四十六話 王都危機(ハーモット視点)
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。
館内に私の名がこだまする。
「ハーモットッ!!ハーモットッ!!ハーモットォォォ!!」
「後ろにおります、旦那様。」
「おお!ハーモット!!そこにいたか!」
カネーニの耳に王と宰相が不在だという一報が耳に入ってしまい、私とした事が… …再三に渡り口外禁止と言い聞かせていたと言うのに、ウチの使用人どもはどいつもこいつも愚図ばかりである。
「如何されましたか、旦那様?」
そんな事は解りきっている。
先日の一件以来、この愚兄は苛立ってばかりで、虫唾が走って仕方ない。
十中八九、否、完全に賢弟が居ぬまにとある愚行を起こす気だ。
思えば、半世紀前、先王の命によりこの阿呆の世話を押し付けられた時から私の命運は尽きていた。
我がフロイド家は先祖代々、王家に仕える一族なのだが、いやはや、ここまで出来の悪い歪んだ愚物は先王ですら嘆いておられたのも頷くしかない。
かたや、数多いる妾の一人子に過ぎなかった彼は今や大陸中に名を馳せる賢王になられた。
幼子から誼を交わしていた、あの不憫な彼が理不尽の嵐を乗り越えてきた事実は最早、偉業という言葉以外無い。
だと言うのに、この阿呆ときたら… …。
先王までの王家を知る身としては賢弟こそ異常で有らせられたわけだが、私は彼に尽くしたかった。
先王も、我が一族も疎ましい。
非常に疎ましい、あぁ疎ましい。
人生やり直せるものなら、半世紀前にやり直したいのは本音だ。
「時に、ハーモットよ。例の件、動きはあったか?」
やはり、この阿呆は正真正銘の愚図である。
「はっ。万事順調でございます。」
満足気に高笑う姿は何十年みても慣れない上に聴くたびに吐気を催す。
馬鹿笑いもとい、高笑いが終えると直ちに作戦開始となるのだろう。
ゆえに、先回りをして既に手は打ってある。
「ならば、例の件、進めよ!」
ほらな。やっぱり言った、言っちゃうんだもんなぁこの馬鹿。
「僭越ながら既に指示は出しております。直、旦那様の狙い通りに事は運びましょうぞ。」
私は心底、この阿呆との縁を切りたいと願うのだである。
何処から仕入れた情報なのか定かでないにも関わらず碌に検証もせずに思慮浅く行動を起こす。
そういった面も含め何度も何度も苦言を呈してきたのだが、最近はもう疲れてしまいどうでも良くなっている気さえする。
私もそろそろ歳か… …。
近頃退き際をよく考えるようになった。
だが、この血がそれを容易に認めさせてくれない。
願わくは冒険者の様に自由に羽ばたきたいものよ… …。
齢65にもなればそれはもう無意味に近い願いであるのは承知の上なのだが、どうせならあのまま牢獄に幽閉されておけば私は自由になれたはずなのだがな。
全くもって馬鹿のお守りで50年、ある意味、
『曠日弥久』であった。
我が半生、不愉快の曲芸である。
小型の連絡用懐中水晶が震え文字が浮かびあがると、阿呆に伝えた。
「旦那様、手筈は整ったようです。それでは謀りを始めると致します。」
連絡相手に合図を送信し、私は深く溜め息を心の中でついた。
じきに王都は騒ぎになり、生まれなくてもいいある程度の犠牲が生まれるだろう。
どうしてこうなってしまったのかと、窓越しにかつての在りし日を私はただぼんやりと眺めているほか無かったのだ。
きっと私は今命を果たした際、地獄へ堕ちるのだろうな… …許しを乞うつもりは無いが、祈りだけはある。
今までも無慈悲に他者の存在価値を否定してきた事は数多ある。
だが、それらとは今回は桁外れに違う。
王都を揺るがす事態になるのは明白。
あぁ、この命を捧げても構わないのでどうか、アストラ様この不甲斐無い老耄の懺悔だけでもお聞きください。
この地に、否、この血に宿る穢れをどうか此度の騒動と共に消し去ってくれませぬか… …なんて都合の良い祈りなのだろうかと堪えきれず鼻で笑ってしまったが、隣の阿呆はそれを見て同じように馬鹿笑いもとい、高笑いを繰り返した。
呆れて物を言う気も失せるのだが、ここに居る以上は私もまた同じ阿呆なのである。
再び懐中水晶が震えて注視すると、想定内の言葉が浮かび上がっていた。
『SFH』の三文字。
―Signal For Help―
無音による救助要請のサインと言った所だ。
そして、これを送った主はもう既に餌食と化したか逃げ仰せている最中なのだろうか、その後、音沙汰がない。
☆☆☆
事は想定以上であったか。
館の最上階へと使用人達も向かわせ、王都のこれからの惨状に備えるとする。
そこは王都を一望できるのだが、遥遠くから騒音が聞こえてくると、警備にあたる数人の私兵も武器を握りしめ、固唾を呑む。
阿呆も事の大きさにようやく気付いたのか、城門より数段高い位置に魔物の姿を捉えると、阿呆は逃げ出しそうに慌てていたが、私はそれを制止して、この場に止まるよう幾つかの特製魔具を私兵団長や使用人達に渡して魔法障壁を張り、全員を置いて現地へ向かおうとするが、皆不安顔だ。
「なに、心配いりませんよ。こういった類の対処は慣れていますのであしからず。では、事が済むまでここでお待ち下さい。」
さぁ、今日が私の命日だと覚悟を決め館を出て大通りへ踏み込むと、緊急召集をかけられた全ての冒険者と、騎士団が手分けして住民の避難と戦闘態勢を整え『刀光剣影』の状態。
王都の緊急時発動する魔法障壁が作動しない事も相まって混乱は不可避。
この身のしでかした報いをいざ受けるとしよう。
旦那様もといあの阿呆とはいえこの社会の礎を築いた末裔に変わりはなく、その血に生死を賭し生涯を捧げる為に生まれてきた私は幾度もこの身を血反吐を吐いて鍛えてきた。
手前勝手の極みであろうが、私は私の信念を貫き通させて頂こう。
これぞまさしく『堅白同異』。
私の中で倫理と現実がもう何十年と殴り合っているのだ。
甚だ可笑しくある。
だが、これだけはハッキリと言い切れる。
私は今『肝脳塗地』の境地に至りながらもこの長い攻苦に区切りをつけたい。
「おい、カネーニんとこの爺さんよ。」
「これは、これはマニ様。なにか御用でしょうか?生憎、今は余裕が御座いませんので… …手短にお願い致します。」
誰とも何も話す気になれなかったのだが、大方ここから逃げるよう促しに来たのかと思いながら振り返り見た面々の気配に私の気は変わった。
「この状況じゃ一人でも多く闘える奴が欲しいからな。それにアンタが只者じゃねー事くらい昔から知ってんぜ。」
「ふむ。では何故お声を?」
「これが終われば聞きたい事があるからな。理由は解ってんだろ?」
マニ様の後ろにユイカ殿とルゴール殿に見慣れない手練れである事は間違いないうら若きエルフ族が一人。黄石の竜子団もいる。
少しは期待出来そうか。
ともかく、流石は、獣人族。持ち前の嗅覚で私の本性を嗅ぎ分けたのだろう。
ならば、そう簡単に死ぬわけにはいかないな。
この落とし前はあの阿呆の為にもなりそうだ。
筋書きは描けた。
「ハーモットよ。」
かつては共に腕を磨いた中であるルゴールの視線だけに私は皆まで語るなと一言添えた。
彼もまた、全てとは言わなくとも察しが良い。
「一つ、忠告です。あの魔物群は全てアンデッドです。解放したのは霊星の暗部隊。冒険者の報酬は精々スカル系の魔物素材… …と言った所でしょうか。後は皆まで言うまでもなく解りますな。」
直様、ルゴールは振り返り多勢に檄と指示を飛ばす。
良い大軍だ。
なるべくなら誰も命を落とさせたくないが、そうもいかんだろうな。
そんな事を考えていたら、一人の青年エルフと流し目気味に視線が合った。
彼は渦中の魔導士だとすぐに解ったが驚かされたのは彼の器量。
ゆうにざっと500程の猛者達に高速詠唱を向けたかと思うと発動。
體の芯から煮えたぎる熱を感じさせ、身は軽くなった。
普段より数段動きが良くなる感覚には覚えがある。
とても懐かしい感覚。
「ご武運を。」
彼の軽やかに透き通る一声もどこか似ている気がした。
遠い記憶の片隅に宿る優しく温かいような後ろ姿と声に若干の若気を纏わせながら。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
しまった、寝てた。
投稿遅れたァ!
書き溜め… …_φ(・_・




