血を滴らせた。


 


 また、幾日かが過ぎた。


「僕は、婚約解消はしないと言ったはずだよ」

「エリアス。あなたの意見は聞いていないの。

 ――もう決めたのよ」


 エリアスはいつもの椅子に座り、目を布で覆ったまま、声のする方へ顔を向けた。

 セシリアは椅子には座らず、彼の近くに立ったまま。


「私、国外へ出るわ」

「僕を置いて?」

「そうよ」

「外で、貴族令嬢である君が何をするというの」

「やりたいことがあるのよ」

「やりたいことって?」

「教えないわ」


 エリアスは眉を寄せ、席を立った。エリアスがセシリアに向かって手を差し出すが、彼女はそれをするりと避ける。


「……僕から逃げるつもり?」

「やりたいことをやりに行くのよ」


 彼は息を呑んだ。


「……本当に、やりたいことなの?」


 エリアスの声が震えている。


「そうよ。

 今日はあなたに婚約解消の許しを得に来たわけじゃないの。

 さよならを言いに来ただけ」


「……嘘だ」


 エリアスがまたセシリアを探して手を伸ばすが、セシリアはその手から逃げた。


「嘘だって言って」

「嘘じゃない」

「だって……君の声」


 エリアスがセシリアを追う。彼女は一歩、一歩と下がるが、背が壁に触れた。エリアスは彼女の肩の横の壁に手をつく。


「……震えているじゃないか」


 エリアスの目に当てている布が、じわりと濡れた。


「エリアス……泣かないで」

「君がひどいことを言うから」

「エリアス。

 最後に一つだけ、思い出が欲しいの」


 彼の眉が寄る。


「……口づけをして」

「そんなの結婚したらいくらでも――」

「結婚はしないのよ。私たち」


 エリアスの拳が、壁を叩いた。


「僕がどれだけ君を大切にしてきたのか、わからないのか」

「わかってるわ……」

「結婚したら……初夜を迎えて……

 それで僕はやっと君を手に入れられるんだ。

 それまで、僕がどれほど……」

「知ってる。わかってる。

 すごく……すごく大切にしてくれたこと。

 でも、最後だから……」

「最後だなんて!」


 セシリアが彼の頬に手を添える。


「エリアス。あなたは素敵よ。

 みんな、あなたの見た目と才能ばかりを褒めるけど、たくさん……たくさん素敵なところがある。

 感受性が豊かで、よく笑うの。

 プライドも高いのよ。悪いことじゃないわ。自分の美学に正直で、まっすぐなの。

 そういうところ、とても、格好がいいわ。

 誠実で、素直で、時々子どもみたいに頑固で……」

「セシリア……」

「愛してるわ」

「じゃあ、そばにいて」

「愛してるから、そばにはいられない。

 あなたは素敵。

 私がいなくなっても、またすぐに素敵な恋ができるわ」

「出来るわけないだろう!

 君以外、未来永劫、愛することはないよ!」

「エリアス……人の心は、移ろうのよ」


 エリアスは布を取り払うと、床に投げ捨てた。

 痛みを堪えて、目を細める。


 顔を寄せ、乱暴にセシリアの唇を塞いだ。


「僕は君しか愛さないよ」


 セシリアは手を伸ばした。

 エリアスの目を塞ぐ。

 顔を寄せ、唇に口づける。


「愛してるわ」

「離れるなんて……言わないで」


 額を当てる。

 呼吸が触れ合う。


 エリアスの涙に、血が混ざる。


「幸せになって。エリアス」

「君のいない人生に、幸せなんかあるわけないだろう!」

 

 エリアスはセシリアの手を掴むと、顔から剥がした。


 彼は一度瞳を伏せる。

 息を吐き出し、諦めたように首を振った。


 部屋には、二人の呼吸だけが、落ちていた。


「……セシリア」


 セシリアはエリアスの夜の瞳を見つめる。


「僕に君の血をちょうだい」

「……え?」

「僕の……最後のお願い」


 その瞳を見つめたまま、セシリアは小さく頷いた。


「いいわ」

「少し、痛いかも」

「あなたの痛みに比べたら、きっと、大したことない」


 エリアスはセシリアの顎に手を添えると、ゆっくりと顔を寄せた。


 口づけを落とす。

 深く、甘い口づけ。


 それから、唇を滑らせ、彼女の耳へ。


 小さく、噛んだ。

 セシリアの声が、こぼれる。


 赤い血がとろりと膨れ、エリアスはそれを飲み込んだ。


 視線を絡ませる。


「セシリア、愛してるよ」

「……エリアス」

「僕は、君しか愛せない」


 彼は、セシリアを離れると、床に落ちていた布を拾い上げた。


「……帰って」


 エリアスは背を向ける。

 セシリアは瞳を伏せ、そして、踵を返した。


 背後で扉が閉まる。

 エリアスは、布を強く握りしめた。




「セシリア、本当にそれでいいのか?」


 セシリアの父は、眉を下げ、旅装姿の娘を見つめた。


「いいのよ。私がいると、エリアスが無理をするから」


 付き添いの侍女も彼女に寄り添い、その背を支えている。セシリアの両親は、意志の硬い娘に小さく息を吐いた。


 正直なところ、セシリアには、国外でやりたいことどころか、行きたいところさえない。ただ、エリアスを守るために、彼から離れたかっただけだ。


「何かもっと……方法があるかもしれないだろう」

「これ以上、エリアスを苦しめたくない」

「……セシリア」

「エリアスは、星に選ばれた人なの。

 星が、彼を選んだのよ。稀有な人だわ」


 両親は、諦めるように頷いた。


「着いたら、すぐに手紙を書くわ」

「えぇ」

「行ってきます」


 使用人が玄関扉を開けた。

 侍女を連れ、セシリアは邸宅の外へと、踏み出す。


 葉擦れの音。

 鳥のさえずり。

 昼の日差しは、鈍くて淡かった。


 その時――

 前庭の向こう、一台の馬車が駆けてくる。

 

 それが停まりきる前に扉が勢いよく開き、青年が飛び出すようにして駆け下りてきた。


 セシリアは肩を震わせる。

 

 彼は、息を切らしながら、セシリアの前で足を止めた。

 黒髪に闇夜の瞳。白い肌の彼――エリアスは腕を大きく広げた。


「……死んだよ」


 セシリアは眉を寄せる。


「僕に呪いをかけた女は、呪い返しを受けて、死んだ」

「……え?」

「呪術師の彼女に問いただしたんだ。

 解呪、もしくは、返す方法。

 彼女に、君の処女を奪えと言われた」


 彼は、一歩、彼女に近づいた。


「でも、頑固な君は、結婚まで待ってくれそうにない。

 僕も、君にだけは、紳士でいたい。

 ――だから、一か八かだけど、やってみた。

 君の血をもらってね」


 エリアスの口端が持ち上がる。


「うまくいった」

「……エリアス」


 彼はさらに一歩近づくと、両手でセシリアの頬を挟んだ。


「よく見せて。愛しい君。

 僕のシリウス。最も眩しい星よ」


 夜の瞳は、光を吸うように、セシリアの薄青の瞳を見つめた。


「二度と離さない。

 僕と結婚してくれるよね?

 セシリア」

「……エリアス」

「“はい”って言わないと、ここでキスする」


 セシリアは片眉を上げた。


「……はい。

 ――でも、キスして」


 エリアスはにっこりと笑うと、セシリアを強く胸に抱いた。


「あぁ! 早く結婚してしまいたい!」

「ねぇ、その女性は……」


 エリアスが顔を寄せ、セシリアの口を塞ぐ。


「……あの女のことを考える余裕なんて、もう僕にはない。

 僕は君と星以外、どうでもいいんだ」

「……知ってたわ」


 エリアスが微笑むと、セシリアは眉を下げた。


「仕方のない人」


 エリアスは、声を立てて笑った。


 その姿は、狂気的。

 だけど、艶を帯びて、とても美しかった。

 



 星読みのその男は、今宵も星を読む。

 星の軌道を読み、声を聴き、天と地の理を測る。

 類まれな才に恵まれた彼。

 

 だが、彼は理になど、本当は興味はない。


 彼が愛しているのは、たった一人だけなのだから。

 彼女がいれば、あとはどうでもいい。

 彼は、そういう男だ。



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