五十六話 帰還
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。
透き通る程鮮やかな蒼空に反し、俺の脳内は曇天模様で、早馬の揺れに呑まれそうになりながらも、帰路を急ぐと思いきや、ガウェインとガルバザはまったりとして、風情を楽しんでいる。
「早く帰ろ?」
堪らず俺がそう言うと、二人は、にやりとした表情で俺を見ている。
「いやはや、ゼノにもとんだ天敵がいたものだな!本当に酒に弱い。余は嬉しいぞ!」
何を喜んでるのか俺にはさっぱりだが、今は余裕がない。
気付薬の入った魔具袋はガルバザが何故か持っており、一向に此方へと渡そうとしないばかりか、素知らぬ顔をしていて、俺は早馬の上で幾度となく峠を耐えていた。
(くっ… …こいつら… …)
そもそも事の顛末はゼファートがよりにもよってバグエルを焚き付けた事に他ならない。
☆☆☆
―湖畔都市の酒場
「剣の腕も学識においてもバグ、貴方は私に敵わなかった。それは、酒の席でもどうやら同じみたいね。」
「ぬぁんだとぉ〜!?サハギンファングの一匹すら仕留め損なってた奴が何抜かしてやがるッてんだぁ!確かに俺は次席で首席はそっちに譲ったが、俺とお前じゃその後の実績が違うっつーの!!」
痴話喧嘩のゴングが鳴り響いたかの様にゼファートとバグエルが火花をバチバチと散らし、酒に浮かれた大人達が、そのやり取りを暖かく見守っていたのだが、その火の粉が、やがて俺に降りかかってくるとは思いもしなかった。
「バグ、貴方は所詮その程度よ。そんな男にこの都市でデカい顔されたく無いのよ。わかる?ゼノ様みたく桁違いの実力があれば何も言わないけど身の程を知りなさい。」
酔いどれ半目状態で項垂れるバグエルはそれでも反論するのだが、呂律が回っていないが、必死になって最後の言葉だけは聞き取れたのだが… …。
「やい!ゼノ!俺と勝負しやがれッ!」
ここにザバンがいれば解毒魔法をかけてやれるものだが、今は気付薬しかない。
「だいぶ羽目を外したな。これでも、飲むと良い。」
差し出した薬瓶に齧り付きながら、一気に飲み干すと、次第に意識を取り戻していくバグエルはその気付薬の苦さから顔をしかめては何本か飲薬を繰り返し、少ししてから泥酔の酔いを冷ますと、正気を取り戻て何故か俺と飲み比べする事となったのは冒険者としての腕は劣っていても酒くらいは勝てば文句は無いだろうと支離滅裂な意見が飛び、周囲もそれを面白がって囃しだてる。
「おい、ゼファート。彼を止め… …」
「良いではありませんか?この身の程知らずに思い知らせてやって下さい。」
俺の言葉を遮って彼女は冷徹な口調で煽ってきて、場の空気は逃げ道を示さない。
いざ飲み比べが始まるとバグエルは意外と底力を見せつけてきた。
いや、何かがおかしい… …ゼファートとの一戦では限界だった酒量を既に軽く超えているのだが、一向に酔う気配が無く、俺は既に目がまわりかけて限界を迎えつつある。
意識が薄れゆく中、王と宰相は如何にも悪巧みをしてやったりといった表情を浮かべていた事にようやく事態を把握した。
バグエルに渡していた薬の中には酔防薬を含んでいたに違いない。―
「ガルバザ。薬… …頂戴… …。」
「そうですね。そろそろ王都も見えてきますし… …良いでしょう。少し馬も休めたい所ですから。」
再び、女神の祈祷場がある丘陵に辿り着くと俺達は馬を降りて岩場に腰をかけるのだが、数日前とは明らかに違った景色が飛び込んできてその異様な魔素の残滓に馬すらも、しかと王都の方角を眺めている。
「何だ、この異質さは。」
ガウェインが双眼鏡を片手に王都を眺めた後、その手をガルバザに向け、それを渡すと、俺と話し込む。
「里の師とはまた違う強烈な気配だ。王都から何も連絡はないのか?」
「あぁ、報せはない。だが、王都の景観に異常は見当たらないが、あの地の荒れ方はおかしい。何があったのだ?」
所々抉れた大地が点在する。
荒れ果てたとまでは言わないが、明らかに戦闘跡だと解るそれに俺達はただ状況を収拾し推測する。
「もっと近づかないと王都の気配はわからないな。」
平原に跡を残す魔素残滓の中には、幾つか感じた色や気配があった。
酔い覚ましの薬を飲んでから一層研ぎ澄ました感覚でそれらを拾っては確信する。
ザバンの魔素や守護人狼達はじめ、ルゴールの魔素残滓さえ感じる。
相当な戦闘が展開されたに違いない。
ここまでの領域の爪痕は人外である。
「これ程の影響があるにも関わらず、王都は見る限り平穏無事そのものですね。城壁どころか城門一つも傷がついてないように見えますが。」
双眼鏡でくまなく見渡していたガルバザ
が漸く口を開いたが、ここで止まっていても仕方ない。
俺達は少し休んでから馬に跨り、帰路を進める。
少し行くと抉れた地に差し掛かり、魔素探知を駆使して、慎重に辺りを見渡すと微かに数多の魔素が飛び散るように見受けられた。
「この魔素残滓の数々は紛れもなく魔物ですね。それも、かなり高位の魔物。」
「それが、城門より少し手前まで続いているとなると、群勢は万を超えていただろうな。」
王と宰相は摩訶不思議といったところだが、俺には思い当たる節があるが、どうにも説明がつかない。
そこから先、また少し進むと、乾いた血痕が飛散したように一点を中心に王都へ向かって延びており、一定の場で途切れている。
そこから感じ取れた気配は恐らくマニのものか。
王都へと近づくにつれ、その魔素残滓は強大なのだが、馬達は怯える様子を見せないどころか平常心そのものな面も引っかかる。
当初感じた強烈な違和感は温かみを纏うように不思議と俺を包み込み始めている。
―… …『不変の〝 〟』―
いつかどこかで聴いた美女の口元が脳裏を掠めたが、その記憶と同時に俺の頭の中は先程まで存在していた曇天模様よりも遥かに重厚で鈍い微睡みを与えられ、その感覚と言ったら自身の語彙力では表現の仕様が無い。
だが、そんな状況にあっても一つだけ確信めいた事がある。
あの時、魔象にやられて気を失っていた景色での一幕がより鮮明に心に浮かぶと聞き取れていなかった美女が放った言葉、声はせずとも口元の動き方、声無き声をほんの少しだけ理解出来た。
『… …クス。… …こそ… …『宿命を楽しみなさい。』
何度もその言葉だけがひたすら繰り返し脳内を支配してくるかと思えば、最後の言葉尻だけはハッキリと声が聞こえた。
「ゼノ!平気ですか!?」
気付けば馬の上で頭を激しく抱えていた俺を二人は心配していたのか、酷く眉間に皺が寄っていて、こちらを注視している。
「あぁ、もう… …大丈夫だ。この強烈な瘴気に当てられてしまったのかもな。誰かの声が聞こえて仕方なかった。」
沈黙する二人は視線を互いに交わして小さく頷くと、ガウェインがこれより先の行動を示すと言い放ち、ガルバザもそれに同意したが、その気概は俺の意志と反する類いのものでしかなく、察知した俺は間髪入れず二人を制止する。
「お、おいッ!二人とも落ち着けッ!いきなりでは馬が怖がるだろう!それに、より近づいた事で気配察知はある程度出来ている!」
軽率な行動というよりは、元は冒険者上がり。
常軌を逸する『未知』に対しての判断や行動力や覚悟といった素養は盤石、と言うべきか。
ザバンの気配は確かに存在していて、見覚えのある気配も幾つもあり、そのほかの見覚えとは少し違う気配も何処か懐かしさがあったりと、王都内は総じて平和そのもの。
「このまま王都内に進もう。知っている気配の殆どは無事そうだ。」
二人の視線が振り返るとどこか冷たくもあるが、にこやかに微笑み再び王都へと視線を戻したが、最早俺の言葉に聞く耳を持たずだ。
数日の離城とはいえ、自身らが居ない間に見慣れぬ魔素が王都へ続いている事実が、不穏な残滓が、何よりも三傑の片棒からの未連絡が、奥底に秘めたる二人の扉を激しく打ち付けているのだ。
王都まで早馬で駆けて少しの距離ではあるが、ここから魔素探知で良くわかる様に、その正体は十中八九それと判断がつく上にその横にある魔素もまた正体は手に取るように解る。
にも関わらずだ。
ガウェインとガルバザは今にも戦争を起こそうかと思える程殺気立ち、怯える馬を宥めながら静かに全身を滾らせながら、完歩を進め始めた。
一完歩ずつ、じりじりと。
俺の制止の声に耳を貸さずに。
王都の城門との距離が躙り寄る度、俺の魔素探知が捉える形は明確に姿を現し、その魔素の数と色に酔いを覚えるのだが、明らかに見慣れた魔素が至る所から王都の城門内脇や上の物見櫓まで集まって来るのだが、次第にその数は異様なまでに目減りする。
それを見て俺はわざとらしく二人に聞こえる声量で数えたのだが、漸く王と宰相は口を開き俺に嬉しそうに語った。
「ゼノよ。私は王として失格である。民忠を蔑ろにして、冒険者を気取っておるのだからな。なぁ、ガルバザよ。」
「ええ。ここまでの道程に当てられて趨勢を見極めんと欲するのは国防の為と言うのは些か無理がある故、こうでもしないと私もガウェインも納得出来ないのです。これは、この国を預かる代表者としての威信を示さねばならないのですから。ルゴールが傍に居る事も把握しています。だからこそ今ここで柄にも無く、いや、昔の様に姿勢を示さねば… …あらゆる可能性を鑑みても戦闘には至りませんよ。これは… …あくまでも主導権の握り合いですので。」
乾いた風音の中、二人の声は俺の耳に辛うじて届く程度であり、言葉とは裏腹な気配をより一層濃く露わにする。
次第に王都の影が一回り、二回り近く大きくなると、魔素の数は30近く城門手前と物見櫓に集結していて、視力強化した眼でそれを捉えると、これまたやはり見慣れた顔がこちらを望遠鏡で窺っており、視線が合っては互いに大きく手を振った。
こうなれば茶番。
力尽くで二人の蛮行を止めても良いと思った矢先、城門が開いたと思えば人影の中から異次元の疾さで近寄る影に、二人はそれを解っていたのか、即座に馬を降りて抜剣し駆け出した。
先行した王と人影が交錯する直前にガルバザの重力波がそれを捉えたが一瞬の間に弾かれる。
だが、今のガウェインにとってはそれは十分過ぎるほどの『有利点』であり、紅く凛とした剣身は煌びやかな轟閃と化して振り下ろされると、人影はそれを受けて立ち、二人の周囲に佇む草木は勅命を受けた乱波の如く散り散りに勢いよく飛び立ち、空を舞う。
敵意剥き出しの二人をただ眺める事しかできない。
闘争本能かはたまた元冒険者の狩猟本能か、茶番劇には不似合いなまでの高潔な魂同士のぶつかり合い。
俺と同じく門の向こう側にいる者達もまた同様である。
けたたましくぶつかり合う剣身は一見すると刃の狂躁を思わせるが、それを操る主達は冷静沈着そのものなのだが、王と宰相は決して勇猛果敢さを置き去りにする事無く攻勢に尽力を向ける。
かたや対峙する異様、人ならざる影は防戦一方ではあるものの明らかにそれを楽しんでおり、王の波状とも言える斬撃に併せるように剣を振るう。
王の円熟味があると呼ぶに相応しい剣技の連続はまさに流麗で、次第にそれは美しくも激しさを増し、激流と化してゆく。
間髪入れず、まるで際限を感じさせない王の斬撃は浴びる陽光の息吹を体現するかの如く、空に光絵を浮かび上がらせ煌びやかなその剣身は赤白く剣筋を描きその残光さえ思わず息を呑んでしまう程、美しく、猛々しく、芸術的だ。
ユイカの剣技を初めて見た時も思った事だが流石は父親だ。
影はそれに飲み込まれんと捌き切るのだが、厄介なのはそれだけでは無いはず。
王の斬撃に併せて放つ阻害魔法は多岐に渡り、影の身動きを極僅かに狂わせてゆく。
王の強烈な一撃一撃は真っ向斬り、袈裟斬り、逆袈裟斬り、突きなどの基本技術の組み合わせなのだが、身体の使い方や適宜間をずらして相手の意表を突いたりと実に多彩な剣技を魅せ、そんな王の動きを阿吽の呼吸で見事見抜いている宰相は王の攻勢直前や合間に影が反撃に打って出れぬよう魔法で動きを制限させ妨害する。
影は魔法に集中すると、王の鋭い斬撃に対応が遅れてしまい、その刹那が暫く続いてきた擦過音に終止符を打つ。
唐竹割りからの逆一文字斬り、逆袈裟斬りの速度は特に目を見張るものがあり、俺はただ冷静に学んだ。
影は更に距離を詰められると王の斬撃からの肘鉄を喰らい仰け反り、そのまま王の勢いついた回転切りに逆手で受けた剣を弾かれ、王が突き付けた切先は首元でぴたりと止まった。
「これが、かの三傑か。人の領域を超えた証であるな。流石はハティスコルに見そめられた英傑達よ。」
影がそう言葉を漏らした直後、影は地に溶けながら消滅、そして城門の方角から拍手が聞こえたかと思うとやがて盛大な感嘆の畝りとなり押し寄せた。
「実に見事!我が影に負けぬとはこの国を統べるに値する、流石ハティスコルが加護者よ!」
一際大きな声でそう語った者の姿に俺はどこか見覚えがある気がしたが、それよりも現状の把握をしたい気に駆られていて、
三者揃い踏みで王宮へと向かうのだった。
とんだ帰還となったわけだが、驚くべき所は他にもある。
異様な雰囲気の正体が明らかになるのはそれから少し後の事、王宮にて主要人、神達との会合の最中で知る事になるのだが、その会合中に俺は里長含め、ゆっくり休むよう伝えられて久々に宿へと足を向けるのだが、周囲がそんな俺を放っておくわけもなく、マニやバックス達に無理矢理酒場へと連行されると、旅の話をする羽目になっていた。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
また一ヶ月更新出来ずに申し訳ないです。
気力も体力もゴリゴリ削れて作品止まるのは正直不本意ですが、ちょこちょこ次話以降、紙に書き足してますので、近いうちにちょい出ししていく予定。
予定は未定!
では!




