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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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四十二話 〝ほうこう〟

いつも読んで頂きありがとうございます♪

探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。


では、四十二話です。

 野営地から馬で走る事数時間、国境付近の都市パイストに辿り着いた。


 どこか王都に似た雰囲気の街並みだが、王都よりは遥かに小さい印象で領主邸も実に慎ましくある。


 「ここで馬を預けていきます。目的の『修験の(ほら)』は徒歩でしか行けませんので。」


 「ゼノ、冒険行商人としてこの街で躍動するのはいいが、あまり派手にしてくれるなよ?ルゴールが心配していたし、俺もガルも実に不安だ。」


 以前ルゴールから注意されてから世間の価値を見極めることにした。


 程よい装備品を作って売れば良い。


 ただ、それだけの事なのだが… …気を付けねば。


 この旅の意義は何も二人だけではなく、俺にも益は幾分あり、そのために修験の洞で素材の採掘、採取、収拾して地産地消を考えていた。


 その為もあって事が巧く運んだ後三日ほどこの街に滞在予定だという。


 無論、無茶苦茶しないかの監視の意味も含めてだが。


 馬屋に着くや否や、書類と偽造… …急造冒険者証を提示して書類に記名する。


 ガウェインもガルバザも変装魔法で本来の姿では無いが、ふむ、記名はセナとガルか。


 ならば、王都へ帰るまではその名を憶えておこう。


 馬を預けてから、宿屋の確保も無事に終えるとこの街のギルドへ登録に向かった。


 「王都の冒険者さんですか!この街は初めてですか?では、この街についてご説明致しますね!」


 受付嬢の快活さに俺達は和みながら登録を済ますと直様目的地へ足を向けた。


 パイストから小一時間と言った距離にある山の中腹、そこが修験の洞と呼ばれ、中には13の扉が並ぶが真中と両脇の扉だけは星10(トパー)以上の腕利しか踏み込めないという。


 「俺はそもそもそこに入れるのか?」


 どうやら無理に扉へ入る必要は無いようだが、俺の星格『宿鳥(フォルドラ)』だからこそ必要なのだと二人は語ったが、その意味はすぐに理解した。


 洞の中心にある燭台に王は杯を置くと魔素を注ぐよう俺に伝え、それに従った。


 杯から溢れた一筋の光が真中の扉に突き刺さると雄大な術式図が現れ弾けたが、三人の頭の中に声が響いた。

 

 「ここからは、私とガルバザ、其々の旅となる。ゼノよ、私達が帰らなければ王宮へ伝えてくれればいい。そうならぬ様こちらも死力を尽くすがな。頼んだぞ。」


 「我々が戻ってくる間、暇でしょうから素材の収集でも楽しんで下さい。まぁ、いつ戻るかわからないんですけども。」


 当初の予定通り三日は待つ予定。


 俺は二人に対して激励を送りながら、背中を見送ると、他の扉が気になって、各扉の前に立ちつつ、全ての扉を見て回った。


 「修験の扉か。中へ入ればいつでも引き返せるらしいが… …ならば、ここだろ!」


 一つの扉を開けると、その先は暴風吹き荒ぶ(ふきすさぶ)大地だ。


 周囲に魔物の気配は無い。


 辺り一帯に岩山が無数にあり、俺は魔素カードを解除して、一本の魔剣、特製鶴嘴(つるはし)を取り出して、ひたすら掘り倒した。


 目当ての鉱石素材が出るわ出るわ、すっかり採掘作業に満喫していたのだが、どうにも腑に落ちない点がある。


 魔物だ。


 全然遭遇しない。


 昨夜聞いていた話だと、大地の暴風の中で強力な魔物を相手にするのは骨が折れ、風圧で技も魔法も補助魔法抜きでは相手に為す術がないから風耐補助魔法を纏うよう言われていた。


 確かに俺も補助魔法抜きでは恐らく立つ事も困難を極める程の風量。


 なのに、魔物の気配が無い… …。


 (から)の魔素カードには鉱石だけが蓄積されてゆく。


 「魔物素材欲しいんだが、可笑しいな。」


 俺は採掘を止めて、魔物を探す事に切り替えた。


 岩陰や岩肌をつたって岩山の頂点に立ち周囲を見渡すが魔物一匹も居やしない。


 話が違うと愚痴を溢して帰路に着く為、扉を呼ぶと、重厚な音が微かに背中の方から聞こえ、咄嗟に振り返ると見たことのない白銀色の四つ足の魔物がこちらを観て固まっている。


 扉の出現音が鳴り止んで暴風音だけ聞こえるのだが、互いに身は固まったまま見つめ合う事数分。


 魔物の身体は神々しい白銀色から風景に溶け込むように静かに擬態色へと変化しようとするが、なるほど、そう言うことか。


 「へへ。」


 俺の理解と魔物の理解が合致した。


 擬態色のまま物凄い勢いで走り去るのだが、暴風によりその足跡は掻き消されるほどで、意外と見た目とは裏腹に逃げ足がとても速く身体強化魔法をかけても追いつけない。


 ついに魔力探知でも捉えきれないその姿を俺は見失ってしまった。


 俺はようやく理解した。


 ここの魔物は知性があり、気配を消しているのだと。


 「あぁ!畜生!もう帰る!帰るよ!扉よ!出よ!」


 再びけたたましい轟音が鳴り響く中、背後側に聞き耳を立てて集中した。


 微かに音が聞こえたが、少し間を置いて瞬間背後へ飛びつくと5体程居て、その内の1体を捕らえたが、激しい抵抗に振り解かれそうになる。


 その間、付近に擬態していた何十体かが一斉に散り散りに逃げ出す。


 折角捕らえたので逃げ解かれないよう此方も必死で抵抗するが、何度も周囲の岩壁に背中から俺は叩きつけられ、何度目か、つい手を離してしまうと今度は心の中で笑うと同時に岩山を吹き飛ばすと宣言した。


 やはり、知性があるのだ。


 今度は数倍の影が一斉に逃げ出すのだが、擬態色を解き逃げる彼等は数段更に俊敏だった。


 「つまり、あれか、全ての岩を壊せば手っ取り早いのか。」


 その言葉に窮鼠猫の様相に駆られたのか、数体が俺に噛みついて来た。


 その覚悟たるや、魔物にも矜持があるのだろうが、俺はガウェインから聞いていた。


 ここは修験の場。


 心を試されると。


 即ち、人社会に似た気持ちに駆られるのだ。

 

 魔物にも情があるという。


 それに命を落とす事は人だけでなく魔物側にも存在し、妙な情は不要。


 生き死にの葛藤は迷宮より如実に痛感するという。


 飛び込んできた数体は仲間を護る為に仕掛ける冒険者の様だ。


 だが、俺は死を受け入れられるほど人間が出来ていない。


 帯刀していた魔剣で一閃。


 それらを魔素カードに収めるが、必要な数だけ獲れれば良い。


 里でもそうであるように乱獲はあまり好きでは無いし、氾濫以外にしでかすつもりもない。


 俺は今度こそ帰路について杯の前へと戻った。


 そこには未だ二人の姿は無かったが、俺はその場で魔力錬成を始めつつ待つことにした。


 扉の中ではかなりの時間を過ごしたつもりだが、僅か数十分の時間経過しか無かった事を知ると効率は良いが、ある種の覚悟を持ち合わせないと続かないだろうな。


 成程星10(トパー)以上なのが心底理解出来る。


 その心境を深いところに押し込めてから行商用に幾つか魔具と装備の錬成を始める。


 最近気付きがあったのは注力する魔力量と想像力の加減で緻密に性能操作が出来るという事。


 ルゴールの指摘とナルルとシールのお陰だ。


 相場と性能、魔力と想像。


 それでも、必ず全てが巧く作れるわけでは無い。


 それを解っているからこそ、合間合間に休憩をとる意味も含め、別の扉へ飛び込む。


 そうしてひたすら繰り返す事早、3日目の昼下がりに真中の扉が開いた。


 その頃には、既に必要な数の行商品を作り上げていた俺は丸一日、体術と剣術の空稽古をしていた。


 不思議とこの洞では疲れを感じずにいられ、動きが軽く、徹底的に集中して取り組んでいたのだが、扉から姿を見せた二人の足取りは重くかなり消耗していた。


 だが、三日前とは遥かに違う気配を纏っており、俺はその気配に心地良くも鋭さを感じたのか武者震いした。


 「いやはや、かなり(こた)えました。しかし、これで漸く準備は整いました。ゼノが居ると言う事は3日以内に戻って来れたと言う事ですし、ガウェインもお疲れ様でした。」


 「もう二度と御免だ、こんな試練。」


 二人の疲弊具合を見て相応の試練だった事だろう、そんな二人に俺は暇がてらに作った気付け薬を手渡し、彼らはそれを飲みながら行商品を見せるように促してきたので、要望通りに巧く作れた物を全て見せた。


 「この程度なら問題あるまい。だが、失敗作も全て見せなさい。」


 失敗作の魔素カードを手に持ちながら軽く溜息をつく王はそれらをガルバザに手渡し、俺を真っ直ぐに捉えた。


 まるで、蛙を狙う蛇のような眼だ。


 「これらはどうするつもりだ。」


 どうするも何も俺のコレクションとして保管しておくつもりだと伝えると、二人は其々、数枚のカードを持ち、突如買い取ると申し出た。


 王は武具を中心に宰相は防具を中心に所望したが、ここに連れ出してくれた礼としてそのまま譲ることにしたのだが、大層喜んでくれるものだ。


 共に詳しい話は後でするとして、問題なのはその気配だ。


 恐らく周囲にそれもかなり広範囲にその圧は漏れている。


 先程まで洞の周辺に彷徨(うろつ)いていた魔物の気配は感じられない。


 王と宰相に魔素の収束を促し落ち着いた頃に洞を出てパイストに戻ったのだが、街中騒がしく、貴族衛兵から滞在冒険者やギルド職員に至るまで警戒心を尖らせている。


 ごった返すギルド内で情報収集すると、伝説級の魔物の気配を感知、空に向かって延びる金銀の光の矢を目撃、パイスト領主が緊急事態宣言を発令して戦える者全てに緊急招集をかけたという。


 パイスト支部のギルド長と領主が二階の踊り場の柵から声を張り上げる。


 「修験の洞で伝説の光が発生したのは皆、知る所だろう!これより、全員至急戦闘警戒態勢をとりつつ、いざ洞へ向かおうぞ!この街を何としても死守するのだ!腕利の強者から進むぞ!覚悟はいいか、者ども!」


 激昂に近い鼓舞が一斉に猛る中、王と宰相の額には数滴の雫が浮かんでいた。

 

ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


さぁ、書くぞ!続き!

書き溜め… …_φ(・_・

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