三十六話 『真心』①
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。
アルメラの指先でツンツンされているキャノーをダルメシアとマーナも面白がって参加している時、宿のロビーに現れたのは額に汗を滲ませ息を切らした見慣れぬ風貌の男。
「アンタ、ゼノで間違いないか?」
手に持っているのは写真だろうか。
どうやら俺を探して来たみたいだ。
見慣れぬ男は口髭が短く綺麗に整えられた街行きの軽装洋服を着た清潔感のある中年でザバンから伝言を預かっていると告げるが、ふとユイカ達が彼を紹介した。
王都の〝やみ〟境の警備隊長でプルスという名らしい。
プルスは、人払いを求めるもザバン絡みの案件を聞いてしまったノームスは聞き耳を立てている。
ユイカ達は気不味そうに言葉に詰まるが、プルスは急ぎの案件らしく、ザバンの元まで来て欲しいと促す。
だが部外者であろうノームス達も気掛かりなのか、判断に迷っていると、マニがユイカとジルに連れて行こうと促した。
「いずれは明るみになるし、コイツらならどう感じるか、俺が保証するって。」
ユイカもジルも黄石の竜子団とは知己であり、生い立ちは無論、彼女らの性格は熟知している為か、決心する。
ノームスらはその張り詰めた空気に察知して、深読みをしているが、マニの眼差しに同調を預けた。
「貴方達がそこまで神経を尖らせるのだから、よっぽどの事なんでしょ?ちょっと皆こっち来て。コーラー、アレを。」
プルスも含めて全員、キャノーが横たわる長椅子の周囲に集まると、中心にある卓の上に魔術紙が出され、コーラーはその紙の上に全員の手を置かせてから僅かな美声を発する。
「照らす贖罪、汝、翻し違える事なかれ、今ここに繋ぎたもう【蔽匿の蔓】」
手を置いた魔術紙から鮮やかも薄らと白光が漏れ始めるとその白紙に浮かんだ術式を染め次々と各自の名が記されてゆく。
「契約魔法と言えば解るかしら?」
ノームスの説明によれば『蔽匿の蔓』は仲間内で秘匿したい事象があればその者達の魔素を媒体にして漏洩防止する魔法で漏洩に干渉しそうになれば、暫し言葉を失う、失念スキルが掛けられるという。
いわゆる、機密保持契約みたいな感じか。
術式は使用者の格により、難解な術式模様を浮かべるのだが、パッと見その複雑さは俺でも直ぐに理解し難い代物で、それを解術出来そうにないが、これは… …。
「これでユイカ達の片棒を担う盟友… …と言ったところかしら?ふふっ。」
参ったと言わんばかりにユイカは表情を見せるが、マニとジル、それにプルスは安堵している様に思える。
「いつまで手を置いてるの?キャノー。」
薬の副作用で動けないでいるキャノーは可愛らしく反論するが、どうやら一刻を争う事態に俺はキャノーを再び背負い、一向は目立たぬ様にプルスの先導に従いザバンのいる貧困街に向かった。
道中、大柄なキャノーを背負っていると不便な隠し通路もあり、背負から両腕で担ぐとキャノーは照れ臭そうにしていたが、マニがそれを見る度に彼女の頬を強く捻っていた。
その様子が起きる度にノームスが二人の騒がしさに喧嘩両成敗の錫杖を振りかざす。
「今は隠密行動中なんだから、音も声も立てては行けませんこと。」
夜間の王都は酔いどれた民や冒険者、警備巡回する王宮騎士達が至る所に居る。
ただでさえ、俺は王都で目についてしまうらしく、それが、王都四星らに、王宮守護騎士まで居るとなると、否が応でも王都中、ひいては王宮貴族に瞬く間に漏れかねない。
目を盗みながら着々と目的地に向かうが、このプルスという男、一見優男臭が途轍もないが、王都の死角という死角を見事なまでに熟知している。
街中の至る所に人は行き交うが、誰にも目をつけられていない。
隠密行動中の装備音も予め消す様に脱衣を促したあたりもきっとこういう仕事は慣れているのだろう。
大通りの区画から貧困街区画へ移動した時に境界監視砦に辿り着くと、そこにプルスの仲間達がいて、俺達の姿に驚いたが、直様プルスが一声かけると、砦の地下へと潜る。
そこは、見覚えのある術式が込められている魔封じの魔具がびっしりと並んでいて、その一本道の先を進み上がると、古びた建屋の一室へと辿り着いた。
ここまで来ればもう安心とプルスもマニ達も安堵し、そこから通り一本隣の古びた建屋へと移動する。
辿り着いたその部屋は、随分と薬草の香りが拡がる変わった部屋だが、どこか懐かしい気もした。
その部屋の奥に案内されると、ザバンと数人見知らぬ顔が卓を囲んで軍議していた。
見合わせた各々は、互いに警戒感を示したが、プルスやユイカ達の経緯説明によりその緊張の糸は途端に緩む。
「寧ろ、災い転じて福となすというか、濡れ手に粟なのでは?」
そう言った彼女の名はアルピスという薬草の芳香を纏わせる娘だが、その芳香は実に俺好みで、親近感が強烈に沸くのだが、そんな俺をザバンは物珍しく眺めると、ニヤついた表情をした。
「時に、ゼノ。その状態でここまで走ってきたのですか?」
何か一瞬馬鹿にされた気がしたが、それよりもキャノーを抱えてここまで来た事にザバンは笑いながら俺が女性を両腕で抱える姿が相当珍しいと茶化した。
「お前の薬の副作用でこうなってんだよ!」
そう言うと、ザバンはキャノーを床に置くよう促し、解毒薬を飲ませ、すぐにキャノーは立ち上がって感動して、団員達は驚き、マニは静かに睨みを利かせている。
「いやぁ、アンタ凄ぇな。相当な腕利薬師か?まぁ、俺としたら一晩ゼノに抱かれていても良… …」
マニは右手でキャノーの頬を強烈に挟みながら、凄味を浮かべる酷い顔つきで静かに怒鳴るとザバンは何故か嬉しそうにそれを観察している。
「ったく、二人とも… …。」
それを超える勢いの凄みをみせるノームスに気づくと、漸く話の本題に入るが、ユイカもジルもプルスも呆れて物を言う気配ではなく、一旦落ち着いた所で軍議の中身について知らされるがその内容に驚かされたのは俺も含め王都一の実力派達も例外ではなかった。
数日前から、ラウズヴァール大迷宮上層にて鉱石採掘中に採掘隊が地図にない奥ばった通路の少し先、開けた場所でとある魔物を確認したのだが、その数が一体、二体ではないと言う話で、その魔物とは、『火牛』… …。
「… …まさか、魔牛?」
ノームスがそう口にすると、全員が俺とザバンの雰囲気を察して、黙り、俺はザバンに目を配ってから一呼吸置いて語った。
「ミルティーもザバンも死にかけた、と言えば伝わるか?」
黄石の竜子団もユイカ達も絶句する。
静まり返る中、ザバンは更なる衝撃的な事実を口にして、俺は戦慄する。
『新たな魔素』
その言葉を里の周辺で探していた時は〝亥の月〟
で今は〝巳の月〟
あれから、半年。
思えばあの時、魔素は謎のままで、その後強襲してきた火牛は誰かの召喚によるものと判断した。
それが、今度は上層に複数居るとなると、やはり違和感しかない。
「それで、気になって昨夜、その場に行ってきて調査してきました。これを見たら解るかと。」
ザバンが徐に取り出した魔具の小瓶には魔素が溜まっていたが、その色はとても禍々しい紫色をしており、ザバン曰く、召喚地と思しき場で採れた残滓だという。
そして、それには俺もユイカもマニも見覚えがあった。
紫甲冑と魔素思念体との邂逅。
奴らの足跡か。
つまり、火牛の召喚者ともとれる。
「ルゴールにも伝えた方が良い。まだ、確証は無いが、もし、奴らの残滓なら厄介だ。」
「やはり、そう思いますか。」
ユイカもマニも思い出したのかその身を震わせているとノームス達がその異様な空気に呑まれないよう諭す。
黄石の竜子団はこの手の残滓を遠征中、各国で出会していた経緯を話してくれた。
その都度、邂逅した魔物は魔牛種ばかりだったらしいが、その強度は気を抜けば死を感じさせる程で協力してくれた各国の騎士や冒険者も痛手を受けていたらしい。
だが、活性化した迷宮では魔素氾濫扱い程度の認識でいたらしく、討伐後も在り続ける迷宮に各国の要人達も疑念を抱いていたと。
先日氾濫を抑えた時、迷宮は確かに崩れ、その事実はノームスらを戦慄させる。
「つまり、驚異的な魔牛に関してはあの紫甲冑と魔素思念体の仕業… …という裏付けになりますね。」
ザバンがそう言い放つと、場は静まり返り、俺は提案した。
その旨で、不都合な条件には極力配慮しながら、軍議は佳境を迎えて、その夜、全員その場から離れず夜を過ごし、明け方、人の通りが少ない時間帯に諸々解散しようと結論に至たった。
「ザバン、これは下手打てば不味い事になる。貧困街を巻き込みたくないなら、お前はここに残ったほうが良い。」
「ゼノ、頼めますか?」
「乗り掛かった舟… …魔牛が絡むならば私達もお役に立てるかと。」
「俺はゼノに付いてくから、ユイカとジルはザバンに付きな。」
「何かと、面倒が起きそうなら砦で堰き止めてやるよ。心配すんな。こう見えても根回しはお家芸なんだよ。」
俺とザバンの会話に割って入る諸々の言葉にザバンは頭を下げて、深く感謝した。
静かに張り詰める緊張の糸が、事態の重さを物語る。
「早速動き出したいところだが、その前に確かめておきたい事がある。ユイカ、作戦実行はその後でいいか?少し気掛かりな事がある。」
「おい、ゼノ。上層行くなら手伝うぜ。」
「ならば、私達もいた方が良いでしょう。魔牛の強度は迷宮の規模によって変わります。大陸一の大迷宮ですから、経験上、とても危険かと。」
マニとノームスはそう言ってくれたが、目立たない様に動きたい旨に、マニ達にはその間、頼み事をした。
「ゼノは一度、火牛を木材でぶった斬ってますから心配はしていませんよ。ただ、あの頃より数は多いですから無茶はしないように。」
ビーチダイヤ材でぶった斬ったことに皆は木で?と驚きを隠せずにいたが、黄石の竜子団は、一人で魔牛処理した事の方がよっぽど呆れたのだろうか、顔が引き攣っている。
「心配要らんさ、実は最近、クロウに隠密について色々と教えてもらっててな、丁度試したかった所なんだ。」
「隠密って… …ゼノ、貴殿の財格もそうですが、闘格もやはり異才ですね… …。」
そのネタに皆は食い付くと祈祷場での一幕を話したのだが、直後ダルメシアは腕組みしながら顎に手を当て何か考えこんでいる。
「姉さん、確か霊峰の大文殿に『宿鳥』に関する文献ありませんでした?確か… …。」
姉妹はそれから少し沈黙するが、突然声を併せるかのように叫ぶ。
「あッ!」
それは、姉妹が闘格の最上位職の試練を受けに南東の国の霊峰に滞在していた頃、そこにある大文殿で大陸冒険譚とはまた別に合集されている幾つかの冒険譚の一つにその名を見た記憶がある様で、その譚は試練に関係なくてサラッと流した程度だったようだが、試練でなければじっくりと読みたかった程の譚らしい。
「あの頃は、試練の完了に急いでたからよく読んでなかったけど、確かに序幕からいきなり惹きつけられたなぁ。確か… …『魔法は愛である。』って書いてあってたから衝撃的でよく覚えてる。」
「そうそう!その続きが確か、『愛は真心であり、真心は根源であり、魔素である。』だよね。」
マーナの言葉に連なりダルメシアも続けてそういうと、俺とザバンは、ふと気付かされた。
『魔力は想像が創造する。』
と似ているからだ。
里での師達の教えであり、数多の体感をしてきた者にとってはその通りだと理解できる。
そして、俺もザバンもやはりというか、今まで疑問に思えど聞こうとしてこなかった事。
それは、ひょっとして譚の類はラー爺なら知ってんじゃないかと言う、細やかな疑問。
里を出る前夜のラー爺を思い返すと色々何か躊躇っていた事も引っかかる。
いずれにせよ、俺が先日見た、美女といい、祈祷場の件といい、宝来祭の違和感といい、里へ帰ったらじっくり聞いてみよう。
しかしながら、里を出て地上世界と関わり始めると次から次へと問題が起こるけど、やはりこれも里で聞いた〝地上のいろは〟なんだよな… …癖のある現実が多いなぁ。
そして、夜明け直前に一旦解散すると、方々の水面下に潜り込んで行った。
新たな癖のある根を狩る為に。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
最近最新話の読み手が増えてきてありがたいです。
少しずつ書き進めてますのでまた近いうちに次話投稿出来るよう張り切ってイキマス
書き溜め… …_φ(・_・




