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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
53/56

五十三話 狼と常闇(クルブル視点ver.1)

いつも読んで頂きありがとうございます♪

探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。

 華やかなで心地よい音色が奏でる空間はとても穏やかで王都の騒めきとは無縁の場だ。


 客の殆どが未熟な冒険者ではあるが、つい数ヶ月前までは俺達はこの面々と横並びだったのだと思うと、改めて運が良かったのだと言い聞かせた。


 店のマスターには随分と世話になった。


 駆け出しの頃、この店でサラと出会い、コンビを組む事になってから、二人一組(ツーマンセル)で守護人狼と名付けた。


 互いにそれまで所属していた冒険団を辞めていた理由も当時の実績ではなく、人生観や性分といった違いによる軋轢(あつれき)で仕方なかった。


 互いに傷の舐め合いから始まった甘ったれた冒険生活はそれはそれで良かったと思う。


 そんなマスターは一人もの静かにずっと応援してくれていた。


 それから暫くして辺境の村落で盗賊退治の依頼を受けて向かった先でヤームンとチッチに出会い、無事に依頼完了後、四人で依頼を熟す日々が続いた。


 ここへ来るたびに俺達は誰一人として屈辱を味わわない日は無かったのだ。


 幾つもの後輩冒険団に追い抜かれ、その都度、万年“負け人狼”なんて言われて必死に堪えていたっけな。


 ダスコダさんと初めて会ったのもここだったな。


 「な〜に、黄昏てんの?団・長。」


 「サラ、お前も来てたのか。いや、なに、思い返せば俺達、色々あったなと思ってな。」


 怪訝にも暖かく小笑うサラが隣の席に腰をかけるが、その席はここに来るといつも特等席の様に座っている席だ。


 かくいう俺もいつも同じ席なわけだが。


 「ほんっと… …色々あったわよね。自分が自分じゃ無いみたいに思う時があるから。」


 そうだ。


 一昨日から死司神の加護なんて物がついてしまってから尚の事、己自身サラの言う通りに感じてしまう。


 「なぁ、サラ… …引退は考えてたりするのか?」

 

 俺は齢32でサラは29歳。


 もう出会って今年で丸10年だ。


 「ん〜、正直言ってつい最近まで考えてたわよ?お誘いが無いわけじゃ無かったし。」


 「… …。まぁ、お前ならその容姿があれば引く手数多じゃないか。」


 「あれ?なになに?団長は私が居ないと寂しくなっちゃう感じかなぁ〜?」


 そりゃ、寂しくならないと言えば嘘になる。


 死線を幾度となく越えてきた古き良き仲間だ。


 居て当たり前といつの間にか思っていたが、最近よく考える。


 朝、目が醒めると飯を食べて、用を足し、仲間と会い、依頼をこなし、晩飯を食べ、水浴びをして、翌日の支度を整えて、寝る。


 そんな日常が当たり前過ぎて、中々星格の上昇が出来ずに腐りかけた日もありながらもそれが幸せだったのだと。


 だが、ここ数ヶ月でそれら過去の話がどうでもよくなってきている気は幾分かある。


 ダスコダさんに導かれる様に王都とジャノスを行き来して10年目、ゼノさんとザバンさんに出会ってからと云うもの、ラウズヴァール様、オーディン様と神々に会って、あっさりとド中堅冒険者の壁を超えてしまった。


 長い苦悶、苦闘、苦労が何だったのかと思うくらいあっという間だった。


 「… …ねぇ、団長。私を信じてくれてありがとうね。」


 どうした急に?という言葉を深く考えずに口を滑らせてしまったのは、この慣れに慣れたいつもの言葉とは色気が違いすぎたからだ。


 「ここで、クルブルと組んだ時ってさ、エリート教育での気疲れが始まりだったけど、あの頃の私って鼻だけは高くて嫌な奴だったでしょ?でも互いに痛みを知って未熟者の意味を受け止められたのは、クルブルのおかげだから。」


 今日のサラはいつにも増して艶っぽく見える。

 

 「お前もそんな顔するんだな。もっと気位が高いだけかと思っていたが、案外そうでもないのだなと思ってしまうぞ。」


 「なによ〜、失礼ですわよ?」


 互いに気心知れた仲なのだと理解はしている一方でこういう会話をするのは最近まではやはり自分の不甲斐無さや立場に日々の生活にしても余裕が無かった証。


 団の名が売れてからというもの、ジャノスでも王都でも“南鈴の巫女”の存在感は増す一方であり、先のオーディン様の指導後も他の冒険者達から誘いが幾つもあったほどで、冷静に考えてみても至極当然の光景なのだ。


 「でもね、クルブル。私は冒険者で在り続けたいの。この道を目指した時からそう決めてた。あぁ、私には世間で言う当たり前の女性の在り方なんて必要無いんだって… …だったら、極めてやろう!って想いは未だに変わらない。だから、引退はしない。例え貴方達が居なくなって守護人狼が解散しても、私は冒険者で有り続けるつもりよ?」


 「奇遇だな。俺もそのつもりさ。例えお前達と別れの日が訪れても、身体が動く内は冒険者のままだ。この歳で未婚なのは、いささか周囲からすると顰蹙(ひんしゅく)を買うが、んな事は俺には関係ない。俺は冒険がしたいんだ。どんなに歳老いたとしてもだ。」


 互いに交わした濃度の高い酒杯が心地良い音色をあげて束の間に鳴り響く。


 「その割にはゼノさんに御執心だったように思えたが?」


 俺は理解していた、あれは衝撃的な出逢いだったと。


 同性の俺ですら彼の得体も知れない雰囲気に惹きつけられたくらいで、それが異性となると、惚れ込むのは当然。


 「うん、恋は継続中よ。今の私を見てもらわなきゃ何も始まらない!ただね、同時に思うのはゼノ様って恋愛観ゼロなんだと思う。ついこの前、ミルティー様と色々話してたんだけど、つくづく感じたわ。だから、この初恋は初恋のまま大事にしまっておくのよ。」


 聞けば、里の女性陣からのアプローチをことごとくスルーしていたらしく、ミルティー師はゼノさんに説教を都度していたとの事。


 ゼノさんが、その度に興味を示さないと語っていたらしい。


 俺からすると、非常に勿体無い気しかしない。


 里にいた若い女性達は皆、健康的で愛らしい美人揃いだ。


 恋愛観については疎い俺ですら心揺らぐものがある。


 ラウズヴァール様から里の民の殆どが子を作る事は出来ない教えられたが、それでも恋愛感情は存在しているのには、理由がある。


 ザバンさんが産まれた理由だ。


 だが、何故そういう仕組みなのか、神ですらもハッキリと判らないらしいが、大樹に込められた想いからそうなったとしか言わざるを得ないようだ。


 神をもってしても悠久の時を経てきた大樹にしか判らないと。


 俺はその理由についてサラに問おうとしたが、俺とサラの間を割って入る影が突如現れた。


 「なんだバックスか、どうした?」


 こちとら二人とも昼間から酒を浴びてゆっくりして昔話に華を咲かせて居るところだぞ。


 「うわっ、酒臭えぇ!」


 「今日の午後は休みだと言っていただろ?そりゃ昼からでも呑むさ。」


 「そうよ、貴方達お子ちゃまと違って大人の話を熱く語り合っていたのに何用よ?」


 呑気とはこの事を言うのだな。


 いついかなる時も命を落とす危険がついてまわる職なだけに、呑める時に呑んで、食べれる時に食べてが信条。


 ここ数ヶ月ぶりの休みの日ぐらい怠けて何が悪い!


 最も午前中の数時間はオーディン様に(しご)かれたのだ。


 午後くらい自由にさせてほしいものだ!


 「まぁまぁ、バックス。確かにここ最近、僕らは多忙だったし、色々大変だったからね。」


 「そうですよ。今日くらい皆でゆっくりしましょうよ。」


 バックスの後ろにいたチッチとヤームンもそう応えながら五人全員が揃いぶむ。


 「あぁ、そうだな。俺も疲れたわ。今よ、ルゴール(大将)がオーディン連れて王都案内してるからよ。休める時は休めってなもんだな。」


 バックスの疲れ切った顔は昨日の一件から今朝方までの疲労感そのものだ。


 「マスター、いつものやつを三人に頼みます。」


 俺がそうマスターに声をかけ、静かに頷くと、マスターは徐に其々の飲み物を作り始めてくれた。


 こうして、五人揃ってここに座るのは、いつ以来か… …あの頃は、王都の団位の丁度真中にいて、そこから上がることも下がることも無く、きこえて来る声は『万年中団』や『中腹』と揶揄される始末。


 「良い機会だから、聞くけどよ、俺が入団する前ってどんな感じだったんだ?」


 そうか、バックスは俺達の経緯を知らないのも無理ないな。


 「そういや、僕達も以前の二人の話って聞いた事ないや。」


 チッチとヤームンも話の流れに乗ると俺とサラは互いを見合わせて、話さざるを得ないかと覚悟を決めた。


 サラは魔術一家の長女であり、貴族の一員であった。

 

 幼い頃から家庭教師がつくほどで、王宮魔導士の指導の下、その頭角を現すと、その才能、素質と言った類いは王宮魔導士ですら脱帽していたらしく、早くから周囲の貴族達から政略結婚の対象として最優先に考えられていた。


 王都の魔導士訓練機関に入学すると、その評判からか当人は周囲の期待や羨望に次第に辟易するようになっていて、ある時その感情を爆発させ、退学し冒険者になったのだが、その反骨に意を唱えた貴族達、そして家族からも蔑視され、疎外される。


 気の荒い冒険者達は、若く健康的で気の強い女子に群がっては難癖つけて絡んでくる事にサラは葛藤を繰り返す日々であった。


 そんな折、この酒場で出逢った。


 実績はあったが癖の強さで冒険者界隈では評判が著しく悪い当時の荒くれ者どもに絡まれた時、偶々近くにいた俺はその蛮行に苛立ち、その冒険団の(かしら)をぶん殴って、激しくやりあった。


 店のあちらこちらに損害が出たわけだが、マスターは何も言わずにただ酒を出してくれて、サラはとても齢19の顔とは思えぬ表情で、壁にもたれながら座り込んでいた。


 『もう、うんざり… …貴族も冒険者も。』


 その光景は今でも鮮明に焼き付いていて、一生忘れることは無い。


 「あの時のサラといったら、俺をその辺の(まが)い者と一色単に考えていてな、俺に噛みついていたよ。」


 俺が腹の底から笑うとサラは不機嫌そうに否定しながらも、儚げに思い返していた。


 「へぇ、で、団長はなんで独りでいたんだ?」


 「ん?俺か?俺はあの時、俗に言う一匹狼だったな。うん。俺も皆となんら変わらん、孤独感に(さい)まれていた、ただの負け犬だ。」


 三人の顔が興味津々に俺を覗くとサラだけは俺の過去を知っているからか、酒を口に運んでいたかと思うと徐に口を開いて俺の黒歴史を語り始めた。


 「クルブルって、攻撃的な種族の癖に異色の守備型戦士でしょ?」


 その声に三人の顔はサラへと向く。


 「団長は、人狼族のはみ出し者として同胞から相手にされなかったの。」


 サラの言う通り、あの頃の俺は仲間という言葉の意義も意味も知らなかったし、知ろうとも思わなかった。


 人狼族は二本の脚で立ち始めた頃から〝(しご)き〟を大人達から教わるのだが、俺はどうにも巧く出来ず、落ちぶれ、大勢の同胞から軽視されてきた幼少期を過ごしてきた。


 大人に近づくにつれやがて狩りを教わる。


 そこではどんなに傷を負おうが、生命を落とそうが、関係ない世界。


 弱肉強食だけが正義だった。


 攻撃が最大の防御と声高々に掲げる種族からすると、俺の考え方、生き様が面白くなかったのだ。


 俺は身を護る事を優先に必死に足掻いて足掻いて足掻きまくったのだが、同胞達からはその姿勢が弱腰に映って見えていた。


 誰かの背後に迫る危機も、不意打ち際の防御も全てが目障りで仕方ないと、族長からも言われ続けそれでも、やはり俺は攻撃や反撃には生来の不得手さがついてまわる。


 そして、()が人生、22年目、大惨事が起きる。


 ある狩りの最中、魔物氾濫(オーバーフロー)により一族の集落が危険に晒された時の事。


 強烈なまでの数の暴力、圧力に押されたのだが、俺の十八番スキルで敵視を一手に集め、一族が反撃に打って出やすくした。


 その戦闘は長丁場に至り、一族からも相当な被害が出たが、なんとか氾濫を治めた。


 しかし、一族からは感謝されることはなかった。


 〝戦士〟の最大の誉は〝戦死〟


 それが、故郷では良き生き様なのだ。


 納得のいかない俺は故郷を捨てた。


 勿論、追い出される様でもあったが俺は自らそう選んだ。


 俺の中では、生とは死する為に有るのではなく、そこに至るまでどう生きて、考え、悩み抜き、何を得るのか、得たいのか―

 

 一人になると、否が応でも闘わなくてはならない。


 例えそれが、嫌な事だろうと、苦しいと感じてもだ。


 一人旅の最中、多くの村や街、冒険者や民と触れ合い、俺は確信した。


 俺の生き様は、死ぬ事ではなく、誰かの窮地を救う為にあると。


 流れ、流れて王都へきた頃、サラと出逢ったのだ。


 『もう一人の常闇(じぶん)と闘う』


 彼女と。


 今だからこそ言えるのかも知れないが、俺がそう言うと、サラは静かに何度も頷いている。


 人生とは複雑怪奇ではあるが、考え次第でシンプルでもある。


 何がしたいかと何を成せばならぬのか。


 この二つさえ理解していれば、迷いなど生まれない。


 俺はだが―


 酒のせいか、バックス達の表情のせいかは判らないが普段より熱く語ってしまったのはキャラじゃなかったと陳謝すると、四人は笑っていた。


 ―『なんだ、なんだ、俺達似た者ばっかじゃねーか』―


 度数の低い酒や飲み物をマスターが静かに差し出してくれると、俺達はマスターに向かってグラスを掲げそれを口にした。

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


さてさて、ジワジワ書き溜め

書き溜め… …_φ(・_・


文字変換ミス有り→修正!

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