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迷宮社会より地上社会の方が癖強なんだが!?  作者: ユキ サワネ
一章 迷宮育ちの行商冒険者
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二話 疑念

 里の朝は早い。

 警備団員達と同じ宿舎に居を無料で借りているのだが、条件として宿主から毎朝の水汲みと調理を手伝う様申しつけられているのだが……今日は様子が変だ。


 いつもなら起床時間になると厨房は香ばしい香りを放ち、宿主の掠れた挨拶に交代制で調理する警備団員の眠気混じりの挨拶が聴けるのだが、どうしたことか香りも挨拶も無い。


 そういえば起きてすぐ部屋の窓からまだ暗がりの外を観た時、広場に警備団員達が集まっていたなと思い出し宿を出ると武の師であるグスタバの側近バウスと鉢合わせたんだが、開口一番に彼から迷宮探索を告げられた。


 ん?まだ夜更けだぞ、正気か?と思いつつも警備団員の雰囲気は遠目からでも異様に殺気立っていた事は解った。


 俺は部屋に戻り急いで探索の準備をする。


 日頃の癖というべきか必ず寝る前に翌日の支度を済ます性格だからこういう時ほど役に立つので自分を褒めてやろう。


 ものの数分で支度を終えた俺に団員達はさぞ驚いてこちらとしても少し誇らしくなったが、その緊急性の内容を耳にするとそんな事はどうでも良くなった。


 『ミルティー率いる魔導師団から緊急救援要請』


 先日の魔素の探索を引き継ぐ形でミルティーとザバン達精鋭の魔導士団が探索に出て5日が経過していた事は知っていたが、数刻前に里の階層より8層も上がった所から救難信号が警備団に届いたらしく事態は切迫している。


 負傷者もかなりの数らしい。


 各層に転移魔法石があるのだが、何らかの干渉によりミルティーらの居る階層へ直接移動出来ない為にグスタバが小隊を率いて少し前に救援に向かったらしい。


 非常事態ながら里の警備も念の為につくためこうして広場に残っている者もいる。


 俺はグスタバ達の後を追うように言われ単独で向かった。

 この手の経験は浅くはない、なまじ腕試しにと迷宮へ出る雛達のお守りは嫌というほど熟してきた。


 だが、今回は違う、救難を示したのがあのミルティーだからだ。

 魔法技術だけじゃなく戦闘や探索における知恵、知識を教えてくれた師匠をもってしてでもかと思うと今回の仕事は相当な覚悟が必要だと感じる。


 里の階層から7層目までは転移出来たのでかなり時間の短縮になったが、この迷宮の階層毎の広さはかなりある。


 補助魔法で身体強化して移動はかなり高速となってるとはいえ、やはり救援場まで距離がある。


 最短距離を疾走する中、幾つかの足跡も見えた。 俺は心の中で間に合えと強烈に願った。


 何かが擦れたり、弾ける甲高い音や衝撃音が上層に近づくにつれて大きく聞こえ漸く辿り着いた時、眼前に拡がる景色はかつて観た事のある景色とは大きく異なっていた。


 身の丈の3倍はあるだろう二足歩行のマッチョモンスターと闘師グスタバが見事なまでの鍔迫り合いをしているが、そこから少し離れた瓦礫の陰に潜みながら固まる影の数は多い。


 おそらく今動けるのは俺を含めて、グスタバのみだろう。


 胸元を大きく抉られ横たわる友の手当てにミルティーは付きっきりだ。


 グスタバも押され気味で最早猶予は無いように見える。四の五の言ってられない。


 回復用の魔具袋を一団に投げ渡してからラー爺との特訓の日々を思い出す。


 「魔技?」

 「そうじゃ。みておれ。」


 訓練場の木人に木剣を向けてラー爺が一突きしたら迷宮一の硬さを誇る木材、ビーチダイヤ材からなるそれの上半分は木っ端微塵となりそこから鋭く木剣を斬り下ろした。

 木剣より硬い木人を砕いても師の手には傷一つ付いてない木剣が握られている。


 師の口癖『魔力の扱い方次第』を知った日の事だ。


 よし、頭痛も吐き気も目眩もない。

 体格差、力の差を見せつけ興奮で猛る魔物はタフな竜人族に今にも噛みつきそうな様相だが、俺はありったけの魔力を剣に宿した。


 後で知った事だが剣を斬り下ろした時、剣先がグスタバの鼻先を掠めそうになったらしく、そこは計算通りだと嘯いたがグスタバには見透かされて散々説教された。


 なんだよ、折角助けたのに感謝くらいしろよ!とおもいつつも妙な瘴気が晴れていてミルティーらを里に転移させた後グスタバと2人、後処理をした。


 倒した魔物を魔素カードで回収した時に対峙した歪な相手の正体に驚いてしまった。


 里周辺では見かけないが迷宮の中層辺りに棲息する有角種、火牛(ヴァルカンホーン)

 だが、腑に落ちない点がある。


 ・そもそも魔素溜まりのある階層では瘴気に当てられ異形と進化を成す魔物は多くいるが、住処の層外まで移動する事が珍しい。


 ・火牛は中層で最大勢力であるが、仲間意識が高く単独行動はしない為、進化した火牛が他に見当たらない。


 ・グスタバやミルティー達が窮地に追い込まれた程の実力で火牛にしてはその強度が異常に高い。


 ・新たな魔素では無かったと言う事。


 出来うる限りの情報を集めて里に戻ると治療を終えたミルティーとラムラムが里長の家で待っていた。


 グスタバと集めた情報を開示して5名での会議が始まるとラー爺はすぐさま答えてくれた。

 

 ―召喚術―


 俺は火牛をわざわざ召喚するくらいなら精霊を喚んだほうが良いとは思ったが里長の解釈に納得した。


 ・精霊は瘴気に染まりすぎると召喚紋を勝手に解き誓約を破る性質があり瘴気の濃い所での長時間召喚はリスクが高い。


 ・下級の魔物ほど扱いやすく瘴気による強化と制御も容易い。


 ・火牛の召喚に必要な消費魔力は精霊召喚に比べると遥かに少なくて済むが、中級魔物にしてはトップクラスの性能を誇る分、術者は相応の器量が必要とされる。


 ・状況から判断する限り間違いなく召喚魔獣。


 ・ミルティーの報告によれば火牛は何かを探している感じだった。


 以上により黒幕の何者かが中層にて火牛を召喚、なんらかの目的により下層に解き放ったが、精霊では都合が悪いから迷宮内で倒した魔物を操ったという推測に至るが、俺はまだその意図を読めず色々引っかかったが今はこれ以上考えても仕方ないか。


 元より探索においてミルティーの油断と怠慢が招いた部分も大いにあると里長は判断して彼女を咎めるがその空気は幾分和らいでいて、一旦の幕引きに至る。


 重傷のザバンについて話が変わるとあれからずっと気になっていた。


 救援に駆けつけ彼の姿を見た瞬間、絶望感に苛まれたが必死の手当てと回復薬の甲斐あってなんとか命は繋ぎ止めれたようだ。一月後の宝来祭までには全快するとの事で内心ホッとした。


 宝来祭……そうか、もうそんな時期か。

 

 

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