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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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七話 ジャノス (その①)

六話まで読んで頂きありがとうございます。


 拠点を王都に構える運搬専門の冒険団【魔商運輸】(マナポーターズ)の荷車で運ばれる道中、女騎士ユイカとザバンは気が合うのか今回の件についての経緯や互いの趣味や冒険譚など様々な話に興が乗る。


 俺は荷車の心地良さに先程まで張り詰めていた緊張は見事に解けて眠りにつく。

 

 ザバンの声と肩を揺らす手に誘導されて視界を捉えた先にそれはあった。


 【迷宮都市ジャノス】


 話に聞いていたより遥かに壮大な街で想像をこえた規模を誇る。


 北エリア

 武具、魔具などの交易品市場街で冒険者協会(ギルド)やオークション会場、工房、露店などがある。上層から降りてくる冒険者達がまず通るエリア。


 東エリア

 貴族の静養地。豊富な財力を象徴するかの様に豪華絢爛な建屋が聳える。貴族部隊と呼ばれる騎士団が警備の為常駐している。


 南エリア

 都市の静養地。敷地内には温泉や大きな療養施設があり、怪我人や病人はここへ運ばれる。下層から帰ってきたらまず通るエリア。冒険者宿舎や軍部施設などがあり一番広大な敷地を有する。


 西エリア

 都市歓楽街。カジノや闘技場の遊興地として表向きは目立つが噂によるとその闇は深くあらゆる娼館が跋扈する。

 通称【蛇の巣】

 

 そうか、この階層毎丸々都市にしたのか。


 唖然とする俺とザバンは田舎者らしさを発揮していたらしくユイカはそんな俺達を先導しながら目的地の南エリアに足を運ぶとユイカと話した。


 「感謝の意を表する。先日は我ら合同討伐隊を救って頂き誠に感謝している。ついては、王都に帰還後、落ち着いたら正式に礼がしたい。」

 「あぁ、了解した。とりあえず昨日の今日で忙しそうだし、街を観てきていいか?」

 「王都への帰還は暫く時間がかかると思う。その間は自由に過ごしてくれて構わない。2人に仮の身分証(ライセンス)を渡しておく。関係各所には話を通してあるから好きに使ってくれ。」


 おぉ、手際が良い。

 身分証は冒険者協会(ギルド)の登録が必須とされており、行商人は身分証がないと市場で売買出来ない。

 また行商人はギルド登録料や維持費のコストが高くかかる為、節税の為、大手の行商組合に所属する者が多い。


 「僕は騎士団と療養施設に用があるけど、ゼノは市場?」

 「そうだな。市場が観たい。あわよくば稼ぎたい。」

 「なら、先に冒険者協会(ギルド)に寄ればよい、詳しくはそこで聞くと良い。なに、時間はそう長くかからないさ。」


 ザバン、ユイカと別れ北エリアへと歩む途中、雄大な噴水広場に差し掛かった時、大きな杯と2本の剣が特徴的な看板に重厚な大きな扉。


 【冒険者協会ジャノス支部】


 協会建屋は地下含め3階建てであるもののかなり奥行きもあり広くて大きい。里では見た事ない規模の建物。

 一階の受付場はロビーになっており依頼板の数も多い。

 

 受付嬢に声をかけて身分証を渡すとフロントはちょっとした騒ぎになったが、2階の冒険者協会長(ギルドマスター)の執務室へと案内される。

 線の細い体格、落ち着いた雰囲気、如何にも才女を感じさせる彼女はギルドマスターのグロリア・バーラット。

 

 綺麗な金色の長髪と氷を彷彿させる澄んだ眼はより彼女の威厳を増長させている。


 「ユイカ殿から話は伺っております。相当な腕利だとか。この街で出来る限りサポート致しますので気兼ねなくお申し付け下さい。」

 

 屈託のない笑顔とさり気ない仕草が妖艶さを増し引き込まれそうになるが、この手の相手は里にもいた。


 魔術の師、ミルティーだ。


 艶やかな唇に柔らかな語調。

 全てを見透かす様な眼に視線を惹きつける仕草。

 微かに心安らぐ香りがする。

 

 きっと師と似た性格なのだろうと思うと、一切の油断が出来ない。

 言葉をまともに受け取ると疲れるやつだ。

 身分証の更新手続きは終えたし、挨拶もした。

 とにかく一刻も早くこの魔性から逃げないと嫌な予感がする。


 「身分証の更新にお時間頂きます。その間、心置きなくこの街でお過ごし下さいね。」


 ん?話が違うぞ、ユイカ。

 身分証が出来るまで時間がかかるらしい。


 何かモノ言いたげな表情をしている彼女は耳元に顔を寄せ囁いてきた。

 そして身分証が出来るまでの間、市場案内の大義名分とともに職員の制止を振り切った彼女と北エリアを散策することとなる。


 露店や工房が犇めき合う大通りに芳醇な香りが漂う。

 数多の通行人が行き交う中、グロリアのお勧め露店にて人気商品【ホットサンド】の詰め合わせを頬張る。

 

 ホットサンドとは小麦粉を水で練って発酵後焼いたパンをスライスし肉やら野菜やら果実やらあらゆる食材を魔具で挟んで焼きつける、お手軽調理品。

 多種多様な味付けや品目に良い刺激を受け、なるほど、人気があるのは理解した。腹の足しにもなるのも解った。だが、それよりも……


 「な、なぁ……少し、くっつきすぎじゃないか?」

 

 何度払っても腕に胸を押し付けてくる。

 やはり魔性。

 魔物ですら振り払えば次第に距離をとるのにこの女は魔物以上に手強い。


 「美味しいでしょ?ここのホットサンドは一口サイズもあり、女性に人気なのですよ。」

 

 そして、都合の悪い話はまるで聞かない。

 出来ることなら一人でゆっくり観てまわりたいのだが… …師達が言っていた地上民の親切は無碍にしないほうが良いという話が呪いのようにジメジメと纏わりつくが、今二つの呪いに付き纏われている様な気がしてならない。

 

 グロリアは()()()()に露店や工房案内を続けてくれてその甲斐もあり様々な武具や魔具を知ったが、こちらも役立つ知識を話したりもした。

 この一時は魔具師としての今後に一役買いそうだ。

 

 その後はギルドの執務室へと戻りグロリアから更新された身分証を受け取ると同時に本題を告げられ、その鋭い眼光に全て察した。

 

 「では、ゼノ様。市場案内の対価として魔具師としての貴方の魔力錬成を見せて頂きたく存じます。ここに幾つか素材があるのでこれで回復薬(ポーション)、失礼。里ではシロップと呼んでいますね。今ここで作ってみては頂けませんか?魔力壺は使われても構いません。」


 成程、押し付けがましく案内した理由はこれか。

 

 しつこく付き纏ってた時に感じた微かな冷酷さは勘違いではなかったか。


 身体の密着も今思えばしっかり脈を計っていたのだろう。


 思い返せば魔具師としての知見も探られていたな。


 要はグロリアからすれば俺に利用・忖度価値があるかどうかを見極めたいわけだ。

 ラー爺が言ってた通りジャノスの街は「邪の巣」なのだ。だから、王都より先にこの街を知らせたかったのか。


 打算に塗れた謀が絶え間なく跋扈蔓延し、欲を潤すこの街の現実。


 (良いだろう。売られた喧嘩は買ってやる!)


 手に取った素材はどれもくたびれて痩せた土地で育ったのだと一目でわかる。


 俺は魔素不足を補う為に自身の魔力を流し込み回復薬を精製した。

 

 粗雑な素材である分、品質の決め手は魔力量と魔力の扱い方になる。そう、魔力錬成。


 里では魔力錬成において【三点一頂】と呼ぶ理論がある。

 

 基礎技術に分解・抽出・定着の三つの技術を基礎としそこから一段上に再構築がある。


 ・分解は絡み合って構成された魔素を細かく解き抽出を容易くさせるが、分解のみだとただ対象が塵と化す。


 ・抽出は分解と同時に魔素を取り出し魔力干渉領域に留める。

 

 ・定着は抽出した魔素を媒体に移し定着させる。


 ・再構築は一度形を失った魔素を同じ又は違う形へと象らせる。魔力操作が最も難しい工程と言われる由縁は単に魔力が多いから良いというわけではなく想像が創造する技術である為。


 腕のいい魔具師とは三点一頂を維持しながら、出来上がる品質の輪郭が如何に鮮明に想像出来ているかという事である。


 「これでどうかな?お眼鏡に叶いましたか?」


 アオミ茸の笠色に似た透き通る綺麗な色味の液体には一切の不純物が見当たらず、魔力の奔流が薬瓶の中に確かに宿っている事が解るとグロリアは恍惚な笑みを浮かべ、これ以上ない仕上がりに彼女は態度を改めてくれた。


 その夜、ギルドマスターの執務を終えた彼女が色々手を回して設けられた宴席は謝罪という名の魔力錬成講義であった。

 

 そこに魔具師としての誇りが彼女から見え隠れするが立場上未練がある訳だと知ると彼女の逞しさを垣間見た気になった。

 

 もし、自分が行商をしたくても許されない立場にいたとすれば、知りたい世界を行く人に興味や嫉妬を抱くのは自然だなと考えさせられていた。

 

 グロリア・バーラット。

 この人は信頼のおける相手だと認識してからは妖艶な香りは鼻をつく事なく消え去っていた。

 真横で眠る彼女の髪と体温を感じているというのに。

 

 

 

 

ジャノスの展開がボリューム多くて泣きそうになりますが頑張って八話以降書いていきます。

てか、ゼノの奴なんだかんだ気を許してますやん

グロリアが甘え上手なのか

その辺は読み手の御勝手という事で。

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