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限界アラサー女は、異世界に魅せられる

眼前に飛び込んできた光景に、私は目を奪われた。

視界に映る、幻想的で非現実な風景は、乾ききった私の脳に染み渡る。

皮膚に当たる、何の変哲もない空気すらも、愛おしいくてたまらない。

私は…心の奥底から思い、そして決意した。


私は───

目を開くと、木の天井が映った。

夢かと思って、数秒考えた後に気付いた。


「そうだ、異世界に来たんだった」


冷静に考えるとありえない状況だ。

それでも、あまり動揺しないのは、莫大な情報を処理しきれていないだけか、それとも単純に実感が湧いていないだけか。

布団を下ろしてベットから出ると、いつもの寝起きではありえないほど、身体を軽かった。

いつもなら、一歩を踏むごとに重力を強く感じて、振動が頭に響いて気持ちが悪かった。

【熟睡】その意味を、身体全体で感じた。

机にメモが置いてあるのを見つけたので、手に取って内容を見る。

その文字は象形文字のようだったけど、何故か理解できた。


『よく眠れた?他の先生や生徒達に、貴女のこと伝えておいたよ、いつでも部屋から出てもいいよ。

部屋から出て右手に階段があるから、それを降りたら食堂があるよ。

お腹がすいたら行ってみてね、日替わりランチなら無料で食べれるから。


PS.君が習得した翻訳魔法だけど、あれは魔導書を読んだことのある生物の言語がわかるだけで、野生のモンスターとは一切会話できないから気を付けてね。

学校にいる種族は大丈夫だから安心してね。


マネマネより』


この優しさに満ちた文章が、私の脳に染み渡る。

それはそれとして、翻訳は本を見たことある生物のみなのか。

言われてみれば、全ての生物と会話できるなら、マネマネはわざわざ魔導書を私に見せる必要はない。

だが、それよりも私は【食堂】という文言に目が惹かれた。


「つまり学食だよね?しかも日替わり無料とか太っ腹ぁ…」


今どき、日替わりランチが無料なんてところがあるのだろうか?

軽く感心したが、同時に不安もある。

果たして【人間】の私が食べられる物があるのだろうか?

私の消化器官では食べた瞬間、体が溶ける…みたいな物が置いてある可能性もある。

なにはともあれ、お腹はかなりすいている、思い返せば転移する前から空腹だった。


「お願いだから、日替わりはマトモであれ…」


願いを口にしながら、扉を開ける。

扉の先には、いくつかの扉と広い廊下が広がっていた、それら全てが木製であり、鼻呼吸をするたび木の匂いがする。


「木製の建物というか…大樹の中にいるみたい……」


歩くたびにコツンコツンと音が鳴る、メモの通り階段があったので降りていく。


「あっ、流石に窓はガラスなんだ」


階段を半分ほど降りたところで、爽やかな柑橘類の匂いと、肉の匂いがしてきた、おそらく肉は茹でているのだろうか、出汁に近い匂いがする。

その匂いは非常に食欲を唆るもので、私は安心した。


(多分、食べれるやつだ)


感じていた不安が消し飛び、先ほどよりも階段を降りる足取りが軽くなった。

そのまま降りて行くと、扉がないスペースがあり、そこに【食堂】と書かれた立札が立てかけてあった。

緊張により心臓が早く脈動させながら、意を決して入った。


食堂は厨房の熱気により少し暑かったが、そんなことはどうでもよかった。


入った瞬間、私の目に飛び込んできたのは、食堂の入り口から少し離れた席に、三体の人外達が同じ机で、駄弁りながら料理を食べている光景だった。

食堂には一つの机に四つの椅子があり、だいたい机の数は十個前後だろうか。

時間帯が悪いのか、それとも生徒の数が少ないのか分からないが、今はその三体だけしかいなかった。

【配色が黒い大きなミミズ】【体長が30cmほどのミツバチ】【人間のような形をした黒い影】三者三様の容姿をしていて、一つとして被りがなかった。

大きなミツバチは、座高が足りないのか机に座っていた。


私にとって、たった三体とはいえ、ここが日本どころか地球ですらないと印象付けるには十分すぎた。

その異様な光景を目の当たりにし、呆けながら見つめていると、視界の横の方に【メニュー表】と書かれた看板があることに気付い。

心配と興味が半々になりながら、おそるおそるメニューを見る。

そこに書かれていた内容に、私は無意識に口から声を出した。


「なんて…異世界感が満載なメニュー表……」


【本日の日替わりランチ】

・檸檬鶏のさっぱり煮


【明日の日替わりランチ】

・カプサイシンポテトの厚切りフライド


【学食メニューの一覧】


・ブイヨンイノシシの角煮

・ポイズンタートルの干物

・浮島魚類のソテー

・サーロインクラブの刺し身

・アシッドの強炭酸コーラ

・マグマクロコダイルの生ステーキ

・ブルワリースネイクの毒液熱燗

・ユニコーンの馬刺し

・デビルミツバチの蜂蜜


これを見て、さらに「ここが異世界である」という意識が強まった。

奇抜な名前だが食欲を唆るものから、とんでもなく物騒なものまでよりどりみどりだ。

そして、日替わりランチが比較的マトモそうで安心した。


(むしろ【檸檬鶏のさっぱり煮】が普通すぎて浮いている、でも…これも何かのモンスターなんだろうな)


柑橘系の匂いと、肉が茹でられた出汁の匂いは、これだろうか?意識すると、お腹が鳴ってしまった。

手を、お腹に当てながら、気恥ずかしくて顔が火照る。

顔を厨房に向けると【ご注文はこちらから】と書かれた立札が立っていた。

その立札の方に向かうと、厨房から身長が私と同じぐらいの、タコみたいな生物が話しかけてきた。


「たしか、昨日入ってきた人間?だよね!こんにちは、何にする?」


なんとなくイントネーションの付け方で、このタコ種族が女性であることがわかる。

全く知らない言語でも、声質やイントネーションの癖まで理解できる、翻訳ってここまで分かるのか。


「えっと、お金がないので日替わりランチを…お願いします」


「そうだ!そうだ!そりゃ昨日今日なんだから、課題なんて受けてないよね!待っててすぐ用意するから」


そのエネルギーが満ち溢れた声質に、小学校にいた給食のおばちゃんを思い出し、緊張がほぐれて頬が緩んだ。

そのタコ種族は、器用に足を使い鍋から鶏肉を取り出す。

そして彼女が言っていた【課題】という単語に引っかかったので聞いてみました。


「課題はね、教員が定期的に生徒へ何か命令を出すの。

例えば【〇〇って食材捕獲してきて】とか【〇〇に行って生態系を調査してきて】みたいな感じ。

それをクリアすると、難易度や成果に応じて金銭を渡すの、それをここで使えるのよ」


鶏肉を盛り付けながら、片手間に答えてくれました。


「へぇ…あの、私…いきなり「モンスター狩ってこい」とか言われたりしないですかね…?」


彼女は、笑いながら答えます。


「しないわよ!安心して、ちゃんと生徒の適性に合わせて選んでるから!」


その答えに、口から息を吐き安堵する、もし「ドラゴン狩ってきて」とか言われたどうしようかと…。

そんなこんなしていると用意ができたようで、鶏肉が入った木の皿を出してきた。

私は感謝を伝えて、料理を持って机に座った。


「どう見ても、普通の鶏肉だ…」


盛り付けられた鶏肉は、何の変哲もない鶏の足が3本入っていて、檸檬のような柑橘系の匂いが強く香ってくる。

持ち手のようなところを持ちかぶりつく。

口に入れた瞬間、肉汁と檸檬の酸味が全体に広がった。

茹でられているため脂身は少ないが、むしろそのおかげで脂っこくなくて寝起きには丁度いい。

鶏肉自体は一般的な味だけど、檸檬の酸味のおかげか臭みが一切ない。

鶏肉を飲み込んでも、口には柑橘類の爽やかな酸味が残っている。


「なんだこれ…普通に美味しい」


まるで柑橘系のポン酢で軽く煮込んだ鶏肉のような味で、居酒屋で出てきても違和感がない、あまりにも順当な美味しさで逆に面食らう。

しかし、そんな普通の味が体に染み渡る。

食べ物に味を感じたのはいつぶりだろう、最近は空腹とカロリー補給以外の用途で、食べ物を食べていなかった。

いつもなら早食いしてが、その酸味と鶏肉の食感を少しでも味わうため、一噛み一噛みゆっくりと咀嚼する。


すると私の斜め前から視線を感じて、バレないように横目で見る。

先ほどの三体が私をチラチラと見ながら、仲間内でヒソヒソと話している。

その様子を見るに陰口というより、新入りである私に興味があるけど、話しかけるのは憚れるという感じだろうか?


(まぁ、わからなくはない…私も別部署の新卒に、話しかけていいか死ぬほど悩むもん)


ましてや未知の生物…そりゃ話しかけるのはハードルは高い。


(でも、ちょっと寂しいな)


そう理解していても、この場所の一員ではないように感じてしまい、口の中に広がる酸味を強く感じた。

少しナイーブな気持ちになっていた…そんなときだった。



「よお!お前、元気になったのか?」



背後からゴポゴポという音が聞こえ、その音を私の脳は言語として認識した。

後ろを振り向くと青いゲル状の生物が、器用に皿を持ち立っていた。

その容姿と、さっきの台詞を鑑みるに、おそらく彼が【スライム】だろう。


「もしかして、スライムくん?」


「そうだぞ!知ってるのか?」


彼の声質は、快活な小中学生を思わせる、少しあどけなさが残るものだった。

彼は横の椅子に腰掛けた…スライムが腰掛けたという表現は正しくないかもしれないが、それ以外に言いようがない。

スライムは皿に乗っていた鶏肉を、全て体の中に入れてジワジワと消化している。

彼が助けてくれたことを思い出した私は、すぐに感謝を伝えた。


「君が助けてくれたんだよね?ありがとう、君がいなかったら私どうなってたか…」


「気にすんな!それより黒髪のエルフなんて変だと思ってたけど、お前エルフじゃなかったんだな、よろしくなニンゲン!」


何一つ偉ぶらない態度や快活さが、純粋な子供のようで、私の荒んだ心が浄化される。

それはそうと、少し気になったことがある、それはマネマネもスライムも私のことを【人間】と呼ぶことだ。

そして、マネマネは彼のことを【スライムくん】とおそらく種族名で呼んでいた、個人名はないのだろうか?と疑問に思い聞いてみると。


「名前…?ないけど…あっそうか異世界から来たなら知らないよな。

この世界では、名前って個体を識別するための番号みたいなものなんだよ。

だから種族の被りがない魔法学校では、種族名で呼び合うんだ!」


名前に特別な意味を込める私たちにとっては、少し冷たい印象を持つ文化だが、考えてみれば元より名前なんてそんなもんである。

「今後、名前を使うことがない」と言うのは少し寂しいけど、郷に入れば郷に従えというし、これからは【人間】と名乗ろう。

雑談をしていると、いつの間にか食べ終わっていた。

スライムも消化し終わったようで、体の中には骨も残っていなかった。

食べ終わった皿を返却口に返すと


「あんたが人間ってやつ?」


食べ終わった余韻を感じる暇もなく、誰かから声をかけられた。

その言語は日本語ではなかったが、マネマネやスライムとは違い、単なる外国語のような印象を受けた。

振り向いた、その瞬間に私は言葉を失った。

2m近い身長に、背中まで伸びた金色の髪、一切無駄なパーツがない顔に長い耳、バストやヒップは豊満なのに彫刻のようでいやらしさを一切感じない。

本能で直感した「エルフだ」と。

そして彼女は私を見下ろしながら、話し始める。


「エルフに似てると言われたけど…ちっちゃい…しかも、翻訳魔法を覚えただけで疲労困憊とか…魔力の欠片もないわね。

身の丈に合った課題を受けないと、あんたなんてすぐ死んじゃうわよ」


少し眉をひそめ怪訝な表情を浮かべながら、下に見ていることを隠そうともしないことを言い放ち、言うだけ言って私を一瞥したあと、その場を去った。


「あいつプライドすげぇよな…いつもあんなん、だから気にすんな!」


口を半開きにした呆けた顔をしている私を、ショックを受けていると思ったのか、スライムは慰める。

しかし、当の私はエルフの美貌に目を奪われていただけである。

日本人顔ではあまり見られない、堀が深く海外の女優のような顔は、見るものに威圧感と幻想的な魅力を感じさせる。

私と同じ白くて特徴のない服を着ていたのに、まるで儀式用の衣装かと勘違いするほど神秘的な物に見えた。


「多分まだいるよな…なぁ!面白いもの見せてやるから来いよ!」


スライムが私を心配したのか、それともただ見せたい物があっただけなのか、私の手を引っ張って食堂を出た。

そのまま、手に伝わる冷たい液体の感触を感じながら、階段を登る。

どこに行くの?と聞くと「屋上!」と言われました。

カツンカツンと音の反響を聞きながら駆け上がり、屋上の扉に辿り着いた。

そしてスライムは木の扉を開けます、軋むような木製特有の音が鳴り日が差し込みます。

急な光に手で顔を覆い、光に慣れたところで手をどけ正面を見る。



眼前に飛び込んできた光景に、私は目を奪われ、数秒ほど呼吸するのを忘れた。



視界に入ってきたそれは───どこまでも続く地平線のような草原。

そして───空まで手が届くのではないかと錯覚するほど、巨大な人型の無機物だった。


おそらく数kmは離れているのに、その大きさは、この学校よりも遥かに大きいと分かる、間違いなく500mは超えているだろう。

目を凝らすと、それには大量の苔がついており、ほんの数十年程度の存在ではないと視覚で分からせてくる。


それは悠々と、ゆっくりとした歩みで壮大な草原を歩いていた。


スライムに問います。


「あれは何?」


「巨神ゴーレムって言うんだ!」


スライムに問います。


「いつからいるの?」


「わかんね、魔法学校ができるよりも、遥か前からいるらしい」


スライムに問います。


「誰が創ったの?」


「さぁ…?というか創られたのか、自然にできたのかすら分かってない」



過去の出来事が脳裏をよぎった、修学旅行で誰が作ったかすら分からない建造物を見て、思いを馳せたことを。

「社会人になったら、貯めたお金で色んなところを巡りたい」って友達と熱く語りあったことを。

しかし、そんな想いは社会の荒波によって、削られ擦り減り、テレビに映る世界遺産を観ても何も思わなくなっていった。


そんな擦り切れた脳に、幻想的で非現実的な風景と情報が脳を駆け巡り、もうとっくに擦り切れた筈の思い出が雪解けしたように溢れきた。

皮膚に当たる、何の変哲もない空気すらも、愛おしいくてたまらない。


「おい、どうしたんだ!なんで泣いて…?」


私は泣いていた、言われなければ気が付かなかった。

そして私は…心の奥底から思い、そして決意した。

その決断は生易しいものではない、きっと美しいだけの物ばかりではない。

きっと危険な物も沢山あるだろう。

だが、それでも決意せずにはいられなかった。




私は───この世界で生きたい。




戻れないからではない、私は…この世界で人生を終えたい。




しかし、彼女が見た景色は…この世界のほんの一部である。


80mから150mにもなる大樹が密集した森があることを、彼女はまだ知らない。

その大樹からは常に過剰な酸素が放出されていて、普通の生物は数時間もすれば絶命する危険区域である。


直径100kmにもなる巨大洞窟があることを、彼女はまだ知らない。

そこには毒ではなくアルコールを注入して狩りをする、大蛇が生息しており、その洞窟の最深部には黄泉からの脱走者がいる。


空に浮かぶ五つの島があることを、彼女はまだ知らない。

それは大昔の地殻変動によって打ち上がり、なぜか未だに落ちてこないのだ。



彼女はまだ知らない。これすらほんの一部であることを………。

種族名:エルフ(♀)

二つ名:傾国


この世界でもっとも人間と容姿が似ている種族。

桁外れの魔力と繊細な魔力コントロールができる人型種族。

主人公(人間)からすると、堀が深い非常に整った顔立ちをしていて、身長190cm、金髪ロングで耳が尖っている。

長寿の種族で、彼女は100歳を超えている。

そしてプライドの塊である。


種族名:デビルミツバチ(♂)

二つ名:熱殺蜂球


体長30cmのミツバチ。

直径にして100mの巣を作り、中には数百匹のデビルミツバチがいる。

巣の中には世界最高品質の蜂蜜が眠っているが巣を襲えば大量のデビルミツバチに襲われる。

巣を襲う生物に大勢で抱きつき生物を蒸し殺す、中心温度は1000℃近くにまで上昇する。

蜂蜜は粘度が高く固体に近い、上品な甘みで全く癖がない。


種族名:シャドウマン(♀)

二つ名:隠者


見た目が影そのもので実態がない。

攻撃手段は乏しいが、影の中を潜り移動できる。

名前に【マン】が付いているがメス。


種族名:ファームミミズ (♂)

二つ名:自然の守護者


学校の近くに生息している。

黒い配色のデカいミミズ、荒れた土地を耕し潤いのある良質な土にする。


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