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貴族令嬢は依頼を受けたい

自然豊かな辺境の小さな国。その国には、光り輝く美しさを纏う、ひとりの王太子がいた。


宝玉のような金色の髪に、どこまでも澄んだ深い海のような瞳。剣術に優れ、魔力は強く、博識であるらしい。「らしい」というのは、彼は滅多に社交の場に姿を現わさず、市井の民がうわさ話に興ずるほどの情報がほとんど与えられなかったからだ。


しかし、人の興味とは不思議なもので、不確かなもの、空想の余地があるものほど妙な加熱を見せたりする。


嘘か誠かわからぬものの、王太子の「あの人すごいんだってよ」エピソードは加熱の一途を辿った。


始めはオーソドックスに「誰もが振り返る美形」とか、「宰相も一目置くほどの切れ者」とかいう当たり障りのない評であったが、しだいにそんなものでは話が盛り上がらなくなったのか、「ダンスパーティーに菓子だけ摘まみに来た王太子はフロアのシャンデリアも霞むほどに発光していた」とか、「気まぐれに騎士の鍛錬場に顔を出したら強すぎて、騎士が辞職を願い出るから出禁になった」とか、えらく具体的かつツッコミどころがある内容へと変遷した。


しかし、それも城下の民にとっては、あくまで日々の退屈を紛らすためのうわさ話。実際にそのうわさの真偽を確かめられるのは、一部の選ばれし人間だけで、そもそも民にとってはそれが真実なのか虚構なのかはさして重要な問題ではない。


それは、「彼女」にとっても同じであった。




この国で一番大きな冒険者ギルド。無骨な吊り看板を揺らして出入りしているのは、屈強な剣士や武闘家、または彼らを筆頭にしたパーティーだ。この国は周囲を大国に囲まれた小国だったが、国土の大半が魔物を擁する深い森であり、他国も手出しをしにくい事情があった。


魔物討伐の名のもとに各地から優れた冒険者たちが集まることもあり、街の安全は保たれていたため文化もそこそこ栄え、魔物の素材を生かした魔道具や工芸品などの産業も盛んであった。大国の城下町と違って大都会、というわけではないが、暮らし心地は上々だ。


そして、この城下町には他にも「名物」があった。謎多きエピソードに彩られた王太子と並んで、街の人々にうわさ話の材料を提供し続ける、美しき貴族令嬢。彼女は今日も凛と背筋を伸ばし、道行く人々の視線を釘付けにしながら、冒険者ギルドのドアをくぐり、カウンターの前に立った。

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