二十七話 へいき、へいき(王視点ver.)
いつも読んで頂きありがとうございます♪
探り探り書いてますので、ご容赦下され。
27話です
―王宮国王執務室。
近頃、迷宮の里から来た変わった曲者がとても気に入っている。
幼馴染みの騎士団長ですら遅れをとった相手に競り勝ったと聞いた時からラウズヴァール様は一体どんな化け物を育てたのだろうと思ったものだが、見てくれは20代半ばの好青年で人族にしては良い筋肉質で体格も恵まれていた。
全盛期の私程ではないがな。
しかし、想像していたのとなんか違ったな。
もっと、こう、なんというか、魔人族より大きく太い、角でも生えてるんじゃないか、とか想像していたのだが… …。
だが、ここ2ヶ月と少しでとんでもない成果を上げていると報告を耳にした。
王都内の鍛冶師を掻き集めて育てるとか、常人の考えは及ばんよ。
規格外が過ぎて寧ろ笑えてくるわ、全く… …。
大枚叩いた甲斐があるというものよ。
ゼノと言ったかあの若僧。
それに隣にいたザバンとか言う魔導士も中々の腕前と見受けられた。
私より歳食ってるんだよなあれで… …エルフって年齢の概念が違いすぎるからいつも思うけどリアクションやら発言に困るんよ。
ともあれ、娘からの報告を聞く限り、実力は全盛期のガルバザよりも上だろう… …。
いやはや、実に若さと言うのは素晴らしい。
あの瞳に宿る光はかつて私にもあったのだと思うと、少し哀愁さえ感じてしまうのは私も歳を重ねたと言う事なのだな。
あの者達と共に冒険者として大陸を駆け巡れたら… …なんて、いかんいかん。
今の安寧を築き上げるまでどれだけの血が流れた事か。
命を託してくれた者達に失礼極まりないな。
国王としてしっかりせねばな… …。
ゼノ… …か… …。
ラウズヴァール様からの手紙を読んで私に出来る事を最大限やり遂げねばならぬ。
それが私の役目なのだろう。
この大陸の安寧の為にも… …。
となれば、各国の王にも伝えねばなるまい。
難儀なものだ。
水面下での動きを全て把握しているわけではないからな… …ただでさえ各地の迷宮踏破に手を拱いているというのが現実。
ラウズヴァール様も酷な試練をお与え下さる。
… …胸騒ぎなのか、それとも… …。
「陛下、少し宜しいでしょうか?」
幼馴染の宰相が神妙な面持ちをしながら声を掛けてきたが、その姿に珍しく覇気がない。
「どうした?ガルバザ、珍しく溜め息とは。」
今日は、確か装備品などの納品があったはず。
数が数だけに検品作業に疲れたのだろうと勘繰ったが、それにしてはどうも様子が可笑しいな。
騎士団訓練場までガルバザと共に向かうが、その足取りから伝わる気配はまるで意気消沈… …。
しかし、騎士団訓練場に足を運んだのはいつぶりか… …。
あの頃はまだ、皆、若すぎた。
ルゴールもガルバザも私も何一つ成せずに踠いていたか… …。
話の通じない傀儡先王にそれを操っていた貴族連中が王都を始めとする各地で好き勝手しおってからに。
あの頃の経験は二度と御免だが、思い返す度によくぞここまで来れたなと我ながらに思え、その実、何処か不思議と楽しかったなとも感じる。
フッ、私はきっと王の器では無いのだろうな。
だが、あの頃私を信じて付いて来てくれた者達に敬意と感謝を忘れずにこれからも私なりに励むしかあるまい。
さて、大量に軽装備品や魔具などがそこらかしこに目につくが、それよりも気になるのは騎士団員達や冒険者達の戸惑った表情だ。
一体何があったというのだ?
「皆、どうした?浮かない顔をして。」
口を噤んでいる訳では無さそうだが、様子が不自然だ。
辺りを見回すとどの者とも視線が合わない。
ふと、訓練場の奥に視線が向いたが木人の数が足りていないではないか。
そうか、訓練が捗らないから木人の数を増やせと申したいのだな。
心配ないぞ、皆の衆。
そのくらい我が王宮魔導士団ならすぐに用意出来… …あれはなんだ?… …いや、数が足りてない理由ってまさか… …。
「陛下、お気づきになられましたか。本日工房から納品した品を試して欲しいとの事で試した結果があれです。」
待て待て待て… …木人の素材はミスリル製で訓練用に更に強化しているのだぞ。
木っ端微塵にしようものならルゴールくらいの実力が無いと無理な筈。
「ねぇ… …なにあれ?」
ガルバザが弓矢を差し出したまま固まっている。
「これはアダマン鉱石の矢尻に爆裂特性が付与されており… …陛下、百聞は一見にしかずです。」
察しはついた。
ついたが、私にそれを使えと言うのか?
親友の無言の視線に戦慄が走った。
「いや、いやいやいや… …いやいやいやいや。」
私が思わず笑みを堪えきれず戯けて手を顔の前で振って見せたが、まるで、鏡面に映るかの様にガルバザも戯ける。
「そんな物騒な物、なんで発注しちゃったの?」
「こんな物が来るとアンタは想像出来たか!?」
往年のやり取りも実に久しい。
「駄々こねてないで、いいから使え!」
親友とは言え、私は王よ?上司よ?一応。
皆がいる手前、そういう言葉は慎みなさいよ。
しかし、こんなに取り乱すガルバザも珍しい、ここは一つ話に乗って一見してやろうと思うが、見たくない気もする。
弓を素引きしただけで判る。
この弓の性能を全て引き出せる者は数える程度しか居ないだろうな。
それでいても皆この表情。
確かにね、ゼノに納品しなさいとは言ったものの限度があるでしょうよ。
こんな危なっかしい物、市場に流してええんか?
鼻水でるわい。
「う、うん、せめて矢だけは王国製の標準でいいかな〜… …。」
鼻息で拒否を示すガルバザから渋々矢を受け取ったが、ふと己の姿にハッとした。
射手ならば心と身体と弓の三位一体であるべきなはず。
いうなれば完全に死気体になっている事に気づいた。
どうにも正気体になれない。
その瞬間、皆の様子に腑が落ちた。
そう言うことか。
深呼吸をゆっくりと繰り返し丹田に意識を徐々にもっていく。
射法八節。
8段階に別れる所作を1段階ずつ確実に集中する。
余計な考えは禁物。
呼吸を整え、慎重に、丁寧に。
久々の弓術ならば、尚の事油断は禁物。
足踏みから入り、胴造りで姿勢を整え、弓構え、打ち起こして、引分け、そして、精神統一、明鏡止水… …頬に当たる矢の感触は実に久しい。
ブレないように、正確に的を定め、早気を起こすべからず… …射る!
7段階目の〝離れ〟から8段階目の〝残心〟までのほんの僅かな時間に矢所だった筈の場所から猛烈な爆発が起こり、見事木人は大破し、爆風が届いてきた。
… …。
残心も弓倒しもあったもんじゃない。
静かにゆったりと流し目をガルバザに向けてみたが、ガルバザもまた同じ速度で視線を逸らした。
… …おい、宰相。
「さすが陛下、平気そうですね!」
「平気じゃない、兵器だこれはッ!」
ここまで読んで頂きありがとうございました♪
一身の都合上、不定期更新ですが、また次話読んで下されば嬉しいです♪
書き溜め… …書き溜め… …平気、平気。




