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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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五十四話 “いき“ (インクフリード視点ver.1)

いつも読んで頂きありがとうございます♪

探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。

 ―暁光風雲チームハウス内。


 「副長ッ!」


 「騒々しいぞ、ラスター。」


 如何にも活発感に溢れ一見利口そうな雰囲気である青年は、この暁光風雲の中では経歴が最も浅い。


 だが、団員の中で私に次ぐ実力者で、その癖のせいか無類の冒険好きで目を離せば処構わず迷宮に潜ろうとする根っからの冒険者。


 弱冠17歳で王都の冒険者番付に名を連ねたほど優秀である。


 だが、若さたる所以、色恋沙汰にも多感なのが珠に傷なのだが。


 「守護人狼(ディフェンドガルフ)の五人をウチに引き入れましょう!少なくとも『南鈴の巫女(サウザーシビュラ)』だけでもッ!」


 目を燦然とさせながら、ラスターは息巻くのだがいかんせん相手が悪過ぎる。


 守護人狼の団長クルブルとサラとは過去に共にチームを組んだことがあるのだが、私が当時感じた事とと言えば、クルブルは王都でもトップクラスと思えた程、防御での立ち回りは巧いが、星7(アメジ)にしては、いささか攻撃力(火力)不足が否めず、相応の戦闘経験が無いウチの団員とは、呼吸が合うのも時間がかかる。


 サラについては気は強く勝ち気な面が顕著ではあるが、それがハマっているのか攻守に渡る法撃力(火力)や間合いの取り方、立ち回り方はすこぶる冒険者向き、チームとしての連携はほぼ非の打ち所がないとはいえ、戦闘外での立ち振る舞いはとても褒められるものでは無かった。


 だが、昨日のオーディン様との死闘で魅せられたのは最早、私だけではない事くらい分かってはいたがあの人外的な凄みは一体… …ラスターの言う事も一理ある。


 過去に二人と入団について話をした事もあったが、あの頃はこちらの醜態を晒してしまった経緯がある。


 それに、何よりもあの頃と違っていい雰囲気を纏っているチームだ。


 勧誘は今更非現実的である。


 「なら、せめて団契(クエストシッパー)だけでも話出来ませんか!?」


 ―『団契』―


 クエストシッパーとは、いわゆる冒険団同士で協力して依頼をこなす業態なのだが、元々気の荒い者同士が組むわけで依頼完了後に互いの団の取り分で揉める事が多く、時にそれは生殺与奪の様相に発展することもある。


 なので、団契の際、必ず冒険者協会(ギルド)立ち会いの下、実施される。


 しかし、団の規模の差で取り分の割合に差が生じる為、破談もしばしばある。


 加えて、星格の上下が現場でも振りかざされ、個々の働き具合によっての不満は後を絶たない。


 王都一の団員数を誇る私達と五名の冒険団なら言わずもがな条件は厳しい、そして何よりも、此度の件を(かんが)みれば明らかに彼らの方が実力は遥かに上だ。


 とりつく島もない。


 故にラスターのゴネりも気持ちは解るが、私は首を縦に振ることは無い。


 … …ウチの団長がもっと人格者であれば今こうして部下のボトムアップを拒む事は無かったのだろうな。


☆☆☆


 「よぉ、ご機嫌ナナメだな。」


 市場通りから一本外れた中通りはチームハウス前の閑静な通りなのだが、そこで粋のいい声につい振り向くとマニとユイカの姿があった。


 「あぁ、貴殿らか。ちょっと考え事していてな… …どうかしたか?」


 「そりゃ、こっちの台詞だぜ。アンタらしくねぇ顔してりゃ気になるだろ?」


 マニの隣でユイカも頷いている。


 「話なら聞きますよ?」


 「あぁ、俺らがどうこう出来るかは分からねーケド、アンタがそこまで病んでんだ。行くぞ。」


 二人がそういうと、マニは行きつけの店に案内してくれて、店主に声をかけていた。


 私とユイカは先に席に座り、マニの着席を待っていると、彼女が好む果実酒を人数分運んできた。


 「まだ昼だぞ?」


 私の言葉に対してマニはあっけらかんとした態度で聞き流す。


 「で、悩みってなんだ?またあの団長(ポンコツ)に振り回されたか?」


 「いや、そうではないのだが… …ラスターから提案があってな―」


 事の経緯を二人に話すと、二人も神妙な面持ちに変わる。


 「確か、団長(アイツ)クルブルに喧嘩うって、サラにビンタ喰らってなかったっけ?二発。」


 そうなのだ。


 かつてウチのポンコツ(団長)はサラに(うつつ)を抜かした挙句、引き抜きに失敗後、クルブルに八つ当たりした過去が有り、その時はまだ彼等も若く、将来性を見込んでいての暴挙であった。


 以来、仲裁役としての私以外の団員達は彼等との接触は禁止されている。


 ラスターはその事実を知らない世代だからああは言っていたが、何よりも、団の実力差は逆転して彼等の実力は最早、王都で最高峰だと痛感させられる。


 話なんて出来るわけがない。


 「確かに… …。あんな出来事があったのですから無茶苦茶な話。それにですよ、アンデッドの大群を前にして前線に出ようともしなかったし、オーディンとの死闘も腰が引けてましたから、団の長があんな調子では団契なんて虫が良すぎますね。」


 「だろ?だから諦めていた所に貴殿らと鉢合わせたのだ。なんてことはない話さ。」


 「その割には偉く落ち込んでいねぇか?」


 マニの言葉が妙に突き刺さる。


 その原因は、過去の経緯にある事にはとっくに気づいていたからだ。


 ウチの団長『イサルツ・ハーシー』の暴挙は5年前に遡る。


☆☆☆


 ―五年前、当時の私は38歳、ハーシーは28歳の頃だ。


 「おい、お前達。中々、見込みがあるぞ?どうだ?入団するなら俺の団に加えてやってもいいぞ?はっは〜!特にお前はその容姿と実力は俺様に見合う価値がある!貴様は俺の女として迎えてやろうじゃないか!たんまり良い想いさせてやるから悪い話じゃないだろう!!」


 「は?お断りよ。だってアンタ大したことないじゃん。」


 サラの言葉にハーシーは激昂し、彼女の腕を力一杯に掴んで怒鳴りつけた。


 「痛ッ!!何すんのよッ!!」


 渇いた快音が二度も続け様に響くとハーシーの驚いた表情が視えたのは付き合いの長い私ですら初めて見た。


 そのやり取りにクルブルが急いで割って入ると、彼と揉み合い、先にハーシーが手を出してしまう事態となる。


 取っ組み合いの様相を呈する現状にその場にいたウチの団員は皆仲裁に入るのだが、その喧騒の場は冒険者協会の敷地内の訓練場で、名だたる冒険者達が居るのは勿論の事だが、間が悪いことに、王宮守護騎士団の一部が訓練に来ていて、この剛腕冒険者を止めにかかってくれるのだが、事を鎮めたのは王宮守護騎士団の副団長だ。


 彼女の華麗な木剣捌きは明らかにハーシーより格上で完膚なきまでに叩きのめしているのは三傑が一つの血筋と言わざるを得ない。


 目の醒める剣筋の疾さは私でも防ぎきるのは至難必死。


 その彼女の表情から読み取れるのはまだ実力の半分も出していないという事くらいは解ったのだが、全力で打ち込まれたら私でも分が悪いと思えるほど動きが鋭い。


 それにしてもこの頃の団長は何か精神力に不都合な物を摂取したのかと疑うように実に奇妙。


 【暁光(フェリス・)風雲(フォニアス)】を旗上げした頃は、類稀な精神力と胆力に加え実力も並いる冒険者達より頭一つ抜けていて多くの老若冒険者がそのカリスマ性に惹かれて集まった。


 駆け出しの頃からただ上だけをひたすら見据えて屈強な魔物に怯まず立ち向かい、薙ぎ払っていく姿勢は新進気鋭の星と異名がついてまわる程、王国中の癖のある冒険者達でさえ一目を置き、性格も歯に衣着せぬ物言いではあるが、その爽やかな傲慢さがかえって良いと評判になっていた。


 とびきりハーシーの名を広めたのは、最年少での迷宮踏破数。


 王国内に溢れかえる大小様々な迷宮を彼が先陣を切って皆を奮立たせ、強引に、時には慎重に数々の迷宮を踏破して団発足から僅か三年で冒険者貢献度順位のトップに立ち、王都四星の一角まで駆け上り、その異名に恥じぬ働きをしてきた。


 だが、近頃はよく勤勉よりも怠惰が目立つ様になり、未熟な団員の教育よりも己の色欲に染まっている様に見えてしまう。


 先程の二人に対する暴挙にしても初期団員の誰もが口を揃えて私と同意見するほどである。


 旗上げから10年。


 一体何が彼をそんな風に変えたのか。


 その理由は誰にもわからない。


 だが、事実として団長の評判悪化は日増しの一方であり、チームの運営は全て私が半ば押し付けられ気味であるが、初期団員の数名と手分けして職責を果たしているその間、彼は遊び呆けていると専ら噂になっている。


 「ふぅ… …どうしたものか… …。」


 19歳の木剣になす術なく散る団長の足首を掴みながら訓練場脇の医務室へ引きずりながらそう呟いてみたものの、この為体(ていたらく)では先が思いやられる… …。


 「申し訳ない、御二方。団の不手際だ。」


 「そんな馬鹿見限った方が良くてよ?」


 サラの言う通りなのだろうな。


 だが、それでも私には彼を見捨てる気は微塵も無い。


 この男の真に在るべき姿はこんなもんじゃ無い筈と心が言っている。


 「元々、ああいう人間では無かったのだがな… …どういうわけかこの頃、目に余ってしまう。」


 「ジルも大変だな。だが、これだけは言わせてもらおうか。今後一切、団契(クエストシッパー)は無しだ。だが… …」

 

 クルブルの眼差しから伝わる意志と私となら今後も付き合いを続けてくれるらしい。


 複雑な気に駆られるのは、私の中にあるもう一人の自分が何かを囁いているのか… …。


 「後の処理は我々、暁光風雲に任せてくれ。誰がなんと言おうが非はこちらにある。」―


☆☆☆


 「あん時ゃ、ユイカがガチギレしたっけな!」


 マニが豪快にそう言い放つとユイカは照れ隠しするのだが、相変わらず下手である。


 「でも、あの時私が打ちのめさなかったら、貴女が容赦しなかったでしょ?だ・か・ら私が成敗したまでですよーだ。」


 年頃の若く、気心しれた仲でよくある会話に私は少し和むと、外の流れる白雲を眺めると妙に落ち着いた。


 「そうだな。この件はスッキリしたよ。御二方のお陰だな。」


 マニとユイカはにっこりと微笑んでくれたが、私のもう一つの悩みを打ち明けたくなった。


 それは、先のオーディン様との邂逅(かいこう)


 明らかに他の面子よりも私は劣っていたからだ。


 日々の鍛錬と冒険での経験値は私を形作って来たのは間違いなく、自信もあった。


 だが、守護人狼(ディフェンドガルフ)黄石の(サラマン)竜子団(・モーズ)の即席連携陣形にあの実力は私の冒険者のプライド… …いや、人生そのものに落胆の二文字しか感じさせなかったのだ。


 「やはり、貴方もそうでしたか… …。」


 ぽつり、と声を漏らしたユイカの表情は儚げで、それを見て思わず私は言葉を失った。


 天才騎士でもそんな表情になるのかと。


 「私も自身の力の無さに辟易していた所です。天才だと持て(はや)されて、気付かぬ間に自惚(うぬぼ)れていたのかもしれません。師はともかく、冒険者の力に圧倒されました。特に、守護人狼に… …。」


 珍しく曇った顔つきにマニも思わず持っていた酒杯を置いた。


 「どうすれば、あんなに堂々と神と渡り合えるのでしょうか?私なんて一太刀すら(かす)りもしなかったというのに… …黄石の竜子団ならまだしも、まさか守護人狼があれだけ渡り合えるなんて、彼等には失礼ですが、正直言って… …凄く悔しかった。」


 私も同意見だ。


 あれから五年の月日に一体何があったのか。


 王都、いや、王国一の功績を自負しているこの気持ちは何なのかと言わざる得ない。


 悔しい。


 その一言に尽きる。


 「だったらよぉ、強くなればいいだけだろ?しみったれたしょうもない考えが支配してんなら、考えられ無くなるまでとことん闘えば良いだけじゃねーか… …誰だって壁を感じたら次の一歩を躊躇(ちゅうちょ)するし、酷けりゃ止めたりする。それって限界決めつけてる奴がする事だからな?悪りぃけど俺は気にせず先に進むぜ。この世界ってよ理不尽や不可思議なんて当たり前。考える事も大事だが… …飯が美味いと思えんのは不味さを知ってて、熱さを知ってるからこそ冷えに気づける。てことは、そうやって“負け“を知って認められるからこそ本当の“勝ち“の意味知れんじゃねぇのか?こうも言える。壁を越えてくる奴しか負けを自認出来ねぇ。不甲斐なさを認めてからが本当の勝負だろ。」


 場の空気が少し重めになりかけたのだが、マニがそれを吹き飛ばす様に言い放った言葉に私もユイカも何故か心を救われた気がした。


 マニの視線の先には穏やかな昼下がりの空があるだけだが、きっとそれは彼女からすると違う景色を眺めているのだろうと錯覚させる。


 「“負け“を認める… …か… …。なら、この感情は必要な要素なのかもな。これは、相当厳しいかも知れん。」


 「あぁそうだぜ、ジル。“試練“だぜ。」


 悩んでいても仕方あるまい。


 沸々と湧き出てくる何かに焚き付けられる自分が明確に感じ取れる。


 ユイカの先程から見せていた顔も明らかに変わっている。


 「俺だってバックスなんかに… …。」


 皆、何かしら葛藤があるだろうし、何よりもマニも格下と思っていた同型のバックスに思うところがあるのだろう。


 穏やかな日常とは裏腹な内心に気付いた頃、店の窓の反射に己でも驚く程の顔を見た。


 「良い顔になったな!その意気だぜ〜、ジル!ユイカ!」


 マニがそう言いながら再び酒杯を勢いよく打ち付け、鈍重な乾いた音が何かの始まりを告げた合図の様に聞こえた気がした。


 私はそれを一気に飲み干し、決心した。


 チームの為に人知れず奮闘してきた過去に一つ踏ん切りをつける意味を込めて。


 己の鼓動が激しく脈打つ感覚を覚えながら冷めぬうちに行かねばならないと思った。


 “息“を殺すのはもう辞めだ。


 

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


うぅ書き溜め… …_φ(・_・

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