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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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六話 秘伝のアレ

五話まで読んで頂きありがとうございます。

探り探りの六話目です。

 湿った土埃と錆びた鉄臭が混ざり鼻と眼を刺激する。

 負傷者の数は62名、うち22名は自力で立ち上がる事すらままならない重傷者でそこから更に意識がない重体者は1名いる。

 四肢の欠損も数多く見受けられ思いの外、その空気は重い。


 いつの間にかザバンと親しそうに言葉を交わしている若い女性兵が連絡水晶を駆使して離れた仲間達に救援を要請している。


 立ち振る舞いや身なりから恐らく【騎士】だ。


 その傍にいるザバンは話し終えたのだろうかこちらに近寄ってきた。

 

 「ゼノ。どうやら、ここから7層ほど上がると部隊の皆さんの拠点の街があるらしい。救援部隊がこちらに到着するまで半日、街までの往復となると明日には街に着く、という事で、ここは相乗りさせて貰うってのはどうかな?」

 

 確かに一理ある。


 ここより先は知りえる限り里周辺より質の劣る鉱石や植物ばかりで素材の旨味は少なく身体強化魔法でひたすら広大な土地を駆け抜けるだけで無駄に魔力と体力を削るだけになる。

 里では転移魔石を持たせてもらえなかったのは痛かった。


 それがあと半日待つだけで明日には7層も進めて街に着くならこの出逢いはむしろ僥倖ではないのか。


 それに街とは師達が言っていた地上民が長い年月をかけて切り拓いた街、ジャノスの事だろう。


 ジャノスは里と王都のちょうど半分に位置するといわれ地上民の為の静養地と呼ばれているが師達曰く王都とはまた違う景色がみれるらしい。

 

 どうやらその街に王都への転移魔石があるらしく行商人としての勘が唸りを上げる。


 これは交渉し甲斐がありそうだな。


 「ザバン、交渉してみるか。それに―」

 

 交渉は王都への同行。対価は負傷者の手当て。


 部隊の士気が重いのは多くの兵に纏わりつく失念が正体だろうと容易に想像できる。


 そこを払拭できれば、少なくとも悲壮感は溶け、生きる希望を取り戻せるはず。


 「でも、ゼノ。良いんですか?()()使っちゃうと地上で面倒事になるかもって里長達仰ってましたよね?」

 「確か既得権益だっけ?腐敗極まる貴族や商人達の誇りとかなんとか。だが、そんな心配いらないんじゃないか?元々王都で売却するつもりだったし

ここで効果を知ってもらえれば良い宣伝になるだろう。それに冒険団も王国騎士団も貴族とは対立しているって師達は言ってたから吉兆じゃないか。」


 一抹の不安を握りはするが、それ以上にこの出逢いには何かを感じたから迷わず女騎士に交渉を提案したらあっさり了承を得たが、何より対価について彼女や彼女の仲間である数人は戸惑いを露わにした。


 決断が早くて助かるが、何をそんなに戸惑っているのか。


 聞けば女騎士はこの部隊を率いる副官らしいが肝心の部隊長は彼女の師であり、先程紫甲冑の前に跪いていた全身傷だらけだった壮年の男であった。


 その彼は意識不明につき今も懸命に手当てが続けられている。

 

 その光景を目の当たりにしながら女騎士の表情は一瞬暗く曇ったが部隊を預かる立場として気丈な立ち振る舞いを見せる。


 内心穏やかでは無いのだろうに。


 重体の彼から感じる魔素反応は薄く、最早一刻の猶予も許されない。


 魔具袋から薬関連の魔素カードを全て取り出して適した効能の回復薬を解放した。


 やはり多めに作っていた甲斐があった、数は充分足りる。本音はラム婆から三種の薬の単価を聞いて一儲け狙って多く作ったが、俗に言う先行投資と信じてここは大盤振る舞いといこう。


 「それなら動ける者に手伝ってもらおうか。固形回復薬(ドロップ)は口に含むだけ。液体回復薬(シロップ)は飲み干させて粉末回復薬(パウダー)は俺に任せてくれ。」


 ドロップは口に含むだけで魔力の回復を促す。

 シロップは飲み干せば傷口を忽ち塞ぐ。

 パウダーはシロップに溶かして飲ませるが、失った細胞組織を急速に再生させるが副作用として数日衰弱するのでドロップとシロップの併用がその間必須になる。


 必要最低限の薬を渡してから歓声が方々から聞こえてきたのはそう時間を労しなかった。


 「これで良し。救援部隊が来るまでこのおっさんは安静にしとく事だ。」


 いや、喜びなさいよ。失った片腕も無事に生えて全身の傷も塞がって、魔力枯渇の蒼白肌も血色を取り戻したでしょ。

 

 それより薬の感想は?


 売値は幾らなら買ってくれる?


 おっさんなんか言ってくれ!


 なんでそんな黙ってんの?

 

 あれ?周りの人達の視線が痛い……


 これひょっとして……


 「ザバン。やっちまったかな……」


 僅かに離れた所から友のジト目が全てを物語っていて、その友の傍にいる女騎士は使い切った空の薬瓶を見つめながら瞳孔を開きそれは聞きとれた。


 「なに……この薬……」


 女騎士の清廉厳格な顔つきが緩むとやがて涙と震える声を伴い、意識朦朧だったであろう筋骨逞しい女獣人を強く抱きしめ何か言葉を交わしている。

 

 まぁ、生きながら死んだ様な惨状より生きながら笑えてる今の方が断然いい。

 

 ラー爺は魔法も行商も幸せを運ぶ為にあるって教えてくれたもんな。

 なんとなくだけどその意味が解った気がした。


※二話の文面修正しました。

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