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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
29/56

二十九話 光陰矢の如し(2)(ザバン視点ver.3)

いつも読んで頂きありがとうございます♪

探り探り書いてますので、ご容赦下さい


29話どうぞ

 ―貧困街に私が出入りするようになってから人の姿が増えたその理由はアルピスさんとの悪巧み… …もとい、野心ギラつく光陰矢の如し作戦とでも名付けよう。


 準備を進めてから2ヶ月で、その成果は着実に現れている。


 「ザバン殿、本日の収益です!ご査収宜しくお願いします!」


 希望喪失していた腕の立つ衆は実に助かる。


 負傷により仕事もままならなず、職を失って路頭に迷っていた反動からか今では気力に満ち溢れる者達ばかりだ。


☆☆☆


 準備当初、まずはアルピスさんと私で道具や素材を確かめ合い、ある策を立てた。


 貧困街というだけあり、街並みは廃れており、王都も幾らか資材を支援しているが、その成果は乏しい、反面、意外と空気は澄んでいる。


 街の空気が澄んでいるのはアルピスさんが辛うじて遊休地を活用して植えていた薬草を精油したり加工したりして至る所に散布したり、使用していたりしているからか。


 その手間と言ったら気の遠くなる程の質量でとてもその情熱は真似できない。


 そんな環境の中、彼女は一人私財を投げ売りながらこの街に微力ながらも尽力してきた。


 ユイカさんの話も加味すると、保守派の抵抗で王や宰相をはじめとする革新派は満足な支援策が取れていないのだ。


 かつて、強硬派貴族による横暴が粛清された経緯もあり、一部の保守派貴族はより巧妙にねちっこい姑息な手段に切り替え、革新派をより悩ませている。


 どうしても貧困街を潰したいらしい。


 その筆頭格がカネーニだと言う事は判っているものの公には事を荒だたせられない王宮では拮抗した様相を呈して久しいらしい。


 ならば、外野から一石投じて慌てさせてやろうというのが、私の反骨心だ。


 特に、あのカネーニ公爵。


 私腹も腹も肥やすあの輩は社会的に成敗してやらねば。


☆☆☆

 

 「ザバン殿、コレを飲めばいいのか?」


 声の主は、フォン・バログアン


 愛称はバロやバロ兄と呼ばれ、背丈が高く体格も大きい壮年の元騎士だけあって、幾分痩せ細ってはいるものの、この街の住民からするとかなりガッチリしている。


 かつては王宮先遣部隊に所属しており、王都の治安維持や国内の迷宮発生時の斥候が任務であり、その部隊は常にかなりの危険が伴う。


 その小隊を率いていた過去を持つが、とある迷宮にて脚に致命傷を負い、やがて職を追われ、路頭に迷うところであどけなさがまだ残るアルピスさんと出逢ったという。


 そういった経歴の騎士や冒険者が数多くこの街には流れ着く。


 元騎士だけあって性根しっかりしていて、信頼は厚く、面倒見も良い。


 住民の兄貴的存在である。


 こういう人財は本来なら重宝されるべきであろう… …。


 先日、アルピスさんに連れられてこの街の有様を見て回ったが、住民の主な仕事は貧困地区以外からも流れてくる排水路や貧困街の掃除、定期的に配給される食糧の管理、教会での葬儀など、いわば生活面に関するほぼ全てを住民が自主管理している。


 保守派の(くわだ)てで貧困街だけ政策から隔離されている現状。


 それでも、彼等は必死に生きている。


 そんな一つの社会を知ると、ジャノスや王都の方がよっぽど荒れている気さえした。


 街の教会では、貧困街出身の有志達の陰ながらの協力もあり孤児の教育が徹底されており、年々街の気質、治安が良化し、国内外へ巣立ってゆく者が多くなっているのも頷ける。


 勿論、住民全てが良識者とは言えないが、それでもこの街なりにある程度の改革は見受けられるらしい。


 王都の政策が行き届いていれば、古びた建屋や荒れた路地といった街並みも改善できるのだが。


 基本的にバロさんとアルピスさんの三人で、偶にユイカさんもお忍び参加して四人で(たばか)りに勤しんでいるのだが、これが非常に面白く、日増しにその成果を感じる。


 特に顕著なのは、バロさんの身体の変化。


 本人曰く、全盛期よりも屈強な身体つきらしいが、何よりも呪詛による慢性的な麻痺も改善した様だ。


 「ついでに、脚も治しちゃいます?」


 私の言葉に付き合いの長い義足の魔具を叩きながら、愛着があると言って一蹴されたが、その笑顔は本心に(たが)わず、身体の変化だけでも充分満たされている証拠。


 「しかし、アルちゃんもまた、偉い御仁を連れてきたもんだ、感心するよ全く。」


 その言葉に照れ隠しするアルピスさんとのやり取りはどこか微笑ましくもあり、ふと祖母と過ごした日々を思い起こさせた。


 早速、数日準備した調合薬を気落ちした面々に試そうと、バロさんは心当たりを片っ端から集め、その数はゆうに100を超えた。


 突如とした身体の劇的変化に感動や茫然とする反応だが、数刻もしない内に集まった面々の中には王都の中級冒険者と遜色無い気配をしている者も多い。


 職を追われて泣く泣く流れ着いてきた者は貧困街から出ていくだろうとバロさんとアルピスさんは一抹の不安を抱えていた。


 彼等にその促しはしたが、誰一人として出て行かず寧ろ更なる結束を固めた結果に、二人は驚いている。

 

 バロさんに数人は揉みくちゃにされてはいたが、その繋がりは間違いなく、彼と彼女の二人の名もなき功績だろう。


 当然、私も感謝されたが、私も感謝している。


 里で教わってきた物といえばこの街の素材はもとより、王都で目にする素材では作れない。


 私のやった事と言えば、アルピスさんの薬効理論が鍵となり、そこに持ちうる知識をせいぜい注いだ程度。


 たぶん、アルピスさんが居なければこの景色を知る事も無かった。


 仮に知ろうとしても、いちいち里へ戻り、素材回収して作製して、なんてマラソンが出来たかどうか怪しいし、そこまでの義精神は持ち合わせていないと言い切れる。


 この結果は間違いなく彼と彼女の賜物だ。


 元気を取り戻した面子の中に数人、魔法士系統の人達も居て、これからはもっと状況が目まぐるしく変わるはずだ。


 その勢いがある内に、他の住民達にも人海戦術で投薬を実施すること数時間後、教会の敷地内に続々と人が集まった。


 他の者に関しても、その身体で難なく各自作業を(こな)せるだろうし、先は明るい。


 数刻前の住民達の気配は何処へいったのやら、この街の空気の様に澄んでいた。




☆☆☆


 『作戦その1、大型魔具による上下水の浄化機構の魔改造』


 これは、里で取り入れていた方法。


 まずは、生活水路の改善。


 王都の北側の湖水から引き込まれた上水路は魔素が濃すぎる為、そのまま経口摂取すると、自然毒にあてられる。


 その為に、教会の敷地に設置されている大型の魔素緩和機構に水路は繋がっていて、その機構の手入れや維持に教会は苦労してきた。


 教会の司祭と助祭はこれにより感涙していた。


 それもそのはず、この街に王都から流れてきた彼等は決して自らこの場を望んできた訳じゃない。


 ここに流れ着くという事は、王都の教会から爪弾き(つまはじ)された存在であり、そう、より聖職者らしい聖職者、深い慈愛の持ち主と言うことが何よりもの証拠だ。


 新しく設置した浄化機構の内部素材全て、復帰した元騎士や元冒険者達が迷宮から充分回収してこれる素材で出来ている。


 これもアルピスさんならではの知識が大いに役立った。


 下水路に関しては公に改善出来ない。


 なんせ王都から流れる下水路の工事なんて嫌でも王宮から目につくし、距離もある。


 手分けして数箇所に浄化用の小型魔具を目立たない様に放り込む。


 これは里での知識を丸々使った。


 手持ちの素材で数は少ないが、里の規模でも一つあれば充分なほど強力な為、なんら問題はない。


 上流から下流に向かうに連れ、放っていた悪臭と色味は消えて行く。


 流石の保守派も郊外の水源に逐一チェックしに行くとは思えない。


 『作戦その2、自給自足の確立』


 王宮からの配給だけではジリ貧極まりなく、健康維持が難しい。


 食糧、主に野菜や果実を自給自足する。


 水が綺麗になったお次は土壌の整備。


 これには思いの外、然程(さほど)苦労を要しなかった。


 と言うのも、土地の整備に関しての知識が乏しい私は悩みの種であったが、老年衆が生き字引揃いすぎて最も苦労するこの作戦が最も楽だった。


 まず、正気を取り戻した魔法士の面々を軸に教会地下に密かに分場農作場を設けるのだが、早速老年衆が躍動する。


 これには後々ユイカさんから叱責を受けたが、王都から隔離されているとは言え、黙って造った事は申し訳ないが不当な扱いを強いてくる相手に正論で挑むほど私の人間性は出来てないのだ。


 私の性根は狡賢(ずるがしこ)い部類の性格である。


 無論、貧困街の敷地内を測量計算しての範囲。


 これには、用地測量や三次元測量など多種多様の測量方法で図面を起こし、助言に従い魔具を軸に慎重に確認しながら作業を進める。


 その年季の入りようは、伊達じゃない。


 途中、埋設物や岩石を取り除く為に魔法を駆使しようとしたが、大規模な魔力の使用は王宮魔導士団に察知される危惧があり、感知されない程度の魔力阻害壁を構築しながら作業に取り掛かった。


 老年衆の生き字引のお陰だ。


 農地の魔具も自然により近い物を使用、農作用の道具も助言通りに用意し農場は立派に仕上がった。


 早く収穫出来る日を皆心待ちにしている。


 『作戦その3、健康維持と強化』


 これは新たに用地や建屋を作るわけにはいかない。


 既存の古びた空き物件を使う。


 外部から見ると、そこに鍛錬場や浴場があると、誰が予測出来るだろうか?


 無論、年季のある建屋だ、補強はしないといけない。


 元々、貧困街の建屋の修復は革新派の予算案に組み込まれていたが、財源を盾に保守派が固辞している為、未だ手付かず。


 ここは、私の出番だ。

 

 こんな程度、朝飯前よ!

 

 放置されていた建屋の壁や床は脆く、微量の魔力でリフォーム&リノベーションが可能。


 この程度の魔力波動なら王宮も気付くまい。


 現に別日にユイカさんがマニさんを連れて来た時は冷や汗を一瞬憶えたが、魔力に敏感な精霊種のマニさんですら貧困街の様変わりには気付いていなかった事が確認できた意味は大きい。


 それと、王都の居住区と貧困区の境界線に馬鹿高い間仕切り壁がある。


 地上から貧困街の中は見えないわけだ。

 

 警戒すべきは王宮魔導士団の魔力探知。


 そして境界警備員の買… …いや協賛だ!


 中には、交渉時に上から目線で来る者もいたが、私の魔法… …普段からの行いと交渉術で協力を見事に仰ぐ。


 そう、これはもう、立派な依頼(クエスト)で正真正銘の契約案件!


 誰がなんと言おうともだッ!


 実に本格的な()()()が妙に板に付いてきた感が拭え(ぬぐ)ないが、どこか楽しくなっている。


 この境界警備員も決まった顔ぶれで、何よりも彼等の性質は派閥にうんざりして騎士団を退職した者で形成されている、いわば民間機関であり、彼等からすると二重契約でもある。


 互いに(スネ)の傷持ちとなった訳だ。


 それに訓練場や浴場が出来るとあってからは最早貧困派だと言うと本末転倒になっているが、要は彼等は彼等で独自の自由が欲しかっただけなのかもしれない。


 今では貧困街の監視者というより王都の監視者として協力してくれていて、その気配からは欺瞞(ぎまん)の気配を感じない。


 だから、マニさんの姿が見えた時は即時連絡水晶で報告をくれたほどだ。


 【作戦その4、衣の確立】

 

 そう、ここまで来たからには、最早、社会の三原則とも言える、『衣・食・住』の衣だ。


 住民の多くは同じ服の着回しが常識で、ましてや武具なんて有り得ない。


 そう、縫製場と鍛冶場の建設。


 と言ってもそれほど規模の大きい物でなくとも充分に間に合うし、そこは、私とアルピスさんの腕の見せ所。


 如何様(いかよう)にも好き勝手出来る。


 この作戦においては警備隊も心待ちにしていると言う程で、有難い事に貧困街から迷宮への入り口は非常に近い上に警備隊も更なる支援に惜しみない。

 

 つまり、王都の視線を気にせずに出入り可能となる。


 保守派に一泡吹かせるには最高のロケーション!


 素材の乱獲とまでは行かなくとも、小隊に分け、波状派遣が可能であるくらい腕っぷしに覚えがある者達が揃っている。


 彼等なら、迷宮の下層辺りなら過去のトラウマに負ける事はまず無いし、大きな問題は起きないだろう。


 欲しい素材は、魔物の肉類はもちろんだが、皮革や羽根、繭などの動植物素材だけじゃなく、木材や鉱石類、石油や石炭などもあれば、調度品すら錬金出来ちゃう訳で。


 品質は里に比べれば遥かに劣るがそれら素材は一通り下層だけでも充分揃えられる。


 ここに関しては、皆の神経が圧倒的に研ぎ澄まされている。


 そこまで出来れば、当然、その先に行商利益が生まれる訳だが、王都内で捌く訳にはいかない。


 あくまでも、目立たず、密かに、暗躍。


 ある程度、見込みがたてば里とのやり取りを考えている。


 転移魔石があれば直ぐなのだが、そこだけはなんとも… …。




 『光陰矢の如し』気づけばあと少しで2ヶ月が経つのか。


 そんな事を考えながら宿から貧困街に向かう途中、見覚えのある冒険者達から声をかけられた。


 その鼻息の荒さの理由を聞くと笑いしか出ない。


 ゼノもここ最近は宿に戻ってきても心血注いでいたからね。


 それよりも、彼等をどう巻こうか… …。


ここまで読んで頂きありがとうございました♪

一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪


書き溜め… …_φ(・_・

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