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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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五十五話 マダイトス

いつも読んで頂きありがとうございます♪

探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。

 ―王都を出発してから9日目の昼―


 「この辺りで避難民を見かけるのは少々奇妙ですね。」


 ガルバザの言葉に俺は彼の見る方向へと視線を向けた。


 多くの避難民なのだろうか、辺りを見渡せる平野に一塊りとなって集まっていて、話を聞くと、着の身着のまま都市から逃げて来たのだった。


 「街に居た冒険者に逃してもらいました。ただ… …。」


 異常な数の魔物が襲来し前代未聞な状況に都市の警備兵や滞在中の冒険者が民の避難を優先しつつ今も都市内で闘っているらしく、ここからもその激戦の痕跡はよく見え、俺達は早馬を駆けた。


 ―湖畔都市マダイトス―


 太古から多種に渡る水棲動植物が数多く棲息する湖に隣接する都市。


 多くの冒険者や商人が往来するファスト国でも有数の商業観光都市の一つで、その景観の良さは王都でも一際有名であり、貴族もバカンスをする際、必ずと言ってその名は挙がる。


 湖といえども、対岸までの距離は広く、長い。


 白くきめ細やかな砂浜が湖のおよそ半分程を囲うように連なり余暇を楽しむ多くの人で活気に溢れており、まるで透き通る海岸のようにさえ思える景色は壮観であり、“カエルム・テラ(地上の空)”と異名がつくほどだ。


 隣国の水都とはまた違った明媚さがそこにあるのだ。


 湖畔にある港は、湖で盛んな貝や魚の養殖業が専らの目的なのだが、中には大型の客船もあり、それは湖畔をぐるりと観光周回する船らしく幾つかの湖岸に船着場があるのはその雄大な湖の(ほと)りに幾つかの古代遺跡などの観光による都市を支え、大きな収入源の一つになっている。


 それが、今や都市の至る所で黒煙や白煙が上がり早馬で近づくにつれ、硝煙臭さや、焦臭に事態の重さを感じる。


 未だに都市の門から何人もの避難民が出てくるのだが、それを追うように数多の魔物が襲っていてそれを殿で防いでいるのは都市の貴族私兵や警備兵だとガウェインが叫ぶと三人でその魔物群を蹴散らしにかかる。


 「まだ街中に魔物が溢れていて冒険者達が奮闘してくれています!我らが主、アグウネル様もそこにおられます!」


 息も絶え絶えに都市警備兵が話すには逃げ遅れている避難民の中には王都の貴族もいるらしいのだが、どうやら孤立状態にあるようで、俺達は早馬をその警備兵達に預け、離脱を促してから手分けして都市内へと駆け込み魔物群を各個撃破へと向かう。


 ガルバザは都市内の負傷者の手当てを、ガウェインと俺は東西に延びる都市街を手当たり次第に駆け回りながら、連絡水晶にて随時連絡する事を交わし駆け抜ける。


 「俺たちが時間を稼ぐ!良い加減退避してくれって!!アンタらが生きてくれさえしたら、街は死なねぇんだから!!」


 魔物群を薙ぎ払いながらの轟音の中にそう聞こえた方角に視線を向けると、壮年の男性とそれを囲む様に必死の抗戦を示す若い冒険者達が見え、壮年の表情は苦虫を噛んだようにとても苦しそうだ。


 襲いかかってくる群れに俺は少し苛立ちを覚えたのは、一体毎の外皮がやたらと硬く、正確な急所を突かねば倒れない特徴で、急がねば壮年達の救助に間に合いそうにない。


 瞬間的に技で薙ぎ払いたいが、都市への被害を考えると数段力加減せねばならず、かといって加減が過ぎると意味がない。


 「こいつら、星11(トリプ)相当か。」


 魔剣に込める魔素を加減し、極力、建屋を壊さぬように街道を破壊せぬ様に俺は集中しながら魔物群へと突っ込んだ。


 周囲に群がる魔物達は俺の魔素に反応して一部以外見事に避けて間をとり、こちらを警戒している。


 「ボロボロじゃないか?これを飲むといい。」


 修験の洞にて暇つぶしに作っていた回復薬はザバンに製法を聞いていた物でザバンほどの効果は無いが彼等には充分過ぎるほどの物だったのは、彼等の反応を聞けば一聞瞭然だ。


 「アンタ、冒険者か?助かった!」


 「あぁ、それよりもこの騒ぎをまず制圧しよう。話はそれからだ。」


 薙ぎ払う中、質の良い魔物群の知性に慣れてきたのか俺は一筋の勝ち筋を見出した。


 奴らは熱に弱く、外皮に纏う水属性の魔素を削れば容易に対処できる。


 だが、数が多く、その上、通路にはぎっしりと蔓延る為に俺の創造力での技では街を破壊してしまう。


 自ずと自制せねばならない状況にヤキモキするのだが、今は仕方ない… …。


 「ここは、俺に任せてくれ。貴方達は離脱を。」


 「おい!この数相手に一人でやれっこねーだろ!俺達も冒険者だ!力貸すぜ!なぁ、お前ら!」


 若い男の声は自信に満ちていて、男の仲間達もその声に呼応する。


 「なら、その壮年を守ることに集中してくれ。撃ち漏らしたらそれを頼む。」


 俺の言葉に若い男は一瞬抵抗しようとしたが、壮年の男性がそれを無言で制する形で首を横に振っていた。


 水棲の魔物から発する声音はかつてグスタバらと過ごした日々を重ねるが、その頃に比べて感じるのは圧の強さに脅威は感じ無い。


 煩わしいのは圧倒的な数だ。


 気を緩めれば間違いなく刺し違えるのだが、遅れを取るつもりは無い… …集中。


 体内に巡る魔素の一つ一つを感じ取りながら、剣へと流し、足に溜めた魔素を一気に放つ。


 状況を把握しながらも、魔剣に宿した炎が絶えぬように一体、また一体と切り裂く。


 「一撃… …マジか… …。」


 その声にふと気付けばおおよそ100を越える亡骸を背にしていたのだが、未だその何倍もの数の魔物が眼前にいる。


 先程の壮年達はただこちらを眺めているが、その風体は唖然としているように見えた。


 魔物はやはり知性がある。


 水棲動物らしくどんな状況からも建屋を這いずり屋根へと登ると、上空から巧く間をとって襲撃にくる。


 水平方向と垂直方向に気を回さねばならないのは先日の“修験の洞”を思わせるが、姿形と敵意がハッキリとしている分、数の暴力を浴びるうちにまるで苦は無くなっていき、それはまな板に乗せられた魚を捌くようにさえ思えてきた。


 魔物達も知性がある分、連携を取り始めてきたのか、同時に二体、三体と徐々に数を増やしてくるのだが、俺にとっては一振りでそれらを一気に薙ぎ払えるので、むしろ好都合である。


 最早、先程まで囲まれていた壮年達の下には一匹とも寄せついていない。


 そうして、更に幾つか時を経た頃、ガウェインとガルバザが合流してきたのか、壮年達の傍で何やら言葉を交わしており、少ししてから、ガルバザの耐火魔法が俺を包み込み、俺の前方方向へ向かって熱風が駆け抜けると、魔物達の動きが止まった。


 「ゼノ、今です!蹴散らして下さい!」


 連絡水晶からガルバザの声が聞こえ、俺は瞬地を使い、全てを薙ぎ払ってみせた。


 だが、安心したのも束の間、東の門から先にまだ魔物の姿がある事に俺は連絡水晶を通じて門の先へと向かい、後を追うように王達も駆けつけたその時だ。


 地図にして王都のある北側から南下して来ているのだろうか。


 数は多いが、あまり気にならない。


 なぜなら―


 「あの先は平野だったな?人里がないのであるなら、一網打尽に出来るが、やっていいか?」


 俺の言葉に静かにガウェインは頷いた。


☆☆☆

 

 「いやはや、まさか王と宰相がこの街に赴かれていたとは、お出迎え出来ずに誠に不敬極まりなく存じております。」


 「いや、良い良い。そもそもこの街には立ち寄るつもりではなかったのだ。気に病むな、アグウネルよ。」


 「ええ。私達は王都への帰路にあったまでの事。それに、良き物も観れました事ですし、何ら問題はありませんよ、アグウネル辺境伯。ただ、あの魔物群の発生は恐らく… …。」


 ガルバザとガウェインとこの地の領主、アグウネル・ラ・マダイトスはかつて共に大陸に名を馳せた仲間であり、先刻の冒険者達と共に勇敢に剣をふるっていた壮年の男で、齢はガウェインより四つ上といえど、白髪混じりでも若々しく、肉付きも引き締まってみえる。


 所作の一つとっても、聡明さが浮き彫りになっていて、王都で度々見かける貴族とはまるで違う。


 それは、魔物群を退けた後の立ち振る舞いからも充分に見受けられた。


 それまで貴族というのは、おおかた民や冒険者に対して下劣な態度を示すものだと思っていたが、アグウネルは事後処理の際、マダイトスのギルド、冒険者、兵士に加えて、民や貴族など公平に接しながらも、都市の復興を直様に指揮し、王と宰相がいる手前もあるのだろうが、余暇にいそしんでいた貴族達も割と素直にアグウネルの指示に従っていた。


 「ゼノよ。このアグウネルはな、只者ではないのだぞ?この男に嫌われてしまうと、貴族ですら街を出禁になるのだからな。」


 ガウェインとガルバザは心底笑うのだが、どうやら三名の絆は古くは幼少期に遡るらしい。


 とりわけ、懐かしむように話す三名の顔から感じ取れる空気は和やかに落ち着き放っている。


 「そんな昔話はさておき、ゼノ殿。こういうとお気を悪くされると承知の上でお聞きしますが、貴殿の腕前は本当に人なのだろうかと思わされた。たった一人であの数の魔物を薙ぎ払っていく姿に、最後の一閃は最早、一国を消し飛ばせるのでは無いかと思った程であった。」


 「はは。故郷に似た魔物がいて、それよりは弱かっただけの話。しかし、数が流石に多くて、少々面倒だったが、俺もまだまだ未熟な所があると気付かされたので、良い経験になった。」


 里での経験がこうも役に立つとは思っていなかったが、改めてグスタバには感謝しなければならないな。


 そんな事を考えては一人世界に浸かっていると、ガウェインが何度か俺の名を呼んでいて、耳を傾けると、これより先は込み入った話になると言い、席を外すよう促されたが、席を外すついでに案内役を付けるからと街の視察を頼まれる事になった。


 俺はそれを快諾しながら、領主邸の玄関へと向かう最中、ラー爺達の動向を思い返していた。


 迷宮四層での一件からもう10日以上は経っている。

 

 ザバンは無事にラー爺達と会えただろうか?


 王都を離れる際にザバンに託した虹色水晶を介して未だ王都に滞在していてくれたら助かるのだが。


 俺は淡い期待を胸に抱きながら空を見上げて思い耽っていると案内役であろう若い女性が一人声を掛けてきた。


 「ゼノ様ですね、初めまして。アグウネル様より案内役を(つかまつ)りました、ゼファートと申します。お見知りおきを。では、ご案内致します。」


 その女性に見覚えが多少あったのは、先程の混乱時、アグウネルの傍で剣を構えていた内の一人。


 凛とした表情に歩く姿も洗練された動きそのもので、付き人というよりは何処ぞの剣士とすら思えるほどの風格があるのだが、着ている服はまさに執事その物。


 「ふふ。そんなに私が気になりますか?」


 少し歩きながら彼女がそう呟いて振り向くと堅い表情は跡形もなく崩れ、年相応の若さを感じさせる表情を見せた。


 「相当な腕利と見受ける。剣技を?」


 「はい。アグウネル様より幼少期から鍛えられておりましたので、こう見えても私、星7(アメジ)なんですよ。」


 その言葉に俺は違和感を覚える。


 先刻、魔物の攻勢を見事に弾き返していた事もそうなのだが、彼女から感じ取れる力は明らかに、少なくとも星11(トリプ)以上だった。


 「もしや、特殊体質(絶界)か?」


 「ふふ、察しが良いですね。流石は噂以上の御仁です。」


 彼女の生まれつきながらの体質は“絶界”と言われる特殊性質で放っておくと自身の魔素が尽きるまで潜在的な力を引き出してしまい、心身ともにその生命力を通常よりも大幅に消費してしまい、巧く魔素を扱わないとその身は短命になるという諸刃の常時発動型技能(パッシブスキル)である。


 物心ついた頃から周りと違う体験が多くあった為領主アグウネルの協力の下、試行錯誤と鍛錬の賜物により、その能力は不良債権にならずに済んだようだ。


 「そうか、故郷にもその手の戦士はいたから、色々苦労した事だろうに。」


 「ええ、確かにここまで出来るようになるのに、相当苦労しましたが、この程度の障害など今や取るに足らない些細な事ですね。それに、この体質に生まれていなければ今こうしてここに居なかったと思いますよ。この体質のお陰で何度も命拾いをした事もありますから。」


 その話ぶりからは決して驕らず、されど、謙遜も感じさせない。


 それは、自信に満ちた想いというよりは、感謝に近い感情なのだろう。


 一見不利とも思える体質は不可抗力ではあるが、巧い付き合い方を覚えればその癖もまた凄みへと発展する。


 里の戦士もそうだったように、魔素の扱い方一つで大きくその意味は変わる。


 「私からすればゼノ様の方が苦しく無いかと存じ上げますが。」


 凛とした表情で彼女は俺を見たが、それは何故かと問うと意外な言葉が返ってきた。


 「先程の一閃時、手の甲に薄らと浮かんだ紋章は大陸冒険譚の“這鳥“のまさしくそれ。ゼノ様も特殊体質じゃありませんか。強大すぎる力は制御に苦労は付きもの。勿論、力無き者が修練を積むことも存分な苦労はついて回るものですが、そういった種類の苦労とはまた別かと。」


 「苦労か… …考えた事なかったな。俺はいつも師達や里の腕利達を見て育ってきたし、正直言って地上社会を知るまでは強者の基準すらも理解していなかったし、一日でも早く師達に追いつきたい、誉められたいとよく思っていたよ。これまでの人生経験を苦労とするなら、凄く満たされた日々を送ってきたとしか言いようがないな。」


 「ふふ。なら私達同じですね。毎日疲れ切ってはまた修練に勤しんで… …そうして辿り着いた境地になんの不都合がありますでしょうか?」


 彼女のふとした笑顔に俺もつられて笑う。


 互いの過去を話合っているうちに都市の復興地点に辿り着くと、早速俺を呼ぶ声に振り向くと先刻の若い男が大声で手招きしていた。


 「ゼノ!さっきはどうもありがとうよ!ゼファートちゃんもな!」


 屈託なくにこやかに綺麗に並ぶ白い歯を惜しみもなく見せるこの男の名はバグエル・アストロ。


 齢27にして、上背があり、筋骨隆々な体躯からは日々の研鑽が如何なるものかを物語っていて、俺達と会話の最中でも、他の冒険者や兵士にも指示を出しているのだが、その風格と言うべきなのか雰囲気というべきなのか… …何処となくガウェインを彷彿とさせる。


 バグエルはどうやら大陸中を旅する一団の長らしいのだが、十数日前にこの街へとやってきたらしい。その割にはやけにゼファートや復興作業中の兵士や民、冒険者達とも実に親し気である。


 「彼は王都士官学校時代の同輩なんですよ。」


 「そうそう、俺が次席で、ゼファートちゃんは首席。ここで再会するとは思っても見なかったもんってな。この都市は俺の愛する故郷なんだ。久々に来てみたらまぁ、とんでもねぇ!」


 陽気な性格だとゼファートからは聞かされていたが、砕けて散らばる瓦礫を拾い集めながらも、楽し気に躍動する彼を見て俺も何か手伝えないかと考えた。


 脳裏に浮かんだのは、貧困街での一幕。


 ザバンみたく巧くはないが魔力で真似できる事と言えば建屋の壁や屋根の修繕時に魔力を織り交ぜて素材の耐久性を上げる事くらいか。


 近くにいる魔導士に声を掛けて、修繕素材の材木や壁材に魔素を織り交ぜ、魔力操作で見事に復元してもらい、その強度を確かめて見る事にした。


 「この中に怪力自慢はいるか?バグエル。」


 不思議そうに通りで作業していた者達が何が始まるのかと興味を示して注目する中、バグエルの仲間であるツイークが指名されると、前へ出てきた大柄の男はまさにルゴールに匹敵する程の体躯に自慢の大きい腕が目立つ。


 「全力で殴ってみてくれ。」


 一帯にいる皆が正気なのかといった表情を浮かべたが、ツイークは遠慮なく拳に魔素を集中させ、ありったけの一発を打ち込んだ。


 建屋の壁も屋根も看板も微動だにしない現実に俺は安堵し、皆は驚いていた。


 「世界は広いなぁ〜、これだから冒険は辞めらんねぇよ。」


 バグエルだけ発した一言目が皆と違ったのは、この男の器は紛れもなく特殊なのである。


 「問題ないな。バグエル、修繕用の素材は俺に預けてくれないか?見ての通り、ただ直すよりもこの方が良いだろう?」


 そこから建屋に街壁に街道にと修繕作業を手伝い続け、僅か半日足らずで都市のほぼ全域を修繕し終えた頃、空は群青色に染まりかけていたが、当初からの目論見よりも遥かに早く復興出来たことに王も宰相も領主もすこぶる喜んでいた。


 「さぁ、宴だ!野郎ども!」


 明るさを完全に取り戻した街にバグエルの声は響き渡る。

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


何ヶ所か修正しました。

久々の主人公視点!


さぁ、書き溜め… …_φ(・_・

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