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水面ーみなもー

作者: ふむむん

苦手なことを克服するためには勇気と努力が必要です。

でもその勇気、本当に間違ってはいませんか?

取り返しの付かないことにならなければいいのですけれど………

「あーあ、また暑くなってきちゃったな………」


 今年もまた憂鬱な季節がやってきた。夏なんてホントに無ければいいのに。

 わたしも他の子と同じように、夏休みが嫌いな訳ではない。やっぱり長いお休みはワクワクとするし楽しみなんだけど、夏が来るとアレが始まる。


 そう、学校のプールだ。


 なぜだか分からないけれど、わたしは水が怖い。もう小6にもなるのに、泳ぐのはおろか、水に顔を浸けることも覚束ない。毎年の夏休み前の体育の授業では楽しそうに泳ぐ他の子を横目に見ながら、何人かの子と一緒に「泳げない組」の特訓授業を受ける羽目になるのだ。


 しかも、「泳げない組」のみんながビート板でバタ足の練習とかをしているのに、わたしだけずっと水に顔を浸ける練習をさせられることになる。


 みじめだし悲しくなってしまうが、出来ないものは出来ないのだ。


 顔を水に浸けようとすると耳の奥がキンとしてきて、だんだんとその音が大きくなってきて軽いパニック状態になってしまう。


 今まで教えてくれた先生たちは

「怖がらなくてもいいから、落ち着いて。少しずつ顔を浸していって、水の中で目を開けてみようか」

と皆同じ様に言うのだが、頭を下げていって水面に顔が近付くとブルブルと震えるほど怖くなり顔を下げることが出来ない。また今年も、先生に憐れむような、困ったような顔をさせて体育の時間が終わるまで過ごすことになるのかと思うと、もう居たたまれない気持ちになってしまう。


 そして、また圭太のやつにからかわれることになるのだ。あいつ、本当に嫌な奴だ。

「お前、おっぱいが浮いちゃって水に潜れないんだろう」

なんてまたはやしたててくるに決まってる。あのセクハラ小僧。


 もちろんわたしだって顔は洗うし、雨が当ったりして顔に水が付いてもパニックになるようなことは無いのだけれど、ある程度の広さの水面に顔を浸けることは、想像をしただけでも身震いするほど怖いのだ。


 だけどもう小学校も最後の年だし、泳げないまでもいい加減に顔ぐらいは浸けられるようになりたい。今年こそは顔浸けを克服して楽しく夏休みを迎えたいし、仲良しの子とプール遊びもしてみたい。圭太の奴も見返してやりたい。そのためには、プール授業の前に家のお風呂で特訓をしようと決意した。


 夕飯を終えた後、おかあさんに

「今日はわたし、お風呂は最後に入りたい」

と告げて、家族の皆がお風呂に入った一番後に、ゴーグルを用意してお風呂場に向かった。今日こそはやるのだ。


 お風呂はちょうどよく温くなっていて、特訓には持って来いだ。まずは髪と体をシャワーで洗って、湯船に浸かる。心臓がドキドキとして、背中にチリチリとした感じがあるけれど、もうあんな思いをしないために、今日は頑張るんだ。


 意を決してゴーグルを付け、準備は万端だ。

 少しずつ顔を下げていく。

 相変わらず耳の奥はキンと鳴り始め体はブルブルと震えるけれど、今日こそは絶対に克服するんだ。


 目を瞑って顔を下げていくと水面に顔が付く感触がして、、思い切って顔を沈める。出来た。心臓は激しくドキドキとして、体はブルブルと震えてはいるけれど、水に顔を浸けることが出来たのだ。あとは目を開けるだけだ。


 恐々と目を開けたその時、目の前に幼い顔があり、その目がこちらを見ている。


 驚いて息を吐いてしまった瞬間、水の中から二本の手がでてきて、その両手で頭をがっちりと掴まれてしまう。


 苦しさのあまり全力で藻掻いたが、その手は大人の様な強い力でわたしの頭を抱え込み、水の中に引っ張り込む。パニックになり藻掻きながらもわたしは思い出していた。


「ミキちゃん……」


 幼稚園の頃、仲良しだったミキちゃんと溜池にオタマジャクシを見に行き、そこで足を滑らせて池に落ちたミキちゃんは溺れて死んでしまったのだ。


 どうして忘れてしまっていたんだろう。それ以来、水に顔を浸けると水の中にミキちゃんの顔が現れ、怖くて顔を浸けられなくなってしまったことを。


 薄れていく意識の中、耳元で囁くような声が聞こえた。


「わたしをわすれないでね」


子供が死んでしまう話は本当は苦手ですが、ホラーという性格上、止むを得ず入れました。

感想をお聞かせいただければ今後の反省と励みになりますので、よろしくお願いします。

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