五十二話 手合い(ルゴール視点ver.3)
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。
オーディンが放り投げた木剣は見事に虹鎧を突き破るとそれを見ていた猛者達は大層に喜び、最早笑うしかない。
虹鎧は武具素材の頂点類にある鉱石の一つ虹鉱石で作られており、凡人ならどんな武器でも傷一つ付けれない程の硬度であり、ここにいる大半の冒険者は木剣程度ならまず鎧を壊せないのだがな。
やはり、神は神だ。
神相手ではこの程度の代物なら木人(訓練用の的)にすらならない。
もっと硬度の強い木人を用意せねばなるまいな。
「ふむ。動かぬ相手とはつまらん。どれ、全員我と手合いでもやるぞ。その方が、我も主らもウィンウィンであろう。」
昨日の宴で猛者達と話して回った成果が早速出ている。
覚えたての言葉を使うオーディンに皆が楽しそうに笑いあい、一人一人、続々と太刀合ってゆく中、ユイカが我の横に来る。
「師よ。オーディン様は本当に死司神なのかと思える程愉快な方ですね。昨日の殺気がまるで嘘みたいです。」
「フッ、確かにな。神は暇を弄ぶ存在だと大陸奇譚にも記されている。これも興の一つになるのなら良いではないか。太刀合い終えた冒険者の顔を見てみよ、なんとも幸せそうか。」
オーディンとの死闘後、我は神とは何ぞかと考えてみてはみたものの、悠久の魂が求めるのは変化と進化なのだろうな。
冒険者や騎士を目指して来た猛者達は皆、基本的に腕に自信あってきっかけ一つでその腕は伸びてゆくもの。
一人一度の太刀合いとはいえ、その恩恵は目に見える程で、纏う気配に薄らと死司神の加護がついている。
これには、凡人である我等には非常に良い傾向であり稽古である。
心なしかその微かな変化にオーディンも嬉しそうに見える。
そのうちに千を越える猛者達に神はまとめてかかってくるよう言い出しては全て薙ぎ払う。
あっという間に凡人達はあしらわれる中、神は玩具を持った幼子の様にはしゃいで回る。
「ふむ。良いぞ良いぞ。主らまだやるか!?かかってこい!」
凡人とは言え少なくとも自己研鑽を惜しまず日々過ごしてきた者達だけに挑んでゆき、ことごとく打ちのめされるが、なんとも幸せそうか… …。
猛者達は持ち前の技術を遺憾無く発揮するが、オーディンはそれを簡単にそれも、目を閉じてあしらう。
その場を一歩も動かずにだ。
「ふふふ。良いものですね、こういう手合い。」
ザバンの笑顔はどこか幾分儚げであったが、我はザバンに聞きたいことがあると問うと、彼は快諾してその場に座り込む。
我もユイカも座り込み、共に話をする。
「里ではラウズヴァール様に稽古を?」
「ええ、里長は私達が生まれ落ちた時から面倒を見て下って、我々は親の様に慕っていますが… …ただ私だけは少し違うんです。昨日オーディン様が仰っていた転生の話ですが、私は父も母も居ましたし祖母はラムラムなんです。」
「なんと!?そうであったか!」
何処か似ているとは思ったが、しかし、昨日の神の話からすると、ザバンは転生者ではないとなる。
ともすれば、この異常な器はなんだ?
その疑問はザバンの口から明かされる。
「ご存知かも知れませんがラムラムは万能樹の果実から生れ落ちたエルフ族ではありますが、生殖機能を持ち合わせた魂です。生まれてくる者の殆どは姿や年齢は違えど、赤子や幼子もいれば青年や壮年の姿だったりしますが、本来ならば万能樹の果実から生まれる者は生命を繋ぐ種では無いんです。」
「なら、何故そのような能力を持ち合わせておるのだ?地上民と変わらない筈であろう?」
「私はまさに凡人ですよ、ルゴール殿。」
彼の視線がユイカと我を捉えてから彼は口を開いた。
「里で生まれ育ってゆく中で血筋のお陰で天狗になっていた時期があったんですが、ゼノに全てにおいて負けましてね、だから、ゼノが羨ましかった。彼が生まれた頃には里の師達以外には腕も頭も負ける気がしなかったものです。ですが、彼との出逢いが今の私をつくりあげたと言っても過言ではありません。出逢ってたった10年と少しですが。」
10年か。確かにそれだけの期間があればある程度の上達は見込めるだろうが、ザバンの魔素量はそういう次元の話では無い。
「そうですね。私の場合は里長達、師の手解きもありますが、万能樹の果実を両親が口にした事も関係するとおもいますよ。その後に私は産まれたらしいので、それが要因かと。」
「ザバン様も果実を口にされたのですか?」
ユイカが疑問に思うのは至極当然で我も気になっていた。
ザバンが言う万能樹の果実とは人を生み出す事と人の潜在的な能力を引き出すという、それこそ大陸奇譚に登場するそれで、我は昔からそれを求めて旅していた。
それが、現実に存在するという事だけで気持ちが昂って仕方無い。
ザバンの口から語られる言葉に我はすっかり虜になって黙って話を聞いていた。
話し始めてから相当時間が経っていたのかと思う。
「オイオイオイ。ったくよ〜、ザバンさん、オーディンなんとかしてくれよ。」
「バックスどうしましたか?」
どうやら我らが話し込んでいた中、猛者達は皆、ヘトヘトに疲れ切っていて、かく言う神は英気を養ったかの様にピンピンとした姿をしている。
守護人狼と黄石の竜子団が相手になっているが、これがなかなかに激しい手合いで洗練された稽古になっているのだが、それでも余裕であしらわれてしまうと、流石に腕の際立つ彼等でも疲れたようだ。
「丁度良かった、バックス。お聞きしたい。里に行ったのですよね?何故?」
そうだ、この若造、バックスは我が生涯かけても見つけられなかったラウズヴァール様の故郷へ足を踏み入れたのだった。
「我も知りたい。」
我の言葉に三人は振り返るが、バックスも気を紛らわせる為かその場に座り込んで話に付き合ってくれる。
「あぁ、それな。全部話せば長くなるから、手短に言うとさ、ラウズヴァール様の飼い竜に追いかけられて死にそうになったんだよな、俺ら。」
ザバンの驚く声に我もユイカも顔を見合わせたのは、飼い竜がいた事を知らなかったようだ。
「ほら、俺らゼノさん達と別れてからもジャノスの闘技場でしばらく腕磨いてたんだけど、その内相手がいなくなっちまってダスコダとグロリアらと、話して腕試しにって下層に潜ってったんだよ。んで、潜って暫く腕磨いてたら強烈な魔素体と鉢合わせて、これはヤバいッ!ってなって逃げ回ってたらラウズヴァール様達と会ったんだ。それから里に案内されて里で修行してた。一ヶ月くらい前かな?」
ザバンも我もユイカも開いた口が閉じない。
特にザバンは彼等と出逢った頃、確かに素質は認めていたようだが、そこからまだ数ヶ月の成長ぶりに驚きを隠せていない。
「いやぁさぁ、『万能樹の果実』を口にしてから世界が変わったんだよな俺ら。なんつーか、身体がピカーってなって、ドドドッてなって、グワーンってなってさ!」
… …分からん。
いや、それよりも果実を食べただと!?
我もザバンとバックスを問いただすと、その賑わいが気になったのかオーディンが口を挟みに話に加わる。
「フハハ!ルゴールよ、主はスキルニューロンの果実を欲するのか?必要あるまいて。果実無しで見事に神の領域に足を踏み込んだ上に我が与えられる最大限の加護まで持ち合わせておるのはお主の他にはかつて英雄と呼ばれた者達だけよ。それも、一部の英雄だけぞ。」
… …確かに早朝久々に弟子達の稽古に付き合った折、弟子達の動きが止まって視え、弟子達は驚いていたが我自身も満更ではなく格段に能力向上した事を理解している。
やはり、我の生には無縁の物か。
「しかしだ… …。」
なんとも歯切れの悪い言い方であろうか。
オーディンは少し黙ってから発した。
「そんな主が果実をもを口にするとなると、我はそれこそ全力をださねば相手にならぬであろうな!!それはそれで想像すると、これまた一興である!!どれ、久々にラウズヴァールにでも会うとしようではないか!!」
言葉にすらならない感情の波が我の深淵でうねり立つのが解る。
だが、会うと言えどどうやって?
我の経験からしてもザバンの話にしても、バックスの話から推測すると、里への立ち入りには大陸奇譚でも条件があるとだけ記されていたはずで、仮に神同士と言えど気軽に出入り出来る筈はない。
「ザバンさんは故郷だし、俺ら守護人狼は偶々… …」
「何をほざく、バックスよ。確かに里は神聖な地でおいそれとは出入り出来ないが、万能樹が認めた者ならその話は別よ。幾分、ラウズヴァールが話を盛っておるのは不釣り合いな者が侵入出来んように嘯いておるのだろう。今のルゴールや昨日の手合いを受けた者達ならば充分、認められるぞ?」
「て事は師匠は怪物から神へと進化すんのか?」
オーディンの話にマニが食いつくと、意外にもオーディンは清々しく語った。
我の弟子達も万能樹に認められる程の器をしていると。
なんせ、少なくとも死司神が先の仕合なる死闘で既に認めているのだからと背中を推す。
「うむ、里についてからより詳細に話すれば良いであろう。それよりも、そこの三人!我の暇つぶしに付き合え。」
人差し指、中指、薬指の指先を突き立てながら我とザバンとユイカに向けてオーディンはニヤリと笑いながら文字通りに指名し、我等の稽古となる。
それを疲弊した皆が囲むように並び、各々気楽に佇み眺めている。
我が木剣に魔力を宿してオーディンと打ち合っているとザバンの強化魔法がかかるのだが、オーディンがそれを楽し気に嗜む。
隙を突いてユイカも飛びかかるが、やはり我らとの能力にまだまだ乖離がある為か、難なくいなされては地に這っている。
人社会ではどこに出しても文句つけようの無い力の持ち主なのだが、どうにも相手が悪い。
すると、バックスとマニが飛び入り参加してくると、オーディンは纏う気配の色を変える。
それは稽古とは言い表し難く、死闘の何歩か手前である。
その光景を眺めていた猛者達の眼の色も変わっていく。
我等の動きから何かを得ようとしているのだろう。
かく言う手合い仲間らは我の仕掛ける木剣の動きを良く視ている。
間合いの取り方や仕掛ける間が時が経つに連れ絶妙に限りなく近くなってくる。
オーディンめ、流石に笑顔が消えたな… …ここだ!
その瞬間、眼前の神は口角を上げ我は一瞬にして天を仰いだ。
呆然。
寸前に飛び込んでいたユイカは地に伏せ、バックスとマニは訓練所の大木の枝に引っかかって悄気ていた。
ザバンはというと、障壁で難を逃れている最中と言うところか。
「やはり、堅固であるな!この魔素は!」
「もう、終わりで良いんじゃないでしょうか?オーディン様。」
「ならぬ!我がこの魔素を叩き割らんと我の稽古にならぬでは無いか!木剣でこんなに遊べるなんぞ、実に愉快であるわ!」
とても、木剣からする轟音では無いのだが、やはり〝里〟についてもっと聞かねばならぬな。
―それ故にオーディンの蛮行を止めさせようとしよう。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …_φ(・_・




