三十五話 黄石の竜子団【サラマン・モーズ】
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、読みづらい点はご容赦下さい。
とある快晴日、一段落つけた俺はギルドに顔を出していた。
以前ルゴールとの話し合いで今後を見据えた行商についてギルド長と相談する事となり、ルゴールと共に足を運び、ギルド長執務室にて話に華を咲かせて居る。
王都冒険者協会の一階には依頼待機中の小さな団旗が受付台の幕板に電光掲示されているのだが、今日、数年ぶりに王都四星の灯が揃い踏んだ旨を聞いてルゴールもどこか嬉しそうだ。
「嬉しそうだな、ルゴール。」
俺の一言に彼は返す。
聞けば、王都四星では冒険団順位は一番下位らしいが、その内容はどの冒険団よりも濃く、優秀だとの事。
【暁光風雲】は団員数の多さが王都一で団員の星格は下級から上級まで様々な特徴。王都内冒険者依頼は彼らが率先して対処にあたるので、貢献度は王都一になる。
【緑光獣牙】は聖凛獣姫率いる王都一血気盛んな戦闘狂集団に育ち、団員数は暁光風雲に遠く及ばないがその実力は彼等を凌ぐと云われている。その為、受注するクエストはほぼ全て高難易度の物で効率良く貢献度を稼ぎ、王都四星に名を連ねる。
【霧水】は王宮の諜報暗部隊の異名持ちであるが、王都一の長命団。ギルドから調査、捜索依頼がひっきりなしに来る為、自然と上位に位置する結果、クロウは自団を『王都の子守隊』と皮肉めかしているという。
そして残る一星、その名は【黄石の竜子団】
王都一の少数超精鋭部隊にして、大陸間遠征専門部隊で、ガウェイン、ガルバザ、ルゴールの三傑の後継冒険団として大陸中にその名を馳せる。
団長の蛇人族ノームスを筆頭に蜥蜴人族に甲人族に鰐人族で構成されたたった七名の冒険団で団旗には黄色と茶色を背景色にトカゲのシルエットが特徴。
その冒険団がこの日、長らくの依頼を達成して王都に帰還していて、その話題の真っ只中に部屋の扉が開き、先導する受付長が入ってきた。
「おや、噂をすればというやつかな?ノームス様ならびに、【黄石の竜子団】の皆様、漸くのご帰還ですね。数々の依頼達成、ご苦労様でした。」
「お久しぶりです、ギルド長。久々の王都はどこか活気に溢れていて不思議と、心地良いですね。良い変化かと。」
ルゴールらの話ぶりからして里の竜人族を思い浮かべていたが、その〝みてくれ〟はなんら人族と変わりないのだが、団長のノームス以外比較的その体躯はかなり大柄であり、全体的に若目でありながらも鍛え抜かれた素晴らしい筋肉美が目立ち、マニよりも重量感があり迫力のある力強さが目立つ。
ルゴールと並び立つと遜色ない者ばかりで、その気配から感じ取れる猛者感はかなり出来る類と解る。
団長のノームスはというと唯一全身を淡く鈍い黄色系の魔導装束で隠すが、細身だと一目で判る程のシルエットで知的な顔から発せられる微笑みはなんとも癒しを与える印象を持つ。
案内された七人はルゴールが目についたのか、皆律儀に挨拶をする中、団長のノームスだけは頬を赤らめながら少し遅れてルゴールに微笑みながら頭を下げると、ルゴールの大きな右手が彼女の頭に優しく添えられ、彼らしい落ち着いた声色が彼女に向けられると知的な顔は一気に崩れ、それまで引き締まっていた雰囲気が途端に微睡んだ。
「団長のおっさん愛は相変わらず健在。」
団員の一人がそう茶化しながら、不敵な笑みを浮かべたのも束の間、その者の横にいる者が続け様に言い放った。
「で、そこにいる精悍な二枚目は誰だい?かなりウチの好みなんだが、人族… …で良いんだよな?」
その言葉に、ギルド長は額に掌を当てながら視線を伏せ、ルゴールは大笑いする。
「そうだな、紹介せねばなるまい。」
ルゴールの紹介により、七名と邂逅に至る。
『団長の大魔剣士、蛇人族ノームス。』
『副団長の超戦士、鰐人族キャノー』
『最上位狩人、蜴人族アルメラ』
『大重戦士、甲人族パイクス』
『大魔攻士、蜴人族マーナ』
『大魔防士、蜴人族でマーナの妹ダルメシア』
『大魔策士、蜥人族コーラー』
最後の蜥人族の名はどこかで聞き覚えがあり、少し思い耽るが話が進むと全て女流英傑で、全て闘格の最上位職だという事実に驚かされた。
ノームスは明らかに女性と判ったが、他の面子は一目では中々、中性的な精悍さを纏っていて、聞かされて初めて気が付いた。
王都の冒険団は多かれ少なかれ男女比は偏りがあるものの、混合して徒党を組む。
だが、この冒険団は全て女傑でギルド長曰く、近年その轟名の為か、大陸中で女性冒険者が増えているという。
それだけ、天与の魅力を備えていて、羨望の的となるのも頷けるがそれは何も顔立だけではない。
身に付けている装備品もまた見た事ないばかりの魅力的な形状やデザインをしていて高品質な代物だと見受けられ興味が唆る。
面白い。【守護人狼】以上の魅力は流石、王都四星に君臨するだけある。
ギルドでの俺の用件も済んだ事もあり、2年に及ぶ彼女達の冒険譚をルゴールらと今暫く聞いていると、成程、彼女達の実力は恐らく、王都一なのだろう。
戦力的にチームバランスが取れていて、守護人狼に知略と攻撃力が強烈に加味される印象。
話の佳境も過ぎた頃、超戦士のキャノーが待ってましたと言わんばかりに俺に興味を示したことで、話の肝は色を変える。
ギルド長とルゴールは調査報告と今後の動向を話し合いに行くと言って、彼女達の相手を押し付けて王宮へ向かったのだが、ギルド長が気を利かせて王都の食事処『星石の暇』に招待の手筈を整えてくれ、全員でそこへ向かう道中、得体の知れない気配が急襲してきた。
尋常でない速度で瞬間、キャノーの両手と組み手を交えた。
「なんだなんだ、随分な挨拶じゃねーか、それが2年ぶりに会う好敵手にする了見か、えぇ?コラぁ… …」
「はッ、よく言うぜ!ただでさえ糞生意気な癖にテメェから良からぬ匂いがプンプンしやがるからな!」
マニだ。しかも、一番強靭な大柄のキャノーに喰ってかかってる。
(怖ッ!ミルティーが言ってた、女の闘いの真髄とはまさにこの事か… …)
遅れて、ジルとユイカが駆け寄ってきては、逆毛立つマニを必死に引き剥がそうと身体を掴んでいる。
「お前ら元気そうだな。だいぶ、雰囲気変わったか?良い気配だ。撫甲斐がありそうじゃねーか。」
「およしなさい、キャノー。貴方も貴方で2年ぶりの凱旋で喧嘩売らないの。」
血気が勝るキャノーに団長は釘を刺すように持っている錫杖で頭を小突くと、キャノーは肩を落とし引っ込む。
引き剥がされたマニは未だ血気盛んだが、ノームスは微笑みを向けながら近付き何か耳元で囁くとマニは落ち着き、しどろもどろになる。
「ゼノ様、募る話も御座いますし、彼女らも一緒に『星石の暇』に連れて行っても宜しいですか?」
勿論と俺は答えて、そこから少し歩くと、王都最大の食事処に腰を落とす。
広い宴席に昼間からキャノーは大酒を喰らうが、見慣れた光景なのか、次々と運ばれてくる美食に平然と皆の食指が豪快に動き、中々の迫力がある。
そんな場で凛とした団長ノームスが、改めて口を開いた。
「時に、ユイカ。最近まで水都に居たのですが王都の噂を耳にしましたよ。なんでも恐ろしく腕の立つ者が現れたとか。」
凛としたその姿から発せられた瞬間、黄石の竜子団は落ち着き放つ。
全員が興味を持っていたのだ。
遠く離れた西国【水の国】の水都ピュランスにて最後のクエストを消化した頃、王都から来た商人から噂を耳にして以来、帰還に心を弾ませていたという。
「ですが、先程ギルドにてすぐに解りましたわ。ゼノ様がその噂… …なのですね。」
妖艶な微笑みに引き込まれそうになる。
「おい、コラ。蛇女!」
マニが飛び付こうとする勢いで喰ってかかるが、ジルに首根っこを掴まれてバタつくが、そんなマニにお構い無しと言った顔つきで俺を見据えながら言葉を続ける。
「噂は所詮、噂ね。聴聞していたより遥かに凄い能力… …貴方に感謝しております。ゼノ様。」
「ん?ノームス、ゼノはそんなに凄いのか?へへっならゼノ、ウチと手合わせ願おうか!」
酒の入ったキャノーがご機嫌よく合間を割ってきたが、ノームスは軽く平手打ちをかます。
「貴方はすぐそうやって何でもかんでも噛みつく癖、良い加減治しなさい!」
どうやら団長と副団長のやりとりは大魔策士のコーラー曰く、団の名物らしい。
「僕も、一目見て解ったよ。ゼノから感じる魔素の質量は人族だけどそれじゃない。それに魔力の色が凄い豊富。」
魔力の色?そうか、この娘はミルティー師と同じタイプの魔眼の持ち主なのだと確信した。
魔素にも色があると、師から聞いたことがある。
「俺の魔素は何色をしている?」
俺は魔素を感じれはすれど、視る事は出来ないがかつて師からは俺の魔素の色は聞いていて知ってはいたあえてコーラーに聞いてみる。
「珍しい色、虹色。」
やはりか、師と同類。
それに、まだ他の面子よりも幾分あどけなさが残る娘だが魔素の気圧は凄まじいと思う。
これが、里で教わった超人種かと納得した。
「ふふっ。いや、すまない。故郷の師の一人から実は聞かされて知っていたが、まさか本当に視えているんだな。恐れ入るよ。」
「へぇ、師匠がいるんだ〜。ゼノは魔力錬成で魔剣も魔具も作れる腕があるっていうのはその師匠のおかげ?」
他の団員も興味深々な様子であったが、俺が出自を一通り話したのは先程ギルドからマニが絡むまでの間、彼女達から出自を聞かされていた為で、これである意味、痛み分けだ。
するとコーラーの落ち着いた雰囲気が急変し、宴卓に身を乗り出す。
「じゃあ、ミルティー様をご存知ですか!?」
ご存じも何も、俺の魔導の師だがと話しながら、里を離れる時にザバンと話していたミルティーを思い出すとモヤが晴れた。
そう、ザバンが預かった手紙の主。
俺はその事についてコーラーに伝えると、ザバンに引き合わせる算段を考えるが、ユイカ達が慌てながら夜まで待つように促す。
やはり、様子が変だが下手にこちらも探らないほうが良いだろう、きっと理由があるのだろうし、それなら夜まで待ってザバンに問い詰めた方が良い。
団員達の興味津々な様子も収まる気配はないしな。
ひとまず、ここは話題を変えて夜まで待とう。
「まぁ、師の話しは後でじっくり話そうか、俺よりもザバンの方が付き合いが長いから。それより、君らの装備品についてだが、中々面白そうだ。」
見れば見るほどその性能に色目気だってしまう。
兄弟子とシールにも見せてやりたい気にさえなるほど、魔剣類の出来は斬新で新鮮。
鍛冶鍛造品に関しても王都のそれらより、質が良い。
旅の途中で腕の良い工匠が製作した物らしいが金額を聞いて更に驚いた。
ルゴールの言った通り相場はやはりちゃんと学んだ方が良いな。
危うく市場を混乱させる所だった。
☆☆☆
―王都冒険者協会、地下訓練場。
「んじゃ、ゼノ、身体も温まった事だし… …いくぜ!」
キャノーの大斧が凄まじい速さで風圧を起こし、俺の服を掠めるが、成程、この実力… …確かだ。
力も速さも優れていて、技のキレも存分に良い。
一閃一閃の斧筋が急所を確かに狙い実に的確でこちらも少し気を抜けば障壁を割られかねない。
それでいて。大味の技ばかりではなくて、しっかりと体術まで高いレベルで使いこなす。
その動きは一見すると、豪快であるが、あえて隙を見せるとしなやかな体捌きで小技を繰り出し、非常に厄介だ。
攻撃速度と持続性、それに加えて癖は見切った。
あとは一撃一撃の重さだ。
これを正確に知らなければ、弱点が反撃の機会が見定められないと感じてあえて受けてみる。
明らかにバックスより数段格上の攻撃、重ねる障壁は倍くらいにしておくか。
「嘘でしょ!?魔力障壁の6重掛け!?」
マーナの声が轟音の合間から聞こえたが、キャノーはその轟音を上げながら更に攻撃を加速させる。
あっという間に重ね掛けた障壁が割られ俺は壁へと吹き飛び、砂煙に咽びこけるが、いやはや、目算を誤った感が強い。いや、むしろ… …。
「おーい!大丈夫かー!?」
離れた位置からキャノーらしさのある心配声が届くが俺は立ち上がり、片手で平気だと合図を送り、再びキャノーの前まで近寄り、幾分手心をかけさせてしまった事を詫びた。
「へぇー、気付いたのか今の。で、本気はいつ出すんかね?」
ふむ、この相手なら多少力を見せて良いだろうな。
このあたりの実力がどれ程の頑丈さを持っているか、まずは三割増しで試そう。
「OK、OK。三割増しな。」
俺は、呼吸を整えて、丹田に意識を持ってゆき、足先に魔素を集中する。
体術スキル【瞬地】を使用後、飛び蹴りを一発見舞った。
キャノーは少し後退り、その場に蹲ると歯を食いしばり、その姿は意外だった。
「ん?立てそうか?」
「んぐぐっ… …それで三割かよ。」
ふらふらと立ちあがるキャノーの形相は歪んでいるが、防御スキルを発動後、息を荒げながら仁王立つ。
「キャノー、受け取れ。」
キャノーに向けて最近ザバンから貰った見るからに妙な液体は偶然の失敗作から出来た回復強壮薬でそれを投げ渡し飲ませると、彼女の身体から発せられる気配は一段上がる。
「なんだこれ… …?力が漲る?不思議な感覚。」
掛け声を合図に先程と同じ攻撃を繰り出すが、キャノーはそれを躱してゆく。
回復強壮薬の効能は能力の底上げを促すが、時間は約10分程で、使用後は反動により半日から丸一日、寝込むほど身体の自由が効かなくなる副作用があるのだが… …伝え忘れてたッ!
「よし、しっかり付いてきているな。なら次は五割の力で行くぞ!」
鋭く放つ連続の突きを辛うじて躱していなす彼女だが、その眼光に映るのは『決死』。
ここからは、少しずつ力を上げないと恐らく彼女は俺の全力は捌けないと確信がもてた。
「限界が来たら迷わず言ってくれ!」
そう言うと、彼女は決死の表情ながらも苦笑いを滲ませる。
次々と繰り出すジャブの攻勢に蹴りも加えて、バックスの格闘術の真似事をしてみると、彼女はそれを受け流しながら、反撃に打って出てきた。
さすが、やられっぱなしでは癪に触ったのだろう、だが、それでこそ冒険者というもの。
俺はその反撃を躱しつつ、更に厚みをかけ、七割ほどの実力に差し掛かる頃、バックスのスキルを真似る。
『駿陣拳』
足先への爆発的な加速で前後左右にトリッキーに動き回り、相手の懐に強烈な拳撃を見舞う技。
動いた瞬間に地は抉れ、猛然と相手の視界から消える事が出来る。
が、相手の格次第ではそれは見透かされる。
しかし、キャノーは追いついて来れない。
そして、俺は彼女の懐に拳を寸止めしたが、風圧でその重感な身体は少し浮いた。
「俺の勝ちだな!」
そう言った直後、キャノーは地面に向かい仰向けになって負けを認める。
そして、気付いた事と言えば、疾さならマニの方が上だと。
その事実を伝えると、意外にもキャノーは納得しているが、食事中に何度もマニから俺についての熱い講義があったらしくそれが真実かどうかを見極める為彼女もまた俺を試していた。
結果、キャノーからすれば攻撃も防御もしてみれば俺との差に大きな開きがあると痛感していたらしく、本気まで引き出せなかった時点で負けを認めていた。
だが、実に有意義な手合いだった。
対人戦でこれ程までに力を出せたのは、ルゴール以来か… …それと、後は相性だろうな。
超戦士は攻守の能力が非常に高く、打てば破壊力は突き抜け、受ければ堅固、頑強。
近接型闘格はその堅牢さに後手に回りやすく、純粋な力比べでは後塵を確実に拝する。
手数や駆け引きの工夫を相当凝らさなければ勝ち筋は生まれない。
だから、俺はキャノーに落ち込まない様伝えた。
戦士の上位闘格、大戦士の更に上の一つである、超戦士。
あらゆる試練を乗り越えた違わぬ証。
基本的に攻撃時の破壊力も防御時の堅固さの能力は恐ろしく高く、パーティでの役割は敵の撹乱、殲滅で敵の数が多い程その能力は絶大。
自信を持って然るべきだ。
「次、稽古相手はいるかい?」
そう聞くと、パイクスはキャノーが酔った勢いで勝手に始めた事で戦闘狂な性格のキャノーとは違い、分を弁えていると言葉を濁した。
「ただ… …そうですわね… …」
ノームスの発言は意外と言う他無かったが、そろそろザバンとの邂逅と相なる頃合いな為、動けないキャノーを抱え、宿へと向かった。
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
闘格についての裏設定はいずれどこかの話で書きます
書き溜め… …_φ(・_・




